夏蜜柑の萌語り -194ページ目

【another】呼び方・呼ばれ方

「お前は誉の見舞いでもしてろよ」

 そう言って追い出され、カーテンまで閉められた。
 部長に目をやると、―たぶん、私と同じような顔で―苦笑いしてた。

「もう!会長ったら横暴ですよね!」
「ふふふ。あんなにはしゃいでる一樹、久しぶりに見たよ」
「あ、ごめんなさい部長、騒がしくして…お身体、大丈夫ですか?」
 部長は優しく微笑んで、布団から手を出してヒラヒラさせた。
「大丈夫、心配させてごめんね?」
「会長が助けてくれたんですね」
「うん。共通の授業を取ってたから」
 この二人は、学科は違うけれど仲がいいみたい。
「一樹はすごいね」
「え?」
「みんなに顔を知られてて、みんなの顔を知ってる。さっきの彼も…すごく尊敬してるみたいだし」
「哉太ですか?珍しいですよ、哉太があんなに憧れるなんて…確かに、会長はすごいです」
 私は、布団から出ていた部長の手を、そっと戻した。
「でも…部長だってすごいです」
「僕も?」
「弓道部の中で、部長を尊敬してない人なんて、居ませんよ。みんな部長が大好きです!」
 部長が少し驚いたような目をして、そして笑った。
「ありがとう…月子さん」
「!?ぶ、部長!?」

 突然名前で呼ばれ、頬がカッと熱くなる。
「二人とも君を名前で呼んでたから、少しだけお返し」
「お返しって…」
「君も試しに呼んでみる?僕のこと、下の名前で」
 高鳴る鼓動を抑えようとしても、部長から目を離せなくなって、収まりそうもない。
「あ、の」
「いいよ?どうぞ」
「ほ、ほま…」

 突如開くカーテン。
 私はバッと顔を上げ、平静を取り戻そうとした。

「あっ。もー、何なんですか?」


 吸い込まれそうになった。部長に。
 ―誉さん。
 いつか、気軽にそう呼べる日が、来るのかな?