●第3日目
今日も島の朝は早い。
つか、昨日にも増してカラスがやたら騒がしい。
相方に尋ねると、昨日採集したキノコを、近くのバーベキューコーナーにイタズラされないよう網でガードして置いてあるという。
そりゃあ、見知らぬ袋を発見したら大騒ぎになるわさ。
仲間を呼び寄せ、わーわー騒いで、朝からパーティー状態だ。
島のカラスは、人間がちょっとでも隙を見せると容赦なく、荷物であれ食糧であれ、荒らしに来る。
拙者も以前、豚丼用のロース肉300gを丸ごと…かっぱらわれた事があった。
昨日の朝も、撤収作業を済ませた単独の登山女子のオネイサンが、ザックを置いてトイレに向かった隙を見計らって、ザックの雨蓋のジッパーを開いて中身をついばみ始めたノダ。
それを見た相方が飛んで行って、カラスは退散したが、相方はオネイサンがトイレから戻るまでザックの番をし続けていた。
その…オネイサン情報に因れば、テントを破かれて中の食糧を荒らされた人も居たという。
それを聞いた我々は、テントの中央にザックや食糧を集めて置いて、更に…昨年、大雪山「クランナイ源頭泊」の折にキタキツネ対策にやった、「ラヂオを点けっぱなし作戦」で欺瞞工作を施してから、キャンプ場を出発したノダ。
さてさて、今日も南寄りの風が強く「利尻岳」山頂はガスの中だ。
テントでゴロゴロしたそうな相方だったが、太陽光を浴びたテントは温室状態で、「寝てらんない」と訴える。
芝生敷きの広々としたサイトには、殆ど木陰というものが無い。
そもそも、お盆を過ぎた「利尻島」で夏日になる事自体が異常ナノだ。
秋口の利尻礼文という事で、拙者のザックには、ダウンもフリースも入っているが、一度も袖を通していない。
炊事場近くの木陰のあるサイトに居た…外国人の自転車カップルが撤収作業をしているのを発見した相方は、しきりに「引っ越し」を提案してくる。
「え~、だって、アソコ…炊事場の隣りだし、トイレに行く人通りもあるし、あづましくないもん」
それなら…と、隣りのサイトの木陰を見つけてきて、生命保険の営業オバサンのような口調で、更に引っ越し勧誘を続ける。
余りの勧誘のしつこさに根負けした拙者は、渋々ながら癌保険…じゃなかった、引っ越しを承諾し、荷物をまとめ、テントを移動して、新居に移った。
これで涼しくなって、ゴロゴロ出来ると喜んだ相方だが、生憎…太陽は雲に隠れてしまい、引っ越した効果は無くなってしまった。
日差しが無くなったので、外にマットを出してゴロゴロし始めた拙者だが、相方は意地になってテントから出てこない。
「外は、涼しいョ~」
今日は休養日にしようと決めた我々は、やっと午後になって散歩と買い出しに出掛ける事にした。
「利尻富士温泉」の隣にある高山植物園(無料&花は終わってる)をひやかし、運動公園を通って「鴛泊」の街をぶらリサーチする。
「せっかく島に居るのだから、海鮮を食べたい」という拙者のリクエストで、町外れにある「ホーマック ニコット」へ。
道民にはお馴染みのホーマックに、食料品売り場もあるという情報を昨日、キャンプ場の管理人さんに教えてもらったノダ。
しかし、夏日の暑さにヤラレ、途中にあるセイコマでアイスを買って休憩する。
「ニコット」に到着して店内を物色したが、お目当ての海鮮にはありつけず、明日の「利尻岳」アタックに向けての行動食だけ買って、港にある漁協の「くみあいストア」に向かう。
途中、漁港に寄り道したが、「ぞわぞわする」と言って相方は縁っぺりに近付こうとしない。
ふざけて押そうとしたら、真剣に怒られた。
漁協の「くみあいストア」にも、新鮮な海の幸は見当たらなかった。
全て冷凍物で、カチンコチンに凍っている。
港に上がった魚は、直ぐに保冷処理されて北海道本土へ運ばれるか、冷凍保存される。
島の人は、島で上がった魚は食べないのかな?という相方の問い掛けに…
「ま、狭い島だからね。知り合いに漁師の一人や二人は居るから、みんな貰うんだよ。」と島事情を解説する。
あとは、島の旅館やホテルや居酒屋に卸されて、一般の商店には並ばない。
従って、キャンプ旅人は…お馴染みのレトルトやインスタント食品に依存せざるを得ないノダ。
しかし、礼文島は少し事情が違う。
これは、追って解説したいと思う。
海鮮にありつけなかった我々は、仕方なく…「うまい棒」の「利尻昆布味」と「うに味」を購入した。
ふと、飲み物コーナーを見やると、そこに「ミルピス」を発見して、店の前の公園で飲む。
皆さん、この…「利尻島」のローカル飲料を御存知だろうか?
