いやはや、「雪不足でなかなか雪山に行けない…」などと、ボヤいていたら、突然大雪をおみまいされて、思わず…スノーブーツ&ハードシェルの雪山装備で通勤してしまった…「頑なにラッセル泥棒をしない登山家」のもじょで御座りまする。
だ・か・ら~、やっぱり…「雪少ない」とか皆が言うから、流石に将軍様(北のじゃ無く、冬将軍ね)も俄然やる気になっちゃったんじゃないのか?
そ~ゆ~場合は、言っちゃダメなんだって。
地球温暖化の何がダメなんだ?とか聞いたら、「そんじゃ、ま」となっちゃうんだから~(オマエがなっ)
さてさて、これだけの大量の積雪があったならば、山はラッセルし放題になる筈だ。
好きなだけラッセルが出来るだろう。
ラッセルし放題だ。
破損したスノーシューを補修して、ちょっとだけ早起きして、再びの「ネオパラ尾根」に向かった。
何故、ここまで拙者が「ネオパラ尾根」に拘るのか?と訝しむ方々もおられよう。
それには幾つか理由がある。
●退屈なアプローチが無い。
●全くヒトに遭わない。
●適度に地図読みが難しい。
●地形観察が楽しい。
●帰り道に生協に寄って「豚肉の味噌漬け」か、S&S畜産に寄って「若鶏の半身揚げ」が買える。
この「ネオパラ尾根」ルートは、住宅街の裏から直接アプローチが出来て、退屈極まりない林道アプローチが全く無いのが素晴らしいノダ。
「西野第二」のバス停を降りて、住宅街を10分も歩かないで取り付きポイントに到着する。こんな山は、他には知らない。
そんな一般的な雪山ルートでは無い場所だから、他の登山者の姿は皆無だ。
今シーズンは、人間のトレースにもお目にかかっていない。
あるのは、蝦夷鹿トレースだけだ。
古いルート・マーカーを時折見かけるが、最近のものは見当たらないし、ネットを探しても記録は見つからない。
「ネオパラ尾根」の下部は、単純な尾根登行では辿り着けず、微妙なルーファイ技術が必要な地形をしている。
「ネオパラ尾根」に乗る為の、拙者が見つけた唯一の弱点は、地形図だけでは発見出来なかったかも知れない複雑な地形をしている。
浸食された沢地形がヒントにはなったが、崩落崖と思われる30m程の段差は、小回りの効くスノーシューでしか登行出来無い斜度と、細かいジグを切る必要があるノダ。
そんなこんなで、自然とこのルートに足が向いてしまうのだが、「ネオパラ尾根」自体は、昔から「山スキーの聖地(メッカ)」と呼ばれ、「パラダイス」の名前の通り…見晴らし抜群な、緩やかな広尾根の、疎林地帯という大変気持ちの良い場所なのだ。
さて、取り付き場所から雑木林に踏み込んだが、先週あんなに煩かった笹は殆ど雪に埋もれていて、景色が一変していた。
しかし、手入れのされていない雑木林なので、至る所に倒木がありズボるので、潔く小尾根に乗る。
麓のラッセルは膝程度だが、時折…股まで埋まる。
今日も、なかなかに厳しい勝負になりそうだ。
いや、むしろ…深いラッセルがしたくて、やって来たのだから、この程度は想定内だ(喜ぶな喜ぶな)。
カラマツの二次林を通って、高度を上げる。
途端に息が上がり、出発して15分で中間着を脱ぐ。
先週来た時の自分のトレースは、全く残っておらず、一からルーファイのやり直しで、ルートを拓いて行く。
それでも、苦労して拓いたルートなので、記憶は鮮明だ。
但し、登坂速度は先週の半分程で、遅々として進まない。
先週は40分ぐらいで辿り着いた小尾根の詰めに、1時間以上掛かってしまう。
先週あんなに沢山あった蝦夷鹿トレースも、殆ど見られない。
このペースだと、先週辿り着いた高度までも届きそうに無い。
台地へ上がる尾根ルートに、今朝方付いた蝦夷鹿トレースがあったので、さり気なく乗ってみると、少しだけ歩き易い。
