いやはや、今年の雪山シーズンは殊の外…短かった。
…と思っていたら、このタイミングで新雪が降ってしまい、図らずもラッセルを味あわせて頂き、筋肉痛になっておる…「頑なに登山道を歩かない登山家」のもじょでございまする。

暖かい日が続き、里山も…そろそろ藪が立ち上がる頃ナノで、今回は久し振りに「空沼」に出掛ける事にした。
…と言っても、トレースのある一般ルートなんか歩いても、もう満足出来ないカラダになってしまったので、一昨年ルート開拓した「万計沢」と「湯の沢」に挟まれた尾根ルートを攻める事にした。
このルートは、昨年…かの「犬橇プレイ」で、イグルー泊を目論んで、敗退したルートでもあるのだが、個人的に…「万計沼」のある台地に上がる複雑な地形の探索をしたかったノダ。
「空沼岳」は夏山シーズンになれば、沢山の登山客で賑わう…お手軽な初心者向けの山だと思われがちだが、積雪期にバリエーション・ルートで歩くと、その複雑な地形にアタマを悩ませる難しい山なのである。
その原因は、大規模な地滑り地形にある。
一般ルートがある「万計沢」沿いのなだらかな地形は、嘗ての地滑りの跡であり、単純な「尾根」と「谷」で構成される山岳地形とは、かなり異なった様相を示している。
「雪山ガイド」にも、「万計沼」から「真簾沼」に上がる段丘と、その上の緩斜面の森は「ベテラン泣かせ」と記述されているように、単純に起伏を辿れば良いというものでは無い。
一般ルートを外れて北寄りの緩斜面の森に踏み込むと、至る所に新旧のルート・マーカーが散見出来る事も、その証左である。

さて、今回は距離もある行程ナノで、のんびり…「朝ドラ」を見てから出発というワケにはいかないので、「真駒内」からの始発パスに乗って「空沼二股」へ向かう。
最終除雪地点の「空沼林道」入口の橋に到着すると、昨年秋に補修されたという橋の手前から、右手の「湯の沢林道」に踏み込む。
車が一台停まっていたが、一般ルートから入山した模様だ。
新雪が積もっているが、その下はボコボコの最中雪で、歩きにくい事この上ない。
新雪に隠れているが、古いスキーのようなトレースがある。どうやら…スノーモービルのようだ(洞爺支笏国定公園内だから、モービルの走行は禁止されているんだぞぉ、バーロー)。
1時間弱掛けて取り付きポイントの、嘗ての造材置き場らしき場所に到着。
「湯の沢」を覗き込むと、ちょうど…滑(ナメ)地帯が始まる曲折部が見えたが、雪崩のデブリに埋もれていて、流れは隠されていた。
「湯の沢林道」上部の二股あたりに下山出来ないものか…と、考えてみるが、枝尾根合流点が見つかるか、どうか…。
ま、上に行ってから考えよう。

さて、造材置き場奥の斜行する作業道跡らしき幅員を利用して、尾根に乗る為に斜面に取り付く。
新雪の下は、良く締まった堅雪があり、見掛けとは違って意外に楽に歩ける。
尾根に乗ると、昨年…イグルーを諦めて、天幕泊した見覚えある場所に辿り着いた。
結構…笹が立ち上がっていて、積雪は50mを切ってるかも知れない。
尾根上は5m/sぐらいの西風が吹いていて、快晴だった空にも雪雲が入り始めていた。
尾根上を登行し始めると、暫くは緩斜面の疎林地帯が続く。
尾根上の分かりやすいルートなので、ピンテ(ピンクテープ=ルート・マーカー)は打たない。
この尾根ルートには、札幌近郊の山には珍しく、全くルート・マーカーの類いは見受けられず、ネットにも山行記録は見当たらないが、良く良く観察すると、所々に伐採用の作業道と思われる幅員はあるし、灌木を鉈で払ったような古い跡も見られる事から、嘗ては林業作業員が入っていたのだろう。
但し、雪山バリエーション登山のルートとしては、使われた形跡は見当たらない。
初登では無いにしても、こういう…ヒトの痕跡の無い山を歩くのは、気分が良いノダ。

緩斜面地帯が過ぎ、少しづつ尾根の傾斜が増していき、尾根も痩せ始める。
左右から枝尾根が合流し始めるが、地形図上のどの尾根かは同定するのは難しい。
右手の深い谷筋が、下山に使おうとした二股の谷のようだが、確信が持てない。
一応、マーカーを設置しておく(下山時に回収)。

