優しく雨が ささやきかけてくる
聴き慣れた ラブソングのように

時おり激しく 冷たいしずくが
閉ざした心を震わせる


君を思い出さずにはいられない
初めて待ち合わせた店の

君の好きだった珈琲の香りと
にぎやかな声が切なくて



逢えない今の方が本当に
愛しているのかも知れないね



時の刻まれている交差点
駅のホームや地下街で

君と二人 織りなした絆を
ほどきかけていたはずなのに








琥珀色の石畳みに たたずみ
流れる雨を見届けている

まるで舗道に描かれた落書きに
記憶を重ねて消すように


「哀しげな雨は嫌いじゃないけど」
あの日そう呟いた君が

濡れた髪を かき上げた時
不思議なくらい綺麗に見えた



別れた今の方が本当に
愛しているのかも知れないね



ピアノの音がこぼれる階段
飾り窓のある喫茶店

君の好きだった ひとつひとつを
探してしまう僕にとっては



思い出せないけど 忘れられない
柔らかな髪と細い肩

君が隣にいた頃の僕は
雨の音も気にならなかった