いやはや、この「手稲山麓バリエーション探索」シリーズも10回目を迎えたが、まだまだ…知らない面白い場所があるもんだと、ゴクゴクしながら唸っておる…「頑なにラッセル泥棒をしない登山家」のもじょでございまする。

手稲山麓探索の過去に歩いたルートは、地形図上に赤いボールペンで線を引いており、かなり…残されたルートは少ないのだが、今回は…その中の空白地帯でもある「永峰沢」源頭部を探索してみようと思い立った次第である。
一昨年、下降に「永峰沢」源頭部を使った事はあったが、詳しくは観察しなかったルートでもあり、「源頭マニア」な血が騒ぎ始めたノダ。
積雪期の沢遡行は、これ以上気温があがると雪崩れる心配もあるので、今週しか機会は無さそうだ。

2週間前にイグルーを作った…発寒川左岸の小高い山腹にある宅地造成地が取り付きポイントだ。
此処から樹林帯に入り、「永峰沢」を目指す。
樹林帯に入って暫く進むと、一週間ぐらい前のトレースを見つけた。
新雪が被っていて、山スキーかスノーシューか分からないが、「永峰沢」に続いている。
こっそりトレースを拝借して、なだらかな林道跡がある右岸に渡る渡渉部に向かう。
すると、件のトレースの主も渡渉部へ向かっているようだった。
渡渉部には、細かくジグを切って登り返した跡があり、トレースの主がスノーシューである事が判明した。山スキーでは、こんな細かいジグは切れない。
スノーブリッジを渡って右岸に渡ると、トレースは林道跡のある河成段丘には乗らずに、「永峰沢」沿いに続いていた。
うむ?このトレースの主も「永峰沢」探索が目的なのだろうか?
目的が同じなら、敢えて…ルートを外す事も無いだろう。
ラッセル泥棒をしない主義だが、新雪のおかげでトレースに乗っても脛近くまで埋もれてしまうので、ラッセル泥棒にはならないだろう、と勝手に解釈する事にした。

トレースを辿りながら、「永峰沢」上流に向かう。
トレースの主は、その痕跡から推察するに…かなり几帳面な性格のようだった。
拙者なら、ショートカットして直登してしまうような場所も、律儀に教科書通りにジグを切っているし、地形の最低部を選んで辿っている。
「アニマル・トラッキング」という野生動物の足跡を追跡する雪山遊びがあるが、拙者も…このトレースの主の足跡を追跡したくなってきてしまった。
足跡から、その主である動物を推察するように、このトレースの主の性格やキャリアや考え方を推理するというのも、面白いかも知れない。

沢筋に沿って続いているトレースは、沢の湾曲部にあるスノーブリッジを渡って再び左岸に渡渉した。
「永峰尾根」へ向かうならば、右岸の枝尾根に取り付く筈なので、トレース主の目的地は「永峰尾根」では無さそうだ。
暫くすると、トレースは「永峰沢」を外れ河成段丘の上を「ネオパラ」方面に向かっていた。
この先には、拙者が初めてイグルーを建てて泊まった「イグルー・ポイント」がある。
この辺りは、伐採後に放置され自然復元した雑木林が主体だが、所々にトドマツやカラマツの二次林も見受けられる。
低層は笹の植生なので、夏場は近付く事すら叶わない。
「永峰沢」を遡行した記録も殆ど無いが、幾つかの小滝も存在するというハナシだ。

帰宅後調べると、「永峰沢」から「ネオパラ」(俗称ネオパラダイス=手稲山第二峰)に積雪期にアプローチした幾つかの記録もあったが、このトレース主も「ネオパラ」を目指したものと思われる。
「ネオパラ」へのアプローチは、西区西野の浄水場から取り付き、長大で広く緩やかな「ネオパラ尾根」を使うのが一般的で、山スキーには最適な疎林が広がっている。
もし「ネオパラ」に向かうなら、幾つかのルートが考えられるが、「ネオパラ尾根」の南側は「手稲山」ではお馴染みの「崖垂」と呼ばれる崩落崖が立ちふさがっていて、尾根から派生する枝尾根は数が少なく、どれも急峻だ。

そうこうしてる内に、トレースは懐かしい「イグルー・ポイント」横を通り過ぎ、少しずつ傾斜を増し始め、源頭近くにある枝尾根に向かっていた。
高度を上げた事で積雪量が増し、どんどんトレースが判別しにくくなってきた。ルーファイしてるようで面白い。
曇天からは絶え間なく小雪が舞い続けていて、風も出始め、気温も下がりだした。
遠くからは、テイネハイランド・スキー場のラウドスピーカーからのアナウンスが聞こえ始めてきたが、どうやら…何かの競技をやっているらしい。
確か…現在「イランカラプテ(アイヌ語の挨拶) くしろさっぽろ国体」が開催中な筈で、関連する何かのアルペン競技をしているのかも知れない。