1時間程登って、二つ目の小ピークに乗ったトコロで休憩する。
テルモスのお湯で日本茶を淹れ、「御勝手屋」の羊羹で補給する。
左手の谷が登山道のある「万計沢」だが、こちら側の斜面も気になる。
尾根上は、巨大なダケカンバやミズナラの大木も残っているが、斜面は概ね二次林だ。
この小ピークの下には、作業道跡と思われる幅員もあった。
先程、大型の動物の足跡があったが、新雪を吹き飛ばして確認したら、蹄の跡が見えたので、どうやら…蝦夷鹿のようだ。
そろそろ、羆ちゃんも穴から出てくる季節だから、厳冬期のように無警戒に歩けなくなる。
そう言えば…昨年、沢登りの下山時に「空沼林道」で、オスの羆ちゃんにも遭ったし、「湯の沢林道」には酪農学園大学の研究者が、羆の個体調査をしているという赤外線センサーと、体毛を取る為と思われる有刺鉄線を巻き付けた丸太が設置されているのを先程見掛けた。
昔「真簾沼」で天幕泊した時も、朝起きたらテン場の草付きに真新しい寝床と糞が残っていた事もある。
こんなに沢山の登山者の入る「空沼」でも、羆の生息域ナノだ。

高度を上げると、隣り合う尾根を吹き抜けた西風が強まり始めた。
倒木も増え始めて、それを…かわしながらのルーファイが必要になってきた。
三つ目の小ピークには、尾根上に何本もの倒木が重なり合って、一番アタマを悩ませる悪場だ。
前回は、左手の密集した樹林帯を巻いて、肩に乗った筈だが…良く観察すると、もう少し楽そうなルートもありそうだった。
ふと足元を見ると、蝦夷雪兎のトレースがあり、上手い具合に倒木をかわしながら小ピーク上に上がっている。
ここは、ウサ吉君を見習って、彼のトレースをなぞってみよう。
なるほど、傾斜の緩い弱点を上手く繋いで、小ピークに上がれた。
流石は、山を良く知ってる…ウサ吉君だ。なかなか、勉強になりました。

三つ目の小ピークを乗越すと、平らなコルを繋いで、866Pの登りに掛かる。
結構な急斜面だが、良く締まった雪のおかげで、さほど苦労せずに866Pに上がった。
さてさて、ここからが…本日の目的だ。
この上の「万計沼」がある台地の末端が崩落して、大きな段丘を作っている。
一般的に「崩落崖」と呼ばれる段丘から崩れ落ちた岩屑が散乱して、その下部に複雑な地形を作ったのだ。
地形図上は、概ね平らだが…至る所に谷地やポコがあり、地形図を見ただけでは進路を読みとるのは難しい。
前回は、コンパスを切りながら段丘の下部に辿り着いて、段丘を攀じ登ったが…恐らく、一番単純で効率良いルート採りは、前回のものだろうが、厳しい段丘越えをせずに沼に抜けるルートは考えられないだろうか。
地形図を良く見ると、このまま前進すると…「御簾」から「万計沼」へ続いている林道にぶち当たる。
この林道は、小屋番のオジサンが車で通って来る道でもあり、又…「湯の沢」を遡行した場合にゴールとしている林道でもある。
林道は、件の段丘を上手くかわして、沼へ向かっている。
少々遠回りになるが、偵察してみる価値はある。

866Pから、ほぼ真西に向かって小高い場所をなぞって進む。
右手には「湯の沢」がある谷筋が見下ろせるが、勿論…沢は雪に埋もれていて流れは見えない。
だが、急峻に落ち込む谷筋に、あの…ゴルジュがあり、15mの直瀑がある筈なのだ。
一瞬、「あの滝は、どうなってんだろ?」と見に行きたくなるが、我慢する。
途中、Co850の等高線が狭まってる辺りのコルで、10m程の段丘に行く手を遮られた。
むむむ…このコルが落ち込んでる右側の谷あたりに滝がありそうだ。
ちょっとだけ覗き込んでみたが、かなりの落差で落ち込んでいる斜面は確認出来たが、その先は吹雪模様で見通せなかった。
段丘を右手から巻いて乗り越すと、前方に怪しげな段丘があった。
あの上が林道かも知れんな。
攀じ登ってみたが、そこに林道の幅員らしきものは無かった。
距離的には、そろそろ…現れてもおかしく無いのだが、見落としてしまったかな。
更に上に進むと…「林道めっけ♪」
沢登りのゴール地点から、沼寄りに50mぐらいの林道を見つけた。
見覚えある林道を沼に向かうが、途中…何度か林道を見失った。吹き溜まりのせいで幅員も判別出来ないぐらいに積雪しているのだ。
雪に埋もれた林道探しゲームを楽しみながら、30分で「万計沼」に到着した。
未だ結氷した沼面に、山スキーのトレースが一本付いていた。
記念撮影をして、昼飯にしようとしたら雪が本降りになってしまった。
仕方ない、「万計山荘」に入ってランチにしよう。
小屋の横の開放されている入口から、入ると…中には誰も居なかった(当たり前だ)。
小屋の中は冷え冷えしていて、殆ど外と変わらない気温だった(ー7℃)。
スノーブーツを脱いだ足が冷たい。
小屋に備え付けのノートには、年末に宿泊した外国人3人パーティーの記載が最後だった。
【3月23日 湯の沢林道をアプローチに使って、尾根ルートのバリエーションで上がってきました。なごり雪が本降りになったので、ランチに使わせていただきました。
今日は「すき焼きうどん」だ~(ビールもあるよ)
下山は、一般ルートを下りても、つまらないから…どうしよう?考え中。 mojo】
と書き込んで、テーブルと椅子の文化的な施設を借りて、「すき焼きうどん」(九条ネギ入り)を作る。

