The Last Voyage of the Demeter(2023 アメリカ)

監督:アンドレ・ウーブレダル

脚本:ブラギ・F・シャット、ステファン・ルツォビツキー、ザック・オルケウィッツ

原作:ブラム・ストーカー

製作:ブラッドリー・J・フィッシャー、マイク・メダボイ、アーノルド・メッサー

撮影:トム・スターン

美術:エドワード・トーマス

 

編集:パトリック・ラースガード

音楽:ベアー・マクレアリー

出演:コーリー・ホーキンズ、アシュリン・フランシオーシ、デビッド・ダストマルチャン、ハビエル・ボテット、リーアム・カニンガム

①「ドラキュラ」の部分だけの映画化!

ルーマニアからイギリスへ向かう帆船デメテル号。黒人医師のクレメンス(コーリー・ホーキンス)は船医として乗り込みます。航海の途中で家畜が殺され、船内を捜索したところ、積荷の木箱の中から瀕死の女性アナ(アシュリン・フランシオーシ)が見つかります…。

 

ブラム・ストーカーの古典ホラー小説「吸血鬼ドラキュラ」(1897)は、登場人物の日記や手紙、新聞記事などで構成されています。

フィクションの物語のリアリティを上げるための擬似ドキュメンタリー手法。現代のモキュメンタリーに通じる手法ですね。

ホラーの元祖と言える19世紀の小説が、そういう構成になっているのは面白いことです。

 

本作はその「吸血鬼ドラキュラ」の第7章、デメテル号の航海日誌の部分を映画化した作品です。

トランシルバニアの古城で暮らしていたドラキュラが、ロンドンへ移動するシーン。

次第に狂気を増す船長の日誌から、船にドラキュラが乗っていたことが分かる…という内容ですね。

著名な原作の一部分だけを取り出し独立したスリラー映画にするという、珍しい試み。

ブラム・ストーカーのドラキュラの映画化もいろいろありますけどね。これはなかなか変わり種と言える作品です。

 

②「エイリアン」プロットの亜流…もしくは元祖!

というわけで、本作は航海中の船という密室で、船に紛れ込んだ正体不明の怪物に乗組員が一人また一人と殺されていく恐怖を描きます。

「エイリアン」ですね! 「エイリアン」のプロットは「吸血鬼ドラキュラ」に影響を受けてる部分もあるのかな。

 

船という密室を舞台にした、エイリアン型のモンスターホラーという魅力的なシチュエーション。

元祖ですが、一周回って新鮮です。

19世紀のゴシックホラーであり、海洋ホラーであり、密室サスペンスであり、一人ずつ殺されていくスラッシャーであり、凶悪なモンスターと対決するバトルものでもあり…

思わぬ豪勢なことになっている。昔懐かしい、でも考えてみればこれまであんまりなかった、楽しいシチュエーションホラーになっていますね。

 

19世紀の帆船のムードが楽しい。船の生活のディテール、迷信深い船員たちなど。

黒人船医が乗ってたり、子供が乗ってたり、女性が強かったりするなどの原作にない追加要素は、どれくらい時代背景に忠実なのかアレンジし過ぎなのか、ちょっと分からないところがありましたが。

③ドラキュラというよりはパワー系モンスター

で、肝心のモンスター、ドラキュラですが。

いわゆる「ドラキュラ伯爵」のイメージはなかったですね。裸で獣のような、人間離れしたモンスター。

どっちかというと怪人コウモリ男、コウモリオーグのような。

オリジナルのモンスターならこれでもいいんだけど、ドラキュラなのであれば、もうちょっと知性や貫禄が欲しかった気がします。

 

殺戮シーンは良かったです! 暗闇に潜んで、不気味に蠢き、弱そうに見えて、スピードとパワーで一気に殺す。

これも、吸血鬼というよりはパワーファイターってイメージでしたが。

面白かった反面、吸血鬼のホラー映画自体最近では珍しいので、もうちょっとならでは感が欲しかったかな。

血を吸われたらどうなるのかも人によって違う感じで。アナが吸血鬼化しないので、ルールが明確にならないんですよね。

 

トーンとしては完全にスラッシャームービーなので、もう一段爽快な方向に向かって欲しい気がするのだけど。

原作を意識して…なのか、割と陰鬱で暗い方向に向かっていくんですよね。子供が犠牲になったりで、湿っぽいムードになっていく。

その辺、どうもチグハグな印象ではありました。映画が面白くなりそうな方向と、「ドラキュラ」らしさが上手く噛み合ってないような…。

ユニバーサル作品なので、例の「ダーク・ユニバース」の流れを汲む一つなのかな…遺産をどう活かそうという、試行錯誤は感じますね。

 

 

 

 

ユニバーサル渾身のダーク・ユニバースを発足直後になかったことにした伝説の?作品。

 

路線変更して単独映画の方向にした、これはよくできた傑作ホラー。