いやはや…なかなか雪山モチベーションが上がらず、怠惰な生活に甘んじて、ごくごくが過ぎて猛省の日々を過ごす…お馴染み「頑なに登山道を歩かない登山家」のもじょで御座りまする。

昨年は、毎週のように吹雪かれても雪山に通っていたのに、今年は何故だかモチベーションが上がらない。
別に雪山に飽きたワケでも無く、ラッセルに疲れたワケでも無い。
ただ、なんとなく…やる気が起こらないだけで、そういう時期って誰にもあるのではないか?
倦怠期というか、ちょっと距離を置きたい感じ?
別に理由は無いけれど、なんとなく…な感じ。

モチベーションを上げる為には、SNSやブログで他の人の山行報告を見たり、雑誌の雪山特集を読んだりすべきなんだろうが、拙者のようなスタイルで低山バリエーションをやってるヒトも居らず、インスパイアされる事も少ない。
そも、山頂を目的としない山行自体が、極めて邪道であり、変態チックなので仕方ないかも知れない。
ならば、拙者が雪山に求めるものは何なのか?について暫し考えてみた。

一般的に山行目的地を決める時には、ガイドブック等を参考にする場合が多いだろうが、拙者が山に行く時は地形図に頼る事が多い。
地形図を詳細に読み解き、面白そうな地形や、見晴らしの良さそうな場所に興味が向かう。
例えば…なだらかで広い尾根や、見晴らし良さげな稜線、複雑に入り組んだ枝尾根や、そこに挟まれた谷からコルに繋がる源頭地形。
結氷している筈の夏は行けない沼や、一般ルートから外れたマニアックなアプローチが出来る場所。
造山過程に於いて興味深い特徴的地形のある場所や、誰も興味を示さないような記録の無い無名峰。…等々である。

山頂が目的で無いから、折り返し地点はランチをした場所か、時間切れ体力切れか、ココロ折れた地点になる。
或いは、良さげな尻ボ斜面を見つけた場合は、その周辺で折り返す事も良くある。
一応、地形図を見て事前に大体の計画を立てるが、気になる場所を見つけたら、その場所をチェックせずにはおれないから、その場で行き先を変更したりもする。

そんな地形図だが、発行元の国土地理院には悪いが、現場の地形とは全く違う場合もあり、全面的に信用しているワケでは無い。
現場に行ってみたら、地形図には無い尾根があったり、沢があったり、崖や岩峰があったりする事は決して珍しくは無い。
無積雪期に撮影された航空写真を元に作成される地形図には、樹木に隠された岩尾根や岩峰が写らない場合もあり、作図段階で見落とされる事もしばしば起こるようだ。
ま、そんな細かい事を気にする質(たち)では無いし、現場の地形を観察しながら登行ルートを選択するので、地形図はあくまでも目安程度に考えている。

この日、登行していた痩せた岩尾根も、地形図には載っていなかった。
場所は、昨年歩いて途中撤退した…小金湯温泉近くの、「神威岳」から南側に連なる尾根の末端だった。
昨年登行した尾根は、等高線を一本見逃していた為、大変な急登を攀じる失敗を犯したので、今回は別の枝尾根に取り付いたワケだが、地形図で登行可能とみた尾根は、どんどん痩せて行き、終いにはスノーシューでは到底歩けない岩尾根になってしまったノダ。
尾根の東側は、50m程の懸崖になっており、雪も殆ど付いておらず仕方なく回り込んだ西側斜面も60度を超えた急斜面だった。
立木が密に生えているから、落ちても引っ掛かるだろうが、トラバースするのは緊張を強いられた。
こんな事なら、左手の沢形を詰めて、源頭地形からコルに乗ったほうが楽だったかも知れない。
遅々として進まない登行に嫌気がさして来た頃、やっとのことでなだらかな場所に辿り着いた。
枝尾根の合流点で、昨年下降に使った小ピークからは、眼下に砥山ダムや小金湯温泉が見え、「八剣山」や遠くには「藤野富」が見えていた。