気になる…春の選抜高校野球中継をラジオで聴きながら、ごくごく&ふはふはずるずる…を頂く。
さてさて、下山は…どうしよう?
山スキーのトレースが付いた一般ルートを下山しても面白くないし、上って来た尾根ルートを下りるのも芸が無い。
しかし、この山域には沢が3本もあるから…他の選択肢も考えにくい。
思い切って「空沼林道」側に下りる事も考えたが、土石流のせいで下流域の林道は至る所で崩壊してるし…
やっぱり、尾根ルートが妥当かな。
そうなれば、林道を引き返すのも面倒だ。
小屋の裏側の段丘を尻ボって、段丘下を北進して自分のトレースに復帰するのが、一番楽だろうな。

小屋を出発すると、段丘から下を見下ろす。
此処には、嘗ての…滝の迂回用のルートも切られていたが(地形図には記述アリ)、夏場は藪のせいで利用出来ない。
積雪期なら、造成した跡も判別出来るが、こちとら尻ボなのでルートは無視して、テキトーにダイブする。
段丘下の複雑な地形を、大体の方角を見当に北へ向かうと、10分も掛からずに、自分のトレースを発見した。
「トレース、めっけ♪」
ずっと雪が降り続けているので、2時間程前に付けたトレースは殆ど消えかけていた。
ま、尾根ルートは間違えようが無いし、変な枝尾根に入り込まない限り大丈夫だろう。
いつでも…尻ボれるよう、ウエスト・ストラップに尻ボをカラビナで繋いで、臨戦態勢を整える。
866Pを降りると、新雪が乗った緩斜面でも尻ボは良く滑った。
滑り過ぎて、加速が収まらず、必死で制動を掛ける。
登坂途中にピンテを打った…林道に下りる谷筋は、同定に自信が無かったので、取り止めた。
林道沿いに崖表記があったので、安全第一に自重した。
新たな下山ルート開拓は、次回以降の課題にしよう。
調子こいて、スタスタ下山したもんだから、帰りのバスの時間まで1時間もあった。
仕方なく退屈な舗装路を「芸術の森」まで歩いてしまった(ちかれたぁ)。

おわり。

【写真1】尾根ルートは、灌木も無く概ね歩き易い。
【写真2】久し振りの万計山荘。まだ2m近い積雪がある。
【写真3】小屋内ですき焼きうどん。京野菜の九条ネギがクタクタになって美味い。



いやはや、今年の雪山シーズンは殊の外…短かった。
シーズンインも遅かったし(何してたんだろ?)、新しいバリエーション・ルート開拓も少なく、イグルーは2棟建てたけど、まだまだ…目指す完成度へは研鑽が必要だと感じたし、犬橇プレイもしなかったな~と、早くも雪山総括しようとしてる…相変わらず「頑なに登山道を歩かない登山家」のもじょでございます。

まだ3月の半ばですよ。
例年なら、まだまだ…新雪が積もってもおかしく無いし、重い湿り雪ラッセルにヤラレたりしとる筈なのに、里山は既に地面が見えたり、沢に流れが戻ってきとるノダ。
やっぱり、積雪量が少なかったし、ドカ雪も殆ど無かったからかな。
しかし、標高の高い場所なら、まだまだ積雪量はある筈。
これからは、1000mオーバーの稜線を目指すしか無いかぁ。
…と言いつつも、またまた…ご近所「手稲山」に出掛けてしまったノダ。
良くも、まぁ…同じ山にばかり出掛けて飽きないな~と、お嘆きの諸兄に申し上げる。
同じ「手稲山」と申せど、バリエーションで登るルートは毎回違い、毎回新しい発見があり、それなりの満足感はあるノダ。