枝尾根に取り付いたトコロで、補給休憩にする。
時刻は正午を過ぎている。
歩き始めて1時間半経っていたが、トレースを拝借したおかげで、まだ…足は残っている。
地形図で確認すると、この枝尾根の上部はかなりな傾斜が予想され、「ネオパラ尾根」に乗るには、かなりの労力と時間を費やしそうだった。
しかし、此処まで来たからには、このトレース主の成果を見届けないワケにはいかない。

休憩後、灌木が増し始めて歩きにくくなってきた枝尾根を、トレースを探しながら登坂して行くが、所々に登坂用にジグを切ったトレースの横に、下山に使ったと思われるショートカットのトレースが現れ始めた。
トレース主は、下山にも同じルートを使ったのだろうか…。
もし車で来ていたら、同じルートを戻るのも致し方ないが、下山するなら「ネオパラ尾根」を下ったほうが、時間も労力も節約出来る筈だ。
自分なら、そうする。

枝尾根の肩に乗る急斜面をトレースをなぞっていたが、増えた積雪のせいで不明瞭になって、何度かトレースを見失った。
…ので、独自のルート取りで大きくジグを切り上がったトコロで、目の前に30m程の…ほぼ「崖」と形容したくなる斜面が現れた。
地形図には崖表記は載っていないが、恐らく…「ネオパラ尾根」を流れた平坦面溶岩の枝分かれした末端が固まった部分だろう。
崖にこびりつくように樹木が生えてはいるが、ギャップが多く雪が付いていない場所も見られ、尾根上を攀じる事は、経験上…不可能に思えた。
崖の両側は、切り立ってはいるが、左側の斜面ならジグを切って斜行を繰り返せば、なんとかなるかも知れない。
しかし、再び発見したトレースは、灌木の多い右側の斜面に続いていた。
どう考えても、弱点は左側斜面しか無い。
灌木を手掛かりに、捕まりながら攀じったのだろうか…。
倒木と思われる雪の塊を回り込んだところで、唐突にトレースが消えていた。
そこで、同じルートを下った…トレースの、その理由が判明した。
この30mの崖を見て、諦めて引き返したのだ。
単独フルラッセルで消耗していたのもあるだろう。
長い「永峰沢」を此処まで詰めたとしたら、3時間は掛かっただろう。
先週は、「阿部山」ですら尾根上は脛ラッセルだったのだ。尾根上から吹き飛ばされた雪が溜まり易い谷の中なら、それ以上の膝ラッセルだったとしてもおかしく無い。
一週間経った今でも、トレースが残っている事を考えれば、その苦労も容易く想像出来るというものだ。
恐らく、拙者でも引き返したかも知れない。
几帳面なトレース主の性格を思えば、リスクを鑑みて此処で引き返した選択も納得出来る。
しかし、拙者はトレースのおかげで、体力も時間も節約出来た。
ここは、トレース主の果たせなかった最後の詰めをやるべきではないか…。
頭の中で最後の詰めに要する時間と、下山に要する時間と、日没時間を計算した。
「ネオパラ尾根」末端まで行けば、その先は何度も歩いた場所だ。地形は半ば記憶している。
暗くなっても市街地が近いから、その灯りを目印に下山出来るだろう。

よし、やろう。
崖を左側斜面に回り込み、慎重にルートを考えながら、何度もジグを切り攀じって行く。
短くしたストックで確保しながら、膝でステップを作りつつ、乗れば崩れる脆い雪を漕いで固めて、体を持ち上げる。
息が上がり、乳酸が溜まり始めた。
20分程掛かって崖の上に上がると、見上げた雪面の上に鈍色の空が見えた。
最後の20mを詰めるのに、更に10分を費やした。
尾根に上がると、一気に見晴らしが開け、広い尾根に疎らに立つ、枯れた古い蝦夷松と巨大な岳樺に迎えられた。
なだらかな広尾根の向こうの立木の隙間から、人工的な建造物の影が見えた。
近付いてみると…今は使われていないリフト乗り場だった。
看板には「第三ペアリフト」の文字がある。
地形図を見ると、「ネオパラ」山頂に向かっているリフトのようだった。
丁度、Co690の等高線のあたりに居るようだ。
現在地同定が出来たから、これで一安心だ。