「百松橋」を渡って、林道に取り付いてから2時間が経っていたが、眼下にはまだ「百松橋」が見えていた。
水平距離にして、僅か500mにも満たない距離に2時間もかかってしまった事になる。
快晴だった昨日の天候のせいで、雪面はガリガリにサンクラストしており、所謂…「最中雪」というヤツで、その下は先週の積雪の柔い雪が1m程も積もっていて、再び股(もも)ラッセルの厳しい戦いが続いていた。

こないだの「阿部山」股ラッセル山行から2週間程雪山をサボってしまったので、体がなまっていたのもあるが、最大の失敗は…この枝尾根が地形図とは全く違う、懸崖に挟まれた岩尾根だった事にあった。
地形図で見る限り、決して攀じれない斜度ではなかったし、前回よりも緩やかな尾根を選んだ積もりだったのに、この様だ。
こんなに鋭い尾根は、地形図の何処を探しても見当たらない。
取り付き尾根を間違ったか?とも思ったが、周辺にも…こんな懸崖表記は見当たらない。
明らかに…地形図の表記が現場とは違い過ぎるノダ。
荒い呼吸を整えながら、何度も地形図を確認したが、林道湾曲部から取り付いた尾根は間違えようが無いぐらい判り易かった。

やっとのことで主尾根に乗れたから、これからの行程は幾らか楽になるだろうが、またしても960Pへは届かないかも知れない。
ま、そのピークへのこだわりは無いが、そのピークまで上がれば「神威岳」や「烏帽子岳」、更に南側の「定山渓天狗岳」が見える筈だったし、960Pから連なる緩傾斜の稜線歩きも気持ち良さそうだった。

テルモスのコーヒーと「三方六」の端っこ(まだある)で補給して、昨年上がってきた枝尾根合流点を過ぎた時だった。
ふと何気なくみたスノーシューに異変を感じた。
スノーシューの先端が、異様にしなっていたノダ。
ん?何か変だ。
良く見ると、モノコックの本体と、裏の縦歯を繋いでいるビスが無くなっていた。
そのせいで、先端が雪面に踏み込んだ際にしなって、大きく反り返ってしまっていた。
折れ曲がった根元の本体部分には、圧力がかかり白っぽく変色し、皺がよっていた。
今日は、何度か踏みつけ固めた筈のステップが滑って、何度かずっこけそうになっていた。
その原因が、ビスの欠落だったノダ。

うむむむ、このまま登行を続けたら、先端部分が折れてしまうかも知れない。
とりあえず、応急補修してみよう。
ザックの中の「お助け袋」から細引きを取り出し、欠落したビスの穴と本体の穴を繋げて括ってみた。
しかし、素手になって作業しても、ものの数分で手がかじかんでしまい、キツく結べない。
んにゃろー!
こ~ゆ~時、結束バンドがあると便利なのになぁ。
今度から、「お助け袋」に結束バンドを何本か入れておこう。
とりあえず、応急補修は済ませたが、ちゃんと補修するには…ボルトとナットでガッチリ締め付けなければならないだろう。帰り道に「藤野」のホーマックに寄って行こう。

時計を見ると、まだ11時だったが…今日は無理をしないほうが良いだろう。
潔く撤退し、小金湯温泉「まつの湯」で昼飯食って、ノンビリして帰ろう。
昨年、取り付きに使った沢形に下りるコルから、尻ボでドロップインする。
日陰の谷筋はサンクラストしておらず、フワフワ雪で表層雪崩と共に尻ボった。
2時間半掛けて登った高度だが、下山は僅か10分だった。
この儚さが堪らない。
林道に下りると、トボトボと歩いて「百松橋」に戻って、国道を「小金湯」に向かう。

