心に突き刺さる言葉のチカラを信じます。
つれずれなるままに、不定期ですが短編を書いてゆこうと思います。
mojo モジョ 〔ブルースマンが持つおまじないの袋:金運や女性運に効くとされている〕
muddy's mojo words とは “貴方の心に作用するコトバ” とご理解下さい。
パスワード #3
1989年の9月
専門学校の中庭でボク(ゆうじ)はM美(めぐみ)と出逢った。
僕はその夏、ほぼ毎日バイクに乗って過ごしたので、結構いい感じに日焼けしていた。
自動販売機の前で同じクラスだという事を教えられ、春から僕の事を教室で見ていたこと、いつもボクは、授業中に寝てしまうことなどを指摘された・・・
「でもさ、キミみたいな女の子が同じクラスに居たなんてね・・・びっくりやわ。」
「なんで?私なんか変かな???」
心の中で(可愛いからなんて言えないよな・・・)と思いながら
「ううん、ちゃう、その逆・・・ちょっと大人びた感じがするし、他の子らみたい薄っぺらな感じがしないもん」
あまり褒めすぎないように、でも素敵に思っている事を伝えたかった・・・
「ありがとう、私 めぐみ 松野 めぐみ ってゆうの、あなたは高木 ゆうじくんだよね。」
「わぁ、バレバレやなぁ・・・今日の午後、授業出る?」
「うん、出るよ、そいで三宮でバイトして帰るんだ。」
「高木君はどうするの?」
「オレも4時からバイト・・・元町で・・・」
「松野さん、何処でバイトしてるの?」
「センター街の地下のビデオ屋さんだよ、高木君はレコード屋さんだったよね・・・」
「何で知ってるん?」
「クラスの子としゃべってるの、声が大きいから聞こえるんだもん・・・それに、こないだボンジョビの新しいアルバム持ってたよね!」
「あ?ニュージャージーかな?」
「うん、私あのCD聴きたいな~って思ってたの、高木君持ってるんだよね?」
結局午後からの授業には出ずにそのまま二人で学校を出て近くの喫茶店でアルバイトの時間まで話し込んだ・・・
めぐみの実家は山口で、姉が神戸の大学に通ってるので、(神戸に出てきたくて)今の専門学校に入学したらしく、大学4回生の姉と今一緒に住んでいるらしい・・・
アルバイトの時間ギリギリまで話し込んだ。
初めて言葉を交し合った瞬間から、2人の距離が急に縮まった気がした。
何で今まで話しかけなかったんだろう、ってゆうか何で彼女の存在に気付かなかったんだろう・・・・
めぐみの声はボクの心臓の奥、胃の上の何処かを刺激するみたい・・・
何か胸が苦しくなってくる。
この感覚、いつか何処かで味わった気がした・・・・
もっと話していたい、めぐみの事なら何でも知りたいと思った。
明日、ボンジョビのテープを渡すという名目で・・・・アルバイトが終わったらバイクに乗せて自宅に送ってあげる約束をし、お互いの連絡先(自宅の電話番号)を交換してその場は別れた。
本当なら、「今からバイト先まで送ってあげるよ」と言いたかったのだが、ヘルメットを自分の分しか持ってきてなかったので、明日の約束となった。
めぐみはボクと話す時、とても愛らしく笑う。
浅野温子にも似ているが、笑った顔がグレムリンという映画のギズモに似てるな・・と思った。
以前からめぐみがボクの事を気に掛けていた と会話の断片で気付いていたのだが、勝手な思い込みで相手にその気が無かったらダサいと思ったので、あえてそれには触れずに自然な会話に努めた。
お互い、この時点ではこの先2人に何が起こるかなんて想像もつかなかった・・・
よくあるクラスメートの友達で音楽の趣味が合うという程度、ボクは(姉以外の)バイクの後ろに乗せれる女の子が現れて嬉しかった。
めぐみが去った後、学校裏に停めてあるバイクの前まで歩いてきた。
頭の中にはボンジョビの「レイ ユア ハンズ オン ミー」がこだましていた・・・・
胸騒ぎが止まらない。
バイクのエンジンを掛けて走り出すと外の空気が動き出す。
駅前を通過するとき、駅のホームにめぐみが居るのが目に入った。
