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A4、40ページ、オールカラー。850円。

表紙に質感があって高級感があります。

 

見返しにはこの映画の象徴となっている、映画「モダン・タイムス」の主題歌、スマイルの歌詞が掲載されています。

1936年、チャップリン自身が作曲し、映画に使われました。

歌詞とタイトルが加わったのは1954年。ジョン・ターナーとジェフィリー・パーソンズが歌詞を加え、ナット・キング・コールが歌いました。マイケル・ジャクソンもカバーしています。

 

Smile, though your heart is aching 

Smile, even though it's breaking 

When there are clouds in the sky 

You'll get by 

 

笑って 君の心が痛んでも

笑って たとえ心が砕けそうでも

空に雲があるとき

君は切り抜けられる

 

If you smile through your fear and sorrow 

Smile and maybe tomorrow 

You'll see the sun come shining through for you.

 

もし君の笑顔が恐れと悲しみからきたとしても

笑えばたぶん明日には

きっと太陽が君を照らすのが見えるだろう 

 

Light up your face with gladness 

Hide every trace of sadness 

Although a tear may be ever so near 

 

君の顔を喜びで満たせ

悲しみの痕は隠しておけ

たとえ涙が溢れそうでも

 

That's the time you must keep on trying 

Smile, what's the use of crying 

You'll find that life is still worth while 

If you just smile 

 

そんな時は頑張り続けるんだ

笑うことを 涙は役に立たないから

人生にはまだ価値があるとわかるだろう

もし君が笑うなら

 

ホアキン・フェニックスのインタビュー。

「ジョーカーの大きな魅力は、彼を定義づけるのがすごく難しいところ。撮影中は毎日、彼の人格に新たな面を発見していました。撮影が始まった頃と、撮影が終わる頃の彼はまるで別人。僕自身、こんな経験は初めてです」

 

「彼の人生をすべては知らないし、彼は信頼できない語り手だから、何が事実で何がそうでないかも分からない。でもアーサーが事実だと信じていることなら、僕は事実として演じなきゃいけません」

 

「僕たちは『人生に簡単な答えはない』ということをコミックス映画で描きたいと思いました」

 

「この映画で大切なのは、誰しも、ただの観客でいることが簡単ではなくなること。ジョーカーに共感を覚える時もあれば、応援する時もあり、逆に嫌悪すべき時もある。そこに簡単な答えがあるべきではないと思います」

 

トッド・フィリップス監督のインタビュー。

「この映画は、若い頃に観た『タクシー・ドライバー』『狼たちの午後』『カッコーの巣の上で』『セルピコ』といった人物描写重視の傑作に影響を受けています。なぜ最近ああいう映画が作られないのかと思っていましたが、きっと観客から求められなくなったからですよね。そこで『人物中心の映画に観客を呼ぶには…』と考えた時に、コミックス映画でやろうと思ったんです」

 

「僕が惹かれたのは、ジョーカーの物語ではなく、ジョーカーに”なっていく”物語。僕たちのジョーカーは、世界を炎上させることが目的ではありません。自分を無理やり微笑ませる冒頭の場面から、アーサー・フレックは自分のアイデンティティを探している男です。アーサーからジョーカーへの変身はゆっくり進み、『ここで変わった』と言える決定的瞬間はありません」

 

「『ジョーカー』は政治的であることを意図した作品ではありませんが、挑発的であることは意図しました。なので、この映画がただの『ジョーカーの物語』だと思われても、かまいません。むしろ(政治的な)メッセージを帯びた映画と決めてしまいたくないんです」

 

「確かなのは、僕たちは『革命を起こせ』と言いたいのではないということ。けれども、人々が革命を始める理由を考えて欲しいとは思います。経済的不公平を人々が感じていることは否定できませんし、これは米国だけの問題ではないので」

 

「なぜジョーカーは笑えたのか」と題するパートで、6本のコラムが掲載されています。

 

町山智浩氏のコラム「ジョーカーがたどり着いた笑顔と、そこに潜む狂気」

コミックのジョーカーのヒントとなったサイレント映画「笑う男」(1928)、デ・ニーロの「キング・オブ・コメディ」(1982)や「タクシー・ドライバー」(1976)、チャールズ・ブロンソンが地下鉄でチンピラを射殺する「狼よさらば」(1974)、チャップリンの「モダン・タイムス」(1936)、ジョーカーが降りる階段に似ている「エクソシスト」(1973)、ジャック・ニコルソンがジョーカーを怪演した「バットマン」(1989)、ヒース・レジャーがジョーカーになりきった「ダークナイト」(2008)、そしてすべてはジョーカーのための助走だったかのような「容疑者、ホアキン・フェニックス」(2010)など、多くの映画を例に出しつつ、「ジョーカー」について語っているコラムです。

 

