Prisoners of the Ghostland(2021 アメリカ)

監督:園子温

脚本:アーロン・ヘンドリー、レザ・シクソ・サファイ

製作:マイケル・メンデルソーン、レザ・シクソ・サファイ、ローラ・リスター、コウ・モリ、ネイト・ボロティン

撮影:谷川創平

編集:テイラー・レヴィ

音楽:ジョセフ・トラパニーズ

出演:ニコラス・ケイジ、ソフィア・ブテラ、ビル・モーズリー、ニック・カサヴェテス、TAK∴、中屋柚香、YOUNG DAIS、古藤ロレナ、縄田カノン、栗原類、渡辺哲

 

①好みのカオス映画

ニコラス・ケイジ主演、園子温監督。

予告編を観て、おっ面白そう…と思いつつ、でも激しく匂い立つ地雷臭

これは多分、好きか嫌いか、どっちに転ぶか五分五分の映画。

 

ニコラス・ケイジだし、B級なのは良いとして、ただ内向きにふざけてるだけの小劇団的内輪ノリだったらイヤだなあ…と。

「パンク侍」にうんざりした記憶が蘇る。アレの匂いも濃厚にしてる。

今時、カミカゼハラキリスシゲイシャなスキヤキウェスタン風の雰囲気もちょっと怖い。大丈夫なのか。

ちらっとレビュー見たら、概ね低評価。既に荒れてる感も…。ますます不安はつのる…。

 

というわけで、ほぼ信用しない状態で観てきました。

なんだけど!当たりの方でした!

とても面白かった!です。いろいろとカオスだけど決して悪ふざけではない、好みのカオス映画でした。

②狂人たちのワンダーランド

ガバナー(ビル・モーズリー)が支配する街から脱走したバーニス(ソフィア・ブテラ)は、ゴーストランドで囚われの身に。銀行強盗の失敗で服役していたヒーロー(ニコラス・ケイジ)はガバナーに爆弾付きの服を着せられ、バーニスの救出に向かわされます…。

 

世界観が魅力的です。原色の、江戸の花街とウェスタンが一体化した世界。

未来なのか過去なのか、異世界なのかもよく分からない。がいて刀持ってて、花魁がいるけど女子高生もいて、マッドマックス的世紀末のようだけどみんなスマホ使ってる。

 

つまりは、混沌の世界です。リアリズムに根ざした世界じゃない。アリスの白昼夢を和風の闇鍋でごった煮にしたような悪夢の世界。

寺山修司的な前衛っぽくもあり、「銀魂」的な軽いポップ風味もあり。

 

アリスの世界なので、登場人物は基本的にみんな狂ってます。程度の差こそあれ、基本的には全員が気違い

なので会話は噛み合わないし、みんな突然叫び出したり歌い出したり、いろんな言語のちゃんぽんで喋ったり、します。

そんな狂気の世界の中に、アリスの代わりに「いつも通りのニコラス・ケイジ」が放り込まれ、脱出を目指して冒険する…というお話です。

そのニコラス・ケイジも、いつも通りに狂ってるんだけど。

 

そういう映画です。って、どういう映画か分からないと思うけどそうとしか説明できない。

この時点で「意味わからん。イラッとする」と思った人はたぶん、映画が始まって早々に脱落する可能性が高いです。

「意味わからんから、どんなんか見てみたい」と思った人は、きっと飽きることなく最後まで楽しめるんじゃないでしょうか。

 

③原発に呪われた世界という地獄

混沌とした狂った世界ではあるけれど、でもただめちゃくちゃなデタラメというわけでもない。観ているうちに、メタファーのようなものはいろいろと見えてきます。

ゴーストランドは福島第一原発ですね。時計は「前の爆発」で止まってて、動かしたら「また爆発する」からみんなで秒針を引っ張って止めてる。

これはつまり原発が爆発してすべてが滅んだ後の世界であるということか。

原発と放射能についての言及はあちこちに見られて、ゴーストランドは「ストーカー」のゾーンのようにも見えてきます。

 

ニコラスの相棒、ニック・カサヴェテス演じる「サイコ」は放射能に焼かれ、落武者の亡霊を従えてる。

(予告編の「サイコー!」がまさか名前だったとは!)

