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久々の「空沼岳」である。
勿論、今回も頂上なんか行く気はサラサラ無い。
今回は、実は…沢登りナノである。
拙者…ワンゲル時代に1~2度やった事があるが、30年以上振りだから、殆ど初めてみたいなもんだ。
慌てて…前日に、沢靴やヘルメットを買い揃え、お馴染みの登山口へ向かった。

しかしながら、何故イキナリ「沢登り」なのか?
諸兄姉の疑問は分かる。
自分自身でも良く分からんノダ(オイオイ…)。
強いて云えば…暑いから?(オイオイ…)
正直言って、夏山は嫌いだ。(オイオイ…)
暑くて、虫が沢山居て、汗もいっぱいかくし、ビールもヌルい。
従って、昨年までは真夏には殆ど山行をしなかった。
秋の縦走に向けてのトレーニング山行だけだった。
しかし、相方「S隊員」の誘いもあり、30年以上振りに「沢登り…やってみよーかな~」と思ったワケなのだ。

「沢登り」と聞くと…沢登りをやらない一般登山者の皆さんは、「なんか…ロープとか使って、滝とか登って、岩登りの技術や装備とか無いと大変なんじゃないの?」と思いがちだ。
だが、それは…間違った認識だ。
山でも、初心者から上級者のカテゴリーに分けられているように、沢にも難易度によりカテゴリー分けされている。
勿論、ロープでビレイ(確保)したり、ラペリング(懸垂下降)が必要な難しい沢もあるが、今回の空沼岳「湯の沢」は、ロープなど全く不要で基本的な「三点支持」さえ分かっていれば、初心者でも歩ける沢だと云う。
以前、空沼岳中腹の「万計沼」で一服していた時、「湯の沢」を一人で登ってきたオジサンに会った事がある。
実際、ロープやハーネス等持っておらず、小さなザックと沢靴だけ…という出で立ちであった。
それに…この「湯の沢」という響きが萌えるではないか。
麓には、嘗て「常盤温泉」もあった事だし、もしかしたら温泉でもあるんではないか?と冒険心をくすぐられる。

という事で、採石場奥の林道入口の橋の手前に駐車し、買ったばかりの装具を整える。
先ずは…「ネオプレーン素材」(ウェットスーツみたいなもん)のソックス。
フニャフニャの手触りが、なんだか気持ち良い。
その上に、沢靴を履く。
昔、ワンゲルでやった時は「地下足袋」と「ワラジ」だったが、今回は「キャラバン」のゴム底の沢靴を選んだ。
一般的には沢靴の底はフェルトらしいが、一般登山道を使って下山する場合の事を考えて、グリップ力のあるゴム底にした。
人によっては、下山用に登山靴を持って行くらしく、フェルト底はそれぐらい一般登山道では使えないという事なのだろう。
ま、ネットで色々調べても、装備には人それぞれに拘りやスタイルがあって、結局…自分に合えば良いという事なのだろう。

沢靴の上に、防寒防水及び怪我防止の為に、ネオプレーン素材のスパッツを装着する。
この装備については、目的がなんとなく納得出来無かったのだが、なんとなく…※「UWF」のレガースぽくってカックイイので買ってみた。

※注「UWF」(universal wrestling federation)
蹴り、投げ、関節技、締め技を主体とした攻撃で、リアルな闘いを求めたプロレス団体(ロープに振られたりしない)。
初期メンバーには「佐山サトル」(初代タイガーマスク)や、「前田日明」「藤原喜明」などが居た。
「レガース」とは、回し蹴りをする時に脛を保護するクッションが入った脛当ての事。(mojopedia引用)

んでもって、ヘルメットを被る。
拙者もカッコイイ岩登り用が欲しかったのだが、生憎…サイズが無く、仕方無く※「プロノ」に向かった。

※「プロノ」北海道東北域に展開する現場作業着の専門店。オレンジの看板が目印だ。安全かつファッショナブルな現場作業員を目指す兄さんに人気。いっちょまえに浸湿撥水素材を使った雨具などもあり、多分…登山に必要な服装は一揃え揃う筈である。(mojopedia引用)

青いヘルメットは、如何にも現場の雰囲気が漂っていて…なかなか、※イカス♪

※「イカス」格好良い。オシャレ。70年代の若者言葉。 英訳すると「cool」という事になる。(mojopedia引用)