相変わらず雪雲が空全体を覆っており、眺望は無かった。
とりあえず、腹が減った。飯にしよう。
時計を見ると、14時を過ぎていた。流石に、「ネオパラ」に登る余裕は無かった。
西風が2~3mあり、時折…5m/sの風も吹いていたので、スノーブロックを積んで壁を作り風除けにした。
雪も降り続いていたが、シートで屋根を葺く余裕は無いので、省略した。
テルモスに入れてきた…お湯でうどんを茹で、レトルトカレーを二袋ぶっかけ暫く煮込む。
温まった「なんちゃってカレーうどん」に、ガラムマサラを足して、一気にすすりこむ。

さて、下降は…やはり「ネオパラ尾根」を下るのが妥当だろう。
なだらかな「ネオパラ尾根」では尻ボは使えないが、尾根末端には急斜面があった筈だ。
下りとは云え、ノントレースのフルラッセルが必要だ。
ま、2時間もあれば西野の市街地に辿り着ける筈だ。
夕方5時には下山出来るだろう。
日も長くなった事だし、暗くなる前には…なんとかなりそうだ。

広い「ネオパラ尾根」の南側に寄って下山を始めた。
時折、崖垂に近付いて「永峰沢」を覗き込んでみる。
尻ボですら太刀打ち出来無い急斜面が落ち込んでいて、高度感がハンパない。
「永峰沢」から「ネオパラ尾根」に乗るには、あのルートが一択だったようだ。
トレース主は今シーズン中に、再び…このルートのリベンジを果たすだろうか。
雪が締まった春先ならば、今回程の苦労は無さそうだ。
「手稲山」をバリエーションで楽しむ同好の士として、是非ともリベンジして貰いたいものだ。
今日一日、同じルートを歩いた事によって、まだ見ぬトレース主に親近感すら覚え始めている自分に気付いた。
「手稲山」をアイヌの人々は、「タンネウエンシリ」(長い悪場のある山)と呼んだそうだ。
長大な「永峰尾根」と、そこに連なる崖垂の事を指しているのだろう。
でも、この山は細かく歩いてみると、そんなに悪場ばかりじゃ無い事に気付く筈だ。
面白い場所も沢山ある。
そうじゃなきゃ、何度も何度も拙者が通うワケ無いもんな。
傾き始めた冬陽を背負いながら、ココロの片隅に不思議なあたたかさを感じつつ下山を再開した。

おわり。

【写真1】制作後2週間を経たイグルー(かなり天井が落ちてる)
【写真2】ネオパラ尾根直下の30mの崖(登れんのか?)
【写真3】ネオパラ尾根にあったリフト乗り場



いやはや、巷では観測以来の大寒波襲来などと騒いでおりますが、雪山をやる人間にはー12℃如きは暖かいものナノだ!と言いつつ、コッソリ…ザックに高温携帯カイロ「マグマ」(桐灰製ね)を忍ばせている…頑なにラッセル泥棒をしない登山家の「もじょ」でございます。

遅ればせながら、皆様…新年明けましておめでとうございます(遅いわっ)。
日記では、昨年末の総括日記以来のお目見えと相成りまする。
本年も頑なに登山道を歩かない事を誓いつつ、よりマニアックに、より変態チックに、何の役にも立たない山行日記をお送り致す所存でございます。

さてさて、年末年始には年越し山泊に行く気力も失せ、下界で呑んだくれて年越ししようと目論んで、ワインやら日本酒やらクラシックやらをしこたま仕入れたものの、大晦日からインフルエンザで熱発してしまい、クラシックだか金麦(第三のビールね)だか…区別がつかないぐらいにヤラレて寝込んでしまっていたのである。
デパ地下で買った「ハモンセラーノ」(生ハムね)や「ゴルゴンゾーラ」(青カビチーズね)を一口も喰わぬまま、プリンなどを食べて過ごしていた、年末年始でありました。

今シーズンは積雪も少なく、雪山へ初出陣を果たしたのも、如月(2月ね)の声を聞く頃でありました。
手稲山麓の市街地が見下ろせるような里山で尻ボをしたり、イグルーを作ったりで、お茶を濁しておりましたが、やっとこさ雪山らしい雪山へ行けたので、此処に執筆の筆を取った次第であります。

しかし、金曜日のー12℃は…なかなか下界では味わえない寒さでありましたね。
「北のたまゆら」(桑園にある日帰り温泉ね)の露天風呂で、濡れた髪の毛がバリバリに凍って、ウヒヒヒ♪などと喜んでおりました。
拙者が体験した事があるのは、せいぜいー20℃程で、「陸別」なんかのー30℃というのは、一体どんなものなんでしょう?
是非とも、「陸別」で露天風呂に入ってみたいものです(山ちゃうんかいっ)。