久し振りに「まつの湯」に来たが、土曜日の昼間なのに露天風呂は貸し切り状態だった。
もう一軒の「小金湯」のほうは混み合っていそうだが、拙者は…昭和チックな「まつの湯」がお気に入りだ。
昼飯は「ザンギ定食」に「ラクヨウのみぞれ和え」をプラスして、「クラシック」の生ビールと共に。
帰宅してから、スノーシューをボルト(ネジ)とナットで補修し、恵方巻きを食べて、爆睡した。

今回…再挑戦した960Pだが、なかなか稜線には辿り着けない。
そういえば、アプローチ林道には一週間前ぐらいに付いたと思われる一人分のスノーシューのトレースがあったが、トレースの主は何処へ向かったのだろう?
林道自体は行き止まりになっているが、バリエーション・ルートで「神威岳」を目指したのだろうか…。

960Pには、もう少し雪が落ち着いてから、再々チャレンジしてみよう。
そろそろ、雪山泊(イグルー)もしたいし、久し振りに「空沼」にも行きたい。
泊まりなら、橇にザックを積んで行ってみよう。
色んな雪山妄想が膨らんでくると、自然とモチベーションが上がって来た。
モチベーションを上げるには、妄想が一番かも知れない。

おわり。

【写真】百松橋(神威岳に向かう百松林道に掛かる橋が崩落の危険性がある為、橋には通行止めの看板があった)
【写真】スノーシューを補修
【写真】見かけはダサいが、最強。防寒テムレス。



いやはや、新年あけましておめでとう御座りまする。
本年も頑なに山頂に立たない事を誓い…と言いたいトコロですが、新年一発目から図らずも、山頂を踏んでしまい悔恨に苛まれ、つい…ごくごくしてしまった、もじょでごさいます。

年末休暇は怠惰に過ごし、年明け後もモチベーションが上がらず、やっと新年一発目の雪山へ出陣を果たすも、足馴らしの積もりが、何をトチ狂ったか…腿ラッセル4時間という苦闘を選んでしまったオノレの馬鹿さ加減に、うろたえるばかりナノであります。
しかも、行き先は年末オープン戦に選んだ同じ「阿部山」だ。
堅く踏み固められた一般ルートを使えば、1時間半程で辿り着いてしまう「阿部山」如きに、何故4時間も掛かったか?その原因を究明する為にも、恥を忍んで…此処に筆を取った次第である。

快晴の土曜日、午前7時前に目覚めた筈だが、家を出たのは9時過ぎだった。
一体2時間も何をしていたのか?我ながら不思議である。
朝飯を食べたアト、ゴロンとしたのもマズかったし、朝ドラを見たのもマズかった。
パッキングを済ませた後に、一服したのもマズかったし、その後にチャイを飲みながら「にじいろジーン」の飯豊まりえを見て「顔ちっちゃ」と思ったのもマズかった。

その後も…玄関を出た後、合羽のズボンを忘れて引き返したのもマズかったし、近所のコンビニで「キュートレモン」か「コカ・コーラ」どっちにするかを迷ったのもマズかった。
JRバスの終点「平和の滝入口」に下車した時も、快晴の空に浮かび上がる手稲山「永峰尾根」に浮気ゴコロを見せて、暫く眺めてしまったのもマズかった。
「平和霊園」入口から、スノーシューを履いて、今朝方着けたと思われる先行者のトレースに助けられ、林道に取り付いたものの、最初の徒渉部のスノーブリッジを補強する為に、アチコチから雪を集めたり、川の水を掛けたりして、必要以上に堅牢なスノーブリッジを作ったのもマズかった。

10時を過ぎた時間から取り付けるルートは限られる。
「今日は、遅くなったからテキトーに散策して、ごくごくして帰るかぁ」という心積もりで、昨年末に歩いた「阿部山」バリエーション・ルートに取り付いたまでは良かった。
金曜日昼間に降った雪は、気温(ー7℃)の割に重く、いきなりの脛ラッセルに荒い息を吐きながら、ひと汗かいて辿り着いたCo350のポコで、「三方六」の端っことコーヒーで休憩しながら、地形図を取り出して眺めてしまったのが、一番マズかった。

