恋するクリスマス☆ | そらいろ

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写真とガーデニングとワンコが好きで、そんな日々を綴っていきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

それは、街中がクリスマスソングに包まれるようになった、ある日の午後。
私は廊下ですれ違ったA課長に呼び止められた。
「はなさん、今いいかな?ちょっと・・・頼みたいことがあるんだけど
 
A課長は、豪快な笑い声と人懐っこい笑顔が印象的で女子社員の評判もすこぶるよく、見た目はクマさん風だが、なかなか細やかな気使いをする人だった。私も考え事をしながら歩く姿が思い詰めているように見えたのか、
「おう、どうした?元気ないじゃないか」
と、例の豪快な笑い声と共に声を掛けられたことが何度かあった。
 
その時のA課長は、ちょっと神妙な顔つき。
「頼みっていうのはさ・・・手袋を買ってきてほしいんだ」
「手袋?課長の?・・・あ!奥様にですか?いいですよ~、どんなのがいいのかなぁ。」
すると、珍しくちょっと口篭りながら、
「いや、君よりちょっと年下の・・・」
「え?・・・彼女ですか?」
課長は30代後半、私より10歳以上年上だったはず、と、頭の中はぐるぐると、二人の出会いやらデートの雰囲気やらの妄想が駆け巡った。
 
どんな手袋がいいのかなぁとぼそぼそと呟くと、
「任せるよ!自分がほしいと思うものでいいから。
変なこと頼んじゃってわるい!でも、きっと引き受けてくれると思ってさ。
ちょっと似ているんだよ、雰囲気が彼女と。
彼女、駅まで自転車なんだ。手が冷たいだろうな、と思ってね」
なんともやさしい表情でそう話す課長の顔は、ちょっと恥ずかしそうで、少年のようで・・・こういうのを恋する男の顔っていうのかな。愛しさに溢れている、という表現がぴったりする、そんな顔で話されたら断ることもできずに、私は難題という全然嬉しくないプレゼントをもらった。
 
社内の友人に相談するわけにもいかず、学生時代の友人を買い物に誘い、一緒に選んでもらった。ピンク色のモヘアミトンを選び、「どう?」と訊くと友人は、
「やっぱさぁ、ブランドものでしょ!かわいいものよりも高級感のあるものじゃない?
わぁ!とか、ええ!って感嘆符がつくようなもの。自分では買えないようなのが嬉しくない?
同級生の彼氏じゃないんだから」
う~ん、そうか・・・。
そう言われて迷った。手袋探しにこれだけの時間を費やすことなんて、きっと私の人生に二度とない。だって、顔も雰囲気も趣味もなにも知らない彼女へのプレゼントなんだもの。しかも、代理で。
結局、ブランド物のかわいい手袋という折衷案で決着をみた。
 
後日、人気のない会社のロッカーでソレを社の封筒に入れた後、「例の書類です」と課長に手渡した。
無論、預かった現金を返しながら、
「高いですからね!この手袋」
と、意地悪く言う事は忘れなかった。
「わかってるって。忙しいときに悪かったな」と照れくさそうに笑った後、
「おい、絶対に誰にも内緒だぞ。信用してるからな。そのかわり、彼氏のプレゼント選ぶときはいつでも相談しろよ。なんだ?ダメか?オレの趣味じゃ」
といって声高らかに豪傑笑いする課長は、いつもの顔に戻っていた。
 
しばらくして、彼女が手袋を喜んで使っているという話は聞いたが、その後のことは全く知らない。
ふと思い出して書いてみたけれど、あの頃、30代後半の上司はもう結構おじさんのイメージだったのに、今、「ぜんぜん若いじゃん!」と思ってしまう自分に、あの頃からの長い歳月の経過を感じて愕然とする。
 
そして、約束破ってしまって、ごめんなさぁぁい♪