【颯斗another】ナイト-knighit-
貴女はとても強い。
いや、強い振りをする。
だからこそ、僕は貴女を守れる存在でありたい。
―ねぇ、僕は貴女を守ることが出来ているのでしょうか…?
食事を始めてしばらく経った頃、夜久が不知火に何言か告げて席を立った。
青空はその様子を何とはなしに眺めて、夜久の行く先を目で追う。
(お手洗い…でしたか)
あまり凝視するのは失礼だと目を逸らそうとした瞬間、ドア付近に立つ女性客二人に気がつく。どうやら順番を譲ってもらったようで、夜久は頭を下げて先に入っていく。
それだけならば、ただの美しい親切物語。
だが、青空は気づいていた。
彼女たちは、ドアを細く開けたままで覗き込み、夜久が個室に入るところを見届けていたのだ。
そして、二人でニヤニヤと笑みを交わし合い、追ってトイレへと入っていったのだ。
「…嫌な予感がしますね」
呟いたところで、隣に座っていた天羽もその様子を見ていたことに気づく。
「…そらそらもそう思うか?」
「えぇ」
トイレに背を向けている不知火だけは気づいていなかったが、青空たちの真剣な表情に何かを察して眉間に皺を寄せる。
「どうかしたのか」
「待ってください。確証がありません」
青空はトイレのドアが開く瞬間を注意深く待つ。
何人かの客の出入りがあって、あの女性客二人が笑いながら出てくる。それは、一つの確信だった。
「一樹会長、間違いありません。月子さんは恐らく、個室に閉じ込められています」
「なにっ!?」
語気を荒げて立ち上がろうとした不知火の手を掴んで、すかさず落ち着かせる。
「待ってください。僕たちはどの個室に彼女が居るのか分かりませんし、男だけでは迂闊に近づけません」
「じゃあどうすんだよ?」
青空は、店内を見回して一点を見つめる。
「そうですね…犯人は解ってますし、向こうが動き出すのを迎え撃つのはいかがですか?」
ちょうど、トイレから離れてドリンクバーへ行っていた先程の女性客が、こちらへ向かってきていた。
「そらそら、笑顔が黒いんだぞ…」
「よし、颯斗に任せる。場所さえ特定できたら、女子トイレだろうが何だろうが俺が突っ込む」
「はい」
女性客二人は、一つのグラスを持って、青空たちのテーブルの傍に立った。
「あのぉ、これ、良かったら貰ってくれませんかぁ?」
「ちょっと余っちゃってぇ」
夜久とはまるで違う品のない話し方に嫌悪を覚えながら、青空は彼女たちに目を向けた。
「結構です。何の義理があって貴女方が…」
彼女たちは青空の冷淡な声に怯んだようだった。しかしすぐさま、空いている不知火の隣、夜久の席に乗り込もうとする。
「そこに座らないで頂けますか、僕たちの連れの席です」
彼女たちは少しつまらなそうな顔をしながらも、青空に近づく。
「それってぇ、あの髪の長い女の子でしょ?」
「あんまりあの子と関わらない方がいいと思うなぁ」
「だって…ねぇ?」
互いの顔を見合わせる二人。青空はかかった、と思った。
「彼女がどうかしたんですか?」
こちらからの問いかけを受け、彼女たちの目が輝く。
「さっきトイレで鉢合わせたんだけどー、もうあの子マジあり得ないの!」
「二人で並ぶとかあり得ないとか、何か意味わかんないこと言ってきてー」
「早く男のとこ戻りたいから順番変わってとか言うんだよぉ?」
「ひっどいよねー!」
彼女たちの支離滅裂な言動は無視して、青空はあくまで微笑みを絶やさずに尋ねる。
「その彼女がまだ戻っていないのですが、貴女方は何かご存知ではないですか?」
「さぁー?今客多いしさ、どっかで男引っかけてんじゃない?」
「それよりさぁ、今からあたしらとカラオケとか行こーよ!」
「しかし…先程からずっとお手洗いのドアを見てますが、彼女が出てきた形跡はないのですが」
「え、ずっと…?」
彼女たちの顔色が変わる。
「えぇ。ずっとです」
ゆっくりと立ち上がりながら、青空は彼女たちを見下ろす。あくまで、微笑みは絶やさぬまま。
「―貴女方が、ドアにへばりついてみっともなく見張っているところも、ずっとですよ…?」
「ひ…」
恐れをなして、後ずさろうとした女性客の手首を掴む。
「まだ質問に答えていただいていませんよ?彼女は今どこに居るんですか?」
「あ…の…」
「聞こえませんでしたか?貴女方は彼女を個室のどこに閉じ込めたんですか?」
腕を掴まれた女性客が、トイレのドアを指差して声を上げる。
「おっ…奥!一番奥よ!」
青空はすかさず不知火に視線を送る。不知火も、もう立ち上がっていた。
「会長!お願いします!」
「おう!任せろ!」
掴んでいた腕を解放すると、女性はその場に座り込む。
「敵に回した相手が悪かったようですね。残念ながら、貴女方のような幼稚な人間の誘いに乗る道理はありませんし、彼女のことは僕たちの方が理解していますから」
「そらそら、月子が出てこられたみたいだぞ」
天羽が席を立ち、青空を促す。
「そのようですね。迎えに行きましょうか」
「待って…!メアド!メアドくらい交換しようよ!」
「ちょっと、やめなって…」
一人が尚も食いついてきたが、青空は一つ、大きなため息で返事する。
「貴女方と取り合いたいと思う言葉など、僕には一つもありませんよ。―失礼します」
貴女に対してでなければ、伝えたい言葉など浮かんでこないのです。
だから今は、もう少しだけ。
僕にも、貴女のナイトで居させてください。
いや、強い振りをする。
だからこそ、僕は貴女を守れる存在でありたい。
―ねぇ、僕は貴女を守ることが出来ているのでしょうか…?
