Polaroid(2019 アメリカ)

監督:ラース・クレヴバーグ

脚本:ブレア・バトラー

原作:ラース・クレヴバーグ

製作:ロイ・リー、クリス・ベンダー、マイケル・マホニー

撮影:ポール・ウルヴィク・ロクセス

編集:ピーター・グヴォザス

音楽:フィリップ・ギフィン

出演:キャスリン・プレスコット、タイラー・ヤング、サマンサ・ローガン、キーナン・トレイシー、プリシラ・キンタナ、ミッチ・ピレッジ、グレイス・ザブリスキ

①「チャイルド・プレイ」の監督作!

リメイク版「チャイルド・プレイ」が現在公開中のラース・クレヴバーグ監督の、自身の短編をもとにした長編デビュー作です。

2017年には完成していましたが、製作会社の倒産などで公開が延期され、2019年の今になってようやく公開。

奇しくも、監督の次回作「チャイルド・プレイ」と同時公開になってますが、あくまでも新作としての公開です。

ということはラース・クレヴバーグ監督は、長編デビュー作が公開される目処が立たないうちに「チャイルド・プレイ」に抜擢されたことになりますね。

それは元になる短編の出来がよっぽど良かったのか、本作「ポラロイド」が業界関係者の間で既に好評だったのか。

というわけで、本作は本国でも今が初公開。決して「チャイルド・プレイ」にあやかって過去作を引っ張り出してきたわけではないです。

 

「チャイルド・プレイ」もとても良かった!というのはレビューに書きましたが、本作もとても面白かったです。

基本的にワンアイディアで引っ張る「一発ネタ」ではあるんだけど、映画の様相を次々変えていくことで、飽きさせない。

観客を楽しませようとする、様々な工夫が凝らされていました。

 

「チャイルド・プレイ」も良かったんだけど、あっちはリメイクなので。どうしてもオリジナルと比較してしまったり、あえて変化球を投げてるところもあるんですよね。

コメディ風味とか過剰な80年代臭とか、そこが楽しいところではあるんだけど、なにかとノイズが多いという言い方もできる。

 

その点こちらは、オリジナルストーリーの強みがあって、世界観も登場人物も1本の中でしっかりと完結している。

1本のホラー映画としての満足感は、こちらの方が優れているんじゃないかと思いました。

 

②いろんなジャンルのホラーをいいとこ取り!

ある古いポラロイドカメラで撮影すると、写真に写った人が殺される。呪いのカメラですね。

決して目新しいアイデアではない。どこか懐かしささえ感じるような、オーソドックスな怪談ネタではあります。

でもそれを、手を抜かず丁寧に構築しています。

 

ルールがわかりやすい!のがいいですね。

冒頭、アバンタイトルの部分で、前の持ち主がカメラを使って殺されるところを端的に見せる。

何をするとどういうことが起きるのか、物語が始まる前にしっかりわからせてくれます。

 

結構、ルールはたくさんあるんですよ。

背後にある影が写真から出てきて襲われるんだけど、影は一人ずつ狙うとか。

狙った人物を殺すと、影は次の写真に移動する。複数の人物が写っている場合より、一人だけで写っている人物の方が先に狙われる。

 

あと、弱点とかね。写真を処分しようとしたらどうなるのか、とか。

いろんな決めごとが後から後から出てくるんだけど、後付けみたいには見えないんですよね。ストーリーの展開に絡めつつ、上手くルールを紹介していくので、素直に呑み込んでいけるものになっています。

 

ルールを開示していくと共に、映画の様相が少しずつ変わっていくんですね。

序盤オカルト。都市伝説をネタにした実録モノの雰囲気で、ホラーシーンも心霊現象の趣で描かれます。

怪奇現象の主体もはっきりとは見せず、「背後に立つ影」の恐怖を感じさせていく。この辺、Jホラー的でもありますね。

 

中盤は、主人公たちがカメラに取り憑いた呪いの正体を探っていく。ミステリーの面白さで引っ張っていきます。

凄惨な事件の恐怖。サイコキラーの面白みが際立ってきます。

 

そして終盤は、いよいよ影が正体を現して、主人公たちと直接対決をする。モンスターモノへと、ジャンルチェンジすることになります。

モンスターがなかなか姿を見せないのはモンスターモノホラーの常道ですが、本作では前半が「別ジャンル」なんでね。

ザッピングするようにジャンルをシフトチェンジしていくことで、それぞれの分野のいいとこ取りをやってのけてる。

それでいて、全体の構成がバラバラになることもなく。なかなかの構成力、牽引力だと思いましたよ。

③むざむざ殺されない、まともに頑張る若者たち

主人公のバードは、同級生の陽気なノリについて行けない、地味目の少女。カメラが趣味、というのも、今時の内気少女らしいですね。

パーティーノリが苦手なオタク系主人公というのも最近のホラー映画の定番ですが、バードの設定はもう少し深い。

彼女は首に生々しい傷痕があって、学校ではそれをいつもスカーフで隠しています。それで、同級生たちには「スカーフ女」と呼ばれてクスクス笑われているという。

 

首の傷は父親を亡くした交通事故で負ったものであるようで、彼女のトラウマになっています。

主人公が過去のトラウマを抱えていて、友人や彼氏の助力で克服していく…というのも青春モノの定番ですが、本作ではそれだけでもなくて。バードのトラウマを上手くホラー的な設定にも絡めています。

つまり、バードは写真を撮られるのが苦手。撮影されたくない少女なんですね。

そして、現代の若者社会というのは、とにかく誰も彼もが写真に撮られたがっている。

なんでもスマホで自撮りして、すぐにネットにアップする。そういうことが当たり前の世界であるわけです。

そんな中に「撮られたら死ぬ」古風なフイルム式カメラという異質なものがある状況を、上手いこと「撮られたくない少女」で繋いでいると言えますね。

 

