いやはや…内地では桜満開などと浮かれておるようだが、まだまだ雪山を楽しめる北海道。
それでも、苦しいラッセルから解放され、思わずスキップしたものの、春山特有の落とし穴に落ちて身動きとれずに呻いておる…頑なに登山道を歩かない登山家のもじょで御座りまする。

さてさて、春山シーズン開幕に浮かれとる場合では無い。甲子園では選抜も始まり(つか昨日終わった)、毎度毎度の睡眠不足にふらふらになりつつも、せっかくの快晴の土曜日、家で野球観戦するには勿体無いので、いそいそと山へ出掛けた。
今シーズンは、雪山開幕戦から…なんだかんだで「阿部山」に通っていたので、渡渉困難になる前に最後に「阿部山」に行っておこうと思い、最終回の朝ドラ「わろてんか」を見てから、ママチャリをこいで西区平和へ向かった。
「発寒川」沿いのサイクリングロードを走りながら、増水具合を観察する。
川の濁りは昨日(金曜日)ほどでは無いが、かなり雪代が入って増水気味だ。
果たして…「宮城の沢」のスノーブリッジは残っているだろうか。
「平和霊園」奥の林道入口に到着すると、登山と思しき車が6台ほど停まっていた。
この林道は、シルバーザッテル・コースのある「源八沢ルート」が使えなくなってからは、唯一の「百松沢山」へのアプローチ・ルートなので、車は「百松沢」目的だろう。
車があるという事は、なんとか渡渉は出来るようだ。
林道には、スノーシューや山スキーのトレースが残っているが、まだ腐ってないのでツボ足で出発する事にした。

渡渉部に辿り着いてみると、あれ程頑強に作ったスノーブリッジは、跡形も無くなっていた。
ありゃま、あれでもダメだったかぁ。
やっぱり、氷橋みたく骨組みを入れてガチガチに凍らせないとダメなのか。
仕方ないので、トレースの残る橋桁を渡る。
一応、札幌市が「危ないから、渡るな」と看板を立てているが、みんなこちらを渡るからか、シッカリ踏み固められていて、気温の上がる午後でも大丈夫そうだ。

林道を進み、「阿部山」へのバリエーション・ルートの取り付き部へ。
見ると、幾つものトレースが残っている。今日付いたものらしいものも幾つかある。
ツボ足のまま、トレースを辿り高度を上げる。
直ぐに汗が噴き出し、アウターを脱いでフーディになる。
肩ストラップに付けた温度計は、陽が当たるから10℃を超えている。
今日は雪崩が怖いので、アブノーマルな谷筋ルートはやめて、大人しく尾根ルートに向かう。
ガンガン高度を稼ぐ。
厳冬期のフルラッセルは一体何だったのだ?と思うぐらい順調に進み、林道入口から2時間で「阿部山」ピークに立った。
「発寒川」一般ルートからのトレースが幾つかあるので、あちら側のブリッジもまだ渡渉可能のようだ。
少々物足りないので、稜線伝いに「峰越山」を目指す事にする。
山頂をあとにして、暫く進むと…スノーシューを履いた4名パーティーとスライドした。
敢えて渡渉部の事は訊ねなかったが、恐らく…この時間に此処に居るなら、「送電線広場」を渡ったのだろう。
一昨年、この時期にショートスキーで「西峰」から「奥手稲」を回って循環縦走した時は、ブリッジが落ちていて助走をつけて飛び越えた事がある。
この時期は、午前中渡れたスノーブリッジが、午後には落ちている事もあるので油断出来無いノダ。

「峰越山」へ向かう稜線も堅く締まった雪でトレースを外れても、殆ど沈み込む事は無かった。
ただ、雪庇には何カ所か亀裂が入った場所があり、注意が必要だった。
幾つかのポコを越え、「峰越山」ピークが見えて来た。
厳冬期のフルラッセルなら1時間以上掛かるだろうが、このコンディションなら30分も掛からないだろう。
やがて、木々が疎らになり始め、眺望が開けてきた。
左手には、「百松沢」と「迷沢山」。右手には、崖垂が黒々と露出した「手稲山」南面。なだらかな「永峰尾根」が気持ち良さそうだ。
稜線上には立派なダケカンバの巨木が立ち、札幌西区とは思えない景観に出会える。
「阿部山」から少し足を延ばすだけで、こんな素敵な景色と出会えるのだ。
雪山低山の謎解きみたいな地図読み登行も面白いが、こういう疎林のなだらかな稜線歩きは、なまら気分が良い。
何度も立ち止まっては、刻々と変化する眺望を楽しむ。