さてさて、今シーズンも低山バリエーション路線は変わり無く、地形図片手に…あーでも無い、こーでも無いと、登山道も無いマイナーな場所を好んで歩くのが一番面白いお年頃ですので、とりあえず…勝手知ったる「阿部山」に向かったワケであります。
土曜日の朝ドラ「まんぷく」と「チコちゃんに叱られる」(再放送)を見てからの出発ですので、かなり遅い出陣であります。
しかし、手稲山麓の低山で遊ぶには、このぐらいが丁度良いのです。
3時間ぐらいのフルラッセルで乳酸が溜まった頃に稜線なり山頂に到達し、少し遅めの昼飯食って、ごくごくして尻ボで下山すると、丁度…日没ぐらいになる。
スーパーで晩酌の肴を買って帰宅する頃に、丁度「青空レストラン」が始まり、風呂に入って出てくると「ブラタモリ」が始まって、タモさんのマニアックな地質学の蘊蓄を聞きながら、ごくごくしてるのが、大体の週末ルーティーンなのである。

普段、殆どTVを見ない拙者であるが、「まんぷく」と「チコちゃんに叱られる」と「青空レストラン」と「ブラタモリ」だけは欠かさず見ています(つか、早く雪山の事を書けョ!)。

JRバス「平和の滝入口」に到着すると、排雪用の10tダンプが列を作っている。
宮城の沢林道に向かう道にも、平和の滝に向かう道にも排雪場があり、この時期は排雪渋滞が起きるのだ。
「俺達が必死に働いているのに、ルンルンしながら雪山なんかに遊びに行きやがって。雪崩に巻き込まれて死んじまえっ」という視線を感じながら、「平和霊園」に向かう。
除雪最終地点には、二台の車。「宮城の沢」に向かう道には、山スキー2つと、MSRのスノーシューのトレースが1つあった。
退屈なアプローチ林道のラッセルはしなくて良さそうだ。
装具を整え出発。
気温はー8℃だが、その割にシューに雪団子が付く。湿った雪なのだろうか。
「宮城の沢」渡渉部は立派なスノーブリッジが出来ていた。
体が温まってきたので、中間着のフリースを脱ぐ。
砂防ダムを過ぎ、いつもの…右手から地形図に載っていない枝沢が合流する場所から取り付く。
良く見ると、新雪に埋もれた古いトレースがあった。一週間ぐらい前のものだろうか。
少しだけガッカリするが、今日のトレースでは無いので、まぁ…良しとしよう。

その時、帽子に乗せていたサングラスが無い事に気が付いた。
あれま、何処で落としたんだろう?
汗をかいて何処かで帽子を脱いで涼んだ時に、落としてしまったのだろう。
普段…夜勤生活だからか、陽の光に慣れていないので、外光モロだとマトモに目を開けていられないのだ。
特に雪山だと、裸眼でいると雪目になってしまうぐらいだ。
沢にサングラスを持って行くのは、泳ぐべきゴルジュや釜の水深を偏光レンズで覗く為だ。

うむむむ…考えられるのは、先程フリースを脱いだ時だ。
しかし、アソコまで戻ってしまうと、時間的に今日はピークを諦めるしかなくなるかも知れない。
仕方ない、帰り道に回収するしかないか…
本当ならば、「阿部山」ピークから「発寒川」側にテキトーに尻滑って下山しようと思っていたのだが、今日は「宮城の沢林道」に下山するしか無い。
実は…今まで、山で何個もサングラスを失くしてきた。
帽子に乗せたまま根曲がり竹を藪漕ぎして落としたり(コビキ沢、神居岳&空沼岳)、ゴルジュを泳いで落としたり(白水川、無意根山)、何度やっても学習しないのは困ったものだ。
その内、「サングラス落としたぁぁぁ」と大騒ぎして、帽子に乗っていたなんて事にならないか心配だ(波平さんかっ)。

さて、凹んだ気持ちを切り替えて、ラッセル開始だ。
この「阿部山宮城の沢ルート」(勝手に命名)は、古いマーカーが散見出来る事から、昔から良く使われてきたルートだ。
今の一般ルートは「発寒川」から、北に向かって伸びる主尾根沿いに切られているが、このルートは北東から山頂付近で合流する枝尾根になる。
もうひとつ、この尾根の南側に枝尾根があるが、傾斜が急で上りには使えない。
この「宮城の沢ルート」にも急登が二カ所あるが、上手くジグを切ってルートを探せば登坂出来る。

暫くは、緩傾斜の雑木林の樹林帯が続く。
ふと気配を感じて振り返ると、林道奥から山スキーの二人連れが下山してくるのが見えた。
「宮城の沢林道」は、「百松沢山」に向かっているが、この時間に山頂を往復出来るワケが無いので、林道終点あたりから引き返してきたようだ。
未だ、コチラには気がついていないようだが、取り付きのトレースを見て、「阿部山」に向かった事を知るだろう。