ザックは「second・street」で見つけた…今は無き「秀岳荘」オリジナルで、化繊Tシャツはゼビオスポーツで冬場に安売りしていた「umbro」だが、サッカー関連のメーカーだとはヒトに聞くまで知らなかった。
ズボンも「second・street」の衣料品20%OFFセールで見つけた「Colombia」の化繊100%の古着だ(乾きやすい)。

装具を整えていると、続々と車がやって来て、何故か…登山口への林道を進まず、我々の隣に駐車し始めた。
うむ?みんな、「湯の沢」遡行目的なのか?
そんなに、沢登りは人気だったのか?
…と思っていたが、恐らく皆さん「空沼岳」へ登りに来たが、登山口手前に車を停めて準備をしている我々に釣られて、ここから歩くもんだと勘違いしているようだった。
皆さん、「空沼岳」は初めてなのだろうか?
しかし、流石に…普通の登山とは違う怪しい雰囲気を醸し出している我々の後を着いてくるヒトは居なかった(一人は現場用ヘルメット被ってんだから)。

我々は、「万計沢」に掛かる橋の手前から右手に続く林道を歩き始める。
夏草のむせかえるような草いきれに囲まれた林道は、大変歩き心地が悪く、沢音が響く左手の藪に突進し※入渓を目論む。

※「入渓」沢に入る事。(沢用語は色々難しい)

砂防ダムの上流から入渓する。
川面を渡る涼しげな風と、木洩れ日。キラキラと光る水面と、水音の響き。
新鮮な驚きと、発見に満ちた景色にテンションは(密かに)上がる。
早速、水流の中に入り、沢の流れと水の冷たさを感じてみる。
ピッチリと密着したネオプレーンの靴下のせいか、殆ど濡れる感覚は無い。従って、冷たくも無い。
少し拍子抜けした感もあるが、それが装備の正しい機能ナノで、これでイイのだ。
沢靴も岩にピタリと密着して、今迄に無い感覚に驚く。
なんとなく…「さぁ来い」という感じがする。
こちとら、濡れても構わない…というか、むしろ濡れる事を前提とした装備と心構えで来ているから、当たり前だが…山登りで沢にハマって登山靴の中を濡らした「やっちゃった感」とは全く違うノダ。
「さぁ、濡れてやろうじゃないか感」で胸が膨らむ。
この…初めて沢に浸かる瞬間というのもイイ。
山との距離感が、ぐっと近付く感じがする。
皮膚感覚で沢を感じる瞬間に、人間同士のフィジカル・コンタクト(肉体的接触)した時のような親近感が涌く。

ガイドブックに因れば…本来の入渓地点は、まだまだ上流の林道終点らしいが、こちとら…先週の「札幌岳」の林道歩きで、林道にゃウンザリしている。
入渓して暫くは、なんて事も無い平凡で退屈な河原歩きが続くが、林道の退屈さと比べたら、全然マシである。
その内、突然…「滑」(ナメ)が現れた。
「滑」というのは、河床の一枚岩の上を水流が流れている場所で、ハナシには聞いていたが、歩くのは初めてだった。
それまでの、浮き石だらけのゴツゴツした感触とは異質の、フラットで滑らかな岩の感触が新鮮だ。
まるで…何だろう?
比喩すべき他の感触が思い浮かばない、生まれて初めて感じる感覚に戸惑い…且つニヤニヤが止まらない。
「湯の沢」の水は白っぽい…恐らくは、石灰岩が溶け出した独特の色をしている。
その…白っぽい水が5cm程の厚さの薄い水流となり、滑の上をサラサラと流れている。
いやはや、これは楽しい。
滑地帯が数十m続いた沢の回廊は、やがて…唐突に普通の河床に戻る。
あっけない終わり方に、名残惜しく…引き返して、もう一度歩きたくなる。
しかし、次なるアトラクションが直ぐに待ち受けていた。
小滝だ。
背丈程のギャップを、白濁した流れが泡立ちながら落ちている。
幅は2~3mで、横の草付きを巻く事も出来るが、ここは…初小滝という事で、水流の中を直登してみる。
泡立って良く見えない水流の中に、足掛かりを探してみる。
水圧に負けてネオプレーンの靴下の隙間から中に、冷たい沢水が入り込んできた。
うひぃ~気持ちイイ♪
手掛かりを探して、水流の中に手を突っ込んでみる。
うひぃ~気持ちイイ♪
水しぶきが顔に掛かる。
うひぃ~気持ちイイ♪
これは…楽しい。
小滝の上に持ち上げた視線と、水面が重なる。
新鮮なアングルに、ニタニタが顔に張り付いたままになる。
あっけなく小滝を越えると、また…景色は平凡な沢に戻った。
この…緊張と緩和の繰り返しが、楽しさを倍増させる。
次の曲がり角を曲がったら、何が現れるか…ワクワクする。
次は、どんなアトラクションが待ち受けているか、早く見てみたくて「S隊員」を追い越してみたりする。
でも、そこには何も無かったりして、期待と落胆が繰り返される。
「緊張と緩和」「期待と落胆」
そして、落胆のあとには…出たっ!さっきの小滝より大きな5m級の滝だ。
「落胆と驚き」
これは…一流のエンターテイメント冒険小説を読んでいるような味わいと、面白さがある。