周囲で人が殺され出すと、バードが写真に写った皆をまとめるリーダーシップを発揮していきます。

バードは内気なキャラなんだけど、いざとなるといつまでもイジイジしていない。俄然みんなを引っ張り出すのが頼もしいですね。

 

バードの頭の回転が早い。いち早く何が起こってるかに気づき、生き延びるための策を考えて行動していく。ここも、本作に小気味よいところです。

ホラー映画を観ていて時々思うのが、なんでこいつらこんなにバカなんだ?ということ。

明らかに変なことが起こってるのにいつまでも信じずに、ヘラヘラしてるうちに殺されたり。

観客はみんな気づいてる危険にいつまでも全然気づかずに、むざむざやられてしまったり。

殺されないためにやるべきことが自明な状況でも、キャーキャー悲鳴あげたり泣いたりするばっかりで、何もできずに殺されたり。

まあ、そういうのもホラー映画の楽しいパターンではあるんですが。時にイライラさせられたり、うんざりしちゃうこともありますね。

 

本作では、バードに引っ張られることで、他の(一見アホそうな)若者たちも、いち早く危険の存在を認識し、生き延びるために頑張って行動することになります。

そりゃむざむざ死にたくないんだから、みんな必死でなんとかしようとするよね。

若者たちを過剰にアホに描かず、しっかりマトモな行動をさせている。そこも観ていて好もしいところでした。

 

④因縁の面白さと、グレイス・ザブリスキーの不吉

バードたちが地道に調査をして、呪いのカメラの因縁を解き明かしていく。

過去に陰惨な殺人事件を起こし、警官に射殺された犯人が、カメラの持ち主だったという事実が判明して、バードたちはその家へと訪ねて行きます。

そこに待っているのが、犯人の妻。普通にしていても、全身から滲み出る不吉なムード。グレイス・ザブリスキーが演じています。

 

デヴィッド・リンチ監督の映画でおなじみ。「ワイルド・アット・ハート」では殺し屋「ツイン・ピークス」ではローラのお母さんを演じていました。

この人、年をとるほどどんどん「不吉さ」が増していって。リンチ監督も気に入ったんでしょうね。「インランド・エンパイア」での、頭のネジの外れた隣人の奥さんは強烈な印象でした。

昔の「ツイン・ピークス」ではローラのお母さんはただ娘が殺されてちょっとおかしくなっちゃった母親、というだけの役回りだったんだけど。

2017年の「ツイン・ピークス The Return」では、物語全体のラスボスともいうべき、もっとも不吉な悪魔の化身のような役回りにレベルアップを遂げていました。

そこ、やっぱり、この女優さんの醸し出す強烈な不吉のオーラ。リンチ監督、そこから物語を築き上げたんじゃないかという気さえします。

 

本作でも、彼女が演じる「奥さん」は別段直接的に怖いところを見せたりするわけではないんだけど。

ただ、過去の事件についてバードたちに語るだけなんですが。なんか怖いんですよね。

精神的にどこか問題を抱えている人の、普通に話していてもどこか位相が狂っているような、異様な感じ。それを感じちゃうんですよね。

いるだけで、映画のテンションが一個二個上がってるような気がします。いいですねグレイス・ザブリスキー。

 

この「過去を語るパート」を挟むことで、単純なオカルト/モンスター映画が一段複雑さを獲得している。そういう効果もあります。

真相が二転三転してミスリードになるのはミステリ的にはありがちですが、いよいよモンスターが姿を現すホラー映画的クライマックスにそれを絡めてくるのは、なかなか新鮮な印象がありました。

⑤モンスター俳優ハビエル・ボテットと新鋭ホラーの魅力

「IT/イット それが見えたら終わり」製作陣が…というのも、最近よく聞くキャッチコピーですね。本作は製作のロイ・リーという人が共通です。

リメイク版「チャイルド・プレイ」も同様のコピーで、こちらはまた別のプロデューサーが共通していますね。

「IT/イット」は近年では目立つヒット作だったみたいですね。確かに、映画館も若い観客たちでいっぱいだった覚えがあります。

「チャイルド・プレイ」や本作も、結構お客さん入っていました。レイトショーのホラー映画で若い人が多くて、若干騒がしいのはご愛嬌。

 

「IT/イット」のアンディ・ムスキエティ監督の出世作が「MAMA」で、その映画でクリーチャーを演じていたのが、ハビエル・ボテットという俳優。本作のモンスターを演じているのも、この人です。

 

本作のパンフレットによると、ハビエル・ボテットは細胞をつなぐ結合組織に先天的な異常を持つ難病「マルファン症候群」にかかっており、身長2メートル、体重50キロという超痩せ型の異様な体格の持ち主。

彼は自身の難病というハンデを逆に利用し、自らモンスター役として映画会社に売り込んだのだそうです。何しろ、CGかと見紛うような異様な人体のバランスをそのまま演じられてしまうんだから、誰も真似できない特技ですね。

本作でも、ポラロイドカメラというアナログに似つかわしい、CGに頼らない生々しい恐怖演技を見せてくれています。

 

アンディ・ムスキエティ監督の「MAMA」は、話題を呼んだ短編から長編化してのデビューでした。ラース・クレヴバーグ監督の本作も同様です。

短編ホラーがネット上で話題を呼んで、才能ある監督が世に出るチャンスが増えているようです。ここはネットのいいところですね。

新しい作り手の面白いホラー映画はまだまだ次々出てきそうで、楽しみです。

 

ハビエル・ボテットの「MAMA」のためのカメラテスト。閲覧注意。こ、怖い…。