みなに幸あれ(2024 日本)

監督/編集/原案:下津優太

脚本:角田ルミ

総合プロデュース:清水崇

製作:菊池剛、五十嵐淳之、小林剛、中林千賀子、下田桃子

撮影:岩渕隆斗

音楽:香田悠真

出演:古川琴音、松大航也、犬山良子、西田優史、吉村志保、橋本和雄、野瀬恵子、有福正志

①漂うA24ムード

祖父母が暮らす田舎の家にやって来た看護学生の"孫"(古川琴音)。しかし、祖父母の様子はどこかおかしい。二階からは物音がして、奥の使っていない部屋には何かがいるようだ。そんなある日、彼女は決定的なものを目撃してしまいます…。

 

着想が面白い。中心となるアイデアが独創的で、社会風刺にも通じるブラックなテーマは惹きつけられます。

ジャンプスケアよりも生理的な嫌悪感を優先した恐怖描写は気持ち悪く、Jホラー的な描写とは一線を画していて、流行りのA24作品のムードも思わせます。

 

というか、作り手が好きな映画が透けて見えます。

「ヘレディタリー」とか「ミッドサマー」好きなんだろうなあ…。

「X」「パール」とか。「MEN 同じ顔の男たち」とか「聖なる鹿殺し」を連想するところもあったな。

観てて「俺と同じ映画を観てきたのだろうなあ…」というのは、非常に強く感じました。

いや、それは勝手な想像ですけど。

 

そして、主演の古川琴音さんの熱演は見応え十分。

作り手は、古川琴音さんの向こうにミア・ゴスを見てるんじゃないかな。

日本映画に新たなホラー・ヒロイン誕生!…なのかな?って感じはありました。

古川琴音さんが、それを望んでるかどうかは不明だけど。

 

②常識がひっくり返される怖さ

描かれるのは、子供だから知らされていない、大人は誰でも知っている「風習」が、「ミッドサマー」的な邪悪で不快で気持ち悪いものだったら…という「もしも」の世界。

正常な世界から出発して、未知の異常な世界に出かけていくんじゃないんですよね。

子どもの頃からよく知っている「おじいちゃんとおばあちゃんの世界」、子どもの頃に「なんか気持ち悪いな。でも気のせいだろうな…」と思っていた世界が、実は想像の斜め上を行く異常極まる世界だったら…!

 

そこは、多くの人がうっすら感じたことがあるだろう「おじいちゃんとおばあちゃんの家の不気味さ」を反映したものになっています。

日常を過ごしている「お父さんとお母さんの家」と違って、たまにしか行かない田舎、おじいちゃんとおばあちゃんの家って、どこか雰囲気が違っていて。

いろいろと細かな「ルール」も違って。何となく気持ち悪く感じたりするものですよね。

そんな感覚を、上手く導入にしている。

 

おじいちゃんとおばあちゃんの異常な儀式が露呈して、遅れていたお父さんとお母さんがやって来る。

やっと正常な人が来た…と思ったら、お父さんとお母さんもあっち側の人だった!という転換。

明らかに異常な事態なのに、大人たちは軽い感じで薄ら笑いとかしてるんですよね。それで、恐れ慄いている主人公が「世間を知らない子ども」みたいに扱われてしまう。

 

この転換が、とても良いな!と思いました。

ショックを受けた主人公が友達に会って泣きながら訴えても、半笑いで「もしかして知らなかったの?」とか言われちゃうんですよね。

「まだサンタクロース信じてる?」とか。

異常極まるホラー状況に直面したら、実はそれは大人たちにとっては周知の事実で、誰もが当たり前に受け入れていることであり、知らなかったのは自分だけだとわかる。

これ、怖いですね。自分の信じる「世界」そのものが崩れてしまう恐怖だから。

 

この設定が、僕はとても好みでした。本作の中心となる、独創性のあるホラーアイデアだと思います。

この「常識」が、どこまでの範囲なのかわからない。この村だけの風習なのか。

嫁であるお母さんや、若い友達が受け入れているということは、この村だけじゃなく世界全体の「当たり前」なのかもしれない。

ただ自分が子どもで知らなかっただけで、本当は日本中の全部の家に「アレ」がいて、人間の社会というものはその犠牲の上に成り立っているものだったのかもしれない…。

その辺を想像していくと、より怖くなっていく…のが良かったですね。

③演技は…普通であって欲しかったけど

終盤に至るほどに狂気も極まっていって、展開される絵面も訳のわからないものになっていく。

ここも、好みでしたよ。というか、もっとぶっ飛んでもいいのに…と思いながら観てました。

 

ただ、全体を通してどうしても乗り切れなかったのは…​重要人物である「おばあちゃん」の演技のぎこちなさ

プロではない人であるようです。素朴さを狙ったのかもしれないけど、それにしてはセリフが多い。

前半は古川さんとおじいちゃんとおばあちゃん、3人きりのシーンが続くのでね。ここで現実味が感じられず、すっと物語の世界に入っていけないのは、かなり残念に感じました。

方言も使わず、機械のように抑揚なく喋るものだから、おばあちゃんは実は人間ではないのかも…なんていう余計な深読みをしてしまいましたよ。(そうだったら面白かったのに!)

 

そこだけ! そこだけ、普通だったら良かったのにな…とは思ったのだけど。

そこだけ除けば、独特で面白いホラー映画でした。

自分もホラー小説書くので! 独自性のある、意欲的なホラー映画が日本で作られるのは嬉しいことです。どんどん出てきて欲しいと思います!

 

「最恐小説大賞」を受賞した、このブログ著者のホラー小説が5月23日に発売になります。映画レビューを楽しんで頂けたら、ぜひ小説も…よろしくお願いします!

 

古川琴音さんといえば、コレかな。

 

 

 
 

 

低予算ながら頑張ってる!と思った日本のホラー映画たち。