急先锋 Vanguard(2020 中国、香港)

監督/脚本:スタンリー・トン

製作:スタンリー・トン、バービー・タン

製作総指揮:スタンリー・トン

撮影:クリス・リー

編集:ヤウ・チーワイ

音楽:ネイザン・ウォン

出演:ジャッキー・チェン、ヤン・ヤン、アレン、ムチミヤ、シュ・ルオハン、ジュー・ジャンティン

①プロジェクトにあらず、ジャッキーメインにあらず

旧正月に湧くロンドンのチャイナタウン。VIPの実業家チョンが誘拐され、民間警備組織ヴァンガードトン(ジャッキー・チェン)は非番だったロイ(ヤン・ヤン)ホイシュン(アレン)に出動を要請します。救い出したチョンは中東の過激派オマルに狙われていました。チョンの娘ファリダ(シュ・ルオハン)を守るため、ヴァンガードの面々はアフリカへ向かいます。

 

このブログでのジャッキー映画は「カンフー・ヨガ」「ザ・フォーリナー 復讐者」に続いてになります。

「ポリス・ストーリーREBORN」「ナイト・オブ・シャドー 魔法拳」は飛ばしてるな。

本作も上の「ポリス…」と一緒で、「プロジェクトV」は例によっての勝手な邦題

特に「プロジェクトA」シリーズとは何の関係もない作品です。

もう今さら誰も騙されない感じですが、それでもこういう題をつけるのは、やっぱり興収に違いが出るのでしょうか。

 

原題は登場する民間警備会社の名前Vanguardで、前衛、先陣、先遣部隊などの意味。

中国語の原題は「急先鋒」なので同じ意味ですね。

 

本作は一応ジャッキー主演作品ですが、それもやや微妙な感じで。

ジャッキーはあまり表立って活躍せず、ボスとして後ろに控えている感じで、主に若手が先鋒に立って活躍します。

なので、まさに「ヴァンガード」が主役。

個人でなくチームの活躍を描く、ジャッキー映画としては割と意外なタイプの映画になってます。

 

②若手中心でジャッキーらしさを再現

…と、ややネガティブな感じで書き出してしまいましたが、僕はこの映画、結構楽しみました。

非常にスピーディーな、見せ場が連続するシンプルなアクション映画。風光明媚な世界観光にもなっていて、銃撃戦と肉弾戦がうまい具合にミックスされ、スーパーカーのカーチェイスもある。

素直に、なかなか面白いアクション映画だったんじゃないかと思います。

 

物語のメインになるのは若手の二人。ロイ(ヤン・ヤン)ホイシュン(アレン)です。

ジャッキーはヴァンガードの社長なので後ろにでんと控えてる感じで、この若くて生きのいい二人が前に出て、バンバン走ったり飛んだり戦ったり落ちたり、痛みの伝わるスタントを含めたジャッキー映画的アクションをこなしていきます。

 

それにプラスして、女性メンバーのミヤ(ムチミヤ)がなかなかカッコいい立ち回りを見せてくれます。

ヒロインは悪者に狙われるファリダ(シュ・ルオハン)で、ロイとのロマンスもあったり。

ロイとホイシュンのバディぶりがいい感じで、そんなに凝った展開とかはないですが、気持ちのいいチームアクションが展開していきます。

 

若手が前に出ているので、今回非常にテンポがいいですね。アクションシーンが速い速い。

俳優たちは特にアクションにたけた人たちというわけでもなく、その辺はやっぱり、昔のムードとは違いますけどね。そこは、ジャッキーの信頼厚いスタンリー・トン監督の武術指導と演出で、十分に見応えのある楽しいアクションに仕上がっていると思います。

 

ジャッキー本人がやっているのではなくても、ジャッキー映画らしい、その場にある様々な道具を使った、工夫を凝らしたコミカルなアクションは健在です。

今回、無理にジャッキー本人にやらせていないので、軽いスピード感が得られていて、それこそジャッキーの若い頃の映画のような、軽妙なテンポが復活している…という言い方はちょっと寂しいところもあるでしょうか。

まあ、ジャッキー本人を見たい気持ちもあるけど。ジャッキーはいなくてもジャッキーらしさはあるというか、これはこれで「今のジャッキー映画としてアリ」なんじゃないかとも感じたのです。

③ジャッキーはコミカル担当

そんな中で、ジャッキーは貫禄のある感じで、ボスとして後ろに控えてます。「太陽にほえろ」で言うところの石原裕次郎ポジション…て感じですね。

それでも、それぞれのミッションにはちゃんと前線に出て戦っていく。決して出番がないわけじゃないです。

 

今回のジャッキーはコミカル担当。若手がシリアスなストーリーとアクションを進める一方で、息抜きのようにスカしとズッコケのギャグを挟んでいます。

シュッとした若手の中で、おじさん体型のジャッキーがいて、動きもやっぱりドタバタしちゃうから、確かにこの役回りは自然といえば自然ですね。

 