前回来た時に、下降に使えないか?と考えた沢筋がずっと気になっていたノダ。
地形図には、行き止まりの林道表記があり、それも気になっていた。
林道の取り付き部は、沢に浸食されて崩落していて面影は見当たらないが、伐採用作業林道だった筈だ。
この高度を保ったままトラバースして行けば、沢筋と林道にぶつかるだろう。
ちょっとだけ様子を見に行ってみるかぁ。
軽い気持ちで出発すると、100mも行かない内に、それらしき沢形に突き当たった。
見上げた尾根は、冬の一般ルートがある「阿部山」の主尾根で、かなり勾配があり乗れそうな場所は無い。
沢の中は、ほぼ積雪に埋まっているが、所々に水流が覗いている。
沢形の上流を観察すると、V字谷の向こうに稜線に向かって伸び上がる源頭地形が見える。
日当たりのせいか、大きな木も灌木も見えず雪田が広がっているように見える。
足元には、確かに造成されたような跡があり、4m程の幅員が谷奥に続いていた。

ここで、林道跡と沢形の確認で引き返していれば、何も問題は無かったノダ。
だが、頑なに登山道を歩かない登山家の血がメラメラと燃え上がってしまったノダ。
この林道の突き当たりは、どうなっておるのだ?
沢形は、山頂直下の雪田に繋がっておるのだろうか?
そう考え出すと、自らの目で確認せねば我慢出来無くなってしまう。
沢形に沿って歩き出すと、林道跡は狭まった沢形に吸い込まれるように雪の中に消えていた。
周囲の植生を観察すると、広葉樹ばかりで伐採対象の蝦夷松や、植林された椴松の姿が全く見受けられなかった。
「阿部山」自体は、主尾根や「宮城の沢」沿いに椴松や落葉松(カラマツ)の二次林があるように伐採後に植林された痕跡が残っているが、この沢形には植林の痕跡は見当たらない。
傾斜がキツく日当たりが悪い谷だから、植林されなかったのかも知れない。

林道跡が途切れた先に、渓が急激に狭まった箇所があり、その向こう側は開けているようだ。
もう少しだけ進んでみるか…。
恐らく…無積雪期には2m程の小滝があると思われるギャップを苦労して越えると、すり鉢状になった源頭地形が目の前に現れた。
殆ど立木が無い源頭地形は、両側に100m近い懸崖に挟まれ、斜度を増しながらせり上がって碧空へ伸び上がっていた。

なんだ?この居心地の良さは?
圧迫感を感じてもおかしくない地形だが、まるで…胎内にいるかのような安心感もある。
すり鉢状の斜面は、まるで…劇場のステージに立っているような高揚感をもたらし、変な居心地の良さを感じる。
春の山菜や、秋のキノコ探索にも沢を良く利用し、源頭地形からコルへ上がる事が多いが、拙者は…基本的に源頭地形が好きナノだろう。
昨年秋の東大雪縦走で下山に使った「ユニ石狩ルート」も、「由仁石狩川」の源頭部から下降するルートだったように、知らず知らずの内に、源頭地形に惹き付けられてしまうのかも知れない。
山間部に降った雨が、集まり流れを作り出す源頭部は、何かしら…根源的な人間の本能に訴えかける求心力があるのかも知れない。
或いは、拙者の前世が羆だったかも知れん。
こういう明るい草付きの斜面を羆は好むし、痕跡を良く見かける。