やがて、のっぺりとした山頂の「峰越山」に到着。
南側には「定天」や「余市岳」の男前な山嶺が見える。
アチコチウロウロして、南風を避けられる山頂北側の、「手稲山」がキレイに見える場所をランチ場に選び、風除け壁と足を投げ出せる溝を10分で掘る。
久し振りに…ごくごくタイムを楽しむ。
こんな事なら、もう少し山ごはんを頑張るべきだったな、と「焼きそば弁当」をすすりながら、後悔する。

さてさて、下山ルートをどうするか…だ。
地形図を見ながら考える。
このまま、稜線を進んで新送電線下の広々とした一枚バーンを尻ボるのもイイが、「平和の滝」に下山してしまうと、ママチャリの置いてある「宮城の沢林道」まで3km近く舗装道路を歩かなければならない。
テキトーに目の前の斜面を「発寒川」に下りても、同じく「宮城の沢林道」まで歩かなければならない。
そうすると、やはり…南側の「宮城の沢」に下りる方が楽かな。
但し、「宮城の沢林道」には、三ヶ所の渡渉がある。スノーブリッジは期待出来無いが、以前から…ずっと気になってた「宮城の沢林道」から取り付く尾根がある。
「峰越山」にアプローチしやすい尾根だが、登行に使えないか前々から気になっていたノダ。
地形図には、恐らく…「宮城の沢鉱山」があった頃に使われていたと思われる作業道の記述がある(伐採にも使われたろう)。
その…山肌を複雑にグニャグニャ通る作業道跡も昔から気になっていた。
夏場は濃い藪のせいで近付けないので、この機会に探索してみたい。
よしっ。この気温(稜線上で3℃)なら…さほど増水してない筈。渡渉はなんとかなるだろう。

そう決まると、尻ボを準備して…来た稜線を引き返す。
件の尾根の合流点に辿り着いて、尻ボると気持ち良さげな谷筋斜面にココロが動いたが、雪崩や踏み抜きが怖いので大人しく尾根ルートへ。
良く見ると、古いスノーシューの消えかけた踏み跡がある。
歩幅が広めナノで、恐らく…下降に使ったのだろう。
灌木がうるさいが、強引に尻ボる。
だが、思ったほど傾斜が無く、20m程しか滑らず、仕方なくツボ足で下降する。
午後になり気温が上がって、かなり…ぬかってきたので、スノーシューを履いた。
時折、尻ボれるが、なかなか長距離は難しい。
あっという間に200m程標高を下げて、尾根の傾斜がキツくなり始めた時、前方の灌木の陰から真っ白い冬毛に覆われたエゾユキウサギが飛び出して、谷筋に向かって疾走して行った。
いやいや、そんなに慌てて逃げなくてもイイのにぃ。

右手の谷筋から沢音が聞こえ始めた頃、尾根を横切る幅員を見つけた。
これが…地形図に描かれた作業道だろう。
思ったほど広くないから、伐採樹木は索道(ロープウェイみたいなワイヤーを張って、伐採した樹木を下ろす)を使ったのだろう。
拙者の父親は、若かりし頃…伐採の仕事をしていて、索道用の100kg近いエンジンを山の上に担ぎ上げた事もあったらしい。
一緒に山に行くと、良く自慢していた。

尾根の傾斜がキツくなったので、右手の斜面を尻ボり、「宮城の沢」左岸の平らな場所まで降りてきた。
この辺りは、キノコ狩りでも良く入る場所で、嘗て「宮城の沢鉱山」があった場所だ。
当時の痕跡は殆ど残っていないが、時折…コンクリート製の何かの台座や、構造物の跡に出くわす。
このまま、左岸斜面を横切る…地形図に載っていない作業道跡を、昨年秋に発見して探索してみたが、所々で崩落していて危険なので、「宮城の沢林道」に下りる事にする。
こちらは、トラックが行き来していた林道のようで、5m程の立派な幅員が今も残っている。
少し上流部に行けば、「百松沢」へ向かう枝沢沿いのルートがある。

