豊玉之男《とよたまのお》の言霊《ことだま》が炸裂《さくれつ》した。
「それで、何か問題がございましょうや。米は、倭人が采配《さいはい》致しますれば、その行く先までは知る必要はないかと思います。それで、多くの餓死者《がししゃ》が救われるならば、よいではありませんか。米の行く先は、華夏人《かかじん》が決める問題でありましょう。それに倭人《わじん》の全てが、戦争に乗じ兵糧米で財を成そうと思っているわけではありません。」
あまりの迫力に金拆神(かねさくかみ)は、たじろいでしまったが、豊玉之男はさらに勢いづいた。
「黥王遜喜殿《げいわんそんきどの》のように、古き華南《かなん》の魂を守るために、私財を投じる倭人も少なくはありません。われが申し上げておりますのは、あめつちの心を信じる者たちを戦争の犠牲にしてはならないと言うことであります。無旦《むたん》王子は、大陸でも数少ない、あめつちの王子にて御座います。」
豊玉之男《とよたまのお》の剣幕《けんまく》に、金拆神《かねさくかみ》は驚いて、ひと呼吸を置いた。阿津耳《あつみみ》は、先走った自分を後悔したが、金拆神は、目を閉じてうなるばかりであった。
ところが・・・、静かに目を開いた金拆神の表情は穏やかであった。
「豊玉之男君《とよたまのおのきみ》よ、済まなかったな。高天原《たかまがはら》では、華夏《かか》の事情が分からないことも多い。われも、無旦《むたん》王子のことを考えると、秋津洲に華夏の戦禍が及ぶのではないかと心配をしてしもうて、つい、言い過ぎてしまったようだ。このことは、なれの言うことを聞いた方がよいだろう。」
と、自らを諭すように豊玉之男《とよたまのお》の意見を受け入れた。
「いえ、われも感情が先に出てしまって、高天原の大神に立てを突いてしまいました。お許しを下さい。」
「なれの言うことはよく分かった。阿津耳之命《あつみみのみこと》よ、なれも、豊玉之男君《とよたまのおのきみ》をここまで連れて参った以上、それでよいのだな。われは、汝らの志に順って、無旦《むたん》王子を高天原にてお預かりしようと思う。また水稲《すいとう》のことは、科野川《しなのがわ》の中流域を開拓し、稲の作付けを行えるように取り計らおう。ただし、土地土地の姫神《ひめかみ》の許しを得ることなくしては進めることは出来ないことは分かってくれ。それでよければ、若木神《わかきかみ》の了承を受けに参ろう。」
「われに異論はございません。ありがたき処置に感謝いたします。」
金拆神《かくのかみ》は、吹っ切れたように、すっくと立ち上がると、北の星を見詰めた。
「さあて、高天原《たかまがはら》の主神《ぬしかみ》は、なんと仰せでありましようかな。」
そう言うと、金拆神《かねさくかみ》は、豊玉之男《とよたまのお》と阿津耳《あつみみ》をつれて、主神《ぬしかみ》の御許へ向かった。 つづく
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