気分が良くなった拙者は、探索の事など忘れて、源頭地形の雪田を登坂し始めた。
しかし、その行程は上気した気分には反して、困難を極めた。
尾根筋を越えた風が運んだ雪が吹き溜まるのか、積雪量が倍化したノダ。
脛~膝ラッセルだったそれが、腿ラッセルになった。
前日の日中に降った雪だからか、気温(ー7℃)の割に重く、3週間のブランクのある拙者には余りにも厳し過ぎた。
途端に呼吸は荒くなり、汗が髪を濡らした。
避けるべき灌木も無いので、源頭地形の底を直登するが、遅々として進まない。
ただ黙々と、黙々と…何も考えず、ラッセルを続ける。
その内、アタマの中から変な液が出始めたのか、喘いでいる自分が面白くなり始めた。
これは…久し振りの感覚だ。
下界の煩わしい日常から乖離し始めた感覚は、どんどん無心に近付いて行く。
静まり返った純白の雪山に、雪を掻き分ける音と呼吸音だけが響く。

ルートを切っている沢形の底には、斜面を転がり落ちてきたスノーボールが幾つも溜まっていて、その上に乗ると、堅い感触がありガリっと音がして急に沈まなくなる事がある。
その瞬間だけ、不安定だった足元が安定してひと息つけるノダ。
源頭地形は、やがて斜度を増し始め直登の限界がやってきた。
スノーシューのヒール・リフター(登坂を楽にする為に踵を上げる装置)を上げて、ジグを切る事にする。
しかし、ラッセルが楽になるワケでは無い。
傾斜地を斜行するには、山側の足を、谷側の足より高く上げなければならない。
更に、踏み出した足元の雪が崩れないよう、ステップを踏み固め無いとバランスを崩して落ちる事になる。
移動距離も伸びるし、手間も作業量も増える。
ジグを切るのに切り返す度に、荒れた呼吸を整える為に小休止を挟む。
50mを進むのに、15分近く掛かるノダ。

見上げた源頭地形の上には、左から延びた尾根筋の向こうに空が見え始めたが、全く進まない。
いっそ、このままトラバースして尾根筋に乗ろうかとも思ったが、半ば意地になってきて、進路を上方にとる。
沢筋に入ってから2時間近く経過し、乳酸が溜まり始めて膝が上がらなくなってきた。
かと言って、ここで引き返すのも癪だ。
上方の尾根までは、残り50mも無いが全く近付けない。
ハァハァハァハァハァ…
勘弁してくれ~ぃ!

やっとの思いで尾根に乗ると、先程までの腿ラッセルが嘘のように沈み込まなくなった。
潜っても、せいぜい脛だ。
風抜けの良い尾根筋は、積もった雪も飛ばされてしまうからだろう。
雪山のセオリーとして、尾根筋を登行するのは…現在地同定し易く、迷わない為だけでは無い。
今迄は、当たり前のように尾根筋を使って登っており、何の疑問も感じなかったが、積雪量とラッセルの作業量に雲泥の差がある事を身を持って学ぶ事が出来た。
勿論、雪崩のリスクも谷筋は倍化するのは、言うまでも無い。

さて、山頂は目の前だが、下降はどのルートを使おうか?
フルラッセル(腿)4時間の対価は、安くなかった。溜まりまくった乳酸のせいで、幾分楽な筈の下山用ラッセルですら簡単に済みそうに思えない。
日没まで1時間少々だし、大人しく冬季一般ルートの主尾根を下りよう。
そう決めると、残り50mを山頂に詰め上がった。
山頂には、今日付けられた真新しいトレースが幾つも残っていたが、登山者の姿は無かった。
そこで、ふと気がついた。
山頂を踏んでしまった事を。
あちゃーと思わず、口走ってしまいましたね。
下降の事と、今夜のごくごくの事しか考えてなかったから、下降する主尾根が山頂を経由する事を失念していたノダ。
ま、踏んでしまったからには仕方ない。
もしかしたら、今年は案外…山頂に立つ機会が増えるのかも知れない。
今更…山行スタイルを変える積もりは無いが、山頂を踏まない事に拘泥する余り、山行の自由度を狭めるならば、そんなこだわりは…忘れてしまった方が良い。
自身を束縛するのは、外的要因ばかりでは無い事は自明だ。
しかし、ラッセルのやり過ぎは、自由度を阻害する原因になり得る事を、今回学んだ。
ラッセルもほどほどに…だな。

