いやはや、年明けから立て続けに雪山山行が続いており、なかなか…ノンビリする暇の無い、「頑なにラッセル泥棒をしない登山家」の、もじょであります。
あ、雪山をやらない人は御存知無いかも知れませんが、「ラッセル泥棒」というのは、他人が付けたトレースを黙って拝借して、ラッセルをせず楽をして登る輩を指した言葉で、雪山界では忌み嫌われる行為ナノです。
もし、トレースを使った場合は「ラッセルご苦労様でした」「トレース拝借しました」的な仁義を切らないと…「世間知らず」「ド素人」「卑怯者」「愚か者」「ゆとり」などと蔑まれ軽蔑されるのであります(同じパーティー内は許されるし、交代するのが普通)。
ま、拙者だって…やむを得ず、仕方なく、いやいやながら、利用する事が無いワケでは無いのだが、出来得れば己自身でルートを切り開いて行きたいと思っておる。
だって、他人の付けたトレースの上を歩いて楽しいかぁ?
地図や地形を読みながら、自分で道を切り開いて行く事が雪山の最大の楽しみであり、醍醐味ナノだ。
誰かに用意された道を歩くなんて、そりゃあ夏山登山と変わらないでは無いか。
故に、雪山では…原則的に、自分自身でルート開拓をする事を信条としている。
更に言えば、上りに使った自分自身のトレースを下りで使う事もしたくない。
出来れば、上りとは違うルート採りで下りたい。
上りは、なるべく…キツい斜面を避け、安全かつ効率的なルートを作るが、下りは…尻滑り優先…というか、なるべく楽ちんなルートで下りたいノダ。
出来得る限り、直線的に、短距離で、コンビニに寄り道したりせずに下りたい。
或いは、上りに使った尾根とは違う尾根か、登山口に合流しやすい谷筋でもイイ。
ま、その為には…山を構造的に理解している必要があるし、地形図を半ば記憶している必要がある。
雪山をやり始めた頃は、時々…下りる尾根を間違えたり、尻滑りに夢中になり過ぎて谷筋に迷い込んで、にっちもさっちも行かなくなり登り返す失態を演じる事もあった。
そんな幾多の失敗を繰り返し、その内に…不思議な事に、地形を俯瞰的に捉えられるようになった。
尾根や谷が、どんな構造で伸びているか、ドローンで撮影してるみたいに俯瞰イメージで解るようになったノダ。
これは、地形図を見ただけでは駄目で、実際に地形を観察しながら歩く事で、その構造的特徴が理解出来るようになった。
同じ山に何度も何度も通っていると、地形を記憶してしまうようにもなった。
他の人がどうなのかは分からないが、拙者には…そう見えてしまうノダ。
さて、能書きは…このぐらいにして、「稲穂嶺」(いなほみね)のハナシだ。
前夜、「明日は何処へ行こうか?」と、ビールを飲みながら地形図をあれこれ見つつ検討していたが、行き先が決まらぬまま酔っ払ってしまい、「面倒くさいから、明日…起きた時間で決めよう。早起き出来たら、少し遠出して、寝坊したら手頃な手稲山にでも行こう」と考えて眠りに就いたワケだ。
一応、幾つか候補を思い描いてはいたが、「明日の事は、明日決めよう」という旅人時代からの癖というか、刹那主義的面倒くさがり屋の習性で、眠ってしまった。
大雪山縦走もこんな具合だから、そりゃあ…行き当たりばったり縦走になっちゃうわな…。
んで、翌朝…目覚めると、5時だった。
お♪こりゃあ、少し遠出出来るな。と、昨夜の候補から「稲穂嶺」を選んだワケだ。
「稲穂嶺」は、住所的には余市町になるのかな?
