変な家(2024 日本)

監督:石川淳一

脚本:丑尾健太郎

原作:雨穴

製作:市川南

撮影:柳田裕男

編集:上野聡一

音楽:小島裕規 “Yaffle”

主題歌:アイナ・ジ・エンド

出演:間宮祥太朗、佐藤二朗、川栄李奈、長田成哉、DJ松永、瀧本美織、根岸季衣、高嶋政伸、斉藤由貴、石坂浩二

①原作再現とアレンジの上手いバランス

オカルト動画の制作者「雨男」こと雨宮(間宮祥太朗)は、マネージャーが買おうとしている家の不審な間取りに注目します。ミステリ愛好家の設計士・栗原(佐藤二郎)は、その家に隠された恐ろしい秘密を指摘します…。

 

大ヒットしたベストセラー・ホラー小説の映画化。

映画も大ヒットで、大いに話題になっています。

話題になればなるほど、疑ってかかってしまうのが映画ファンの習性…でもあって。

若干のうがった見方を、されがちな映画だと思うのですが。

 

面白かったですよ! 最初から最後まで、大いに楽しみました。

間取りから読み解くミステリーという原作の良さを上手く活かしている。

一方で、原作は基本的に「安楽椅子探偵モノ」なんですよね。そのままでは、映画的なアクティブな見せ場には欠ける。

後半は大胆にアレンジして、ホラー映画的な見せ場を作っています。

往年の作品を意識したような悪ノリ的シーンも作ってあって、なかなか楽しいホラー体験になっていました!

②間取り図からの推理の面白さ

結構大きく改変してあるという前評判もあったのですが、観てみると特に前半〜中盤は、意外なくらいに原作に忠実でした。

特に登場人物を増やすとか、属性を変えるとか、不必要なギャグを足すとか、やりがちなアレンジもすることなく。

原作通り、一枚の間取り図からの推理を軸にして進んでいきます。

 

原作の面白さは、ただの事務的な(不動産屋的な)間取り図一枚から、意外な真相、恐ろしい背景が読み取れていくところです。

間取り図だから、一見するとただの図面なんですよね。当たり前だけど。誰もが引越しの時などに目にしたことがある。

でもよく見ると、奇妙な点に気づく。

 

原作の巧みさは、不自然なポイントが複数、パターンを変えて用意されていること。

出入り口のない、どこからも入れない謎の空間。

一見ただの子供部屋だけど、窓がなく二重扉に閉ざされた不可解な部屋。

間取り図を読み解く面白さが、よく見れば読者も気づけるように、でも分かりやす過ぎず、ワンパターンにならないように設定されてる。

これはこの後も「不自然な三角形の部屋」や、「日本家屋における秘密の通路の可能性」と、様々にパターンを変えて登場してきます。

映画はこの「読み解きの面白さ」を、しっかりと再現していました。

③広げるけど逸脱はしないアレンジ

後半は、映画独自のアレンジが加わっています。

原作では「話を聞くだけ」である「本家」での出来事が、実際に主人公たちが出かけて行って、そこで恐怖に​巻き込まれる…という展開になっています。

これはまあ、映画としては確かにそうしたくなるアレンジでしょうね。

 

原作では間取り図だけだった「本家」の不気味な作りが映像化され、その家の狂信的な住人たちも登場する。

更にはミッドサマー的な因習村の村人たち」「八つ墓村的な地下の洞窟」悪魔のいけにえ的なチェーンソーババア」まで登場して、ラスト近くは派手な展開になっています。

なので、確かに原作の持ち味とはだいぶ違う。

 

…なんだけど、でも原作のストーリーは逸脱してない!というのが、意外と抑制の効いてるところだと思うのですよ。

こういうアレンジって、悪ノリのあまり、肝心のストーリーをないがしろにしてしまいがち。だと思うのだけど。

本作では、いろいろと「広げて」はあるけれど、決して「捻じ曲げて」はいない

ストーリー自体は原作のラインをきっちりなぞりながら、いろいろとホラー映画として面白がれる要素を盛り込んである。

人気の原作の映像化として、これは割と正しいやり方なんじゃないかと思いましたよ。

④抑制された演技も良かった!

俳優たちの演技も、良かったな〜と思いました。

こういうホラー映画にしては、すごく抑制が効いていたと思うんですよね。

 

個人的に苦手なのが、登場人物たちがガチャガチャとうるさい、騒々しい映画なのです。

なんか、みんながのべつ叫んだり怒鳴ったりしているような。大声出すことが「熱演」だと思ってるようなやつ。

本作は広告とかの感じから、ちょっとそんな予感もあったのだけど。

全然そんなことはない。皆が静かに、抑制された演技をしていて、人々の空騒ぎじゃなく劇中で起こってる現象の方に注意が向けられるようになっています。

 

佐藤二朗も、ふざけてないのが良かったですね。あくまでも「実際にいてもおかしくない変なおっさん」という演技にとどめていて、絶妙な気持ち悪さが良かったです。

あとやっぱり、斉藤由貴が素晴らしいですね。もう、普通に主婦として画面にいるだけで醸し出す不穏さ。

映画自体を最後に締めくくるのも、見事に「斉藤由貴の不穏」でした。

⑤ヒットしたホラー映画あるある

ヒットしたホラー映画ではあるあるなんだけど、本作も客層はなかなか荒れてました!

悲鳴やざわめきが聞こえたりするのは、ホラー的にいい感じでもあるのだけど。

後ろの席のカップルが映画の最後の方になるとずーっと喋ってたのは…まあ、うるさかったですけどね。

 

それでもギリギリ許せたのは、映画について喋ってるふうだったこと。

これで、映画と関係ない話してたらキレますけどね。今のシーンはああだこうだとか、話してる様子だったのでね。

まあ、終わってからやれって話ではあるけど。それでもギリギリ、まあ楽しんでるなら許してやるか…と広い心になったのでした。

 

ヒット映画における「映画館慣れしていない人のマナーの悪さ」は、日頃から映画館に通ってるような人はイラッとくることが多いのだけど。

でも、そういう「普段映画館に来ない人」まで動員してこそ、その映画はヒットしたと言えるのだろうから。映画や映画館にとっては、望ましいことかもしれないですね。

 

 

 

 

このブログ著者のホラー小説が5/23に発売されます!ブログを楽しんで頂いている方には、読んでみて頂けると嬉しいです!