いつの間にか上空を覆っていた雲からは、細雪が舞い始めていた。
堅く踏み固められたトレースを、発寒川に向かって下降し始めた。

おわり。

【写真1】徒渉部スノーブリッジを補強した
【写真2】源頭地形を詰め上がる
【写真3】結構な勾配の中、厳しいラッセルが続いた



いやはや、札幌は連日真冬日が続くものの、なかなか積雪量は増えず、「早くラッセルしたいしたい病」に侵された身には、焦らしプレーに身悶えするしか無い日々を送っていたが、流石に辛抱堪らずに…少々フライング気味に雪山へ出陣した。

例年、本格的な雪山登山は、雪が落ち着くのが(降雪が締まり歩き易くなる)年明けぐらいナノで、怠惰なひきこもり生活を甘受しつつ、ゴクゴクしつつ、雪山妄想を膨らませていたが、考えたら…キノコシーズンが終わってから、マトモに山を歩いていないノダ。
通年山に通っている身には、この積雪量待ちの1ヶ月程が一年の内で、唯一の休息期間ナノだ。
しかし、遠望する山々は早々に雪化粧し、ウズウズを引きずったままの1ヶ月程は精神衛生上良い筈は無い。
そこで、苦労を承知で本格的開幕前の…つまり、プロ野球で言うトコロの「オープン戦」的な心積もりで、雪山を目指した。
「オープン戦」だから、本気のラッセルというより、来るべき開幕戦へ向けての予行演習的な、3イニングぐらいを8割ぐらいの力で投げつつ、変化球の曲がりや、フォームの最終調整をするぐらいの気持ちという事だ。

オープン戦の舞台は、近場の「手稲山」方面にしたが、一般ルートを歩いても面白く無いので、昨年歩いた「宮城の沢」アプローチの「阿部山球場」にした。
いや、球場じゃ無かった。「阿部山」だな。
勿論、「発寒川」からのオーソドックス・ルートでは無く、バリエーション・ルートだ。

午前10時半。「宮城の沢林道」入口に到着。
装具を整え、アプローチ林道を進む。林道には、シッカリとしたトレースが残っている。
実は、先週…この同じルートに挑戦していたノダ。
しかし、オープン戦という事もあり、「軽く様子をみてみよう」的な心構えで行った為、1時間半程の膝ラッセルで簡単にココロ折れ、序盤で引き返していたノダ。
しかし、今日は…せめて、打者2巡ぐらいは投げておきたい。
得意の決め球「カットボール」の曲がり具合も確認しておきたい。
なんなら、アリゾナ・キャンプで習得した2シームも試しておきたい(何のハナシをしとんねんっ)。

「宮城の沢林道」を進むと、最初の徒渉部に到着。
「この橋渡るな」(札幌市)の看板がある…通称「一休さんのトンチ橋」には、鉄骨剥き出しの橋梁の上に踏み跡があったので、後続者の為に人工的なスノーブリッジを先週制作しておいた。
周りから雪をかき集めて、飛び石を繋ぐようにブリッジを作って、踏み固めておいた。
今週は殆ど降雪が無かったので、ブリッジは殆ど成長していなかったが、ギリギリ渡れる感じだ。
開拓期の蝦夷地では、冬季に…木の枝などを芯に雪を乗せたり、水をかけて凍らせた「氷橋」(雪橋)なるものを川に掛けて使ったそうだ。
頑丈に作れば、馬橇でも通過出来たらしい。
次回、時間がある時にでも、徒渉用に作ってみようと思う。
この林道は、「百松沢山」へのアプローチ林道でもあるし、近所の散歩のジジイ達も歩いてる。勿論、拙者も何度も利用するので、ちゃんとした徒渉橋が必要ナノだ。