そもそも、拙者と「手稲山」との邂逅は遅かった。
北海道移住後10年を経た頃からの付き合いだ。
正直に告白すれば…それまでは、この山には何の興味も無かった。
「欅坂48」と同じぐらい、興味は無かった。
山頂に電波塔が乱立する…スキー場や遊園地(今は閉鎖したテイネハイランドね)がある山。ぐらいの認識しか無かった。
それまで、「もじょと言えば…空沼岳」と言われるぐらい、「空沼岳」に年間8回ぐらい通い詰めていたし、「ニセコ」や道東にも、たま~に遠征もしていた…一般的な登山者だった。

確か…初めての「手稲山」との邂逅は、残雪期だったような気がする。
春先に登った「百松沢山」から眺めた「手稲山」の崖垂を見て、興味を持ったのかも知れない。
「平和の滝コース」から山頂を目指し、ちゃんと山頂を踏んだ筈だ。
雪が溶けてから行った「手稲山」で、「大雪山系」で見られる安山岩のガレ場を見つけた時は、驚いたものだ。
札幌市内の小学生が遠足で行くような低山に、こんな立派なガレ場があるなんて、内地の感覚では信じられい思いだった。
その頃の日記に、「山は…その高さや、名前の有名無名に関わらず、面白くするのは登る本人の問題で、やり方次第では、どんな山だって面白くなるものだ」と書いた記憶がある。
その頃の「やり方」は、ゴーカな山ご飯だったり、夜景天幕泊だったりしたワケだ。
つまり、付加価値的な面白さを追求していた頃でもある。
「山=山頂」という枠からは、既にはみ出していたノダ。

「手稲山」(一般ルート)は、常連ハイカーと呼べるような…何度も何度も登っている(1日に3回往復してたジジイも居た)コアなファンが沢山居る事が分かり、そんな常連ハイカーに顔を覚えられるには、そう時間は掛からなかった。
「手稲山」如きに、80Lのデカザックを背負って登って、朝方…夜明け前に入山したオヤジと、すれ違うように下山する奴は珍しかったし、「手稲山で泊まってる人が居るらしい」と都市伝説みたいな噂になっていたようだ。

本格的に雪山をやるようになって、次第にバリエーション・ルートに手を出し始めた。
「平和の滝コース」には、冬季短縮ルートと呼ばれる枝尾根ルートがあるが、有り得ないような急な枝尾根にルートが切られていて、「もしかしたら、本来は…他の冬季ルートがあったんじゃないか?」との疑問が湧いて、ガレ場に上がるルートを探し始めたのがキッカケだった。
林道入口から、一つずつ枝尾根を潰していき、登坂が楽な枝尾根を発見して一人喜んでいたりした。

ある日、古本屋で仕入れた本の中で「永峰尾根」(手稲山の主稜線)に昔…登山道があった記述を見つけ、厳冬期に挑戦した事があった。
折しも、北大スキー部が「永峰沢」から冬季手稲山に初登頂を果たしてから、ちょうど…99年目の節目だったのは偶然だったが…(ちょうどじゃないしぃ)

そんなこんなで、「手稲山」に通い始めたワケだが、山菜やキノコ、沢登りを始めてからは、更に「手稲山」に通う回数は増えた。
しかし、一般ルートを歩かなくなったせいで、常連ハイカー達に出会う事は無くなってしまった。
年に10回以上通っているくせに、他の登山者に遭うのは稀だ。
「手稲山」通い始めて10年、そろそろ…三桁に届く回数になってんじゃないかな(怖いから数えないけど…)。

考えてみれば、200万都市の直ぐ側に、ガレ場や沢登りや雪山ラッセルを楽しめる山があるなんて、なんと恵まれている事ではないだろうか。
普通ならば、「都市部→住宅街→農村部→里山→奥山」というパターンが一般的な流れなのに、「手稲山」に関しては…「都市部→住宅街→奥山」という極めて特殊な構成を成している。
住宅街の直ぐ側に、蝦夷鹿が越冬してるし、ちょいと尾根に上がれば羆の痕跡がゴロゴロあるノダ。
ウサギや蝦夷栗鼠やクマゲラなんかもフツーに居る。
こんな山は、世界に類を見ないのではないか。