彼らだけでなく、ゴーストランドだから、要するに住人たちはゴーストなんでしょうね。

放射能の呪いで、その地に繋ぎ止められた幽霊たち。

 

いろいろと日本に対する「不謹慎な」おちょくりが散りばめられていて、カチンとくる人もいるのだろうな…と思わされますが。

でも「核のメタファー」は意外と真剣なメッセージ性が込められているように感じましたよ。

 

ニコラス・ケイジにとっては住民たちは「彼がこれまでに犠牲にしてきた者たち」ということになっています。だから彼にとって、この世界は地獄ですね。

このワンダーランドは地獄。すべての登場人物たちは、呪いとしがらみに囚われた亡者たち。

サムライタウンもゴーストランドも、要は成仏しない亡者たちが彷徨う地獄なんでしょう。

そんなふうに捉えると、この映画の狂った世界観はいちばんしっくり来るようです。

④ニコラス・ケイジの肉体という説得力

どこまでもとっ散らかってしまう観念の世界だけど、そこに鋼鉄の芯を通すのが、ニコラス・ケイジのどっしりとした肉体です。

冒頭の白ふんどしは「マンディ 地獄のロード・ウォリアー」での白ブリーフを思い出しますが、ニコラス・ケイジ、あの頃と比べてかなり体絞ったんじゃないですかね。

 

いろいろとヒドイ目に遭うのはいつもの通りではあります。

「女に暴力を振るおうとしたら爆発する」というコンプラ的に正しい爆弾を両腕両足股間と首に埋め込まれて、それが実際爆発してキンタマ片方吹っ飛ばされ、満身創痍になっていくのだけど。

それでも立ち上がって戦おうとするのはカッコいい。

 

対するサムライはTAK∴こと坂口拓。役名はヤスジロウ。

彼の切れ味鋭い殺陣が、本作が緩さの坂を転げ落ちてしまうのをギリギリで防いでる…という気がします。

ニコラス・ケイジ対TAK∴のアクションシーンは、純粋に面白い。見応えのあるものになっていました。

 

「キングスマン」のソフィア・ブテラも、終盤ですがちゃんとバトルを見せてくれます。

彼女が戦闘できるという必然性も、物語的にはないんですけどね。でも戦う方がいいですもんね。

⑤スケールの小ささは否めないけど…

いろいろといいように書いてますが、全体にスケールの小ささ、ショボさは否めないです。舞台劇のような映画ではあります。

ほぼ全部、東映太秦映画村で撮ったんじゃないか?というくらいのスケール感。

サムライタウンからゴーストランドへ移動するのも、映画村の中で移動してるくらいの距離感ではあります。ママチャリがちょうど良さそう。

 

低予算であることは歴然とした作風ではあって、もうちょっと何とかならんかな…という気はします。

せっかくハリウッドで撮るんだから…この手の日本映画的小さな枠を打ち砕くのが、ハリウッドという環境の変化なのでは。

 

ただ、自分からバカ映画と開き直ったり、内輪ノリで自分たちだけ面白がってるような、安っぽい内向きの悪ふざけ感がなかったのは良かったです。僕はどうにも、アレが嫌いなんですよね…。

メタな楽屋落ちギャグとか、しょうもないアドリブとかもなくて、バカな話であっても、あくまでも大真面目に、真剣に撮ってる。

 

というわけで、個人的にはとても楽しめた映画でした。

合わない人はとことん合わないと思うので、簡単には勧められない。人を選ぶ作品とは思いますけどね。

アングラな表現に抵抗がない、狂った人ばかり出てきても大丈夫…という人なら、きっと面白がれるんじゃないでしょうか。

 

ニコラス・ケイジをヒーローに、アングラなアクションを大真面目に描く。本作と似たところが多い気がするベルギー映画です。

 

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