『信州まつもと大歌舞伎』四谷怪談 | わがまま、気まま、右衛門の勝手!

 

渋谷でのコクーン歌舞伎のチケットが取れずに諦めていたのですが、
松本での公演チケットが手に入り行って参りました。

「四谷怪談」串田和美氏による演出。

いわゆる歌舞伎として見に行くのはちょっと違っているわけで、
古典としての四谷怪談が脈々と演じ続けられている中での新たな演出がそこにあるんですね。
つまり四谷怪談も新作であったわけで、その当時の演出は「戸板返し」を含め、非常に斬新だったはずです。
四谷怪談を彩る人物たちは一癖も二癖もあって、人間臭く、まっすぐ生きたいと思いながらも悪事に手を染める。
手を染めながらも生死の狭間で己の立ち位置に迷い、流れに逆らえずに翻弄されて行くのです。
(四谷怪談にはいわゆる赤穂浪士の物語も含まれています。)

今回は黒衣がスーツ姿であったり、舞台をスーツ姿で横切る人々の列などの演出があったのですが、
四谷怪談に込められた、人々の思い、それは強い親子愛、主従の義理、男女の愛憎など、複雑に絡み合う人間の業、現代社会にも深く根付いているものであるわけで、実は、現代社会こそが、もっと複雑な人間関係に翻弄され病んでいるかのようにさえ見えてくるのです。

獅童さんの伊右衛門は只の悪というわけではなく、その場しのぎで悪い方へ向かってしまう優柔普段な色男も加味されていたし、勘九郎さんは、お父様譲りのリズミカルでお茶目な小気味の良い台詞回しと内にある闇と苦悩に揺れる直助はお見事!
お岩様と与茂七の二役を見事に演じた扇雀さん。お岩様の、なんとも言えぬ妖艶さは堪りません。
七之助さんのお袖がまた素晴らしかったですね。二人の男の間で揺れ動く女心は、一途に芯を通そうとする健気さと誰かに頼りたいという心細さ・・・切ない最後にはち胸が苦しくなりました。
笹野さん、亀蔵さんは、必要不可欠!

「四谷怪談」という芝居の持つスケール感とそこに刻まれる人間模様の奥深さに引きつけられ、素晴らしいと感動しながらも、なんだか、切なくて・・・人を愛しく思ったり、妬んでしまったり、煩悩を振り切ることの難しさを目の当たりにされてしまったという複雑怪奇な心持ちで、劇場をあとにした夕暮れでした。