食事を始めてしばらく経った頃、夜久が不知火に何言か告げて席を立った。
青空はその様子を何とはなしに眺めて、夜久の行く先を目で追う。
(お手洗い…でしたか)
あまり凝視するのは失礼だと目を逸らそうとした瞬間、ドア付近に立つ女性客二人に気がつく。どうやら順番を譲ってもらったようで、夜久は頭を下げて先に入っていく。
それだけならば、ただの美しい親切物語。
だが、青空は気づいていた。
彼女たちは、ドアを細く開けたままで覗き込み、夜久が個室に入るところを見届けていたのだ。
そして、二人でニヤニヤと笑みを交わし合い、追ってトイレへと入っていったのだ。
「…嫌な予感がしますね」
呟いたところで、隣に座っていた天羽もその様子を見ていたことに気づく。
「…そらそらもそう思うか?」
「えぇ」
トイレに背を向けている不知火だけは気づいていなかったが、青空たちの真剣な表情に何かを察して眉間に皺を寄せる。
「どうかしたのか」
「待ってください。確証がありません」
青空はトイレのドアが開く瞬間を注意深く待つ。
何人かの客の出入りがあって、あの女性客二人が笑いながら出てくる。それは、一つの確信だった。
「一樹会長、間違いありません。月子さんは恐らく、個室に閉じ込められています」
「なにっ!?」
語気を荒げて立ち上がろうとした不知火の手を掴んで、すかさず落ち着かせる。
「待ってください。僕たちはどの個室に彼女が居るのか分かりませんし、男だけでは迂闊に近づけません」
「じゃあどうすんだよ?」
青空は、店内を見回して一点を見つめる。
「そうですね…犯人は解ってますし、向こうが動き出すのを迎え撃つのはいかがですか?」
ちょうど、トイレから離れてドリンクバーへ行っていた先程の女性客が、こちらへ向かってきていた。
「そらそら、笑顔が黒いんだぞ…」
「よし、颯斗に任せる。場所さえ特定できたら、女子トイレだろうが何だろうが俺が突っ込む」
「はい」
女性客二人は、一つのグラスを持って、青空たちのテーブルの傍に立った。
「あのぉ、これ、良かったら貰ってくれませんかぁ?」
「ちょっと余っちゃってぇ」
夜久とはまるで違う品のない話し方に嫌悪を覚えながら、青空は彼女たちに目を向けた。
「結構です。何の義理があって貴女方が…」
彼女たちは青空の冷淡な声に怯んだようだった。しかしすぐさま、空いている不知火の隣、夜久の席に乗り込もうとする。
「そこに座らないで頂けますか、僕たちの連れの席です」
彼女たちは少しつまらなそうな顔をしながらも、青空に近づく。
「それってぇ、あの髪の長い女の子でしょ?」
「あんまりあの子と関わらない方がいいと思うなぁ」
「だって…ねぇ?」
互いの顔を見合わせる二人。青空はかかった、と思った。
「彼女がどうかしたんですか?」
こちらからの問いかけを受け、彼女たちの目が輝く。
「さっきトイレで鉢合わせたんだけどー、もうあの子マジあり得ないの!」
「二人で並ぶとかあり得ないとか、何か意味わかんないこと言ってきてー」
「早く男のとこ戻りたいから順番変わってとか言うんだよぉ?」
「ひっどいよねー!」
彼女たちの支離滅裂な言動は無視して、青空はあくまで微笑みを絶やさずに尋ねる。
「その彼女がまだ戻っていないのですが、貴女方は何かご存知ではないですか?」
「さぁー?今客多いしさ、どっかで男引っかけてんじゃない?」
「それよりさぁ、今からあたしらとカラオケとか行こーよ!」
「しかし…先程からずっとお手洗いのドアを見てますが、彼女が出てきた形跡はないのですが」
「え、ずっと…?」
彼女たちの顔色が変わる。
「えぇ。ずっとです」
ゆっくりと立ち上がりながら、青空は彼女たちを見下ろす。あくまで、微笑みは絶やさぬまま。
「―貴女方が、ドアにへばりついてみっともなく見張っているところも、ずっとですよ…?」
「ひ…」
恐れをなして、後ずさろうとした女性客の手首を掴む。
「まだ質問に答えていただいていませんよ?彼女は今どこに居るんですか?」
「あ…の…」
「聞こえませんでしたか?貴女方は彼女を個室のどこに閉じ込めたんですか?」
腕を掴まれた女性客が、トイレのドアを指差して声を上げる。
「おっ…奥!一番奥よ!」
青空はすかさず不知火に視線を送る。不知火も、もう立ち上がっていた。
「会長!お願いします!」
「おう!任せろ!」
掴んでいた腕を解放すると、女性はその場に座り込む。
「敵に回した相手が悪かったようですね。残念ながら、貴女方のような幼稚な人間の誘いに乗る道理はありませんし、彼女のことは僕たちの方が理解していますから」
「そらそら、月子が出てこられたみたいだぞ」
天羽が席を立ち、青空を促す。
「そのようですね。迎えに行きましょうか」
「待って…!メアド!メアドくらい交換しようよ!」
「ちょっと、やめなって…」
一人が尚も食いついてきたが、青空は一つ、大きなため息で返事する。
「貴女方と取り合いたいと思う言葉など、僕には一つもありませんよ。―失礼します」
貴女に対してでなければ、伝えたい言葉など浮かんでこないのです。
だから今は、もう少しだけ。
僕にも、貴女のナイトで居させてください。