社会学者の宮台真司氏のコラム「天使が堕天使になる時ージョーカー誕生譚ー」

「ダークナイト」の「嗾す者」ヒース・レジャーのジョーカーを主に取り上げつつ、ジョーカーとバットマンを社会学的に語るコラムです。

「ジョーカーは悪を嗾す挑発的な存在だと述べた。だが人の心に潜む悪を引き出すのではない。予期が崩れれば人の振る舞い方が変わって社会が一挙に崩れることを証明するのだ。心理学的というより社会学的存在だと言える」

 

アメコミ翻訳家の秋友克也氏のコラム「ビジランテと『感情の爆弾』」

アメコミ的視点としては、本作のジョーカーが本来はバットマンにつきまとっていた形容である「ビジランテ(自警団員)」であることを指摘しています。

でも、映画への熱意溢れる賛辞の方が心に残るコラムになっています。

「映画『ジョーカー』を形容するのに『大傑作』という言葉では到底足りない。これは凄絶で痛切で滑稽で危険な、『感情の爆弾』だ」

「この『感情の爆弾』はしかし、悩みや怒りを抱えた多くの人にとって救いになるだろう。痛烈な爆風が彼らの苦悩を巻き込んで、涙と一緒に吹き飛ばしてくれるはずだから。そうでなければ、『ジョーカー』がこれほど我々を魅了する理由が説明できない」

 

映画文筆家の吉田広明氏のコラム「『ジョーカー』がニューシネマから受け継いだもの」

トッド・フィリップスがインタビューで影響を語っていた、ニューシネマについての解説。

「抑圧的に働く社会への疑いと反発という70年代のニューシネマ的な社会観と、権力に対し立ち向かうことで快哉を叫ぶ、いささか反動的なポスト・ニューシネマ的な感性。本作はまさにその両方を受け継いでいる」

前者の「社会への疑いと反発」というのはニューシネマ初期の作品、後者の「いささか反動的なポスト・ニューシネマの感性」はニューシネマ末期の「タクシー・ドライバー」「ゴッドファーザーPART2」などを挙げています。

 

THE RIVER編集部の稲垣貴俊氏のコラム「ホアキン・フェニックス、『ジョーカー』までの10年間ー不確かで脆い<等身大>を演じるー」

デビューから「容疑者、ホアキン・フェニックス」を経て「ジョーカー」に至る、ホアキン・フェニックスの役者人生をざくっとまとめて紹介しているコラムです。

 

映画評論家の尾崎一男氏のコラム「コメディの天才と史上最強ヴィラントの”接点”ートッド・フィリップス作品に内在する真実性ー」

「全身ハードコア GGアリン」から「ハングオーバー!」シリーズを経て「ジョーカー」へ至る、トッド・フィリップス監督の経歴を俯瞰。

 

映画史、社会学、アメコミ、ニューシネマ、主演俳優、監督…の6つの視点に色分けされたコラム。どれも読み応えありました。

 

10のキーワードでジョーカーを語る、「道化師の辞典」

取り上げられているキーワードは、「ゴッサム・シティ」「パーティ道化師」「トーマス・ウェイン」「トーク・バラエティ・ショー」「ビジランテ(私刑人)」「モダン・タイムス」「アーカム州立病院」「ゾロ」「煙草」「ストリート・ギャング」。

 

アメコミと映画を振り返って、ジョーカーというキャラクターを分析する「ジョーカーの過去を探る」のパート。

まずはアメコミ翻訳家・秋友克也氏による「コミックスと映像に見るジョーカーの歴史」

コミックスでの初登場(1940年)から始まって、テレビドラマ版への登場(1966年)。

シリアスなキャラクターとして登場しつつ、次第にコメディ的なキャラに変化していき、80年代にまたシリアスな悪役に戻っていく性格の変遷も紹介されています。

 

ギンティ小林氏による、歴代ジョーカー俳優の紹介。

テレビシリーズ「バットマン」(1966-68)でジョーカーを演じたのがシーザー・ロメロ。

「バットマン」(1989)のジャック・ニコルソン。

「ダークナイト」(2008)のヒース・レジャー。

「スーサイド・スクワッド」(2016)のジャレッド・レト。

それに、テレビドラマ「ゴッサム」でジョーカーっぽいキャラを演じるキャメロン・モナハンも。

 

映画評論家・尾崎一男氏による、歴代ジョーカー監督の紹介。

「バットマン」(1989)のティム・バートン。

「ダークナイト」(2008)のクリストファー・ノーラン。

「スーサイド・スクワッド」(2016)のデイヴィッド・エアー。

 

DCコミックス版ジョーカーの「誕生秘話」を紹介。

ギャングが薬品タンクに落ちて変貌する、ジョーカーの誕生を初めて描いた1951年の「レッド・フード」

ジョーカーが悪に堕ちるまでの過程を初めて描いたのが1988年の「キリング・ジョーク」

ティム・バートンの映画「バットマン」(1989)でのジョーカーの本名がジャック・ネイピア。

 

さらにこの後、プロダクション・ノートが続いています。

映画として掘り下げる6本のコラムと、アメコミや「バットマン」シリーズの視点から歴史を解説する記事。読み物が充実していて、とても読み応えのあるパンフレットでした。

 

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本作に影響を与えたニューシネマたち。