途中、Co350のポコに寄り道して、テルモスに入れてきた…熱々の「クラフトboss(カフェオレ」を飲んで一服する。
休憩後、本格的な登坂が始まる。
なんとなく、古いトレースが気になって辿ってみる。
他の登山者がどんなルートの切り方をしてるのか、気になるノダ。
途中から、トレースが二本に別れてきた。どうやら…下山にも、この尾根を使ったようだ。
尾根の肩に乗る為の急登も、トレースの主は直登している。
拙者に勝る直登馬鹿のようだ。
流石の拙者も、真似が出来無いぐらいのキチガイ加減なので、ジグを切って肩に乗った。

標高を上げると南寄りの風が出始めて、露出した顔が冷たくなってきた。
お腹が減ってきたので、羊羹で補給する。
雪山の行動食には、いつもはチョコレートを持ってくるのだが、チョコレートは寒いとカチンコチンに固くなって噛むのに苦労するので、羊羹を試してみた。
しかし、羊羹とカフェオレは合わないな~。
渋い日本茶が欲しくなりますな。

深い谷を挟んで、右手に「阿部山」の主尾根が見えてきた。
去年は、何をトチ狂ったか、眼下の谷筋を直登してしまったが、今日は山頂直下から、その谷筋に向かって尻滑ってみよう。
かなりの急傾斜だが、新雪が積もっているから自然のブレーキになる筈だ。
気温も低いから、雪崩れる心配も無いだろう。

暫く、緩傾斜の尾根筋を辿って、最後の急登に取り掛かる。
乳酸が溜まってきて、だんだん足が上がらなくなってきた。
山頂まで、あと100mぐらいだが、10m毎に立ち止まって呼吸を整える。
ああ…もう山頂は諦めて、ここいらでゴクゴクしちゃおうかな~と考えていたら、ふいにトレースが現れた。
山頂から続いているトレースは、此処まで来て引き返していた。
「発寒川ルート」から上がって来た誰かが、「宮城の沢」側に下りようとしたようだが、地図読みに自信が無く急に不安になったのか…諦めて引き返したようだった。
途切れたトレースから、その主の逡巡具合が分かって面白いな。
しかし、この思ってもみない…トレースの出現は、ヘロヘロになった今の拙者には天から差し伸べられた救いの手のようなものだった。
「頑なにラッセル泥棒をしない」主義は、この際…無かった事にして、遠慮無くトレースを使わせて貰う事にする(コラコラ)。

山頂に近付いて行くと、スノーシューのオジサンが山頂に居た。
「こんちわ、発寒川からですか?あっちは、トレースばっちりなんですか?」
「ええ、全くラッセル無しでしたよ」
「楽々だけど、面白く無いですよね。宮城の沢は苦労しましたけど、面白かったですよ。」

腹が減ったので昼飯にしよう。
札幌市街が見下ろせる南西側の見晴らしの良い…いつもの場所に行き、スコップとスノーソウを使って椅子を作る。
鍋焼きうどんを火にかけ、急いでフリースとダウンを着込む。
先週、イグルーを作った時は、調理用の水を忘れてしまい、雪を溶かそうと鍋焼きうどんのアルミ鍋に雪を入れて点火したら、雪が溶ける前にアルミ鍋が溶けてしまい、うどんが食えなかった。
雪山で温かい食事が出来無い時ほど、切ない事は無い。
ぐつぐつ煮込まれるうどんを見ながら、クラシックをゴクゴク。
「テムレス」から、薄いフリース生地の手袋に履き替えて作業していたら、あっという間に指先が痺れ始めた。
かなり冷え込んできたようだ。
温度計を見たら、ー14℃だった。
うむむむ、と何故か…にやつく。

熱々の鍋焼きうどんを食べ、食後のコーヒーを飲んで、下山する。
さっき椅子を作る為に、雪をブロックで切り出したら、怪しい弱層を見つけたが、多分…大丈夫だろう。
ランチポイントの目の前の谷筋を見下ろす。
50度近い急斜面だが、高所恐怖症の拙者ですら、雪があるだけて大した恐怖感も感じ無いのは、尻滑りのやり過ぎで恐怖感が麻痺してしまったのだろうか。
源頭地形の灌木も無い、なかなか…そそられるバージン・スノー斜面に、思い切って生尻でドロップイン。
新雪が深く、抵抗となり殆ど加速せず、ズリズリと落ちて行く。
周りの新雪を巻き込んで、表層雪崩と共に落ちて行く感じだ。
視線を転じると、札幌市街地は雪雲もとれ良く晴れていて、なかなかの眺めだ。
200m程一気に滑り降りて、振り返って斜面を見上げる。
下から見上げると、もの凄い急斜面だ。
良くこんな場所を、登ったものだと、昨年の己のキチガイさに呆れる。一体何を考えていたんだろ?

