Mission: Impossible – Dead Reckoning Part One(2023 アメリカ)

監督/脚本:クリストファー・マッカリー

製作:トム・クルーズ、クリストファー・マッカリー、デヴィッド・エリソン、ジェイク・マイヤーズ

撮影:フレーザー・タガート

編集:エディ・ハミルトン

音楽:ローン・バルフ

出演:トム・クルーズ、ヘイリー・アトウェル、ヴィング・レイムス、サイモン・ペッグ、レベッカ・ファーガソン、ヴァネッサ・カービー、イーサイ・モラレス、ポム・クレメンティエフ、ヘンリー・ツェニー

①恒例のトム・クルーズ体当たりスペシャル

ロシアの新鋭潜水艦セヴァストポリが沈没。ここに搭載されていたAI「エンティティ」が世界の情報を支配する危機が起こり、AIを制御するための鍵を手に入れるため、イーサン・ハント(トム・クルーズ)が乗り出します…。

 

すっかりトム・クルーズの体当たりスタントスペシャルとなった人気シリーズの第7作、その前編。

60歳を超えたトムですが、今回も元気。

走る。飛ぶ。長いこと走る。長いこと飛ぶ。

「ジャッキー・チェンばり」という言葉をとよく使ったけど、年齢とスタントの対比という点で、もうジャッキー超えたかもしれない。

 

今回「パート1」なので、話は終わらない。「続く」なのだけど。

でも大きなクライマックスで、ひとまずの決着をつけて終わるので、終わらない不満を感じることはないです。

(その点では、最近ではやはり「アクロス・ザ・スパイダーバース」の終わり方はちょっと反則だったんじゃないかなあ…などと思ったり。)

 

②ドラマよりアクションに全振り!の潔さ

いつもながら、ストーリーに関してはまあ、そんなに重きが置かれてるわけでもなくて。

本作はやっぱりアクション

163分の上映時間にたっぷりと詰め込まれた、矢継ぎ早に繰り広げられるアクションを、お腹いっぱいになるまで堪能することができます。

 

何しろ163分もある上に、前編だから話を畳まなくていい。だから、ストーリーを進めることを気にせずに、いくらでもアクションに尺を使える訳です。

だからもう、一個一個が超長い。カーチェイスも列車アクションも、それぞれがデカ盛り級の特大ボリューム。

 

バイクジャンプシーンのメイキングでわかるように、CGはもちろん使われてるんですけどね。

それでも白けてしまわないのは、やはりトム・クルーズが体を張っていることが伝わるから。

なんというか、逆説的に、走ってないシーン、アクションしてないシーンのトム・クルーズが、だら〜んと猫背で座ってる「おじいちゃん感」を感じる場面が多くて。

なんかね。もう本当に、役者の精神の面でもアクションに全振りしてるという。

演技で目立とうとか、あわよくば賞もらおうとか、1ミリも思ってない。

むしろ、ドラマのシーンは「次のアクションへの休憩時間」であるようにすら見えちゃう。

…いやなんか、映画としてそれはどうなんだ?という気もしてきますけどね。それくらい徹底してアクションに全力投球してるので、もう何も文句は言えないのです。

③トム・クルーズのスタントを基準に構築された映画

ちょっと面白いのは、本作のアクションってちょっともう他の映画とは違う領域に入っていて。

ストーリーの必然とか、アクションシーンとしての完成度さえもさておいて、いかにトム・クルーズが体を張れるかということのみに絞って、アクションシーンが構築されているんですよね。

 

顕著なのは、公開前に早くもメイキングが紹介されていた例の「崖からバイクジャンプ」のシーン。

CGが使われては、いるんだけど。トムは実際に崖からバイクで飛んでて、崖の上に設置された滑走路を消すためだけにCGが使われてるんですね。

これ、普通と使いどころが違うじゃないですか。普通は安全な場所でジャンプして、それが崖の上であるように見せるためにCGを使うわけだから。

 

そうじゃなくて、トムがバイクで崖から飛んで、そのままパラシュートで降りるという、それをやることがまず決まってる。

で、それを実現するために最低限のCGが使われ、そのシチュエーションに合うようにストーリーが整えられる。

そんな順番なんですよね。それはやっぱり、他にない作り方。

 

なので、ストーリーの上ではちょっとギャグみたいなことになっちゃってる。

前作「フォールアウト」でも、ジェット機からの超高度スカイダイビングで潜入する先が「普通にお客さん入れてパーティーやってるディスコ」という訳のわからないことになってたし。

今回も、列車に飛び乗るために崖から飛び降りるという、無茶なことになってました。

 

他にも、ただただトムが全力疾走するための「長い通路のある屋根の上」であったり。いろいろと独特のいびつさみたいなものは、否めなくなってる気がします。

そこも含めて持ち味というところもあるし。一概には言えないんですけどね。

④殺し屋パリスの魅力

というわけで今回も基本トム映画なので、トム以外の存在感は希薄。チームプレイもあるようでない、というか。

悪役弱いですね。ガブリエル。

イーサンと因縁があるようだけど現時点ではサラッとしか描かれないので、あまり感情的に盛り上がらない。

いろいろ抜けてるしね。結構隙が多いし。

 

元ヒロインと新ヒロイン、二人のヒロインにしても、イーサンとの関係はなんか希薄。

彼女たちのせいではない…という気はしますけどね。アクションしてない時間、イーサンは今のドラマじゃなく次のアクションのことを考えてるように見えるので。

 

ただその中で、今回ピカイチの存在感を誇るのが、マンティスでおなじみポム・クレメンティエフ演じる殺し屋パリスですね。

フランス人だからパリス。キャラもシンプル。

 

英語を喋らない役なのでほとんどセリフはないのだけど。

すごく楽しそうに殺しをこなし、だんだんイーサン・ハントにライバルみたいな感情を持ってきて、最後「強敵と書いて”とも”と読む」に至る。

一人で本作の魅力的なキャラクターを担ってましたよ。

 

いや、最初どっかで見た人だなあ…と思って。

どうしても思い出せなくて。記憶を辿ると菊地凛子が邪魔をして。

マンティスと全然違うのでね。ポム・クレメンティエフとわかって、ああ!ってなりましたよ。

マンティスに終わらず、魅力的な役に恵まれてよかった。次回も出そうで何よりです。

⑤広告で見せすぎ問題

観る前にちょっと思ってたのは、予告編とかCMとか、ちょっと見せすぎなんじゃないか?ということ。

崖からバイクジャンプのシーン、あんなに見せちゃうから、てっきりアバンタイトルくらいのシーンかと思ったら。クライマックスじゃないですか。

 

まあ、ボリュームがすごいのでね。バイクジャンプ以降もてんこ盛りだし、決して既視感だらけでがっかり…ということにはならない。

答え合わせのようにはならず、十分新鮮な感覚で楽しむことはできたんですけどね。

 

それでも、バイクジャンプのシーンも見せてなければ、あの飛ぶ瞬間、もっとビックリするし、もっと興奮しただろうと思うんですよね。

そこはやっぱり、もったいないなあ…。

いや、「君たちはどう生きるか」が好対照だったのでね。これも特殊ケースですが。

それでも、何につけ「宣伝し過ぎて本編で既に食傷気味になる」問題は、もうちょっと軌道修正するべきなんじゃないかな、と思います。

 

「君たちはどう生きるか」に感化されたわけじゃないけど…広告代理店が世の中を牛耳っていた、過剰な広告で人を動かす時代は、そろそろ終わっていいんじゃないかな。