「礼文島」には幾つかの素敵なトレッキングのコースがある。
島の南部の「桃岩」(桃みたいな形をした岩がある)周辺、島の最北端「スコトン岬」に至る…通称「4時間コース」と呼ばれる海沿いのトレイル。
「礼文林道」から派生する幾つかのトレイルや、島の最高峰「礼文岳」も人気のあるコースだ。
最北端「スコトン岬」を起点として、島の西海岸と樹林帯林道を繋ぎ「桃岩」へ至るロングトレイルは「8時間コース」と呼ばれ、なかなかに歩き応えのあるコースだ(経験済み)。
拙者のお気に入りは、「久種湖」からキャンプ場の奥の丘陵地を越え、島の西海岸の「西上泊」の集落にある「澄海岬」(すかいみさき)から、「鉄府」(てっぷ)の集落を過ぎ「ゴロタ岬」から「スコトン岬」へ至る「4時間コース+α」だ。
初夏に訪れると、普段…高山帯でしかお目にかかれない花々が一面に咲き乱れる素敵なトレイルなのだ。
そんな素敵な景色を相方にも見せたくて、夜明け前に起き出し車道を「澄海岬」に向かって歩き始めた。
「浜中」の集落から島の西海岸に向かう道路へ左折する。
直ぐ右手に「神崎小学校」があるが、統合により閉校されたようだ。以前は子供達の賑やかな声が響いていたが、今は雑草が伸び放題のグランドにも子供達の姿は無い。
車道ぞいに暫く行くと右手に、柵で囲まれた小山がある。
礼文島固有種の「レブンアツモリソウ」の群生地で、シーズン中(5月末~6月)は盗掘を見張る監視小屋に管理人が在中している。
道なりに小高い丘を越えると、突然…真っ青な海と出会う。
この瞬間が好きだ。
海風を感じつつ急坂を下って行くと、「西上泊」の集落に至る。
広い駐車場には、今朝はまだ車の姿は無いが、シーズン中は観光バスが何台もやって来る人気のスポットが「澄海岬」だ。
この「澄海岬」という…なんだか、ちょっと恥ずかしくなるような名前は、公募によって改名されたもので、古い地図には「金田ノ岬」という名前が書かれている。
売店の横を通ると、どうやら営業しているようだ。
いつも、拙者が一人で「澄海岬」に来る時は、観光客とかち合わないよう日の出過ぎ(5時ぐらいね)にしているから、売店が営業してるのを見るのは久し振りだ。
観光客慣れしたオジサンに、「タコザンギ」を揚げてもらい、クラシックと共に購入する。
タコザンギが揚がる間に話を訊くと、今年の夏は寒かったようで、「この一週間が一番暑い」とウンザリ顔で笑っていた。
タコザンギとクラシックを持って、「澄海岬」の展望台へ。
岩岩の崖っぷちの遊歩道を登って行くと、拙者が礼文島で一番好きな…リーフ(入江)がある。
まるで、南国の海のような透明度の高い、澄んだ青い入江なのだが、今日は風が強く波が立っていて、いつもの5割減ぐらいの美しさだった。
誰も居ない「澄海岬」のベンチに座って、タコザンギで乾杯して暫くすると、団体の観光客がやってきた。
景色なんか殆ど見ないで、「澄海岬」と書かれた看板の前で記念撮影に忙しそうだ。
看板なんか撮らないで、あの美しい海を写せ、海を。
騒がしくて、落ち着かないので早々に退散して、「鉄府」へ向かう。
丘陵地の中腹に作られた小さな祠の横を通って、断崖を乗越すトレイルに入ると、人影は消え静かな礼文島が戻ってきた。
砂礫のトレイルを上がってくると、雄大な風景が広がる、
「鉄府」の港と集落の向こうに長大な「ゴロタ浜」の海岸が続き、その先には200m程の断崖に囲まれた「ゴロタ岬」が見えた。
急峻な電光ルートを下って「鉄府」の集落を過ぎると、若者6人組のハイカーとすれ違った。
この時間に、此処を歩いているとすれば、恐らく…「星観荘」の泊まり客だろう。