とりあえず、一回休憩して興奮した精神を落ち着けよう。
濡れる気満々で来たからには、諸々の防水対策も怠りない。
タバコもビニール袋に入れて来ている。
河原の手頃な石に腰掛け、補給をし、一服する。
川上から下降流の涼しげな風が降りてくる。
上流に向かうにつれ、段々と川幅が狭まり、谷も深くなってきた。
だが、沢沿いのルートは何処も似たような沢形の地形で、確かな現在地が判らなくなっている。
時々現れる支流や、林道の下をくぐる道管のトンネルが唯一のランドマークになっている。
恐らく、目的の「万計沢」に達する林道の合流点までの半分辺りに居る模様だ。

再び遡行を再開し、暫くすると…また、滑が現れた。
いよいよ、核心部が始まったようだ。
細い回廊が延々と続いている。
駄目だ。もう…ニタニタを我慢出来ぬ。
幾つかの小滝を越えると、6~7mの滝が現れた。
中央部は水量があったので、右寄りを攀じる。
その先には、狭いゴルジュが待ち受けていた。その隙間からは、真っ白な飛沫を落とす大滝が覗けた。
慎重にゴルジュを突破し、大滝へ。
うむむむ…
ここは、流石に巻くんだろうが、さて…どのルートを登ればイイものか…。
滝の右側の急な草付きには、踏み跡もあったので右側を巻く事にする。
先ず、「S隊員」が取り付く。
落ちてきた時の為に、下で構えておく。
急勾配の草付きをドンドン登って行くが、高巻く積もりナノだろうか?
下から見上げると、あの…草付きの途中から、滝へ向かってトラバースしてる不明瞭な踏み跡が、恐らくは先行者達が採ったルートに違いない。
「S隊員」が藪の中に消えるのを待って登攀する。
濡れた岩には足掛かりが少なく、手頃な場所にあった笹を掴んで体を持ち上げる。
掴んだ笹には、殆ど葉が付いておらず…みんな、この笹を掴んでいる事が分かる。
滝の上へ出ると、更に小さな滝が待っていた。
高巻いて登った筈の「S隊員」の姿が見えない。
暫く待っていると、ひょっこりと姿を現した。一人で落ちたんじゃないかと心配していたが、大丈夫な様子だ。

更に細くなった流れを進むと…
ジャジャ~ン、先程の滝よりも更に高い滝が現れた。
落ちた水流は、細かい飛沫となっており、その高さが伺える。
高さは10m以上はありそうな、美しい滝だった。
「湯の沢」一番のハイライトだ。
滝の前で記念写真でも撮ろうと思い、「S隊員」に向かって手振りで滝の前に立つように促すと…何を勘違いしたか、「S隊員」はドンドン滝の直下に進み、その飛沫のシャワーの中に身を投じた。
勿論、全身びしょ濡れだ。
だが、その顔には笑顔が弾けていた。
そう来たか…ならば、拙者も♪と滝の下に入る。
拡散しながら落下した圧力が、体中を圧迫し。
その刹那、体の奥の方で何が弾けた。
「空沼」の知られざる姿を垣間見た思いで、胸がキュンとなった。