むしろ、道民は知らない人が殆どでは無いだろうか。
観光客向けのガイドブックの端っこに載っていたりする事はあるが、それ故に道民は「ミルピス」を知らない人が多い。
この…「カルピス」のパッチモンみたいなネーミングから解るように、牛乳(ミルク)を主成分とした乳酸菌飲料だと思えば間違いない。
懐かしい牛乳瓶に入った「ミルピス」は、少量生産の為に、流行りのタピオカドリンク並みの値段がする。
味は…貧乏な家のカルピス(昔、濃縮液を水で割って作ってた)ぐらい薄い、という他に比喩しようが無い感じだ。
余りミルク感は感じない。
キャンプ場への帰り道、「利尻神社」へ参拝する。
無人の社殿の引き戸を開けて、拝殿で二礼二拍手一礼。
御守りが無造作に並べられていて、代金は賽銭箱に入れるようになっているらしい。
なんなら…タダで持ち去っても分からないシステムだが、流石に…そんな罰当たりな人は居ないようだ。
キャンプ場に戻って、今日も温泉へ。
湯上がりに休憩室で、持ち込んだ竜田揚げやうまい棒を肴にビールで乾杯する。
キャンプ場に帰って、管理棟の隣りの売店で買った「焼きうに」と「シュウマイ揚げ」を肴に酒盛りの続き。
昼間も来ていた近所の野良猫が遊びに来て、おつまみの「イカ天」をあげると、ムシャムシャ食べていた。
相変わらず南風が強く、時折…突風のような強風が吹き付けている。
その刹那、一陣の突風…というか、空気の塊みたいな風が「利尻岳」から吹き降りてきた。
拙者は、とっさにテントのポールが折れないよう押さえた。
ふと相方を見ると、自分のビールと、自分の「焼きうに」を押さえていた。
人間の本性というのは、咄嗟の時に出るものだ。
拙者が共同装備でもある大事なテントを守ろうとしたのに対して、相方は…自分のビールと焼きうにだけを守ろうとした。
嗚呼、利尻岳におわす神よ、願わくば、どうか…この薄情な相方に神罰を与えたまえ。
●第4日目
夜明け前に起き出した我々は、「利尻岳」アタックの為に午前5時にキャンプ場を出発した。
舗装道路を40分程歩いて、登山口のある「北麓野営場」に辿り着くと、立派な管理棟や真新しいキャビンが建ち、少し陰鬱な印象だったキャンプ場がすっかり様変わりしていて驚いた。
管理棟のポストに「登山計画書」(良く登山口に見かける入林届では無い)を記入し投函する。
用紙には、下山届も付随していて下山後に投函するようだ。
日本百名山でもある「利尻岳」には、全国の百名山ハンターや登山ツアー客だけで無く、ちょいとハイキング気分の観光客が登ってくる事がある。
そんな観光客が遭難騒ぎを度々起こす事があったらしい。
「利尻岳」は、上り6時間下り4時間、獲得標高差1700mという…かなり、ハードな山だ。
カテゴリー的には、中~上級に属する山でもある。
ちょいとハイキング気分で簡単に登れるような山では無い。
海に起つ単独峰であるが故に、ガスも発生し易く、遮るものも無く一年中強風が吹き付ける。
長い長い樹林帯の尾根歩き。
上部は火山礫の堆積した急傾斜のルートが待ち受け、登山道脇は現在も絶賛崩落中の断崖があり、幾人もの滑落事故者を出してきた。
普段山に通ってる者ですら、ある程度の覚悟を持って登るような山に、普段山を歩いたりしていない人間が挑むには、過酷過ぎる山ナノだ。
「甘露泉」で飲み水を汲んで、取り付く。
良く整備された登山道は、この山の人気の高さを伺わせるに充分過ぎる。
浮き石も無く、藪被りな場所も殆ど無い。
なだらかな登山道を、緩やかに高度を上げて行く。
今日は、キノコ禁止令が相方から出たので、真面目に歩くしかないが、一昨日からキノコアイ・センサーは稼働しっぱなしだ。視線だけは、登山道脇の藪に注がれる。
島に羆は生息していないと分かっていても、体が勝手に羆センサーのスイッチを入れてしまい、自然と辺りの気配を探ってしまう。
三合目で早くも一回目の小休止。
八合目の「長官山」までは、「利尻岳」の御尊顔を拝する事は出来無い。
暫くは、退屈極まりない樹林帯歩きが続く。
以前は、ルート上に岳樺の枝が張り出して(ダケカンバ・チョップだな)、何度も頭をぶつけたが、邪魔な枝は全て切り払われ、大層歩き易くはあるが、一般ルートの退屈さに変わりは無い。
五合目を過ぎた辺りで、やっと尾根に乗り少し展望が開ける。
海の青が眩しい。
吹き下ろす風が心地良いが、相変わらずの南風なので、ガスは出そうだ。
やっとこさ、八合目の「長官山」に到着すると、山頂には次々と湧き上がった雲(ガス)がかかり、躍動感が半端無い。
これはこれで見応えはあるが、山頂に行っても展望は期待出来無いかも知れない。
高度的には八合目まで上がってきたが、この先の二合分を詰めるのに、此処までと同じぐらいの時間が掛かるノダ。
ルートは避難小屋のある平坦な尾根筋を通り、一旦コルに下ろされる。
この辺りで次々と下山者とすれ違い始めた。
この時間に下りて来るという事は、皆さん…まだ暗い午前3時頃には登り始めているのだろう。
拙者が初夏に登っていた時は、ツアー登山者とかち合わないように午前3時頃に取り付き、昼過ぎには下山する作戦をとったが、花の終わった…この時期、ツアー登山客も居ないだろうからと、遅い出発にしたノダ。
九合目のテラスに到着すると、本格的にガスに巻かれ始めてしまったが、時折…抜ける時もあり、山頂に到着するタイミングで晴れてくれれば良いのだが。
さてさて、此処までは…言わば、イントロみたいなもので、これからが「利尻岳」の正念場、急勾配のザレ場の難所が始まるノダ。
意気込んで難所に差し掛かった我々の前に、信じられない光景が広がった。
つづく。
【写真1】高度を上げると、眼下に鴛泊の町と海が見下ろせた。
【写真2】長官山からの山頂。南風が山体にぶつかり、モクモクと雲が湧く。
【写真3】避難小屋前の素敵な源頭地形(やっぱり、源頭萌えなんだな?)。