林道に下りると「百松沢」に向かっている幾つかのトレースがあった。
何処で渡渉したのか、トレースを辿ってみたが、トレースのある場所にも何処にもスノーブリッジは残っていなかった。
仕方ない。飛び石伝いに渡渉するしか無さそうだ。
沢水は増水しているが、まだ…濁流というほどでは無い。
とりあえず、浅そうな場所を探してウロウロする。
なんとか渡れそうな場所があったが、スノーシューを脱ぐのが面倒ナノで、履いたまま飛び石に乗る。
スネ近くまで水没したが、これを想定して長靴で来たから大丈夫ナノだ。
対岸に渡ったが、1m半程の雪壁を攀じらなければならない。膝を使ってステップを掘り、ストックを深く刺してホールドにする。
ヨッコラショ…
ち、ち、ちべたいっ。
た、た、たのしいっ。
四つん這いになって、なんとか雪壁の上によじ登った。

ま、あとは…何十回も歩いた林道をぶらぶら歩いて行くだけナノで、敢えて書くべき事は無い。
と思ったら、朝方は無かった…橇のトレースが林道に残っていた。
そういえば、林道入口に見覚えあるスバルの車が停まっていた。
厳冬期に見掛けた…同じヒトが入山していたのだろうか。
やはり、この林道を使っているという事は、「百松沢」の山頂で泊まってるのかな。
ルートの殆どが林道(作業道跡)歩きの「百松沢」なら、橇運搬も…かなり有効だろう。
もしかしたら、来シーズンあたり…バッタリと出会えるかも知れない。
そん時は、「実は…僕も、このトレースに触発されて、橇運搬をやってみたんです。渡渉や登行の時は、担いでるんですよね?」と話し掛けて、そのノウハウを伝授して貰おう。
もしかしたら、デカザックを背負うのがキツい…華奢で素敵な山ガールかも知れない。
いや、多分…体力的に衰えたジジイなんだろうナ(残念無念)。
林道に続く一つのトレースを辿りながら、そんな事を考えつつ家路を急いだ…春山だった。

おわり。

【写真】阿部山山頂、日差しがぬくぬく
【写真】広い疎林の稜線歩きも大好き
【写真】迷沢山のある南側



いやはや…結局マトモな山にも登らないまま、積雪期を雪山徘徊と探索で終えてしまった…頑なに登山道を歩かない登山家の「もじょ」でござりまする。

シーズン前には、色々と思い描いていた計画や、行きたい山もあったのだが…二回程体調を崩したり、十勝に住む相方んトコに遊びに行ったり、ごくごくしとる内に、山にも里にも春が到来してしまったノダ。
結局…今年はイグルー泊もしなかったな~と思っていたら、先週…イグルーマニア仲間のD隊員が初めてのイグルー泊(それまで彼は、イグルーを作るも泊まった経験は無かった)に出掛けたSNSの書き込みを見て、「こうしてはおれんっ!」と俄かにイグルー・モチベーションが急上昇してしまい、イグルー泊計画を立案した次第である。

そこで思い出したのが、この冬…「阿部山」に出掛けた時に、「宮城の沢林道」で見掛けた橇のトレースの事だった。
泊まり装備の詰まったデカザックを橇に乗せて運搬すれば、身体的負荷が軽減されるのではないか?
厳密な力学的計算はしていないが、25kgのデカザックを背負って雪の上を歩くよりも、雪面摩擦を利用したズリズリ橇運搬のほうが、楽そうな…そんな気がする。
最近、やたら…街中で見掛けるキャリーバッグを見ても、華奢なオネーチャンが自分の体の半分ぐらいある…馬鹿デカいキャリーバッグを、いとも容易く、引っ張っているではないか?
アレと似たようなもんだろ。

よしっ、そうと決まれば、橇運搬とイグルー泊をコラボレーションした山行しか無いっ。
行き先は…考えるのが面倒くさいから、お馴染みの「空沼」でイイや(オイオイ)。
「空沼」に行くなら、昨シーズン開拓した「万計沢」と「湯の沢」に挟まれた見晴らしの良い尾根を使ってみたい。
アソコなら、大半が緩やかな尾根歩きだし、悪場は橇運搬から…いつもの歩荷態勢で登行すれば良いノダ。

そこで、拙者が先ず取りかかったのが、橇の購入だ。
この場合の橇とは…平昌冬季五輪でも走ってたボブスレー的なアレでは無く、植村直己が北極点を目指した時に使ったアレでも無く、サンタクロースがトナカイに曳かせてるアレでも無く、近所の公園の雪山でガキが奇声を上げながら遊んでいるアレである。
時折、お婆さんが近所のスーパーで買った「ななつぼし」10kgを乗せて引きずっていたり、爺さんが灯油を買って運ぶのに使ってるアレだ。