JRの「銀山駅」が最寄り駅になる。
いや、この山の場合…面白いのが、最寄り駅どころか、駅から直接取り付くという珍しい山なのだ。
駅の真裏がトドマツが植林された二次林で、駅のホームでスノーシューを履いてアプローチするという…有り得ない状況ナノだ。
勿論、夏道の無い山なので、厳密に言えば…登山口と駅が直結というワケでは無いのだが、なかなか…こんな山は無いだろう。
「〇〇山登山口」なんてバス停がたまにあるが、あれだって…バスを降りて何分かは登山口まで歩かなければならない。
しかし、この「稲穂嶺」は…「銀山駅下車徒歩0分」なのだ。
なんなら、汽車の中でスノーシューを履いて下車して、そのまま取り付いだって構わないノダ(怒られるわっ)。
前回来た時は、生憎…車で来てしまったので、本来的な特性を実感せぬままだったから、いつか「汽車→取り付き」をやってみたいと思っていた。
しばらく、汽車にも乗ってないし、雪景色の車窓も楽しみたい。
拙者は、そんなに鉄分が濃いほうでは無いが、汽車旅は大好きだ。
ナビゲーション・アプリで調べると、上手い具合に「銀山」着0855時という連絡が見つかった。
よしよし。いいぞぉ。
確か、「稲穂嶺」自体は3時間そこそこで登れる筈だから、いい感じで山頂でごくごくが出来るだろう。
地下鉄で「琴似」へ。
JR「琴似」から、乗り換え駅の「小樽」へ。
「銭函」あたりから海沿いを走る汽車の車窓からは、石狩湾の向こうに白銀の「増毛山塊」が見えた。
「濃昼岳(ごきびるだけ)」や「幌天狗」あたりの白い峰々が、朝日を浴びて輝いていた。
しかし、「小樽」が近付いてくると、空は雪雲に覆われ始め、「小樽駅」に降り立つ頃には、小雪が舞い始めてしまった。
うーん、やっぱり…この時期は、後志方面は雪雲が入り易いか…。
ま、仕方ない。ここ迄来て行き先を変更するのも面倒だ。
「小樽駅」から函館本線「長万部」行き二輌編成の鈍行に乗り換えたが、車内はニセコへ向かう観光客で一杯だった。
汽車は「余市」「仁木」を過ぎ、「銀山駅」へ到着した。
降車したのは、拙者だけだった。
待合室に荷物を置き、とりあえず…一服。
鄙(ひな)びた無人駅の周囲には、民家も殆ど無い。「銀山」の集落は国道5号線沿いに集まっていて、山裾の駅は…まるで、取り残されたように雪景色の中に静まり返っていた。
待合室に戻って、雪山の装具を整える。
ストックとスノーシューを携え、ホームへ。
誰も居ないと思ったら、三脚をセットしている撮り鉄のおじさん二人連れが居た。
どうやら、SLニセコ号の撮影に来ているようだ。
「お兄さん、これから山に登んのかい?」と声を掛けられた。
「何て山だい?」
「稲穂嶺です」
「どんぐらい掛かんの?」
「3時間ぐらいですかねぇ」
「一人で?」
「はぁ」
「この山は羆出るから、気をつけてな」
どうやら、SLが来るまで暇を持て余しているようだ。
「羆は今時期、冬籠もりしてますよ」とは言わずに、「はぁ」とだけ答えて、ホームの端でスノーシューを装着する。
さて、ホームの後ろは、所謂…法面になっていて、いきなりの急傾斜だ。
ま、2~3回ジグを切ればやれるだろう。
雪の中に踏み込むと、いきなり…膝まで埋もれた。
こちらは、昨夜来…新雪が積もったようだ。
うむむむ、またしても厳しい勝負になりそうだ。
息を荒げて法面を攀じる。
もし、今…ホームに汽車が入って来て、車内の乗客が拙者を見たら何と思うか…。
「あのヒトは、駅の裏で一体何をしておるのか?きっと、他人には言えない複雑な事情があるのだろう。可哀想に。まだ、若いのに…」と、落涙と嗚咽に声を詰まらせる事だろう。
だが、幸運な事に辺りには誰も居ない。先程の撮り鉄は、カメラのセッティングに忙しい。
ゼエゼエ言いながら、二次林の中に踏み込む。
確か…この上に、林道があった筈だ。
林道に乗ると、何日か前のシッカリしたトレースが残っていた。
幅から推測すると、山スキーのようだ。
今日入った形跡は無い。
流儀に反するが、退屈な林道歩きの場合は、トレースを利用させて貰う。
暫く進むと、林道は二股になる。