胸がキューンとなった。
まだセミが鳴いている、夏がギリギリ終わりかけの日の出来事。
ボク19歳、めぐみ18歳。
パスワード #2
1回目のプロポーズは知り合って6年後、遠距離恋愛になって4年目の秋だった。
海沿いの公園のベンチで夕焼けを見ながら、
「僕と結婚してくれないか?」
と 何度も頭の中で練習した言葉を投げかけてみた。
「貴方と一緒に暮らしたいけど、一番好きな人とは結婚できないねん・・・ごめん」
M美は泣いていた・・・しばらくするとボクにひっついて泣き始めた。
当時の彼女の涙の意味、今では少し分かる気がする。
26歳の僕と24歳の彼女の想いは300kmの距離を越える事が出来なかったのだ。
M美とは僕の青春の一番楽しかった想い出を共有した。
知り合ってから7年間、全ての情熱を賭けた想いは結局実らなかった。
これ以上出来ないって位愛し合い、熱い気持ちを伝え合った、別れた後の数年間、涙が涸れる程泣いた。
彼女と離れ離れになって13年が経過した、その後色んな人と出会って別れた。
だけれども、M美を想ったほど、誰の事も愛せない。
目に見えない心のパスワードがどうしても解けないで時間が過ぎている。
この愛の謎(パスワード)が自分の心の情念を封じ込めてしまっているのだ。
表面的な僕の人生は今、幸せに見えているだろう。
でも心の内面では昔経験したはずの心の高みに到達出来ていない。
まるで魔法使いの呪文である
パスワード #1
「これで最後だね、もう電話切るね」
「さようなら・・・・」
遠距離恋愛を含めると6年付き合っていたM美との最後の会話がこうだった・・・
M美は来週から2年間、オーストラリアにワーキングホリデーに行く。
彼女が帰ってきたら結婚したいから、出発までにプロポーズを承諾して欲しくて
そのためにお互いゆっくり話をしようと連絡を取り合うも、
「今から行く立場」と「2年間待ち続ける立場」とは決定的に温度差が違っていた・・・・・
長い電話のせいで、受話器を持った左手が少ししびれている。
携帯電話も無い時代、お互いの自宅の電話か、(家族に聞かれたくない内容のときは)テレホンカードを握り締めて近くの公衆電話から電話した。
M美と知り合ったのは僕が19歳、彼女が18歳の秋・・・・専門学校の中庭で・・・・・
将来の事はスリガラスの向こう側のようにまだはっきりとはしていない年頃
恋愛の対象を、「世界で一番好きな人」という打算無しで選べていた、最もピュアな時代。
中型のバイクの免許を取って初めて四国一週のツーリングを終えた9月のある午後、ひさしぶりに登校した学校の中庭に彼女が居た。
黒のスカートに白いパーカー、K-Swissのスニーカーを履いていた彼女が自動販売機の横のベンチで神戸観光の本を読んでいた・・・
見た目がタイプな女性だったので、(彼女に興味のないフリをしながら)僕は自販機でコーラを買い、彼女の近くに腰掛けてデイパックから雑誌を取り出して読み始めた。
9月の日差しはまだまだ暑く、僕は日陰にいる彼女を見るとも無く観察していると、彼女も僕のほうをチラチラと見ている事に気が付いた・・・
僕はコーラを飲み終えそうだったので、思い切って声を掛けようと思い。
雑誌をリュックに入れ、立ち去り際に彼女の近くを通るフリをして
「新しいお店とか載ってる?」
と声を掛けてみた。
全てがスローモーションで動いていた・・・・ 彼女がゆっくり目を上げて僕のほうを見た。
褐色の瞳、ストレートの長い髪・・・女優さんの浅野温子に少し似たネコ系の女の子だ。
「私神戸生まれじゃないので分らないの、何処かいい店知ってる?」
初めて交わした会話なのに、脳天に電気が走った・・・・
何か懐かしい記憶にある声だ・・・
昔から知ってるような感覚・・・なんだコレ???
「僕たち何処かで会ったっけ???」
「私、貴方知ってるよ、貴方の2つ後ろの席だもん」
「そうなんだ、同じクラスだったんだ・・・」