しかし、急激に雪溶けが進み、橇が売っていた…石黒ホーマーじゃ無く、ホーマックには既に橇や除雪用具のあった場所には、代わりに自転車が並べられ、店内にもキャンプ用品やバーベキュー用品が陳列されていたノダ。
うぬぬぬ…万事休すっ。
西友やリサイクルショップも覗いてみたが、橇のソの字も見当たらない。
ついでに、「薬のツルハ」や「ブックオフ」も覗いてみたが、見当たらない(当たり前だ)。
最終手段として、子供の居そうな一軒家のガレージを覗いてみたが、やっぱり見当たらない(コラコラ)。

どうして一年中橇を売らないノダ?
「秀岳荘」では、一年中…アイゼンを売っているし、「ICI石井スポーツ」じゃ一年中…スキーを売ってるぞぉ!
コンビニだって、一年中アイスを売ってるし、今は亡き「トントン館」(二十四軒にあった伝説のホームセンター)じゃ、真冬に花火を売ってたんだぞぉ。

山行前に、橇の入手困難という…最大にして最も基本的な難関に既に諦めムードが漂い始め、夜勤明けでフラフラになった頃、国道5号線沿いにある巨大なホームセンター「スーパー・ビバホーム」の存在を思い出した。
アソコに行って…もし無かったら、もう諦めて、いつも通りに、ザックを背負って行こう。と半分諦めつつも、一縷の望みを抱いて、「スーパー・ビバホーム」に辿り着いた。
不必要に広い店内を探索したが、見当たらない。
諦めて結束バンドを買って帰ろうとした…その時、自転車売り場に隠れるように陳列されていた橇を発見したノダ。
しかも、原色の赤か青のカラーを想像した我が目に飛び込んできたソレは、水色と桃色(ピンクだな)な淡い色彩を放っていた。
うむむむ…個人的に赤系統の色が好みだが、50を過ぎたオッサンがピンクの橇を持ってウロウロしていたら、流石に怪しいだろう。(何色でも怪しいわっ)
潔く水色の橇を購入し、JRバスに揺られて帰宅した。

快晴の土曜日早朝。
お馴染み「空沼登山口」に到着すると、山スキーとデカザックを準備している爺様方の一団が最終除雪地点の採石場奥の林道入口にたむろっていた。
どうやら、「万計山荘」で泊まりの宴会を催すようだ。
一人の爺様に行き先を尋ねられたので、「空沼ですよ。でも、尾根ルートを上がります」と答え、ノントレースの「湯の沢林道」の枝道に入って、装具を準備する。
いつもの雪山装具を身に纏い、橇を準備する。
橇には購入時に、牽引用の白いビニール紐が入っていたが、山行に使うには余りにも頼りなさげだ。
そこで、沢登り用に購入してあった…捨て縄用(懸垂下降時に支点に使う…回収を諦めたロープやスリングの事)の8mm径のロープを使う事にした。
橇のロープ牽引用の穴には通らなかったので、結束バンドを通し、カラビナでロープと連結した。
そのロープを、体に回した…沢登り用のシュリンゲ(スリング)にカラビナで連結する。
橇に乗せたデカザックは、昨年の大雪山縦走で長靴をフィットさせる為に使った…ゴム(固定の為のフックが付いている)を、取っ手に回し固定する。
なんせ、橇運搬マニュアルみたいなものは雪山の教科書には載って無いから、自分で考えて工夫するしか無いノダ。
案外…沢登り用のギアが色々役に立ったりして、面白い。