林道を更に進み、右手からの枝沢合流点から取り付く。
地形図には、行き止まりの林道の表記があるが、痕跡は見受けられない。
先週来た時のトレースが、まんま残っていたので利用する。
他人が残したトレースじゃ無いから、主義には反しないだろう。
自分の作ったトレースだから、「なんで、こんなトコを通るかなぁ?」というような事も無い。
正に、ドンピシャなルート取りだ。
先週引き返した場所には、風除けブロック塀と椅子が残っていたので、テルモスのコーヒーを飲んで一服する。

さて、これから先はトレースも無いし、急登が待ち受けているので気合いを入れねばならない。
このルートには、古いマーカーが残されている。
マーカーと言っても、経年劣化で退色した白いビニール紐だが、昔から…このバリエーション・ルートが使われていた証拠だ。
現在は「発寒川」側からの主尾根ルートが一般的らしいが、この尾根ルートが頻繁に使われなかったのは、傾斜が急なのと、灌木が多いからだと容易に想像出来る。
ま、ヒト言で言えば…マニアック過ぎるノダ。
このルートを使った先人は、拙者と同類の変態だったに違いない。
今朝方の新雪が5cm程積もっているが、その下層の雪も締まっておらず、体重をかけると…ズブズブと膝まで潜ってしまう。
…ので、全く進まない。
オマケに、倒木の周りは隙間が多く、落とし穴みたく…スカッと股まで埋まってしまう。
…ので、大変疲れる。
地味でキツい、孤独なラッセルが続く。
Co550あたりから、本格的な急登が始まる。細かいジグを切りながら、灌木の隙間をすり抜け、ジワジワと高度を稼ぐ。
振り返ると、灌木の隙間から「平和」あたりの住宅街が見下ろせるようになった。
左手には「百松沢」北峰が見え始めた。
小一時間しんどいラッセルが続き、やっとの事で尾根に乗った。
「阿部山」の山頂が見えるが、この先には更にもう一つ急登が待ち受けている。
大した標高でも無いのに、なかなか厳しい登行が続く。

基本的に、この辺りの山は火山だったので、山体は溶岩が冷え固まった安山岩を基礎とした岩山ナノだ。
その山体を雨が浸食し削り、「発寒川」「宮城の沢川」という深い渓谷が更に谷を削って懸崖を作り上げた。
なかなか一筋縄にはいかない山域ナノだ。
だからこそ、面白いのかも知れない。

やっとの事で、吊り尾根の肩に乗って、なだらかな稜線が山頂に向かっていた。
しかし、日当たりが良いせいで灌木だらけで、歩けそうに無い。
右手に取り付いた沢の源頭地形があり、灌木の無い雪田が広がっているが、雪崩そうでトラバースするのも気持ち悪い。
仕方無く、灌木を避け左手に大きく迂回して山頂に向かう。

雪山入門の低山で人気の「阿部山」山頂だが、誰も居なかった(当たり前だ)。
「発寒川」からの主尾根ルートにもトレースは無く、左手の「峰越山」からの古いトレースが一つ残っているだけだった。
山頂は風があったので、写真だけ撮って、風の当たらない場所で休憩する。
源頭地形の上部に市内展望が開けたテラスがあり、風上側に雪庇があって風除けになるので、そこに椅子を作り、ウレタンマットを敷いた。
素早くインナーダウンを着込んで、テルモスの熱いコーヒーで体を温める。
気温は、ー3℃ぐらい。
厳冬期に比べたら、まだ暖かいがノンビリ過ごせる程では無い。
一応、昼食のカップラーメンも持って来たが、さほど空腹感も無いので、十勝の相方ん家に遊びに行った時に…大嫌いな行列に並んで買った「三方六」の端っこ(バウムクーヘンね)を、熱いコーヒーで流し込む。
うーん、甘いっ。
ラッセルに疲れた雪山で食う分にはイイが、なかなか…下界で食うには厳しい甘さだ。
でも、この…こびりついたホワイトチョコみたいな部分は、美味いナ。