さて、今回は…先週イグルーを作って泊まった「ネオパラ尾根」の、気になってはいたが…デカザック故に寄り道出来無かった、尾根下部の探索が目的だ。
地下鉄「発寒南」から「中洲橋」行きのバスに乗り、途中の「西野第二」で下車し、住宅街を取り付き部に向かう。
道路の雪も殆ど消え、陽光はすっかり春のそれになっている。
予報では、下界の最高気温は二桁になるらしい。
取り付きの雑木林には、一部地面が露出している場所もある。
もう…すっかり春山ナノだ。
出発が遅かったので、かなり雪も腐っているからスノーシューを履く。
なだらかな傾斜地の雑木林を進むと、カラマツの二次林になる。
「手稲山」のこの辺りは、開拓時代に「手稲鉱山」で使用する造材を切り出す為に、かなりな高度まで伐採されていたらしい。
「ネオパラ尾根」の末端に続く林道も残っているから、「ネオパラ尾根」もかなりな規模で伐採されたかも知れない。
伐採後に造材用にカラマツやトドマツが植えられているが、新たな伐採はされた形跡は見当たらない。

先週付けた自分のトレースを発見したら、その上に2~3日前の新しいワカンのトレースが乗っていた。
誰かが拙者のトレースを利用して入山したようだ。
所々に、一週間前には無かったルート・マーカーまで付けられている。
「ネオパラ尾根」に効率良く乗る為には、拙者が考えた…このルート以外には考えられない。
トレースを利用するのはイイが、そこに勝手にマーカーを設置されると、余りイイ気持ちはしない。
拙者が苦労して考えて、開拓したルートだ。ラッセル泥棒されたような、釈然としない気持ちになってしまう。

ワカンのトレースは、暫くすると消えていて、拙者が鹿道トレースを利用して源頭部から枝尾根に乗ったルートを発見出来無かったようだった(ザマーミロ)。
崖垂下に辿り着くと、沢筋からは流れの音が聞こえていた。
今日は荷物が軽いから、沢筋を攻めようと思っていた目論見は、早くも頓挫した。
仕方なく、一週間前に使った電光ルートを使って、「ネオパラ尾根」末端に乗った。
左手には、先週登行に使った沢形地形があり、右手には小高い尾根筋が続いている。
灌木だらけの斜面を登って、歩いた事の無い右手の尾根に乗る。
札幌市内西部の眺望が広がったが、足元は50m程の断崖になっていて、腰が引けた。
うむ、この…眼下の谷筋を下降に使えないだろうか、と地形図を眺める。
登行は難しい斜度だが、尻ボで滑り降りるのには使えそうだ。

小ピークを乗越して、先週イグルーを建てた場所に向かうと、右手から2~3日前のスノーシューのトレースが二本合流した。
そのトレースをなぞって行くと、イグルーに辿り着いた。
先週作ったイグルーは、暖かい日が続いたせいで、歪(いびつ)に屋根が落ち傾き、今にも崩れそうに見えたが、ブロックの一つ一つが氷化しており、ガチガチに堅くなっていた。
中に潜り込んで休憩するが、日差しを受けてブロックが溶けてポタポタ…滴(しずく)が落ちてくるので、逃げ出した。

イグルーの近くの白樺の幹に、先週は無かったピンクテープが設置され、そこに「558峰」と書かれた木札が取り付けられていた(峰では無く、ただの測量点なんだけどナ)。
北海道の山の山頂に見受けられる標識の殆どは、個人や山岳会が勝手に(殆どの場合…無許可で)設置したものだ。
山頂に立った記念にと、写真撮影用に設置しているのかも知れないが、拙者は余り好ましく思っていない。
なんだか、個人的な自己満足の匂いがプンプンするし、幼稚で傲慢な所有欲の気配がして、好きになれない。
観光地に見られる…地元の役所の、隙を持て余した小役人が無駄な予算を計上して作った、無意味で味気ない、センスの欠片も感じられないモニュメントのようで、興を削がれる思いだ。
そんな…モニュメントを有り難がって、自撮りしている浮ついた観光客も拙者には理解不能だ。
せっかくの絶景が、台無しになっているのに、気が付かないのだろうか。

拙者は、最近は…ルート・マーカーを設置する事すら躊躇してしまう。
よっぽどの事が無い限り、ピンテは打たない事にしているし(オレンジ色だけど)、下山時に回収が見込めないようなら、なるべく設置しない。
雪山やバリエーションをやれるレベルの人間なら、地図読みは出来て当たり前だし、他の登山者への気遣いかも知れないが、余計なお節介というものだ。
同じルートを下山する予定ならば、拙者は登坂しながら時折振り返って、地形を記憶する事にしている。
いっぱしの山ヤなら、自分が歩いた地形ぐらい記憶出来る筈だ。
山頂標識を付けたがる人間と似たような匂いを感じて好きにはなれない。
「手稲山」にも、やたらとピンクテープを見掛けるが、むしろ…ピンクテープが一切無いようなルートに出会うと、嬉しくなってしまうノダ。