今日これから向かう「スコトン岬」の近くに、この…とほ宿がある。
「とほ宿」とは、30年前ぐらいに出来た、北海道各地にある個人経営の相部屋民宿(ユースホステルみたいなヤツね)のネットワークであり、「とほ」という小冊子を発行し、北海道を旅する旅人達にネグラと旅人同士のフレアイを提供している。
「星観荘」には、過去に何回か泊まり、音楽好きなオーナーの求めで何度かギターを弾きながら歌った事がある。
最近は、旅人同士のフレアイが億劫になってきたし、日の出前から動き出したいので、専ら…キャンプ旅になってしまっている。
宿で出会った旅人同士が、こうして…共にトレイルを歩き交流を深め、思い出作りをするのだろうが、「オマエ等、幼稚園児じゃ無いんだから、一人で行動出来ないのか?滅多やたらに、つるんでんじゃねぇよ」と思ってしまう。
集落を抜けると農道のような砂利道になったが、こんな道を歩いていてもツマラナいので、海辺に降りてみる。
相変わらず風が強く波が高いが、今日も既に25℃近い気温の為、風が心地良い。
砂浜だった海岸は、やがて…「ゴロタ浜」の由来となったゴロタ石(丸い大きな石)が密集する石浜になる。
ここ2~3日海が荒れていたので、昆布が浜に打ち上げられている。
集落から離れていて見えないのをいい事に、何枚かを拾って持ち帰る。
厳密には密漁だが、浜に打ち上げられた昆布は拾得物みたいなもんだから、良い事にしよう。
ゴロタ浜で補給休憩後、相方の様子がおかしくなった。
ま、大体…いつも、おかしいのだが、この暑さの中でシャツを着始めた。
それも、後ろ前逆にして、拙者の知らない…何かの新しい流行ファッションだろうか。
理由を尋ねると…「日焼けして腕が痛いんだョ~」と顔をしかめた。
嗚呼、利尻の神様が遂に…「自分の焼きうにとビールだけを守った」薄情者に神罰を与えて下さったノダ。
日焼けの痛みだけで無く、ダサい格好で人格を貶(おとし)める罰まで与えて下さり、ありがとうございます。
惜しむらくは、本人が「ダサい」とは1mmも思っていない事が釈だが、仕方ない。拙者のココロの中だけで、馬鹿にしていよう。
「ゴロタ岬」へ向かう急峻な登りをこなした辺りで、トレイルの脇の草むらの中にスマホが落ちているのを発見した。
かなり傷んでいて、確実にひと冬は越している感じだ。
赤色のスマホケースのポケットに東京の大学の学生証と、某百貨店の入館証(バイト先かな?)が入っていたが、それは…三年前の日付だった。
三年も前なら、流石に中のデータも復元不可能だろう。と拙者がスルーしようとしたら、相方は「気になるから」と拾っていた。
「ゴロタ岬」に到着。
目指す「スコトン岬」が見通せたが、まだまだ結構な距離がある。
歩き始めて4時間が経ち、そろそろ腹も減ってきた。
「スコトン岬」の売店まで行って、イカ焼きで一杯やるのをモチベーションに、もう少し頑張ろう。
「ゴロタ岬」から再び海岸に下り「鮑古譚」(あわびこたん)の集落へ。
しかし、以前はあった何軒かの家屋は、全て取り壊されて、今は誰も住んでいないようだった。
昔は、トレイルが民家の庭先を通過していて、窓から昼寝している婆ちゃんが見えたりして、ほっこりするポイントだったのだが、あれから…十余年の月日が流れ去り、島は確実に、しかも…ひっそりと、その姿を変えつつあるのだ。
海辺の「鮑古譚」から再び丘を登ったトコロで舗装道路に出た。
そのまま、舗装道路を「スコトン岬」に向かって歩く。
15分程で「礼文島」最北端に到着した。
しかし、そこにも時代の変化が押し寄せていた。
岬のレストハウスはコジャレた数寄屋風に建て替えられ、嘗ての面影は全く残っていなかった。