スノーシューを穿いて、両手にストックを持ち、林道を歩き出す。
春の力強い陽光を受け少し腐ってザラメ状になってはいるが、残雪期特有の堅く締まった雪面を、滑らかに橇が滑る。
腰に回したシュリンゲに掛かる負荷は僅かだ。
デカザックを背負う事に比べれば、殆ど空身に近い感覚だ。
むしろ、物足りなさすら感じる。
これが、厳冬期の深雪や、柔い新雪だったら、どうなんだろう?
と考えていたら、急に橇が重くなった。
振り返ると、小さな窪みにバランスを崩した橇が横倒しになっていた。
イヤイヤイヤイヤ!
安定感無さ過ぎっ。
戻って橇を起こし、再び歩行再開。
確かに、歩荷するよりは大層楽なのだが、なんだろう?この…限り無い「犬橇の犬感覚」は?
或いは、「ばんえい競馬の輓馬(ばんば)感覚」とでも言おうか…使役感というか、労働感は?
それに、さっき…簡単に横倒しになったもんだから、橇が倒れていないか、気になって仕方ないので、チラチラ後ろを気にしながら歩く感じが、ご主人様の指示やご機嫌を伺う犬橇感に拍車をかけるノダ。
まるで、デカザックに「曳かされている」気分になってしまうノダ。
たかが、デカザック如きの分際で…この「もじょ様」を支配している積もりになってんじゃ無いだろうな?
お前なんか、もじょ様が背負わなきゃ、1mm足りとも動く事は叶わないのだぞっ。
イイ気になってんじゃねぇぞっ!
コテっ。
ま、また…倒れたっ。
なんだ?その…ふてくされたような態度は?


取り付き地点の、嘗ての造材置き場と思われる場所に着いたのは、林道を歩き始めて1時間が経っていた。
イグルーを建てるなら、日没から逆算して…行動出来るのは、午後3時ぐらいまでだろう。
これから本格的な登行が始まるが、何処まで上がれるだろうか。
一服してから、造材置き場奥の作業道跡と思われる斜行する2m程の幅員に取り付いたのはイイが、そこで思わぬ事態が出来(しゅったい)した。
橇を曳きながらの登行は、遅々として進まないノダ。
先ず、両足への負荷が半端無かった。
デカザックの重さ以上に、地球の重力が橇を斜面下部に引き戻そうとするノダ。
踏み出した足が、ズルズルと重さに負けてずり落ち、踏ん張りが効かない。少しでも力を抜くと、引き戻されるノダ。
今迄…味わった事の無い強烈な負荷が両足に伝わる。
オマケに、複雑な地形の変化に対応出来ず、橇が5mおきに横転する。
その度に、斜面を下りて橇を立て直すが、立て直した途端…橇は滑り落ちようとする。
慌てて、曳き綱を掴んで滑落を止める。
橇が滑落しないよう、傾斜に対して垂直に移動したり、立木で止めたりして、バタバタする。
呼吸は乱れ、玉の汗が噴き出し、サングラスが曇る。
僅か20m移動するのに、その作業を数回行い、体力の消耗が激しく、太腿やフクラハギがパンパンになった。

ハァハァハァハァハァハァ…
小さなテラスを見つけて、橇を確保(固定)してから荒れた呼吸を整える。
先程迄の労働感に代わり、修行感や拷問感が支配し、グッタリしてしまった。。
斜面を見下ろすと、林道が直ぐ其処に見える。
この30分で100mも進んでいない。
このまま行ったら、「真簾沼」まで3日ぐらい掛かるわっ。

雪山に於ける橇運搬の実地試験を行ってみて、出た結論は…「アプローチの林道なら少しは使えるが、本格的登坂には全く使えない」という事だった。
余程…体力が有り余ってるか、体を虐める事で高揚感を得られるアスリート体質か、犬橇の犬に憧れてるか、ヒンズースクワットを日に2000回するのが日課ですという人には、オススメかも知れない。

いつもの歩荷態勢に戻す事にしたが、ペースは全く上がらなかった。
これは、犬橇プレイ(もう、プレイになってるしぃ)やデカザック歩荷で消耗した不調とは違う感じだ。
そういえば、今朝起きた時に少し熱っぽかったノダ。
夜勤明けで、寝ないで橇を探し回ったせいもあるだろう。
こ~ゆ~時には、もう無理をしないようになった…アラウンド50なお年頃ナノだ。
主尾根に乗ると重いデカザックを雪の上に投げ出して、行動終了を宣言した。

さて、イグルー作りだが…
とりあえず…試掘してみたが、こないだの雨でガリガリにレイン・クラストした弱層が10cmぐらいの深さにあり、表面もザラメ状になっている。
締まった雪は、50cmぐらいの深さにあったが、ブロック切り出しには苦労しそうだった。とりあえず、スノーシューを脱いで、ブロック切り出しに取りかかったが、ブロックが…なまら重い。
厳冬期なら一個5kgぐらいのブロックが、同じ大きさナノに10kg以上になっていて持ち上げるにも難儀する。
…ので、イグルーは潔く諦めて、フレキシブルに天幕泊に切り替える。
南の風が7~8m吹いている尾根上ナノで、切り出したブロックは風除け壁に再利用する。
L字型にブロック壁を作って、天幕設営。
昨秋の東大雪縦走時に、テントポールに亀裂が入って、交換する事を忘れていた。
とりあえず、応急処置だけして設営する。