閑話休題。

広い「ネオパラ尾根」の、歩いた事の無い右側に沿って、緩やかに高度を上げて行く。
スノーシューのトレースの他にも、時折…スキーのシュプール跡も見えて、一般的な登行ルートがこの辺りなのだろう。
日当たりが良いのか、やたらと灌木が多くなって見通しが利かなくなってきた。
気がつくと、目の前に「ネオパラ」山頂とリフト降り場、今は廃墟と化したスナック(レストハウスね)も見えた。
灌木だらけの、この場所は…嘗てのゲレンデだったようだ。
危ない危ない、危うく山頂に立つトコロだった。
踵を返して、市内展望の良い場所を探し、「永峰沢」側に向かう。
腹が減った。
「ジンギスカンうどん」に、タップリ…ナンバンを振りかけて、ごくごくする。

下りは、「下降に使えないか」と思っていた谷筋に尻ボでダイブする。
やたら湿った雪が、股の間に溜まって、なかなか上手く滑れない。
なんとか、スピードに乗って滑り始めた時、尻ボの拙者を猛スピードで追い抜かして行く影が視界に入った。
拙者の尻ボ滑降に誘発された…スノーボールだった。
その姿は、まるで…巨大なバウムクーヘンの如き。
刹那、背後に殺気を感じて振り返ると…
ランドクルーザー(四駆車ね)のタイヤサイズの巨大なスノーボールが、拙者目掛けて猛スピードで転がり落ちて来るトコロだった。

おわり。

【写真1】灌木ゲレンデの向こうにネオパラ山頂が見えた
【写真2】こんな雪田を歩くのは気分が良い良い
【写真3】こんぐらいナンバンを入れないと美味くないノダ



いやはや、まだ3月だというのに急に春めいてきて、「まだまだ雪山で遊び足らんっ」と少々焦りつつ、ごくごくが止まらない「頑なに登山道を歩かない登山家」のもじょで御座います。
さて、雪が消える前に…ど~してもやっておかねばならない事がある。
昨年、「空沼」に向かったものの、橇運搬大作戦などというものに色気を出して結局、目的を果たせずにヤラレて終わってしまった「イグルー泊登山」である。
今まで、4回程イグルー泊をした事があるが、イグルー泊というのは実に楽しいのである。
フツーに山でテントを張る天幕泊の楽しさは諸兄も御存知の筈。
その天幕の代わりに、一夜の寝床を自ら作るイグルー泊は、天幕泊の何倍も楽しい。
イグルー泊のメリットは…防風・居住性・場所を選ばない・撤収作業が要らない・住民登録不要、等々…幾つか挙げられるが、何よりも「楽しい」事が一番ナノである。
しかし、一般登山者はイグルーの作り方すら知らないし、知ってはいても実践するとなると一朝一夕にはいかないものだ。
拙者ですら、紆余曲折、七転び八起き、七転八倒を繰り返しながら、何棟も建てて…宿泊可能なクオリティに仕上げてきたノダ。
合理的且つ迅速なる作業効率化、頑丈さと美しさを備えた完成度、居住性と安全性を持ち合わせる住居としての安心感。
それらを追求し続けて幾星霜。苦闘とごくごくの日々だったワケだ。
雪山教則本には詳しく記載されていないし、ネットを探しても講習会や遊びで作るものばかり。
某知恵袋に質問をすれば、知ったかぶりのネットからの切り貼り知識ばかりでウンザリ。
結局、自分でイチから考えて、工夫して、試行錯誤を繰り返すしか無かった。
そして、初めて宿泊可能なクオリティのイグルーを建てて泊まった時の、喜びと感動は永年山をやり続けていた拙者が忘れかけていた新鮮さを思い出させてくれたノダ。