おわり。

【写真1】小滝を登る。気持ち良すぎる。
【写真2】ゴルジュを通過するS隊員。奥に大滝が待ち受ける。
【写真3】大滝シャワーに打たれて、アドレナリン出まくる。
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残雪の上に背中の重いザックを投げ出すと、空身になって目の前の「根曲がり竹」の藪に突進した。
閉鎖スキー場の日当たりの良いゲレンデ跡に植生した根曲がり竹は、あらゆる侵入者を拒むかのように太く長く成長し密集していた。
背丈はゆうに3mに届き、雪溶け直後の為に押し潰されて斜面下方を向き、槍襖(やりぶすま)のように侵入者を寄せ付けない断固たる意志さえ感じる…根曲がり竹に無理やり体をねじ込んでみる。

昨年、厳冬期に日帰り山行で訪れたニセコ「ワイスホルン」に、今回は天幕泊を目論んでやってきたが、昨年登行したスキー場のゲレンデは、所々に残雪がある程度で、それを繋げて登行する計画は立ちふさがった根曲がり竹のおかげで早くも頓挫しようとしていた。
厳冬期…あんなに見通しが良かったゲレンデも、立ち上がった根曲がり竹が邪魔をして、斜面上方の様子が全く見えない状況だった。
一応、途中までは夏道もあるようだが、頂上へは積雪期を狙うしかない。
早くも消耗して、ココロ折れかけている相方「S隊員」を待たせ、偵察の為に藪の中へ突進したのはイイが、複雑に絡み合った根曲がり竹は容易に前進を許さなかった。
根曲がり竹の隙間から、登行出来そうな残雪を探したが、濃い藪のせいで前方の様子は全く分からなかった。
手近な「ナナカマド」の立木によじ登り、斜面上方の様子を窺うが…藪は、この先100m以上続いているようだ。
高度を上げれば、残雪も増え登行は楽になるのだろうが、その高度まで上がるのに一苦労しそうだった。

ふと…視線を隣の尾根に向けてみる。
広い樹林帯の続く…その尾根は、目標となる残雪ゲレンデ上部まで伸び、遠望するに残雪の繋がりは途切れてはいない。
あそこなら、勾配もゆるく登って行けそうだ。
その為には、トラバース出来そうな高度まで一旦下りて、谷地を越えなければならない。
此処からでは、谷地の中の様子まで分からない。
果たして、谷越え出来るだろうか?
もし…水流があれば、スノーブリッジが落ちたこの時期、渡渉は難しいだろう。
とりあえず…ザックをデポした残雪まで戻って、偵察した内容を「S隊員」に説明し、修正案を提示してみよう。
ザックまで戻ると、「S隊員」の姿が見えなかった。
残雪に彼女のザックが放置されているだけだ。
オシッコにでも行ってるのだろう。
煙草を吹かしながら、しゃがみこんで涼をとる。
地表近くは残雪の冷気が滞留しているので、しゃがむとヒンヤリ涼しいのだ。
暫くすると、藪を掻き分ける音が聞こえ、根曲がり藪の中から「S隊員」が出てきた。
どうやら…独自に偵察に行ってたようだ。
「12畳ワンルームを発見したョ」と、ワケの分からん事を口走る。
多分、藪の向こうにあった残雪の広さを説明してくれているのだろうが、面倒くさいので軽く受け流す。
こちらの偵察した情報を伝えるが、モチベーションは上がらないようで…「仕方ないな~」的にザックを背負い直した。
奴は、早く天幕を設営してゴロゴロしたいのだ。
しかし、時刻は昼を過ぎたばかり、日没まで…まだまだ時間はあるし、体力も残っている。
此処で幕営しても良いが、余りにもロケーションが良くない。
なんてったって、根曲がり竹しか見えないのだ。
もう少し、眺望が得られる所まで上がろう。