バトル中に見事なタイミングで差し込んでくるコミカルな動きは、ジャッキーの真骨頂でさすが…という感じですが。

ショッピングモールで、2階から飛び降りる!…と見せかけて「階段で行こう」というようなシーンは自作を踏まえての自虐ギャグで、面白いけど一抹の寂しさもありますね。

 

あ、でも本作でも、ジャッキーはしっかり強く、カッコいいヒーローとして描かれています。ヴァンガードのボスとして、部下を決して見捨てない漢気溢れる姿は頼もしいものがあります。そのあたり、若手を取り立てて余裕を見せる現在のジャッキーの姿とも被ってきますね。

アクションは前へ前へと出る主役ではないけど、要所で見せるオリジナリティ溢れるキビキビした動きはさすが、目を見張るものがありました。

 

それに、スタントも。滝の激流でのアクションではしっかり自ら危険なシーンを演じていて、ラストのNG集では「転覆したボートの下敷きになって45秒間水中に消えた」あわやのシーンも。

体を張って本物のアクションを見せる姿勢は、本作でも健在です。

④ロケの迫力と、ドバイマネーの底力

「カンフー・ヨガ」に続いて、今作も世界各地の名所をめぐっていきます。

本家007が延期延期になっている今、かつての007映画の風光明媚なムードを継承してるのはジャッキー映画かもしれません。

 

今回、「カンフー・ヨガ」以上に世界各地でのロケ撮影が目立っていて、非常に臨場感がありました。セット撮影がほぼなくて、ほとんどのシーンをロケで撮ってる。

2020年の旧正月に賑わうロンドンとか、歴史を感じさせる古城とか、それにビクトリアの滝も。

人々が行き交う本物の街でカーチェイスや銃撃戦を繰り広げ、古そうな建造物も気にせずぶっ壊して破天荒なアクションを見せる。

この辺の気持ちいい何でもアリ感は、今はハリウッドではできない、中国映画ならではの表現かもしれません。

 

ビクトリアの滝は実際は台湾での撮影、中東の古城はインド…であるらしいですが、どちらにせよCGなどではなく、本物のロケーションの迫力がありますね。

終盤は、ドバイの街で黄金のスーパーカーがカーチェイスを繰り広げるという、実にゴージャスな成金アクション。

この辺、「カンフー・ヨガ」もそうだったけど、ドバイの本物のオイルマネーのパワーを感じますね。そういうパワーを得られるのも、ジャッキーをリスペクトするファンが世界中にいるからこそだから。ジャッキーの歴史あってのことと言えますね。

⑤ラストはあっさり。NG集は健在!

不満点は…ラストかな。終盤までいい感じで盛り上がった割には、なんか意外なほどにあっさりしたラストでした。

 

敵が手に入れた「秘密兵器」は米軍の空母を攻撃するけど、大したダメージを与えることもなく、あっさり撃墜されちゃう。

あれ?って思いました。映画なんだから、世界滅亡の危機だって別に演出できるのに。なんか急にリアルな感じ。

 

敵ボスを追い詰めて、さあラストバトルかな…と思ったら、ろくに戦わないまま雑魚キャラ並みにあっさりやっつけて終わっちゃいました。

ジャッキーのバトルがないのはともかく、ロイのバトルもほとんどない。

まあ、特に格闘技的に強い敵キャラという設定でもなかったから、自然といえば自然だけど。

ここはやっぱり、一通りのラストバトルは見たかったな。

 

本物のロケやスタントにこだわる一方で、CGも多用されてるのは最近の傾向で、本作ではライオンとかハイエナとかのシーンはいかにもCGに見えちゃいますね。

まあ、これも多彩なサービス精神の一環なんだろうけど。

 

エンドクレジットではNG集があります。やっぱり、ジャッキー映画では欠かせないですね。

映画のバランスを反映して、NG集もあんまりジャッキー一色というわけでは、ないです。ジャッキーの見せ場としてはさっき書いた「死にかけた」シーンと、あとは現場で若手と笑い合ったり、お菓子配ったりしてるところですね。ジャッキーの人柄が感じられます。

 

今回のNG集では、演出するスタンリー・トン監督が映っているシーンが多かったように感じました。本作はジャッキー映画というよりはスタンリー・トン映画で、ジャッキーも盟友を立てて、自分はちょっと引いていたのかもしれない。

スタントマン出身で、映画のスタントシーンは自らやって見せるというトン監督。ジャッキーとは誕生日も同じで、長年の信頼関係がある。

そういう背景も含んで、とても明るく、楽しいムードの作品になっていたと思います。

 

 

 

 

 

 

ジャッキー&スタンリー・トンの最初の作品。