Haunt(2019 アメリカ)
監督:スコット・ベック、ブライアン・ウッズ
脚本:スコット・ベック、ブライアン・ウッズ
製作:イーライ・ロス、トッド・ガーナー、マーク・ファサーノ、ビシャル・ルングタ、アンクル・ルングタ
撮影:ライアン・サマル
編集:テレル・ギブソン
音楽:トムアンドアンディ
出演:ケイティ・スティーヴンス、ウィル・ブリテン、ローリン・マクレイン、アンドリュー・コールドウェル、シャジ・ラジャ、スカイラー・ヘルフォード
①工夫が楽しいお化け屋敷ホラー
「グリーン・インフェルノ」「デス・ウィッシュ」「ルイスと不思議の時計」のイーライ・ロス製作、「クワイエット・プレイス」の脚本家コンビによる監督/脚本によるホラーです。
ハロウィンの夜、男2人女4人の若者グループが、郊外にあるお化け屋敷へ。誓約書を書いてスマホを預け、中に入った若者たちは、初めのうちはキャッキャと楽しんでますが、だんだん雰囲気が変わってきます。
実はそこは、本物の殺人鬼たちが作った本気で殺しにくるお化け屋敷だったのでした…!
いい設定!ですね。マスクの殺人鬼たちが一同に集まって作った、仕掛けたっぷりのお化け屋敷。
「お化け屋敷ホラー」ってデート向きのホラー映画の形容でよくありますが、これはまさしくそのものです。
ナイフが落ちてくるとか、オルゴールに合わせて銃が発射されるとか、ホームアローン的な様々な殺しの罠も楽しい。
それを殺人鬼たちがワイワイ相談して考えて、みんなで協力して手作りしたかと思うと、なんか可愛いところもありますね。
お化け屋敷のお客さんは怖がりに来るわけだから、いくら怖いことがあっても、襲いかかっても、基本的には逃げたり抵抗したりしない。
ここに入れとか危険なことをやれとか、全部言う通りにやってくれるし。
なんだったら目の前で殺人を見せても、よく出来たアトラクションと思って油断していてくれる。
そのあたりの「お化け屋敷の特性」がうまいこと生かされていて、なかなか独特な面白みがありました。
②マスクの殺人鬼大集合
本作の見どころは、次々登場するマスクの殺人鬼たち。
ジェイソンやフレディやマイケルやレザーフェイスみたいな、個性的な殺人鬼たちが惜しげもなく大勢登場して、楽しい暴れっぷりを見せてくれます。
フォーク持ってる奴とか、ハンマーとか、チェーンソーとかエモノもいろいろで、歴代ホラーヒーローへのオマージュも感じさせますね。
そういえば、冒頭は最近レビューを書いたばかりの「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」の映像でした。おお、シンクロ。
殺人鬼は6人。マスクも6種類。
リーダー格のピエロ。
でっかくて怖い赤い奴デビル。
敵か味方か…って感じで絡んでくるゴースト。
焼きゴテで処刑ずる魔女、ウィッチ。
チェーンソー振り回すゾンビ。
あと、…どんなんだっけ、ヴァンパイア。
それぞれ微妙に、怒るポイント、触れられたくないポイントが違っていたり。
更にマスクをとっても、マスク以上に凝った顔が現れます。2度美味しい!
ただ、前半の何人かは個性があって面白いんですけどね。6人もいるもんだから、後半はどれがどれだか…って感じになっちゃうのは否めないです。
③殺人鬼たちのお化け屋敷運営は…あまり上手くない!