樹林帯の残雪を繋ぎながら、高度を下げ隣の尾根にトラバースする。
谷地に辿り着くと、予想に反して谷地は残雪でビッシリ埋まっていた。
水流の気配も無い。
見上げた尾根への登り返しは、大した事は無いが…この状態ならば、谷地を詰めて行く方が楽だろう。
手近な枝にマーカーを結びつけ、下山時への目印とする。
谷地には残雪を流れ下った下降流と思われる風が吹き、汗ばんだ顔に当たると大層心地良い。
残雪は堅く締まり、表面の雪も腐っておらず歩き易い。デブリ(雪崩の堆積物)が固まった…という程では無いが、安定した状態だ。不意の踏み抜きも無さそうだ。
狭い谷地は、なんだか…ボブスレーのコースみたいで、これは…下山時に尻ボで滑ると気持ち良さそうだ。
暫く谷地を詰めると、広尾根の樹林帯に合流した。
白樺の立木の間をすり抜けて徐々に高度を上げる。
やがて、左手に残雪を抱いた「アンヌプリ」や「イワオヌプリ」の雄々しい姿が見え始め、展望が開け始めた。
森林限界を突破したようだ。
二人共、消耗が激しく15分置きに休憩するようになった。
残雪期の堅雪とは云え、20kgを超える重装備を背負っては辛い行程だ。
広い雪田に辿り着き、ザックを下ろし乱れた呼吸を整える。
「S隊員」は「もう、ここいらで張ってもイイんじゃない?」的なオーラを放っている。
行程的には、そろそろ…ゲレンデ上部の最終リフト降り場が近い筈だ。
空身になって偵察に出掛ける。
根曲がり竹の藪を回り込むと…目的の最終リフト降り場が150m程先に見えた。
「リフト…直ぐ其処にあったよ。もう、100m程しか無いョ。」(ちょっと、過少申告する)
乳酸が溜まった脚を引きずり、150mを10分近く掛けて攀る。
とりあえず、目標となるリフトまで辿り着いた。
アトは…見晴らしの良い、幕営地を選定するのみだ。
しかしながら、「S隊員」の口からは信じられ無い台詞が飛び出した。
「海が見えるトコまで、行きたいね」

イヤイヤイヤイヤ、さっきまでのやる気の無いオーラはどうした?
何故、この時点で俄然ヤル気を出しておるのだ?
拙者は既に、モチベーションの最後の一滴を、リフトまでの最後の登行で絞り出してしまったのだぞ。
もう、逆立ちしても、何も出ません。
更に、頂上へ続く稜線東側には…「どうぞ、コチラを歩いて下さい」とばかりに、残雪が繋がっている。
「ほら、アソコ…越えたら、あっち側(ニセコ連峰)が見えそうな気がしない?」
「S隊員」のイメージの中には、昨年登った時に、稜線沿いに「大沼」が見える場所までシュカブラ(風紋)を踏みつけながら歩いた時の素晴らしい景色が残っているに違いない。
先程までとは真逆の、モチベーションの逆転現象に翻弄された拙者は、先行する「S隊員」のケツを追い掛け始めた。

頂上へ続く夏道の無い「ワイスホルン」は、ニセコの他のピークとは違いメジャーとは言い難い。
スキー場が閉鎖されたように、スキーヤーにとってすら…「アンヌプリ」ほど魅力的では無かったらしい。
だが、その…優しげな風貌といい、たおやかな雰囲気といい、これはこれで素敵な山だと思う。
ニセコには、山群とも呼ぶべき数々の個性的な山が沢山ある。
以前、面白がって…それらの山々を擬人化して家族に喩えた事がある。
一家の主は、勿論「羊蹄山父さん」だ。
柔らかで優しげな「アンヌプリ母さん」と、やんちゃ盛りの長男「イワオヌプリ君」が居て、次男の「ポンイワオヌプリ君」は兄ちゃんと何時も一緒でちっこくて可愛い。
長女は「チセヌプリちゃん」、従姉妹の「ニトヌプリちゃん」も愛くるしい。
そして…親戚の優しい叔母「ワイスホルン叔母さん」。
若い頃から活発で、遂には国際結婚をしてドイツ人の旦那さんが居て、一人だけ外国人みたいな名前になってる。
「ワイスホルン」とは、そんな山なのだ。

頂上付近の比較的平らな残雪の上に設営する。
「歩荷(ぼっか)で疲れてるだろうから…」と珍しく殊勝な事を言って、設営場所の整地を引き受けてくれた「S隊員」に甘えて、拙者は早速ビールをキンキンに冷やす為、残雪の中に埋める。
ところが、スコップを使って掘った穴の中のビールに雪を被せていると、勢い余って…「一番絞り」の缶にぶつかってしまい、鯨の潮吹きの如く「ブシャー」と中身が吹き出してしまった(おーまいがっ)。
慌てて…吹き出した中身をシェラカップに移し、そのまんま…到着を祝って乾杯する事にした。
とんだ、ウェルカム・ドリンクだ。

