The Right Stuff(1983 アメリカ)
監督/脚本:フィリップ・カウフマン
原作:トム・ウルフ
製作:アーウィン・ウィンクラー、ロバート・チャートフ
製作総指揮:ジェームズ・D・ブルベイカー
撮影:キャレブ・デシャネル
編集:トム・ロルフ
音楽:ビル・コンティ
出演:サム・シェパード、スコット・グレン、エド・ハリス、デニス・クエイド、フレッド・ウォード、パメラ・リード、ヴェロニカ・カートライト、バーバラ・ハーシー、ランス・ヘンリクセン、チャールズ・フランク、スコット・ポーリン、リヴォン・ヘルム、ドナルド・モファット
①Best Movie in the World!
午前十時の映画祭にて。
「トップガン マーヴェリック」を観たら無性に「ライトスタッフ」が観たくなったのだけど、まさにちょうど午前十時の映画祭のラインナップに入ってました。
連日で「トップガン マーヴェリック」「ライトスタッフ」という至福の日々。
マーヴェリックがマッハ10に挑んだ次の日に、チャック・イェーガーがマッハ1に挑むことになりました。
エド・ハリスも老将軍からとんがった若者へ。
僕は個人的にこの映画が大好きで、1984年に初めて観て以来、もう何回観てるか数えきれないのですが。
何回観ても、グッとくる。ラストで込み上げてしまうのです。
ゴードン・クーパーがBest Pilot in the Worldだと、ナレーションが言うところで。
感動があって、興奮があって、笑えて、泣けて、手に汗握って、しみじみして、カッコよさに憧れて…。
これ以上映画に何が必要?と言いたくなるような。パーフェクトな映画です。自分にとっては…ですが。
②多面的な視点、奥深い映画
「ライトスタッフ」はマッチョな映画です。
軍というマッチョな価値観の場所で、誇りとか名誉とか形のないもののために、惜しげもなく命をかけてトップを目指す男たちの物語。
そこでは何よりも、ヒーローの「資質」が至上価値とされる。
「ロッキー」でもおなじみのビル・コンティの勇壮なスコアが鳴り響き、男たちは自分自身の限界に挑んでいく…。
自分自身は、こういうマッチョな世界観に縁のない人間なんですけどね。体育会系の世界はむしろ苦手。
でも、不思議と「ライトスタッフ」には惹かれるんですよね。
自分にないものだからこそ、憧れるのかもしれない。
ただ一方で、「ライトスタッフ」は決してマッチョなだけのアメリカ万歳みたいな単純な映画ではないんですよね。
非常にシニカルな視点もある映画で。
女性の視点で、男たちの「愚行」を客観視する視点がちゃんとある。
「ライトスタッフ」ではパイロットである男たちだけでなく、その妻である女性たちも一人一人とても個性的に描かれています。
主婦である彼女たちが受ける抑圧も丹念に描写されているし、それだけでもなく。
現代的な職業的自立とはちょっと違うけれど、彼女たちもそれぞれ自分の決断でその立場を選んでいて、自分なりの自己実現を目指す様子が描かれています。
米ソの宇宙開発競争もコミカルに戯画化されていて、アメリカへの批評精神も込められている。
時代背景的に、確かに主役になるのは白人男性ばかりではあるのだけど。
アラン・シェパードが「ホセ・ヒメネスのマネ」をめぐってやり込められるシーンなど、白人男性の無神経さを風刺するシーンも入っています。
非常にバランスの良い、多面的な映画になっています。長いだけのことはあるのです!
シニカルな批評的視点で様々な側面から描いた上で、その上でなお色褪せない、チャレンジ精神の素晴らしさが描き出されていくんですよね。そこにまた、シビれる。
愚行にも思える一人一人の男たちのチャレンジ精神が、またそれを支える女たちの情熱が、人類全体の大いなる進歩につながっていく。
そういう過程があるからこその、感動なのです。
③ライトスタッフの俳優たち
「ライトスタッフ」は俳優たちが印象的な映画です。
チャック・イェーガーを演じたサム・シェパードは、まさに中2殺しみたいなカッコよさですね。
あんな男前なのに元々俳優じゃなく劇作家で、ピューリッツァー賞取ってて、「パリ、テキサス」の脚本家。
こんなカッコいい存在がこの世にあるのかと思いましたね。中2心に。
宇宙飛行士たちでは、「トップガン・マーヴェリック」にも出てたエド・ハリス。後に上院議員にもなったジョン・グレンを演じています。
エド・ハリスは今回「午前十時の映画祭」でペアになってる「アポロ13」にも出ています。こちらでは管制官を演じていました。
宇宙関係では「ゼロ・グラビティ」にも声だけですが出ていて、やっぱり「ライトスタッフ」からの連想が働くのかなと思います。
不運な宇宙飛行士ガス・グリソムのフレッド・ウォードは、2022年5月8日に亡くなりました。追悼。
亡くなった時のニュースでは、代表作とされるのは「トレマーズ」か本作でしたね。
基本明るいトーンの本作では唯一、失敗して激しく気まずいムードを醸し出すガス・グリソムは、それだけに強い印象が残りました。
ラストのナレーションでアポロ1号での悲劇的な事故死がサラリと伝えられ、愕然とします。
他にも、「デイ・アフター・トゥモロー」のデニス・クエイド、「羊たちの沈黙」のスコット・グレン、「エイリアン」のヴェロニカ・カートライト、「キンダカートン・コップ」のパメラ・リードなどが印象的です。
この辺の人たちみんな、別の映画で見ると「ああ、ライトスタッフの人…」と思って、ついつい嬉しくなっちゃうんですよね。
あとは、若き日のジェフ・ゴールドブラムがコメディの役回りをこなしてますね。
変わったところでは、ザ・バンドのドラマーだったリヴォン・ヘルム。イェーガーにガムを貸すリドレー役で出演しています。
マーキュリー・セブンの宇宙飛行士に関しては、2017年の映画「ドリーム」がちょうど同じ時期を扱っています。
ジョン・グレンが目立つ役回りになっていました。
これはちょうど「ライトスタッフ」の裏側みたいな映画なので、併せて観ると楽しいですね。
マーキュリー計画はその後ジェミニ計画、アポロ計画と続いていくことになります。
アポロ計画を描いた「ファースト・マン」(2018)には、ガス・グリソムとディーク・スレイトン、それにチャック・イェーガーも出ています。
ここでは、ガス・グリソムの悲劇的なアポロ1号の事故も描かれています。
ディーク・スレイトンはマーキュリー計画では宇宙飛行しなかった唯一のメンバーで、「ライトスタッフ」では目立っていないのですが、NASAの管理職になって「アポロ13」(1995)にも登場しています。