目の前の尾根は、前回取り付いた尾根で数年前と比べて、かなり灌木が増えていて、取り付く場所が見当たらなかった。
地形図を見ると、左手の林道を更に進んだ先に比較的緩やかな尾根があり、恐らく一般的な冬ルートはそこに刻まれている筈だ。林道のトレースも、そちらに向かっている。
しかし、その尾根の取り付きまで、まだ20分近く林道を歩かねばならないようで、「早くラッセルしたいしたい病」に侵された拙者には我慢出来そうに無い。
何処か取り付く場所は無いかと100m程進むと、右手に立木の少ない谷筋が見えた。
古いスキーのシュプール跡も残っている。
地形図で見ると、前回登った尾根に合流する枝尾根らしい。
見上げた斜面はかなり急だが、大きめにジグを切れば、なんとか尾根に乗れそうだ。
よしっ。頑張ってみよう。
膝上ラッセルで10m進んでは折り返し、10m進んでは折り返しを5回程して枝尾根に乗った。
一気に汗が吹き出した。
枝尾根上は意外に灌木が多い。登れそうなルートを見上げた尾根に探すが、尾根幅は狭く、どのルートにも灌木や立木の障害がある。
うーん、なかなかの難問だな。
その時、下の方で声がした。振り返ると、林道に山スキーの三人パーティーが居た。
彼らは…拙者の取り付いたトレースあたりで一旦止まって、再び進み始めた。
「おい、こんなトコに取り付いてる変態が居るぞ」
「なんで、こんな大変なルートを選んだんだろ?」
「多分、他人に言えない複雑な事情があるんだろう。可哀想に」などと話しているのだろう。
るせーるせー、ほっとけっ。
悔しかったら、同じトコ登ってみやがれっ。
山スキーには、そんな細かいジグは切れないだろう。灌木の隙間を縫うようなルート採りは出来無いだろう。
山スキーには山スキーの、スノーシューにはスノーシューのルート採りがあるのだ。
拙者には、このやり方が面白いだけで、正解など無いだけだ。
急峻な尾根上をジリジリと高度を上げる。
30cm程の新雪の下には、良く締まった雪があり、ラッセルの深さの割に着実に前進出来て、難しいトラバースも不安は無い。
1時間半ほどラッセルを楽しんで、稜線に上がると…一気に視界が開けた。
広大な雪原が稜線上に広がっている。
所々にダケカンバの巨木が立つが、まるで…スキー場のゲレンデのようだ。
現に、山スキーとBCボーダーの2パーティーが上がって来ていた。
この山は、滑る為の山のようだ。
山頂へ向かう稜線にトレースは無く、登山目的は拙者だけのようだ。
稜線に上がると北西風が強くなり、雪も降り始めたのでブッシュハットを脱いで、フードを被った。
緩傾斜の広い稜線を山頂へ向かう。
のっぺりとした山頂には、僅かな立木しか無く、晴れていれば見晴らしは最高な筈だった。
北西風を避けて、本来なら「羊蹄山」が見える筈の東南側に回り込み昼食にしよう。
いつものように、雪面に溝を掘り、風避けに切り出したブロックを風上側に1m程積み上げる。
フリースとダウンを着込んで、さてさて…と、お湯を沸かそうと思ったが…
無い無い無い無い無い無い!
ガスボンベが無いっ!
バーナーは有るが、肝心の燃料が無いっ!
あちゃー、やってしまった。
何たる不覚。
単独の場合、こ~ゆ~時に困ってしまう。
相棒かパーティーメンバーが居れば、なんとかなるもんだが…一人だと、どうしようも無い。
焚き火をしようにも、周りには木も無い。
仕方なく、ヱビスビールを開けて渇いた喉に流し込む。
ち、ち、ちべたいっ。
ダメだ、温かい食べ物も無いのに、ビールだけでは辛過ぎる。
仕方なく、テルモスのカフェオレを飲み、行動食を頬張った。
ま、この天気だから、長居も出来無いから大人しく下山しよう。
下山は北西側の前回登った尾根を下る事にした。
山頂の北西側は立木の無い一枚バーンが開けていて、尻滑りにはもってこいな斜面だった。
生尻で滑り落ちながら、今度は晴れた日にご馳走を持って来て、ゆっくり楽しもう…と、リベンジを誓うのだった。
おわり。
【写真1】銀山駅のホームから取り付くノダ
【写真2】山頂稜線は広大な雪原が広がっている
【写真3】ボンベを忘れて途方に暮れるもじょ