夕食は、余市の「柿崎商店」で仕入れた海鮮魚介類だ。
●平目のお造り
●ばば貝(小型のホタテみたいな貝)の貝柱、紐、肝のお造り
●柳の舞の煮付け
●ホッケのつみれ汁
●ニシンの切り込み

歩荷(上記の食材を全部担ぎ上げた)と鋭い日射にヤラレ、天幕の中で暫く気絶している内に、「S隊員」が食担してくれた。
拙者は、平目の冊(さく)を刺身に引いただけだった。
明るい内に乾杯し、海鮮宴を開始する。
夏至が近いこの時期、日没は19時を過ぎている。ノンビリと夕食を採り、日没の夕焼けショーを待つ。
こんな…余裕のある時間は、山泊ならではだ。
この前日、札幌の「円山」でマイミク山ガール達と「夜景お好み焼き宴会」をしたばかりだったが、やはり…山は泊まりに限る。
天幕を張って、飯を食ったら…もう、何もしなくてもイイ。というのは、素晴らしい。
なんなら、山なんか登らず、何もしなくてもイイ。というのが最高なんだが…。
天幕の入口からは、残雪ストライプを纏った「羊蹄山」が見えている。
ゴロンと横になり、3本目のビールを空けながら、借景を楽しんだ。

翌朝、朝っぱらから何故かテンションの上がった「S隊員」が御来光に向かって…意味不明な奇声を上げる声で目覚めた。
拙者は、天幕から顔だけ出して、御来光はチラ見で済ませた。
昨晩の残りと、食べ忘れた「塩ホルモン」と缶ビールで朝食を済ませ、2時間程…陽向ぼっこしてから下山する。
一晩の宿を提供してくれた「ワイスホルン」に御礼を言い、「また、来ます」と再会を約束して幕営地を後にした。
下山は、見晴らしの良いゲレンデを「羊蹄山」を眺めながらの、ロング尻ボだ。
残雪に照り返された陽光の眩しさが、滑走した折に舞い上がったザラメ雪をキラキラと光らせていた。

おわり。

【写真1】ゲレンデ上部まで登行すると一面の残雪になった
【写真2】焼けた夕陽が日本海に沈んで行った。山で一番好きな時間だ。
【写真3】「羊蹄山父さん」「アンヌプリ母さん」「イワオヌプリ君」…の「ニセコファミリー」
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いやはや、寒い日が続いております。
新年を迎え…っていうか、今頃になって今年の初日記だ!
あ…今更だけど…
あけましておめでとうございます(遅っ)。

いやあ、なかなか…天候に恵まれず、ちゃんとした雪山には行けずイライラしておりました。
しかし、不安定だった天候もそろそろ落ち着き始めた…今日この頃、落ち着き始めた天候とは裏腹に、我が【尻】は急に落ち着きを失い「こうしてはおれんっ」と雪山を求めてモゾモゾと悩ましげに動き始めたので、未登のマイナーピーク「定山渓」さっぽろ湖湖畔に起つ「四つ峰」に出陣したのである。

この山、読んで字の如く「四つの峰」、つまり「四つの頂上」がある山らしい。英語で云えば…「four peaks」。仏語で云いたいが、知らないから云わない。
だが、どう記憶を紐解いても…二つぐらいしか思い出せ無い。
これは、久し振りの晴天雪山登山で興奮していたか、久し振りのラッセルで溜まった乳酸が脳細胞を破壊したか、頂上で呑んだ新発売のヱビスビール【薫り華やぐヱビス】(JOEL ROBUCHON)が余りにも美味すぎたせいか…

兎に角、久し振りの晴天にテンションが上がった我々は、本来なら登山口で2~3本煙草を吸いながらグダグダしているトコロを、一本だけにしてアプローチ林道に取り付いた。
本来ならば大嫌いな林道歩きも、拙者が率先してラッセルして進んで行く。
だが…やっぱり、つまらない林道歩きは10分で飽きてしまった。
地形図には載っていない林道分岐に差し掛かった我々は、事前に地形図を見ながら計画した…緩やかな尾根を無視し、攀じ登れそうな斜面を探して手近な尾根に取り付いた。