さて、日没までアト…2時間ぐらいだ。どのルートで下りようか?
冬至が近いこの時期、午後4時には暗くなり始める。日帰り山行には難しい時期ナノだ。
雪雲の向こうに微かに見える太陽も、既に「百松沢」の稜線に近付いている。
目の前の源頭地形から、沢形を下りるのが手っ取り早いが、雪山の谷筋を歩くのは、余り気持ちの良いものでは無い。
雪が締まって無いから、踏み抜いてボッチャンすんのも嫌だし…
右手の「宮城の沢」に向かって下りても、林道途中に徒渉部があり面倒くさい。
仕方ない。上がってきた尾根を大人しく下りるかぁ。

オープン戦ナノで、今日は尻ボも持って来ていない。
そういえば、先週…来た時に、「宮城の沢林道」に不思議なトレースがあった。
所謂…子供用のソリのトレースが、林道に残っていたのだ。
林道入口には、車が一台停まっていて、誰かが入山していたノダ。
恐らく…アレは、泊まり装備のデカザックをソリに載せて引っ張って運搬したのだと思う。
何故なら、拙者も昔…考えた事があったノダ。
まだ、本格的に雪山をやり始める前、残雪期の春山に通っていた頃、20kgオーバーのデカザックにヤラレながら…「こいつを、ソリに載せて引っ張って歩けないものだろうか?」と考えていた。
そのヒントは、マッキンリー(現デナリ)で行方を断った世界的冒険家の「植村直己」が、単独行で荷物をソリに載せて運搬していたのを、その著書で読んだからだった。
確か、その時は…ロープでは無く、プラスチック(カーボンかな?)の長いパイプで引っ張っていた筈だ。
その長いパイプは、同時にクレバスへの落下防止対策でもあった。

確かに、荷物を背負ってラッセルするより、摩擦係数の低い雪の上を引きずった方が、労力は半減するだろう。
但し、平らな場所なら、その効力を発揮するだろうが、トラバースやジグを切らねばならないような急斜面では、逆に負担になるだろう(そん時は、背負うしかないな)。
結局、その考えを実践する事は無く、今に至ったワケだが…

そのトレースを発見した時、「世の中には面白い事を考え、実践するヤツがいるもんだ」と感心するだけでは無く、「拙者も一度試してみよう」と直ぐさま思い至った次第だ。
上手くやれば、下山はソリに乗って楽々♪となりそうだが、尻ボ以上にコントロールが利かなさそうで、大変面白そうだ。
振り落とされて、ソリだけ谷底に落ちたら万事休すだナ(ビレイしとかなきゃ)。

「宮城の沢林道」まで下りて来て、徒渉部手前に自分以外の新しいスノーシューのトレースが突然現れた。
トレースは林道を外れ右手の「宮城の沢」に向かっていたが、川沿いの何も無い場所で一人のオジサンが腰掛けて何かを食べていた。
本格的雪山装備でも無さそうナノで、近所のオジサンが散歩中に休憩しているのだろう。
拙者のような、マイナーな雪山バリエーションをやっていると、雪山で誰かに遭う事は非常に珍しい。
昨年も、「阿部山」山頂で夫婦連れに遭ったのが、唯一の遭遇だった。
オジサンは、拙者には気付いて無さそうナノで、気付かれないよう気配を殺して通過し、下山した。

積雪が未だ締まっていない雪山オープン戦は、苦労したがなかなか楽しめた。

あ、ツーシーム試すの忘れてたっ(何だョ、雪山のツーシームって?)。

おわり。

【写真1】灌木がうるさい尾根ルート
【写真2】阿部山山頂
【写真3】柳月の端っこ(ハーフサイズで十分)