52ページ、うちカラー36ページ、2色16ページ。紙質の違う2色ページが間に挟み込まれている構成です。820円。
FOXサーチライトのパンフレットは共通のフォーマットで作られていて、「FOX SEARCHLIGHT MAGAZINE」という雑誌のような形式になっています。表紙に通算番号が入っていて、これはVOL.14。後半はFOXサーチライト関連の別作品も含めた記事になっています。
ストーリー紹介に合わせて、人物相関図があります。人間関係が一目でわかるのは親切ですね。それほど複雑な人間関係でもないですが…。
レビューの1本目は辛酸なめ子氏。読みやすい文章ではあるけれど、ほとんど内容はなかったような気が…。なんとなーくあらすじを要約してちょっとだけ感想を付け加えたような淡白な文章で、別に思うところはなかったのかな、と感じました。
このレビューのページのはしっこに小さく「トリビア」とあって、実際のアン女王やアビゲイルらについて記されています。
ここ! ここを詳しく解説した記事が欲しかった!と思ったんだけど、本当にこれだけなんですね。もったいない…。
史実を背景にした映画で、中世の英国王室について知識のある日本人は少ないのだから、それを詳しく解説した記事を、パンフレットには載せて欲しかったですね。
英国王室史に詳しい研究者とかの寄稿も、特にないんですよね…。
オリヴィア・コールマン、エマ・ストーン、レイチェル・ワイズのインタビューを順番に。
オリヴィア・コールマンやレイチェル・ワイズによると、アン女王についてはイギリスでもほとんど知られていないということで、ますます解説欲しいよなあ…と思っちゃいました。
ハーリー卿を演じたニコラス・ホルトと、マシャムを演じたジョー・アルウィンの短いコメント。
通常の映画では省かれる、「歴史的には正しくても、大げさすぎるディテール」が、本作では忠実に再現されているとのこと。
エッセイストの入江敦彦氏のコラム。映画と同名の「女王陛下のお気に入り」という著書があるとかで、英国王室御用達のアイテム、日用品について紹介しています。
…のだけど、正直映画とはほとんど関係ない気がします。現代の王室の話だし。
その次は、NY在住のフォトグラファー、アツシ・ニシジマ氏へのインタビュー。本作のスチール写真を撮った人だそうです。
ヨルゴス・ランティモス監督のインタビュー。
作品の前提として、「歴史ドラマであっても、歴史映画に求められるものに制限されることはしない」というルールを設けたとのこと。
これによって、現代的な言葉遣い、振付師のコンスタンツァ・マルコスによる「どの時代にも属さないダンス」など、この映画の独特の色合いが形作られていったのだと思います。
やはり、監督が明確な指針を持っていて、それがブレないことが、面白い作品作りに繋がりますね。
背景美術についての解説記事。
宮廷のロケーションとなったのは、「イングランドのハートフォードシャーにあり、15世紀から王室が使っている土地に立つジャコビアン様式のハットフィールド・ハウス」だそうです。
美術のフィオナ・クロムビーによって、ランティモス監督が思い描く宮廷が形作られていきました。やはり「当時を精密に再現する必要はない」と決められていて、「物語の世界観を表現するため、時代設定から外れることが歓迎されていた」とのことです。
「流動性」が意識されていた、というのが面白いです。背景を固定されたものにするのではなく、女王が移動するのに合わせて、周囲の物が動いていく。同じ部屋がダックレースの会場になったり、舞踏会が開かれたり…。
プロダクション・ノート。
「ランティモスは、宮廷は自分の存在を小さく感じたり、見失ってしまったりするほど広くて、音が響き渡る空間を自由に使えることが最も大切だと考えた」。
それを表現すべく、広角レンズが多用され、また頭上からや人と人との間からなどの予期しない視点が導入されました。また、すばやくカメラを360度水平・垂直移動させる技術も。
多くのシーンをワイドに切り取り、背景が人物に覆いかぶさってくるように見える広角の画面は、この映画の特徴になっていますね。
2本目のレビューは現代美術家の橋爪彩氏。
あとはサンディ・パウエルの衣装デザイン画の紹介と、残りのページはFOXサーチライトの他の作品などの紹介記事になっています。
本作にも出ていたニコラス・ホルトは、「指輪物語」のトールキンを演じた伝記映画が控えているとのこと。
記事盛りだくさんで豪華なイメージなんだけど、スタッフ・キャストの肉声の部分以外はあんまり面白くないパンフレットだったなあ…正直言って。
タイトルから連想される別の話題とかじゃなくて、扱われている歴史そのものの解説とか。映画を観たあとに知りたくなることについての解説が欲しかったと思います。
マニアックな監督によるマニアックな映画なので、コラムももう少しマニアックな、深読みを解説してくれるようなものがあると良かったですね。