Special Delivery(2022 韓国)

監督/脚本:パク・デミン

製作:キム・ボンソ、ソク・ドンジュン

撮影:ホン・ジェシク

編集:キム・サンミン

音楽:ファン・サンジュン

出演:パク・ソダム、ソン・セビョク、キム・ウィソン、チョン・ヒョンジュン、ヨン・ウジン、ヨム・ヘラン、ハン・ヒョンミン

①「パラサイト」のキャストによるアクション!

天才的なドライビングテクニックを駆使して、訳アリ荷物を確実に届ける裏稼業「特送」で働くチャン・ウナ(パク・ソダム)。賭博を告発して貸金庫の鍵を持ち逃げした男の脱出を請け負いますが、黒幕の悪徳警官(ソン・セビョク)により男は殺され、幼い息子のキム・ソウォン(チョン・ヒョンジュン)が残されます。ウナとソウォンの逃避行が始まります…。

 

「非常宣言」に続いて、韓国映画の秀作エンタメ登場です。

「パラサイト 半地下の家族」でお姉ちゃんを演じていたパク・ソダムがクールビューティーな主人公を好演。

相棒の少年は、「パラサイト」で寄生される側の家族の息子だったチョン・ヒョンジュンが演じてます。先生と生徒の再会。念がいってますね。

 

「トランスポーター」「ベイビー・ドライバー」などを思わせる王道の設定。

カーアクションと人情ドラマのバランスもちょうどいい感じ。

いろいろ荒削りなところもありますが…とりあえず楽しさが上回るので気にならない。

スカッとする、とてもいいアクション映画だったと思います!

 

②女性らしさも感じるカーアクションの面白さ

本作の見どころ、まずはカーチェイス。

韓国の市街地の曲がりくねった狭い道で、工夫を凝らしたカーアクションを見せてくれます。

 

それこそハリウッドの同系作品と比べてCGなんかも使ってないし、たぶんお金もそこまでかかってない。

でもそこを、新鮮なアイデアとカットの工夫で面白く見せています。

 

冒頭のカーチェイスを観ていてふと思ったのは、何となく女性的なカーアクション…なような気がする…ということ。

カーアクションに女性的って何じゃ…という気もしますが。

何というか、派手に敵を吹っ飛ばしてクラッシュさせてどかーん!というカーアクションじゃなくて。

車体をくるくるスライドさせて敵を撒いたり。ニュートラルギアで音もなく坂道を下って逃げたり。すばしっこさと機転で上手く切り抜けていく、優雅ささえ感じるアクション。

…って、それも派手なことができない制約ゆえかもですが。でも上手く、ウナらしさに繋げていたように思います。

③シンプルでブレのない王道ストーリー

ストーリーはシンプルで明快。

ウナとソウォンがマクガフィンとなる貸金庫の鍵を持ってひたすら逃げて、悪徳刑事が警察とヤクザを両方使って追いかける。

分かりやすい構図がポンと示されてその枠の中で展開していくので、迷わず安心して楽しむことができます。

 

ソン・セビョク演じる悪徳刑事がなかなか憎々しくて、ブレのない悪役として機能してくれます。

嫌な感じのヤクザであると同時に警察の権力も持ってるので、ウナのピンチが明瞭に伝わる。

すごい悪辣で憎たらしいんだけど、そのギラギラした金への執着ぶりは、最後の方ではいっそ清々しくも見えてくるんですよね。

 

ウナとソウォンの関係も、極めて王道

最初は面倒くさがってるウナだけど、親を失ったソウォンにだんだん自分を重ねていって、気持ちが入り込んでいく。

ソウォンも、少しずつウナに本当の信頼と愛着を寄せていく。

 

よくある展開…といえばそうなんだけど、一つ一つの描写が過不足なく的確なので、白けることなく王道展開を楽しむことができます。

 

小道具の使い方も上手いですね。

特に「ドライバー」は本作のキーアイテムになっていて、序盤から終盤まで様々な重要局面で活躍することになります。

(ダサい邦題の「パーフェクト・ドライバー」はまさかそれを絡めてる…わけではないだろうけど)

(邦題といえば、「成功確率100%の女」というのはいったい何にあやかろうとしてるんだろう。日本の映画会社の思考がよくわからない…)

④タフで優しいアウトローの生き様を描く

いろいろと既視感ある感じではあるのだけど、韓国映画ならではなのは、ウナが脱北者であるという設定ですね。

脱北する時に家族を全員殺されたという、結構壮絶な過去を持ってる。

それが、ソウォンの悲しみへの共感につながっていくわけですが。

 

「特送」のボスであるペク(キム・ウィソン)がウナの脱北を手引きした人でもあって、彼女にとって重要な(唯一の)信頼関係になっています。

脱北者というのはやはり、韓国社会においてはもっとも、疎外されがちな存在なんでしょうね。

そんな弱い立場の人に心を寄せて、犯罪を犯すリスクを踏んでも助けようとする。

優しい人物だからこそ、裏社会で生きることになっていく。

 

本作の魅力はやはり、そんなアウトローな人たちを主人公にしているところにあります。

脱北者であったり、密入国者であったり、そうしなければ生きられない切実な事情なのだけど、日陰で生きることを余儀なくされる人々。

でも、自分がそうであるからこそ、弱い立場の人に思いを重ねて、必死で救おうとすることができる。

ペクの思いはウナに引き継がれ、そしてきっとソウォンにも引き継がれていく。

うん、やっぱり王道ですね。

⑤荒削りなところも…

気になるところもあります。

すべての発端であるソウォンのお父さんは別に正義に目覚めたとかではなく、大金を掠めて逃げようとした、でいいんですかね。

ちっちゃい子抱えて渡る橋としてはリスキーすぎて、いまいち感情移入できない感はあります。

告発によって自分が指名手配されて、黒幕の刑事は名前も出てないというのも、プロットの都合ではあるのだけど、ちょっとバカすぎやしないか…という。

 

中盤、サイコパスの殺し屋みたいのが出てきて、バイオレンスなところを見せてくれるのだけど。

強敵として立ちはだかるかと思いきや、あっさりやられる。

あげく、味方に殺されて早々と退場。なんか拍子抜け!

 

終盤、ウナがいきなり覚醒して、屈強なヤクザたち相手にバトルで無双しちゃうのだけど、これはさすがに何らかの説明が要ったんじゃないかな。

車の運転が上手い、というのは納得してるからいいのだけど。

北朝鮮にいる時に実は工作員の訓練受けてたとか、別になんとでも設定作れるだろうに。

 

ラスト、ウナが死んだと思わせて…のところも、どうも見せ方がミスってる気がしました。

ウナが生きてたことを意外に見せたかったなら、どうやって生還したのかのシーンは絶対必要でしょう。

沈んでいく鍵束のショットがあったので予想つくよね…ということなら、ウナが死んだかのようにミスリードする展開がまるまる余計だと思います。

ラストの筋書き自体は好きだったので、この見せ方のブレは残念に感じました。

 

とはいえ、その辺小さなところなので!

全体としては、すごく気持ちよく楽しめる快作アクション映画だったと思います!