早速、ビールを開けてゴロゴロするが、寝不足がたたったのか、爆睡してしまい…気がついたら、午後11時を過ぎていた。
しまった!「青空レストラン」も「ブラタモリ(宮崎編)」も見逃してしまったではないかっ。
空腹感は無いが、とりあえず…重さに苦しめられたビールとキムチ鍋で晩飯にする。
尾根を吹き下ってきた爆風に、立木が唸り騒がしい。
だが、風除け壁のおかげで、テントは殆ど揺れなかった。

翌朝、殆ど冷え込みも無く、夜半に降った湿り雪に濡れたテントも凍っていなかった。
朝飯を食って撤収する。
下山は…勿論、橇に乗ってだ。
ザックを背負って、橇に乗って滑り出すと…有り得ない速度で加速した。
先週、十勝の相方ん家に遊びに行った時に、営業を終了した「新得町営スキー場」のゲレンデでした尻ボに勝るとも劣らない加速に、慌てて滑落停止姿勢をとる。
や、や、ヤバかった。
死ぬかと思った。
ふと斜面を見ると、主人を置いてけぼりにした水色橇が、気持ち良さそうに一人で滑り降りて行くところだった。
コラコラコラコラー!
拙者を置いてけぼりにして、お前は何処へ行くのだぁ!

おわり。

【写真1】林道を犬橇プレイで進む
【写真2】イグルーは諦め天幕泊
【写真3】キムチ鍋、お刺身、ローストビーフ、蕪漬け物の宴


いやはや、やっとこさ冬季五輪も終わり、落ち着いて雪山へ行けるようになった…「カーリング娘たちの、もぐもぐタイムは話題になったが、拙者のごくごくタイムは何時になったら話題になるノダ?」と考えてる、頑なに登山道を歩かない登山家のもじょで御座りまする。

しかし、今回こそは…冬季五輪の正式種目になるか?と注目した「尻ボ」ですが、なる気配すら無いのは何故でしょう?
ハーフパイプなんか、尻ボでも何の問題も無くやれそうな気もするんだけどなぁ。

という事で、冬季五輪に触発されて、拙者も尻ボで「ダブルコーク1440」を決めるべく、ハーフパイプに良く似てるような気がする源頭地形を目指して、お馴染み「手稲山」へ日の丸と「クラシック」を背負って、出陣したのである。

とりあえず、一刻も早く尻ボがしたいので、面倒くさい林道歩きを省いて取り付ける尾根を探して、「平和の滝入口」バス停から徒歩5分で到着する「永峰沢」左岸の、一昨年イグルー年越しをした造成地へ向かった。
取り付きの林道には、最近のトレースは見当たらなかった。
踝(くるぶし)ラッセル20分で、目指す枝尾根末端に到着。
いつもなら、「永峰沢」右岸の枝尾根に取り付くのだが、今回は未踏の左岸側の緩やかな広尾根を目指す。
早く尻ボりたいが、なんてったって…こちとら3週間振りの雪山だから、厳しい登坂は無理ナノだ。
僅か、20分の林道歩きで既に息が上がっている。
但し、こちら側の枝尾根は、その上部に手稲山名物の…崖垂が待ち受けており、登攀技術の無い拙者には到底太刀打ち出来るものでは無い。
従って、崖垂手前の尾根のコル辺りから、源頭地形に向かって尻ボる計画だ。

広尾根に取り付くと、斜面を斜行する林道跡と思われる幅員に出会った。
尻ボにも惹かれるが、同じくらい林道跡にも惹かれる廃墟遺跡マニアなのだっ。
この「西野」の裏山あたりは、開拓期の初期に大規模に伐採されており、地形図には載っていない林道跡がアチコチにある。
従って、植生は…いわゆる雑木林というヤツで、間伐材が成長した疎林が広がっている。
無積雪期には、濃い笹藪で近付く事もままならないし、地形も良く判らないので、地形観察は積雪期の楽しみでもある。