潜る事は潜るのだが、股までという事は無い。
他の登山者のトレースには乗らない主義だが、ここは素直に蝦夷鹿トレースを黙って拝借する事にする。
他人のトレースを勝手に拝借する事は、雪山の仁義に反するが、仁義を切るべき蝦夷鹿君の姿が見えないのだから仕方無い。
もし途中で出会ったら…「トレース拝借しました」と言えば良い(多分、全速力で逃げられると思うけど…)。
高度を上げるに従って、積雪量も増して行き、急傾斜の斜面では腰を越す深さになってきた。
そうなったら、足だけでは前進出来無い。
足場を作る為に、先ずは膝を使って前面の雪を押し潰し、足を出せる空間を作る。
その後、足場を踏み固め一歩踏み出す。
一歩進める毎に、2~3アクションが必要になる為に、10mの急傾斜を登るのに5分程掛かる。
台地に上がったトコロで、大休止にする。
普段はやらないが、思わず外付けにしてあるウレタンマットを取り出して、座って休憩してしまった。
かなり、ヤラレとる。
先程から、小雪が舞い始め、ハードシェルのフードを被っている為に熱が逃げずに暑いぐらいだ。
そこで、サングラスが無い事に気付いた。
あちゃー、またまた…やってしまったノダ。
発汗にレンズが曇る為、ブッシュハットに乗せたまんま歩き、フードを被る時に落としてしまったノダ。
つまり、またまた…サングラスを回収する為に、同じルートを下降せねばならないノダ。
トホホ…、先週も尻ボを落としたばっかりで、何の学習もしないヤツなのだ。
台地に乗り、30mの崩落崖に向かって左寄りにルートを延ばし始めたのはイイが、その頃から…なんだか不思議な事が起こり始めた。
何度も歩いた慣れたルートの筈が、ルーファイミスを度々起こし始めたノダ。
原因は、深いラッセルだった。
つまり、普段はルーファイしながらラッセルしているから、視線はルートを探して前方に向いているのだが、余りにもラッセルが深い為に、どーしても足元を見なくてはならない故、前方への注意が散漫になってしまうノダ。
途中で気が付いたら、修正すれば良いのだが、台地に上がったトコロで、間違いにも気付かなくなってしまった。
いや、アタマでは「左に寄り過ぎてるな」と分かっているのだが、カラダはラッセルを止めようとしないのだ。
静寂の中に、自らの荒い呼吸音と雪を踏みつける音だけが響き、股までの深いラッセルに足掻いている自分が居る。
目の前の雪を掻き分ける事だけに集中し、アタマの中から余計な思考が抜けて行き、真っ白になる。
「ラッセル・ハイ」という言葉があるかどうかは知らないが、なんだか…と~っても気持ち良くなってる。
「拙者は一体何の為に、こんなふうに雪の中で一人もがいておるのだ?」とココロの片隅じゃ疑問に思いながらも、楽しくて仕方ない。
陸上自衛隊には、全国の幹部候補生の精鋭を集めた「冬季レンジャー訓練」なるものがある。
厳冬期のニセコ山塊で雪中行軍を行い、二桁の氷点下の山中で野営する…過酷な訓練だ。
かの訓練を果たした者には、ダイヤモンドをかたどった「レンジャー徽章」が与えられ、その徽章は本人の矜持でありつつ、指揮官として部下からの尊敬を集め、一目置かれるという。
そんな、過酷極まりない訓練のような事を、この馬鹿は遊びとして、自ら…誰に命令されるとも無く、嬉々として行っているのだ。
我ながら…「アタマおかしいんじゃないか?」と思ってしまうノダ。
閑話休題。
流石に、ルーファイミスに気付いて地形図を取り出す。
本来なら沢地形に沿って行かなければならないのに、左に80m程寄り過ぎていた。
ルート修正をして、崩落崖を目指す。
木立の隙間から、着雪していない節理が見えた。
辿り着いてみると、先週作ったルートは見事に消えていた。
この積雪量だと新たにルート開削するのは、一苦労だぞぉ。