さて、能書きは…このぐらいにしておかないと、又…無駄に長い山行日記になってしまう。
今回のイグルー泊の行き先は、先々週下山に使った「ネオパラ尾根」である。
「ネオパラ尾根」というのは、山ヤ達の間で呼ばれている俗称だ。
正確に言えば…「手稲山第二峰ネオパラ山から南東に伸びる主尾根」の事であり、地形学的には「ネオパラ山」辺りを噴出源にした粘度の高い平坦面溶岩流が作り出した…なだらかで広く長い尾根と言える。
「ネオパラダイス」という呼び名は、昔…山スキーヤー達が「パラダイスやがなぁー」と彦麿呂風に叫んだとか、叫ばなかったとか、風の噂に聞いた事がある。
つまり、そう呼びたくなるような素敵な斜面があるという事だ。
だが、山スキーヤーの多くは、広大な「ネオパラ尾根」の北寄りのゲレンデを滑るし、西野浄水場から伸びる北斜面を登行して、南側や尾根下部にはトレースを見る事は殆ど無い。
何故ならば、尾根を作った平坦面溶岩は南側では崩落崖(崖垂)を形成し、登山者やスキーヤーを寄せ付けないからだ。
しかし、一見突破不可能に見える崖垂でも、良く良く探せば弱点というものはあるものだ。
山スキーには不可能な登行でも、スノーシューなら可能であったり、春の堅雪なら攀(よ)じれる斜面もあるのだ。
何年か前、「ネオパラ尾根」末端から取り付くルートは春先に開拓済みだったが、デカザックを背負っては到底太刀打ち出来無い急斜面だった。
同じく拙者が「手稲山遺跡」と名付けた岩尾根からも、「ネオパラ尾根」に乗れるが、デカザックでは不可能な斜面だった。
しかし、地形図を良く見ると…その2つの尾根に挟まれた浅い沢形があるのに気付いた。
恐らく、雨や雪溶け水によって浸食された沢形地形だろう。
雪山登山の常識としては登り易い尾根登行が一般的だが、バリエーションをやっていると沢や源頭を利用する事は多々ある。
この沢形を利用して尾根に乗れないだろうか…
そんな事を考えながら、先々週下山してきた西野の住宅街裏を取り付き場所に選んだ。
近くには砂防ダムがあり、水路が切られ夏場は周りが公園のようになっていて、近所の人達が散歩に来たりして、シッカリとした踏み跡が残っている。
気温は0℃。
雪面はザラメ状に腐り始めていたので、スノーシューを履き、登行開始。
とりあえず、崖垂下まで小尾根を使って高度を上げる。
デカザックは、昨年の大雪山以来で久し振りだ。
日帰りザックのような軽快な動きは出来無い。律儀に一番なだらかなコースを選んで行く。
伐採跡の雑木林には、やたらと蝦夷鹿のトレース(鹿道)が斜面を横切っている。
歩きにくくて仕方ない。
今冬も、何頭かの群れが越冬しているようだ。
人間のトレースは見当たらない。
ガリガリと…サンクラストして最中化した雪面がうるさい。
一週間雪山をサボった間に、スッカリ春山になってしまっている。
イグルーのブロック切り出しに苦労するかも知れないな。
1時間程掛けて、崖垂下に到着。
見覚えある崖斜面が見えてきた。
幾ら軽いザックだったからとは云え、良く…あんな場所を登ったなと、我ながら呆れてしまうぐらいの急斜面だ。
以前登った斜面を避けて、左手の沢形に向かう。
崖垂には安山岩の板状節理が露出してい、所謂…露頭というヤツだ。
沢形を覗き込んだが、小さな流れが覗いていた。
沢底を登行するのは、踏み抜きが怖い。
ふと斜面を見上げると、なんとなく…攀じれそうな斜面がある。
アソコを斜行して、アソコで切り返して…と、頭の中でシュミレーションしてみる。
雪山のルーファイは、色々と制約が多くてアタマを悩ませる。
春の堅雪なら、踏みつければステップは作れる筈だ。デカザックで墜ちたら、シャレにならん高さだが…やれない斜面では無い。
他に弱点らしき場所は見当たらない。
慎重にステップを作りながら、一歩づつ登って行く。
15分程かけて、30mを登行した。
ちょうど、「ネオパラ尾根」末端の肩に乗れた感じだ。
源頭地形のような擂り鉢状を右手の主尾根を目指して、斜行して行き、「ネオパラ尾根」に乗った。

流石に、蝦夷鹿も此処には上がって来れないのか、うるさいぐらいにあった鹿道トレースは一本も見当たらなかった。
広くなだらかな尾根が疎林の向こうに続いている。
先々週来た時は、左手の谷筋を尻ボって下山したのだ。
もう少し上がれば、先々週の自分のトレースが残っているかも知れない…な。
広尾根を登り始めると、灌木が増え始めたので左寄りにルートを探す。
ん?尾根が広過ぎて、起伏も殆ど無い為に方向感覚が曖昧になってきた。一度、コンパスを出して確認したほうが良いかも知れないな。
…と考えていたら、「テイネ ハイランド スキー場」の山頂からのアナウンスが左側から聞こえて来た。
知らず知らずの内に、かなり右側に寄っていたようだ。
この広尾根は、要注意だな。
アナウンス音を頼りに左手にルートを延ばす。