暫く行くと、定山渓発電所から山越えで西野変電所へ向かう送電線の鉄塔に辿り着いた。
手稲山自体が大きな岩の塊みたいなものナノで、地質が安定していて鉄塔やアンテナを建てるには、もってこいなのだろう。
そういえば、札幌延伸を予定している北海道新幹線は、この「手稲山」の土手っ腹にトンネルを空けて、手稲あたりに出てくる計画らしい。
昨年秋、手稲山北尾根付近にラクヨウを採りに言った時、それまで自由に入山出来ていた北尾根の林道に、土地所有者である「三菱マテリアル」の設置した立入禁止の看板が突如として立てられていたから、新幹線トンネル絡みの地質調査でも始まるのかも知れない。

閑話休題。

金曜日早朝に降った新雪が、陽光に溶けてサンクラストしたものか、雪面は最中雪でガリガリとうるさい。
1時間程で幅広いコルに到着。
標高の割に札幌市内の見晴らしが素晴らしい。
立木も少なく、うるさい灌木も無い。
なかなか、素敵なコルだ。
ここから尻ボってもイイが、地形図によると、もう少しコンタ(標高)を上げた場所にも、良さげなコルがありそうなので、もう少し頑張ろう。
標高を上げるに従って、西風が強まってきた。
3~4m/s程だが、立ち止まってジッとしていると、ドンドン冷えてくる。
ので、ジワジワと進む。

目指すコルに到着。
見上げた先には、灌木の隙間から赤茶けた崖垂が見える。
立木の少ない開けた場所でザックを下ろし、外付けにしてあるシャベルを取り出して、ランチスペース作り。
足を投げ出せる溝を掘り、風避けにスノーブロックを1m半程積み上げる。
表面はクラストしているが、下層は良く締まった良い雪だ。
ここにイグルーを建て、夜景を眺めながら泊まるのもアリかも知れない。

丁度、昼時ナノでランチにしよう。
山でランチするのも、久し振りだ。
こないだまで、行動食に持って来ていた「柳月」の三方六の端っこが、意外にボリュームがあり、なかなか空腹感を感じなかったので、昼食を食べずに下山する事が多かったから、今日は敢えて補給はしなかった。
ま、補給するほど歩いちゃいないが…。

今日は、昨年もやった…「すき焼きうどん」だ。
すき焼きのタレで、白菜、ネギ、椎茸、焼き豆腐、うどんを煮込み、火が通った頃を見計らって肉(アンガス牛)投入。
そこで、箸を忘れた事に気付いて、慌てて…そのへんの木の枝を切って、先っぽを削ってワイルドな箸を制作。
卵二つをかき混ぜて、アツアツの肉を頬張って、すかさず「クラシック」を投入。
くぅ~っ、堪らんっ!

食後のデザートに、先週…十勝の相方ん家に行った時に入手した…レア物の「濃厚ショコラの小割」(柳月の三方六ね)の端っこを、コーヒーで頂く。
うむ、余り甘く無くて、今までで一番好きかも知れない。
さて、いよいよ尻ボタイムだが…地形図を見ながら、暫し考え込んでしまった。
普通に尻ボるなら、背後の「永峰沢」へドロップインするのが順当だが、目の前には…通称「手稲山遺跡」のある尾根も見える。
その尾根の手前には、未だ未踏の枝尾根もあり、気になる。
谷筋からの傾斜も緩く登り返しても大して時間は掛からないだろう。
あちら側に下山すると、ちょうど…「中洲橋」のバス停近くに出られるし、若鶏半身揚げの「S&S畜産」へも寄り易い。
「永峰沢」は何度も歩いたから、様子は判っているが、あの枝尾根も偵察する価値はある。

気になりだしたら、我が目で確かめずにはおれない性分だから、仕方ない。

そうと決まれば、撤収だ。
素早く荷物をまとめ、尻ボを取り出す。
ほらほら、眼下にはオリンピックで見たハーフパイプに良く似た源頭地形が広がっているではないか。
心なしか観客の歓声も聞こえてくる気もするが、良く耳をすますと、それは西野の住宅街の排雪中のバケット・ローダー(ダンプに雪を積む重機ね)のエンジン音だった。
立木の疎らな場所を狙って、ドロップイン。
ぐんぐん加速する尻ボ。
スピードが乗ったトコロで、お誂(あつら)え向きのギャップがあったので、勢い良く飛び出し、グラブを決めながら縦回転を…あれ?
「ダブルコーク1440」って何回転すればイイんだっけ?
ダブルコークだから、縦に2回転かな?
横は…360度で1回転だからぁ、4回転で…3×4が12の、6×4=24で…
あ、そうかぁ。4回転でイイのかぁ♪
…と気付いた時には、既に尻ボは谷底で停止してしまっていた。
うむむむ…そ~ゆ~事は、滑り出す前に計算しておくべきだったっ。
そだねー。

