夏蜜柑の萌語り -176ページ目

【冬組】ナイト-knight-

「4名様でお待ちの、シラヌイ様ぁ。お席のご用意できましたのでどうぞぉ」

 妙にキーの高い店員の声を聞いて、一樹会長が立ち上がる。
「お、行けるってよ」
 会長に続いて、私たちも店員の案内で席へと向かった。

 クリスマスパーティを大成功させた私たち生徒会は、ささやかな打ち上げをしようということになり、街のレストランまで来ていた。
 意外に混んでいたため、今まで待たされていたけど、ようやく席につけてホッとする。


「さてと…」

 注文を済ませ、ドリンクバーから戻ってきて、会長がひとつ咳払いをする。
「みんな、クリスマスパーティお疲れさん。今日は楽しんでくれ!」

「乾杯!」

 全員とグラスを合わせる。
「本当に、無事に済んでよかったです」
「そうだね!一時は大変だったけど…」
「うぬ…何で俺の方を見るんだぁ?」
「何で、だと?心当たりがありまくりだ!」

 わいわいと話しているうち、注文していた料理が次々と届く。
「ご注文の品は以上になりまぁす。ごゆっくりどうぞぉ」
 店員が一樹会長の分の料理を置いたところで、伝票入れに紙を差して去ろうとした。
 私は違和感を覚える。

「あの、私の料理…」

 私の前のテーブルはぽっかりと空いたまま。店員は進め始めた歩をゆっくり戻し、伝票を見る。
「えー?これで以上だと思ったんですけどぉ」
 今までと打って変わって、低く不機嫌な声。
 会長の目の色が変わったのが見えた。店員の手から伝票を奪う。
「どこに目ぇ付けてんだよ!俺と同じもの2つって、はっきり書いてんじゃねぇか!」
「会長…」
 店員は焦ったように、頭を下げる。
「もっ、申し訳ありませぇん…すぐお持ちしますぅ」
 私が「お願いしますね」と付け足すと、立ち去ろうとした店員に睨まれた気がした。

「私、何か失礼なことしたのかな…?」

 不安になって言うと、颯斗くんと翼くんも、険しい表情になっていることに気づいた。3人は私の言葉を聞いて、安心させるように微笑んでくれる。
「書記は悪くないんだぞ!」
「えぇ。貴女が気に病む必要はありませんよ。問題は向こうにありますから」
「心配するな。お前は俺たちが守ってやるから」
 そう言われると、私はとても安心できる。
「ありがとうございます…」

 しばらくして料理が揃い、ようやく食事がスタートできる。
 パーティであったこととか、いろんな思い出を話して、時の経つのも忘れていた。

「すみません、私お手洗いに行ってきますね」
「おう」
 隣に座っていた会長に声をかけ、席を立つ。
 お手洗いの手前で、同じ目的と思われる女性客二人と出くわした。彼女たちは、にこやかにドアの前を譲ってくれる。
「あたしら後でいいんで、お先どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
 こういう小さな気遣いは、お互いの心を幸せにしてくれる。そんなことを考えながら、空いている個室に入った。
 用を済ませ、出ようとした…のだけど…。

「あ、あれ…!?」
 鍵の立て付けが悪いのか、びくともしない。
「うそ…!」
 焦りが募り、ガチャガチャという音だけが響いていた。


 何分経ったのだろう。
 泣き出しそうになった頃、個室のドアが勢いよく叩かれた。
「月子!おい、大丈夫か!?」
 会長の、声。
 押し止めていた不安が呼び起こされ、泣き出しそうになった。それをこらえて返す。
「はい!何でか鍵が動かなくて…」
「外からノブが固定されてたんだ!もう動くはずだ、出てこられるか?」
 もう一度鍵を回すと、錆の削れる音と共に、今度は確かに動いた。ドアを開け、外に出る。
「で、出られました!」
「月子…!」
 飛び出た瞬間、待ち構えていた会長に抱き締められる。
「大丈夫だったか?何もされてないか?」
「へ、平気ですけど…あの…」
「どうした?」

「ぬいぬい!早く出てこないと今度はぬいぬいが通報されるぞ!」
「そうですよ一樹会長、そこはどこだと思ってるんですか」

 外から、翼くんと颯斗くんの声もする。会長は慌てて、私の手を引いて飛び出した。…女子トイレを…。

 私たちは早々に会計を済ませ、店を出た。店長らしき男性が出てきて頭を下げていたけど、会長は怒りを露にしながらも、気にするなという風に手を振っていた。

「私のせいで、散々な打ち上げになりましたね…すみません」
 星空の下を歩きながら、私は前を歩く3人に頭を下げた。
「お前のせいじゃねーよ」
「今回はどちらかというと…我々のせいというか…」
 会長と颯斗くんがすかさずそう言った。
 訳がわからず首をかしげると、翼くんが空を見上げながら言う。
「月子、俺らと仲良しだから、あそこに居た女の子達に狙われたんだぬー」
「えっ!?」
「会長のカリスマ性というか何というか…よくも悪くも目立つ面子ですから」
 颯斗くんが済まなそうに付け足す。
「まぁつまり、あそこの連中が俺らを勝手にアイドルかなんかと思い込んで、お前を一方的に妬んだと。そういう訳だ」

 私は会長たちの顔を順番に見比べた。この3人がアイドル?…確かに人気が出そうだけれど。
「そういえば…中学まででも似たようなことありましたよ。私の幼馴染み二人が、ちょうど会長たちみたいな人気者だったので…」
 錫也は本当にアイドルみたいだったし、哉太も密かに憧れてる子は多かった。よく、女の子から二人きりになりたいから協力して、とか言われたりしてたなぁ…と思い出す。

「お前…全く、本当に危なっかしい奴だな!」
 会長が呆れたように私の頭をぽんぽんと叩く。
「大丈夫ですよ、今は僕たちが傍に居ますから」
 颯斗くんが私の肩に優しく手を置く。
「そうだぞ!俺たちは書記を守るナイトなんだぬーん!」
 翼くんが、全身で守るみたいに、後ろに回って抱き締めてくる。

「みんな…ありがとう。私も、みんなを守れるくらい強くなるね!」

「だからお前は…まぁいっか。月子らしいや」
 会長が少し乱暴に、私の髪をかき回す。

 4人で、空を見上げる。
 濃紺の空に、輝く幾千の星。

 3人のナイトに守られるばかりじゃいられない。彼らに負けないように、私も強く在れますように。
 そう、強く祈った。