谷底には立ち木の枝から落下したスノーボールの塊が、所々にデブリ状に堆積しているが、雪崩れた形跡は見当たらなかった。
谷底に沿って下りて行くと、地形図に描かれた破線の作業道跡と思われる幅員を見つけた。
灌木が生い茂って、造成跡も曖昧になり、自然復元しているが、これをなぞって下りて行こう。
こ~ゆ~林道跡探しは、遺跡探索のようで、拙者的にはかなり…楽しい。

「宮城の沢林道」に復帰し、トレースを下山して行くと、フリースを脱いだ地点にサングラスが目立つように、雪面に置かれていた。
山スキーの二人連れが見つけて、置いてくれたようだ(アリガトーゴザイマス)。

おわり。

【写真1】札幌市街を見下ろせるランチポイント。ここから、ドロップインした。
【写真2】下山した源頭地形。写真では分からんが、かなりな急斜面。
【写真3】林道に下山。左が今朝取り付いたトレース。右が下山してきたトレース。



いやはや、内地は「命に関わる猛暑日」とやらで、連日…40℃を越す気温が続き、北海道も30℃を超える真夏日が続き、「こりゃ、堪らんっ。沢にシャワーを浴びに行こー」と思っていたら、急に涼しくなって、ブルブル震えている…頑なに登山道を歩かない登山家の「もじょ」でございます。

しかし、40℃って…アフリカじゃ無いんだから、どうなってるんですかね?日本は。
そりゃあ、暑さに慣れてない小樽っ子が甲子園で両足同時につって担架で運ばれたりしますわな(さり気なく、高校野球ネタ)。

さてさて、今回は珍しく…同行遡行である。
相棒は、こないだ…チロロ林道から、「幌尻岳」日帰り20時間というキチガイ…じゃ無くって、ストイックな山行をやっているI隊員だ。
昨年、「白水川」(無意根山)で沢デビューを果たし、拙者がシャワークライミングやゴルジュ泳ぎの楽しさを無理やり教え込んだ隊員でもある。
行き先は、先月…降雨増水で散々な目に遭った「湯の沢」にした。
本来は、初心者向けの小滝やゴルジュがある楽しい渓なのだが、増水して…不必要な高巻きをさせられたり、シビアなライン採りをせざるを得なかった故の、個人的リベンジでもある。

土曜日、早朝…「空沼登山口」に向かう林道入口の橋で待ち合わせる。
橋には、「通行止めのお知らせ」の立て看板があり、橋梁補修の為の工事が行われるようだ。
ナニナニ?
という事は、あれか?
いつも賑やかな「空沼岳」が独り占め出来るって事か?
…と、先ず考えてしまった変態は、拙者であります。

聞けば、I隊員は「空沼岳」は初めてだそうだ。
コラコラ、日高なんか行ってる場合じゃ無いだろう!
札幌の岳人ならば、先ずは「空沼岳」でしょー、と力説する拙者は、「空沼岳」は下手すりゃ三桁回数ぐらい通っている。
ま、今更…「空沼岳」の良さについて改めて述べるのも、はばかられるぐらいに何度も「空沼岳」の事は書いてきた。
ただ、一般登山道を歩かずに「空沼岳」にアプローチすると、この山の面白さに改めて気付く事は多い。
一つには、その地形的な面白さがある。
札幌南西部に広がる広大な山域は、概ね火山隆起によって造山されているが、結構…古い火山なので、風化や浸食が進んで山体が変形してしまっている。
この「空沼岳」も大規模な地滑りがあり、登山道のある北東側は、なだらかな地滑り地形が麓まで続いている。
山頂部も火山の面影は薄く、火口縁部が崩落したせいか、その岩屑が作った湖沼が多いのが特色だ(故に、沼フェチな拙者が通うノダ)。

さて、我々は装具を整え「湯の沢林道」を入渓地点目指して進む。
林道には、新しい足跡は無く、今日はまだ誰も入渓していない模様だ(シメシメ♪)。
I隊員に、退屈な林道歩きには「登山しりとりがイイぞぉ」と薦める。
ルールは、通常のしりとりと同じだが、登山関連用語や山名等の縛りをつける。
但し、山名は「岳」や「山」で終わると、「け」と「ま」ばかりになるので、その場合は岳・山を省いた語尾をしりとり対象とする。