気をとり直して、隣の尾根に登り返し始めたのはイイが、先程の「クラシック」が効きだしたのか、足元がふらふらし始めた。
これは、クラシックのせいか、はたまた…体力不足のせいなのか?
恐らく、両方だろう。
こんな事では、雪山泊など出来やしない。
もう少し真面目に、雪山に通わねばならない…な。

尾根に乗ると、目の前に隣の「手稲山遺跡」のある尾根が良く見えた。
尾根の西側には、安山岩と思われる岩が懸崖を作っていて、取り付けそうな場所は見当たらない。
源頭地形上部をトラバースして乗り移るのも難しそうだ。
そうかぁ、「手稲山遺跡」の上部の30mの急斜面は、安山岩が崩落した「崩落崖」だったのだ。その破片が「手稲山遺跡」辺りに降り積もってガレ場を形成したのだろう。
地形の成り立ちを、現在の地形から想像するのは、すこぶる楽しい。
今迄、何気なく見ていた景色も、地形学の知識があると、こんなにも面白いものなのか…。

隣の尾根に乗り移れないなら、このまま…目の前の谷筋に尻ボって下山するしか無いだろう。
再び尻ボを取り出して、「ダブルコーク1440」を決めるべく、滑走しはじ…あれ?
滑らんっ。
ズリズリズリズリズリズリ…
結構な斜度があるのだが、全く滑らん。
余りにも滑らないので、両手にストックを持って漕いでしまった。
つまり…「ダブルコーク」をする積もりが、両手で漕いだノダ。
これが、ホントの…「ダブル漕ぐ」だっ!(駄洒落かっ)

仕方なく沢形に沿って、下山の為…西野の住宅街に向かう。
その時、視界の端を動くものを見つけた。
蝦夷鹿だった。
昨年、この辺りを歩いた時も、蝦夷鹿のトレースを見つけて、大きな角を持った雄の個体に遭遇して、驚いた事があった。
普通…蝦夷鹿は冬になると、積雪量の少ない道南や十勝、日高太平洋側に群れで移動して越冬するのだが、何かの事情で移動しなかったようだ。
林間を走る蝦夷鹿は、拙者の足音(スノーシューがガリガリ音を立ててる)に反応したようだった。
200m程先の林道を走る蝦夷鹿は、一頭では無かった。
次から次と現れ、走って行く。
どうやら、群れのようだった。
その数、20頭以上。
次から次に走り過ぎる。
思わず…「マススタートかっ!?」\(;`Σ´)(金メダル穫った高木菜那選手のやったヤツね)と突っ込んでしまった。

しかし、こんなに積雪量の多い手稲山麓で、あれだけの群れが食べる食糧はどうしているのだろう。
所々に、樹皮をかじった食痕は散見出来るが、20頭もの群れを賄えるだけの植物が、この辺りにあるとは思えない。

昨年、取り付きに使用した住宅街の共用プロパンガス小屋の裏に下山して、道端で装備を解いていると…犬を連れた小学5年生ぐらいの少年が通りがかって、「何処から歩いて来たんですか?」と尋ねられた。
彼の生活圏の裏山ナノで、簡単に説明してから、先程見た蝦夷鹿の群れの事を尋ねたら、2月ぐらいから住宅街の直ぐ近くまで出没しているようだった。
住宅街の裏山に蝦夷鹿の群れが居るなんて、手稲山は面白いな。

帰り道、「S&S畜産」に若鶏半身揚げを買いに行くと、100円値上がりして600円になっていた。
ま、21世紀に半身揚げが500円(税込み)で買えた事が奇跡みたいな事だったノダ。
直ぐさま、かぶりつきたいトコロをグッと我慢して、ごくごくタイムの為に急いで帰路に就いた。

おわり。

【写真1】ちょいと素敵なランチスペース
【写真2】久し振りの山ごはん、すき焼きうどん(箸忘れた)