トドマツの張り付いた結構な勾配のある斜面を、先頭を交代した「S隊員」がジグを切りながら登って行く。
林道ラッセルで早くも乳酸が溜まってきた拙者は、コソコソとラッセル泥棒させて貰う。
とりあえず、尾根筋に上がり一回目の休憩を採る。
早くも眼下に「さっぽろ湖ダム」が見下ろせた。結構、高度は稼げたようだ。
地形図を覗き込み、修正した…この先の行程を検討する。
とりあえず…「四つ峰」の名前の元になった四つのピークを繋いで行こう。
先ずは、地形図上の「740ピーク」を目指す事にした。

阿吽の呼吸で、先頭ラッセルを交代しながら尾根を詰める。
いつもならば、各自が好き勝手な道筋を採るのだが、久し振りの本格的ラッセルなので、体力に自信の無い我々は交代制を導入する事にやぶさかでは無かった。
新雪脛ラッセル程度で、ヤラレてしまっては、どうしようも無いが…年明けから週末低気圧が連続し、二人共にマトモな山には行けてなかったノダ。

気温はー8℃。朝イチには快晴だった天空にも、西側から雪雲が流れ込み始めていた。
雲間からは、時折…雪をまとった特徴的な「神威岳」のアパッチ砦のような岩峰がのぞき、登坂に疲れた我々を癒やしてくれた。
「740ピーク」から稜線を伝い、幾つかの小ピークを繋ぎながら「四つ峰」本峰を目指す。
稜線に上がると、強烈な西風に迎えられた。
新雪が巻き上げられて、細かな飛沫となり雪面を疾走した。
本峰手前のコル(鞍部)を通過する時には、地吹雪のような烈風が我々を襲った。
登坂で体はポカポカと温まっていたが、外気に露出した顔が痛い。
前を歩いていた「S隊員」が立ち止まり…なにやら、モゾモゾとしている。
追いついて顔を覗き込むと、毛糸の帽子に挟み込んだタオルを顔の左半分にだけ垂らしていた。
その…如何にも不格好な、オシャレとは程遠い風貌を眺め、訝しく見ていると…
「こっち側だけ、風が当たって冷たいんだョ~」と、訊きもしないのに説明してくれた。

うむむむ…いや、気持ちは分からんではないが、こう…もう少し、なんと言うか…ビジュアル的になんとかならんもんか?
その…田舎町の電気屋か何かの名前の入った白いタオルも、オシャレさからは対局にある野暮ったさが、滲み出ていて…少なくとも、「ランドネ」には、そんな山ガールは載ってはいない筈だ。

コルを過ぎると烈風は、嘘みたいに弱まった。
どうやら、あの…コルは風の通り道だったようだ。
横殴りの烈風は収まったが、タオルの暖かさを気に入ったのか、「S隊員」は顔からタオルを取ろうとはしなかった。
気がつけば…タオルをほっかむりしている。
ほっかむり…って。
アンタは、こそ泥かっ!?
絶対に「ランドネ」には、タオルをほっかむりした山ガールは載っていないと断言出来る。

脛まであった新雪は、風に飛ばされるのか…踝(くるぶし)まで浅くなった。
緩やかな勾配を詰めると、立木の密生した見晴らしの無い「四つ峰」ピークに到着した。
頂上には、拙者が良く参考にする…【熟年者の登山】HPオーナーのオジサンが付けた、小さな山頂標識が細い立木に付けられていた。

因みに、HPはコチラ。
【熟年者の登山】
http://www.google.com/gwt/x?gl=JP&hl=ja-JP&u=http://www.ab.auone-net.jp/~nagai24/&client=ms-kddi-gws-jp&source=sg&q=%E7%86%9F%E5%B9%B4+%E7%99%BB%E5%B1%B1

64歳から山登りを始めた…御歳78歳の爺様だが、単独行で道内細かく登っているようだ。特に、札幌近郊の低山は網羅している。お気に入りは「藤野」「簾舞」あたりのようだ。
やたら、マイナーピークに頂上標識をつけているらしい。
兎に角、「北海道夏山ガイド」以上にアプローチやルートを詳しく書いていて(多分、執筆したいんだと思う)、ちょっとお節介過ぎるキライもあるが、役に立つ場合もある。
但し、なんというか…日本語のボキャブラリーに少々難があり、山用語の勘違いや誤変換(?)が数多く見受けられ、突っ込みドコロ満載で…読むのに疲れるノダ。