しかし、このラッセル馬鹿は何をトチ狂ったのか、いつもの電光ルートでは無く、沢形の中に突進したノダ。
もう、正常な判断能力を失ってしまっているようだ。
沢の中は、風に飛ばされた雪が吹き溜まっていて、周りよりも積雪量は多い。
ラッセルは未だ経験した事の無い深さに達した。
胸を打つ深さの積雪に行く手を遮られ、最早…これをラッセルと呼んで良いものかと疑わざるを得ない状況に陥った。
恐らく…世間一般では、「拷問」とか「苦行」と呼ぶ筈だ。
新雪の積雪量は、およそ1・5m。
こうなっては、マトモに進む事は出来無い。
以前読んだ、雪山遭難の本に「胸を越す積雪を漕ぎながら…」なんて描写があったが、きっと…こんな感じなのだろう。
その本は、爆弾低気圧に襲われた立山連峰で、一晩で2mを越す積雪量がある有名な豪雪地帯の話だったが、ここは札幌市西区だ。
西野の市街地からは2kmと離れていない。
だった2km先では、ソファーに寝転がって、NHK大河ドラマ「麒麟がくる」の再放送を見ながら、煎餅なんぞかじっている爺様が居たりするのに、拙者は雪の中で意味不明に一人暴れているのだから、摩訶不思議な状況だ。
とりあえず、ストックを二本まとめて持って、目の前の雪を崩して、足を進めるスペースを作る。
サラサラの新雪は、軽く突き崩すだけで儚く砕けて行く。
足元に溜まった雪を踏み固めてステップを作り、30cmだけ前進する。
再び目の前の新雪にストックを突き立てる。
そんなルーティーンで進める距離は、ほんの僅かだ。
もう帰宅後の酒の肴や、今日の「青空レストラン」の厳選食材の事を考える余裕は無い。
荒い呼吸を整えながら立ち止まり、ふと振り返ると…沢の中に刻まれた自らの苦闘の痕跡が、一本のトレースとなり続いていた。
何故かニヤリと笑い、何かを成し遂げたような錯覚に陥ったが、こんなトレースを誰も居ない山の中に作ったからと言って、褒めてくれる誰かが居るワケでは無い。
ただ、「ラッセルしたい」という己の無意味な欲望を満たしただけだ。
無為徒労の…この馬鹿げた行為を、一体何と呼べば良いのか…。
30分以上かけて、やっと沢から脱出すると、流石に乳酸が溜まり、殆ど傾斜の無い「ネオパラ尾根」ですらヨタヨタと進むしかなかった。
時間的にも体力的にも、動けるのはアト30分というトコロだろう。
尾根の南側の見晴らしの良さそうな場所を探して、遅めの昼食にする。
今日は、我が故郷「京都」式の「たぬきうどん」だ。
一般的に「たぬき」と言う場合、東京では麺が蕎麦に化け、大阪ではアゲが天ぷらに化ける。
しかし、京都では…汁が「餡掛け」に化けるノダ。
具はシンプルにアゲだけ。薬味にオロシ生姜をタップリ乗せる。
体がポカポカして、雪山ランチ向きのメニューなのだ。
珍しく風も無かったので、少しノンビリしてから下降を始める。
下降は新雪を踏みながら行くと、雪が衝撃を吸収してくれて楽チンなのだが、今日ばかりは下降でもラッセルが必要だった。
もう膝は上がらない。
仕方無く己のトレースを辿って行く事にしたが、そこには…我が苦闘の痕跡がありありと残り、その時の迷いや逡巡や葛藤の歴史が刻まれているようで、面白かった。
崩落崖斜面には、次に来る時の為に通常の登坂ラインにトレースを刻んでおいた。
今年も、もう少し寒さが緩んだら、イグルー泊をやってみたい。
午後4時半、落としたサングラスを回収して、無事下山。
ラッセルのやり過ぎなのか、除雪された住宅街の固い地面に、何故かしら違和感を感じる程だった。
もう暫くは、ラッセルは…やんなくてイイかな(ヤラレてんじゃん)。
おわり。
【写真1】股ラッセル中
【写真2】深く刻まれたトレースが苦闘を物語る
【写真3】やっぱ、寒い時は餡掛けだな