「湯の沢林道」は、春先の犬橇プレイ以来だ。
低過ぎる気温に、虫が殆ど居ない。
喋り過ぎて、入渓地点の橋(導管)を通り過ぎて、少し戻る。
入渓して直ぐに、S字状の屈折点から白いナメとナメ滝が連続する。
洗脳が効いたらしく、I隊員も躊躇無くシャワークライミングのライン採りを選択する。
上半身に飛沫を浴びると、冷たくは無いのだが、気温が気温なだけに体は冷える。
ナメ地帯を過ぎると平凡な渓相に戻る。
少し退屈し始めた頃、河岸斜面に巨大なキノコ発見。
「ヤマドリタケ」というイグチ系のキノコで、イタリアでは「ポルチーニ」と呼ばれる大変美味なキノコだ。
傘の直径が20cm近くある大物で、食べ応えがありそうだ。
その少し先で、倒木にビッシリと「タモギダケ」が生えていた。
虫の付いていない株を選んで少しだけ採集。

1時間で二股に到着し、休憩する。
この辺りまでは、沢沿いに林道が作られていて下降にも使えそうだ。
I隊員が「何の為に、こんな所まで林道通したんですかね?」と尋ねてきた。
「いやいや、今更かいっ!?別に登山者のアプローチの為に作ったワケじゃ無いからね。森林伐採の為だから。空沼も、真簾沼辺りまで伐採されてるんだよ。つか、今の発言は日記に書くからなっ」(しっかり書いたぞぉ)。

嘗て、北海道には全域に渡って、蝦夷松の巨木が立ち並ぶ広大な森が広がっていた。
明治以降の開拓期に、その殆どが伐採され手付かずの森は皆無に近い(一部演習林と道東に少し残る)
伐採後に植林されたのが、造材資源としてのカラマツやトドマツやドイツトウヒだ。
植林されなかった部分には、広葉樹が自然復元し森林更新された。
今も地形図に載っている林道は、ほんの一部だ。その何十倍もの数の林道が、全道中に張り巡らされていた事は、雪山やバリエーションで山を歩くと良く判る。
至る所に林道跡の幅員を目撃する事となる。

閑話休題。

さて、距離的には全行程の半分まで来たが、ここ迄は…言わば、イントロみたいなものだ。
「湯の沢」の本当に面白い核心部が、これから始まる。
谷が狭まり両側の壁が立ち上がり始めた。
2mから5mぐらいの小滝が次々と現れる。
どれも、直登が可能な易しい滝ばかりだが、こないだの増水遡行では、かなり苦労した。
普段はスプラッシュの中に探れるホールドが増水の為使えず、苔のついた難しい滝横の壁を登らざるを得なかった。

いよいよ、ゴルジュのある核心部が近づいた。
両側の壁がV字状に立ち上がり、深い谷の向こうに白く泡立った水流が見えた。
ここは…初「湯の沢」のI隊員に先を譲ろう。
果敢にI隊員が狭まった岩溝のスプラッシュに突撃する。
水量は、こないだの半分ぐらいだから、初心者でも突破出来る筈だ。
下半身に盛大に水飛沫を浴び、水流の中にある足場に乗ったが、そこで…動きが止まった。
どうやら、次なる手掛かりが見つからないらしい。
アチコチに手を伸ばし探ってはいるが、体を持ち上げる程のシッカリしたホールドは見当たらない。
その様子を、後ろでニタニタ眺める。
そうそう、そこから苦労すんだョ~。
暫く、アタフタしたあと、「あ~、ダメだ。ちょっと、やり直します」とI隊員が戻ってきた。

拙者も、クライミングに関しては殆ど素人みたいなもんだが、取り付く前には、一応…岩を良く観察して、ルートをシュミレーションしてみる。
足場と手掛かりを確認して、アタマの中で攀じってみる。
沢登りを始めた頃は、とにかく…行き当たりばったりに攀じって、にっちもさっちも行かなくなって、何度落ちた事か分からない。
大切なのは、取り付く前の観察と戦術だ。
I隊員にも、「良く考えてからアタックしなさい」と助言するが、こればかりは場数を踏まない事には、どうしようも無い。
彼は、インドア・クライミングの経験はあるらしいが、天然の岩は…その親切さとは程遠い。
たまに、「どうぞ、コチラに掴まって下さい」というホールドもあるが、殆どは…「そこじゃ無いっ」と言いたくなる場所にあるものだ。
時々、体重をかけた途端に、バリッと剥がれるホールドもあったりするから、信用ならない。