沈み込まない春の堅雪とは云え、デカザックのおかげで、かなり…消耗してきた。
なんとか見晴らしの良い高度まで上がりたいが、イグルー製作の時間もある。
リミットは15時と決めていたが、体力的・時間的に動けるのは、あと…30分というトコだろう。
広かった尾根が少し狭まり、幅が100mぐらいになった場所に辿り着くと、立ち枯れたトドマツが目立ち始め、一気に視界が開けてきた。
石狩方面の市街地が見えている。札幌中心部は灌木の向こうだ。
左手には、「百松沢」や「烏帽子」の特徴的な山容も見え始めた。
うーん、本来なら…もう少し高度を上げたいトコロだが、イグルー製作にどれぐらい時間が掛かるか分からんから、この辺りにしておこうか…。
デカザックを下ろして、ふと足下を見ると…薄く消えかけたスノーシューのトレースの痕跡があった。
良く良く見ないと、気付かないぐらい薄いトレースだが、2週間前に拙者が付けたトレースだった。

宿泊用のイグルーは、直径2mで製作する事にした。
以前は居住スペースを得る為に、雪面下を掘り下げていたが、時間も掛かるし、体力的にもキツいので、最近はイグルーの土手っ腹に入口の穴を開けて、雪面を寝床にするようにしている。
いざ寝ようとして足がはみ出さないよう…雪面に寝転がって、直径を決める。
大まかな円を描いて、その上にブロックを並べる事にする。
さて、肝心の雪の具合はどうだろう。
表面はザラメ状に溶けているが、掘り下げてみると、良く締まった雪があった。
今冬は、降雨も無かったから、変な弱層も見当たらない。
しかし、いざブロックを切り返してみると、ズシリと重い。
先月作ったのと同じ大きさのブロックを切り出すが、重量は倍近くあった。
拙者の切り出すブロックの規格は、30×40×30cmなのだが、20kg近い重さがあった。
とりあえず、基礎ブロックを並べ終えたが、それだけでグッタリしてしまった。
現場監督に許しを貰って、休憩する。
雲に覆われていた空は、青空が覗き始めていたが、既に太陽は西側の稜線に近付きつつある。
急がないと、暗くなってしまう。
だが、ブロックの重さに作業は遅々として進まない。
いつもは、作業効率を上げる為に、ブロック切り出しをまとめてやるのだが、10個も切り出すと息が上がってしまった。
時間と手間は掛かるが、「切り出し→運搬→積み上げ」ルーティーンで凌ぐしか無い。
螺旋の3段目を積み上げた時、太陽が稜線の向こうに沈んでしまった。
更に、暖かいからか…ブロックが上手く接着せず、内傾させた上部に乗せると滑り落ちてしまうノダ。
シッカリ面取りして、接着面を平らに成形するのに時間を食う。
…ので、なかなかドーム状に内傾していかない。
いつもは、6段目で天井が塞がるのだが、6段積み上げても1m程の穴が空いている。
重さ20kgのブロックを2mの高さに持ち上げるのも、ハンパ無くキツい(重量挙げかっ)。
遂に、暗くなって、夜景も点灯してしまった。
おぉ…キレイだぁ(そんな事を言ってる場合かっ)。
ヘッデンを装着して、仕方なく残業になった。
今日は、荷物を軽くする為にテントは持って来ていない。
是が非でもイグルーを完成させないと、凍えて寝られなくなる。

午後7時やっと屋根が乗った。
と言っても、イグルーは手の届かない高さになっており、最後の天井は放り投げただけで、ちゃんと塞がっているかも確認出来ていない。
とりあえず…出入口を開けて、内装工事に掛からないと。
少し風があるので、イグルー内にソーラーパフを灯して、外側から光の漏れる箇所の隙間を埋めていく。
中から確認すると、天井は塞がっておらず、5cmぐらいの隙間はあるが、雪も降らなさそうなので、そのままにした。
屈んで出入り出来るよう縦長の入口を開け、土間の部分を掘って、居間を平らに慣らして完成した。
玄関エントランスのアーチ門は省略する。
イグルー内に荷物を広げ、やっと…ごくごくしたのは、8時に近かった。
外気に晒されていたザックに付けた温度計は、ー8℃を指していた。
「鶏生姜鍋」と「手巻き寿司」のディナーを食べ、疲れて早々に沈没した。

翌朝、目を覚ますと…天井の隙間から、快晴の青い空が見えた。
ふむふむ、こ~ゆ~のもアリだなぁ。
なんなら、天井は敢えて塞がずに、アクリル板かなんかで空が見えるようにするのも素敵かも知れない…な。

おわり。

【写真1】久し振りのデカザック
【写真2】翌朝撤収前に記念撮影
【写真3】広い尾根上にイグルーが映えるな~