そんな感じで、前半は割と面白くてワクワクしたんですが。
後半になるにつれ、設定が上手く消化しきれてない感じはありましたね。いろいろと無理がでてきて、グダッとなっていく。
割と早い目に、仲間がいなくなったり怪我をしたりして、みんな「すぐに外へ出たい」マジモードになっちゃうんですよね。
ここはやっぱり、中の一人くらいはいつまでも鈍感で、「嘘に決まってるだろ、楽しまなきゃソンだよ!」とか言わせて、皆をミスリードしたりして欲しかったな。
皆が早めに「もういやモード」になっちゃうのは、お化け屋敷の運営側の演出が、あんまり上手くない。グダグダ感が出てきちゃうせいかもしれません。
最初の、別のお客さんが殺される(のをショーっぽく見せる)あたりまではいいんですが、そのあと、何も起こらない時間が長くて間延びしちゃう。その割には狭いところ通らされたり、微妙な怪我をさせられたり、大事なものを失くしたり、怖いというより不快な目にあわされちゃうので、みんなイヤになってしまう。
「お化け屋敷として面白くない」になっちゃうんですよね。そこはちょっと、残念な印象でした。
やっぱり、殺人はプロでもお化け屋敷の運営は素人だから、かなあ…。
お化け屋敷で運営側が殺人鬼って、もうハナっから殺人鬼側が圧倒的に有利な設定じゃないですか。
お客さんは基本的に言われるがままだから、殺人鬼側はいつでも殺そうと思えば簡単に殺せる。
だから、主人公たちが襲われて逃げ切るか捕まるかのスリル…といっても、結局は殺人鬼側のあんばいでどうにでもなってる感が強くて、もうひとつ盛り上がらないんですよね。
例えば、主人公が怪我して慌てて立ち上がろうとしていて、殺人鬼は天井からナイフを吊るしてるロープをノコギリでギコギコ切ってる、なんてシーンがあるんですが。
本気で殺しに行くんだったらそんな悠長なことしてないで、そのノコギリで主人公を攻撃しに行けばいいじゃないですか。
かと思うと主人公以外のところでは、あっさり直接殺してしまったりする。
殺人鬼側、お化け屋敷の運営側に、もうちょっと厳格なルールがある方が、ゲームとして成立したんじゃないかな…という気がします。
本作はあまりにも、殺人鬼側が自由なので。その割にはどんどん主人公に反撃されちゃうので、殺人鬼側がいかにもアホに見えてきます。
④意外に暗いムード
本作でもう一つ意外だったのは、全体的に暗いムードで、終始進んでいくこと。
事前情報から受けていた印象は、いかにもデート向きのホラー映画という感じで。
もっと陽キャのパリピな人たちが、ヒャッホー言いながら殺されていくような、アホだけど楽しいイベントムービーなのかと思っていたんですよね。お化け屋敷だからね。
主人公のハーパーは内向的な少女。陽気なキャラの中に、主人公は割と暗めな子を置くのは割と昔からホラーの定石ではありますが。
本作では、結構ハーパーの設定が重いんですよね。
冒頭から元カレの陰湿なストーカーに悩んでて、かなり鬱的なムード。
さらに、彼女には幼い頃に父親に虐待された…というトラウマもあって。なんだかやけに、シリアスで内省的なムードです。
仲間たちとハロウィンの夜にパーティーに繰り出し、お化け屋敷に出かけていく…という辺りも陽気なムードになりそうでならない。
仲間たちも、あんまりヒャッホー!な感じじゃない。結構まじめっぽい。なんか、陽気なパリピというよりはみんな隠キャムードなんですよね。
いや、別にそれはそれでいいんだけど。なんとなーく、思ってたとの違うムードではあります。
ハーパーの過去のトラウマのエピソードは、殺人鬼の襲撃の中でシンクロして、勇気を出して殺人鬼に立ち向かうことが自分の過去を克服することにつながる…わけだけど、……でもそれ別になくても良いのではないかな?という気も少し。
また、陰湿なストーカーの元カレは、付け回してくるのを逆に利用して、携帯で位置情報を伝えて呼び寄せるんですよね。
嫌なストーカーが、意外に救いの神になる。あるいは、嫌なストーカーを上手いこと利用して、逆転のチャンスを引き寄せる。またまたあるいは、救いの神と思ったストーカーが、殺人鬼より悪い脅威になってしまう…。
そんな展開を期待したんですが、来た瞬間に殺されて、全然ストーリーに絡まずに終わり! 「シャイニング」のディック・ハローランもびっくり。
うーん…もうちょっと活躍させても良かったんじゃないのかな。
⑤ラストは気持ち良い!
というわけで、設定のアイデアは面白いんだけど、それを展開させる力はちょっと足りてない。
いろいろと力の及んでないところが目につく作品になってしまっていたかな…と思います。
あ、でも最後は気持ちよかったです。暗くてウジウジしていた主人公がえらい強くなってる…という、これもホラーの定石ですね。
そこをしっかり押さえてるのは、良かったんじゃないでしょうか。