二度目の挑戦にI隊員が突撃す。
そうそう、ホールドが無い場合は手で岩を押さえつけるプッシュアップ作戦なんだョ。
足場は足りてるから、上半身さえ持ち上げれば、ここは何とかなるのさ。
スプラッシュを全身に浴びながら、なんとか…難所を突破した。
拙者は経験者ナノで、ここの突破法は解っている。右側の壁にある小さな凹部に足場を取って、左足をスプラッシュの中の足場にいれ、左手で突っ張りながら上半身を持ち上げると、難なく突破出来るノダ。
増水時は、右側の凹部に足を乗せられなかったから、苦労したんだョ。

ゴルジュを過ぎると、直ぐに5mの直瀑が待ち受ける。
「ここは、どうするんですか?」
「ルートは二つ。滝横の岩を直登してもイイけど、上は手掛かりが殆ど無いから、その上の笹に掴まって攀じ登るしか無い。或いは、右側のルンゼを上がって、高巻きトラバースだな」
暫く岩を眺めていたI隊員だが、自信が無かったのか、滝横の砂礫に埋まったルンゼを登り始めた。
10m程詰め上がってトラバース・ルートを探している。
笹の中に古い残置ロープがあるが、足元はスラブに薄く土が乗ってるだけだから、リスクは高い。
ジェスチャーで「もう少し上がってから、トラバースしなさ~い」と伝える。

拙者は、高巻き嫌いだから…滝横の岩壁を登攀する。
下から2mぐらいまでは、シッカリした足場がある。
そこまで体を持ち上げるが、その先には手掛かりとなるような突起が殆ど無い。
左手にトラバースすれば、ホールドになりそうな突起もあるが、岩壁のトラバースはおっかない。
それに、足場を探して足元を見ると…自然に下を見る事になり、ゾワゾワする。
…ので、岩の上に生えている笹を掴んでホールド代わりにする。
まとめて、5~6本掴んで体を無理やり持ち上げる。
日々のたゆまぬストレッチのおかげで、五十肩もマシになり、笹が掴めるようになったノダ。

直瀑の上には、もう一段ナメ滝があり、それを越えた所で一服しながら、I隊員を待つ。
暫くすると、左岸の涸れた沢形を伝わってI隊員が降りて来た。
I隊員の履いているのは、沢足袋と呼ばれる…底にゴム(フェルトもある)を貼った足袋みたいなものだ。
河原を歩く分には楽かも知れないが、クライミング的な動きには向かない。
小さな突起に靴のエッジを引っ掛けるような動きは出来無いようだ。

「湯の沢」最大の難関を越えると、直ぐに15mの直瀑が現れる。
ここは、右岸の大規模な土砂崩れ跡を利用して高巻くしか無い。
ルーファイの練習にI隊員にトップを任せて、土砂崩れ跡を登って行く。
「石落としたら、声出してネ。一応、ラインは外して行くけど」
浮き石だらけの、脆い土砂崩れ跡を30m程上がる。巨大な倒木の右手に、嘗ての高巻きルートがあり普段はそこを使うのだが、それに気付かないのか…I隊員は更に高度を上げる。
50m以上上がって、右手の枝尾根上部まで上がってしまった。
砂礫が露出した足場に上がったI隊員に「そこから、降りられんの?」と訊く。
「なんとか大丈夫そうです」
拙者も足場に上がって見下ろすと、土砂が流れたような跡を伝って降りられそうだが、かなりなズルズル斜面だ。
これは…笹懸垂だな~。
笹に掴まりながら、後ろ向きになって沢まで下降した。
薄い踏み跡はあったが、ここは…高巻きルートとしては、危な過ぎる。
もっと安全で、楽な高巻きルートがあるノダョ。

ここを過ぎると、林道合流点まで15分程だ。もう難しい場所は無い。
林道に到着し、遡行は終了となる。「万計沼」まで、あとは林道を20分。
ぶらぶら林道を歩いていたら、オフロードバイクが何台か上がって来た。「簾舞」の林道ゲートが解放されているのだろうか。
「万計沼」に到着し、少し遅めのランチにする(拙者は、ごくごく)。
立派な「万計山荘」を初めて見て喜んでたI隊員と、「今度、泊まりに来ようか」と相談する。
温かいカップ蕎麦を用意してきたI隊員に、採集したタモギダケ入れる?と尋ねたが、断られた(いい出汁が出て、美味いのにぃー)。
のんびりランチしていたら、雨が降り出した。
合羽を羽織って、登山道をダラダラ下山した。

おわり。

【写真1】沢登りの醍醐味は、シャワークライミングにこそある
【写真2】ゴルジュに果敢にアタック(この後、一旦戻ってきた)
【写真3】5mの直瀑は…あ、巻いちゃうのね?