因みに、本物の「山ヤ」で、拙者が一番参考にしているのが…函館在住の「坂口(sakag)さん」のHPである。
この方は、凄いヒトなので…皆さんも参考にしてみては如何でしょう。
道内の殆どの山を、積雪期&無積雪期に関わらず登っておられるようだ。

【一人歩きの北海道山紀行】
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見晴らしの良く無い頂上の横には、西風を避けられる開けた東向き斜面があったので、腰掛けを作りランチにする。
最近は、少し…「山ご飯熱」も冷めてきたので、アルミ鍋で作れる安価な「鍋焼きうどん」にした。
ま、雪山では…そうノンビリとは「山ご飯」出来無いので、仕方ない。
しかし、この…168円の「鍋焼きうどん」が美味かった。
少し長めに煮込んでヤワくなり、出汁が染みたのを、ハフハフズルズルすると、体が温まった。
前日、我々は「京王プラザホテル」のランチ・ブュッフェ「grass seasons」に行っていたが…「こっちの方が、美味いよね~」と言う我々は、二人共に貧乏舌の持ち主ナノだろう。
複雑なレシピより…基本的に、焚き火であぶるのが一番だと思っているトコロがあるから、仕方ない。

新発売の「薫り華やぐヱビス」は、かの…三ツ星シェフ「ジョエル・ロブション氏」(誰だそれ?)監修の、ヨーロッパの麦とホップを使ったビールだ。
日本のビールには珍しい…薫り高きホップの風味が際立つ、女性にも飲み易いビールである。
出荷数量限定らしいので、お近くの酒屋へ急ぎたまえ。

ランチを済ませ、テルモスのカフェラテを温め直して、ノンビリしてから帰路に就く。
下りは、登り返しのある稜線ルートから外れ、送電線下の開けた雪田をトラバースして、取り付いた尾根を目指した。
ランチ中は曇っていた空も、陽が射し始めポカポカと暖かい。
稜線の東側には、送電線建設の為に人工的に刈り取られた場所以外に、日当たりが良い為に笹原になった場所が幾つかあり、開けた雪田が広がっていた。
春先には何度か全層雪崩が落ちたような斜面もあったし、滑落したら200m程落ちてしまいそうな…おっかない斜面もあった。
流石に、危険過ぎて尻ボをする気にはなれなかった。
フカフカの新雪をバフバフさせながら、740ピーク下の尾根に残した我々のトレースに辿り着いた。
上りに使った斜面は傾斜がユルく、この新雪では…尻は埋まってしまうだろう。
反対側の谷を覗き込むと…なかなか深い谷で、尻滑れそうだ。
だが、谷筋に落ちる斜面は雪崩が発生しやすく、降りてしまえば谷筋を下りるしかルートの採りようが無く、デブリ(雪崩の堆積物の堅い雪)に埋まっていたり、沢が流れていたり…と、余りオススメは出来無い。
斜面には、結構な大木も若木もあり、過去には大規模な雪崩は起きていないらしい。
新しく積もった雪が、少し弱層を作っていそうだが…ズレ落ちるような感触も無かった。
…ので、立木の少なそうな場所にドロップ・インしてみる。
雪が深く、傾斜の割にスピードは出ない。
恐らく、斜度は50度に近い急斜面であるが、新雪がブレーキとなり加速を妨げていた。
まるで、スローモーションのように斜面を滑り落ちて行く。
尻の摩擦に周りの新雪が巻き込まれ崩れ、尻ボのスピードと同じ速度で表層を流れ落ちて行く。

その様は、波に乗ったサーファーの如き。
はたまた、激流を流れ下るカヤックの如き。
或いは、雲に乗った「アルプスの少女ハイジ」の如き。

フカフカの新雪の浮遊感は、いわゆる…山人生のヨロコビbest10にランクインする程の気持ち良さだ。
踏まれた登山道の堅い雪面を滑り降りるのとは、比べものにならないぐらいの快感である。
だが、その快感は…他の快感と同じように刹那的である。
それ故に、再び同じ刹那を味わいたくて雪山に向かうのかも知れない。

おわり。