中に入ってみると、土産物屋が並んでいて、イカ焼きやカレーを売っていた食堂もなくなり、札幌市内で見るような…オシャレなカフェ風のレストランになっていて、観光地価格のうに丼ぐらいしか食い物は売っていなかった。
エゾバフンウニ(ガンゼ)の漁期が終わった今、島で食べられるのは一段味が落ちるムラサキウニだけだ。
3000円も出して、ムラサキウニのうに丼を食べる気にはならない。
仕方なく、「昆布ソフトクリーム」を食べて、レストハウスの外で昨日「漁協ストア」で買って、オヤツに持って来たポテチを食べて昼飯に代えるしかなかった。
最北の島の端っこのレストハウスを近代的な建物に建て替えるのを、果たして…旅行者達は求めているんだろうか。
オシャレなカフェ風なレストランを作って、観光客は果たして喜んでいるんだろうか。
北の外れの最北の島に旅人が求めるものと、地元の観光業者が良かれと思い作ったものとには、どうしようも無い隔たりがあるように思えて仕方ない。
あらゆる物を近代的で新しいものに変えてしまうのが、彼らなりの「おもてなし」だと考えているのなら、それは…「利尻岳」の登山道整備と同じで、本来あるべき面白さを駆逐しているだけのような気がする。
最北の離島に、旅人が一体何を求めてやって来るのか、離島のアイデンティティとは一体何なのか、画一的で個性を失った箱モノを増やす前に、もう一度考え直して欲しいものだ。
でなければ、利尻も礼文も、ただのツマラナい観光地になってしまうだけだ。
「スコトン岬」から、キャンプ場のある「久種湖」に向かうバスは日没後の18時しか無かったので、仕方なく歩く事にした。
退屈な舗装道路歩きを誤魔化す為に、「ゴロタ浜」で拾ったボール(軟式野球の球ね)で遊びながら歩く。
それに飽きたので、「岬めぐり」(山本コータロー&ウィークエンド)を歌いながら歩く。
【アナタがいつか話してくれた
岬をボクは訪ねてきた
二人で行くと約束したが
今ではそれも叶わない事…♪】
今日一日の行程にピッタリの曲で、歌詞を全て紹介したいが、JASRAC(日本著作権協会ね)に訴えられると困るので割愛する。
そのうち、鼻歌もオチオチ歌えない時代が来るかも知れん。
歩くのにも、ボール遊びにも、鼻歌にも飽きて来た頃、海沿いの道路から岩礁の海辺に降りられる場所を相方が見つけた。
奴は、兎に角…何らかの食材を海で穫りたくて仕方ないらしい。
波が打ち寄せる岩の上に下りると、波打ち際を探索し始めた。
ウニでも探しているのだろうか。
しかし、大した獲物は見つからず、岩にへばりついてた小さな巻き貝と、どー見ても「モズクちゃうやろっ」とツッコミたくなる蕎麦みたいな細長い海藻を収穫していた。
それ、食えんの?
結局、「4時間コース」と言いながら、寄り道や休憩しまくりでまる一日歩きずめだった。
長い長い舗装道路歩きの末、無事に「久種湖」にたどり着いた我々は、テントには戻らずに、そのまま「船泊漁協ストア」に夕飯の買い出しに向かう。
途中で、通称「タコ公園」と呼ばれる「船泊」地区の大きな公園に寄り道し、再び「ボタン海老」と「ホッケのチャンチャン焼き」「酢ダコ」をゲットした。
「ゴロタ岬」で拾ったスマホは、「船泊」の駐在所に相方が届けに行ったが、お巡りさんは不在だったらしく、書き置きと共に置いてきたそうだ。
短いようで長かった島旅も明日の島抜けで終わる。
早くキャンプ場に帰って、ごくごくしよ~っと。
つづく。
【写真1】澄海岬の大好きなリーフ、ホントはもっとキレイ。
【写真2】ゴロタ岬へのトレイルを往く。
【写真3】目指すスコトン岬までは、まだまだ遠い。






