「高天原《たかまがはら》は天星宮《あまぼしみや》に坐します若木神《わかきかみ》に、畏《おそれ》み畏《おそれ》み申します。金拆神《かねさくかみ》が、豊浦宮《とようらみや》の世継ぎ、豊玉之男君《とよたまのおのきみ》をお連れ致しました。素乃木之姫神《そのきのひめかみ》には、お取次ぎのこと、よろしくお願い申します。」

 「はてはて、今日は、皆々様、お揃いで何事にてありましょうや。」

 素乃木姫神《そのきのひめかみ》は、若木神《わかきかみ》を胸に抱きて、磐座《いわくら》に坐した。若木神《わかきかみ》は、めったにその姿を見せることはないが、今日は、金拆神の声掛けで、大海原の若君が参られたのである。巫女衆は揃いて、若木神を取り巻いている。
 とりわけ、若木神の傍には、命巫女《いのちのみこ》といって、若木神《わかきかみ》にまとい付こうとする悪気を祓う、気丈の巫女八人衆で守られている。

 磐座《いわくら》の周りには、神籬《ひもろぎ》の結界《けっかい》が張られ、素乃木之姫神《そのきのひめかみ》と命巫女衆《いのちのみこしゅう》だけが、結界《けっかい》の中に入ることが出来る。磐座は、強い気配に守られており、先の主神である金拆神《かさくのかみ》と云えども、その気にあてられて近づくことは出来ない。

 金拆神《かねさくのかみ》は、若木神の前に畏みて申し上げた。

 「先ごろ、挨拶に見えた、越国の無旦《むたん》王子のことにてございます。」

 若木神《わかきかみ》は、ようやく目は開いているが、まだ何も見えてはいないという。耳も聞こえてはいない。ただ、風の匂いを嗅ぎ、肌に感じると喜ばれるという。一度、立ち上がることができた手足であったが、再び元に戻ってしまった。手足は、まだ細く、立ち上がることも、手を振ることも、握ることも叶わないのである。

 先日、無旦《むたん》王子が挨拶にみえた時には、お互いに何かを感じ取られたはずである。傍にいた者たちは、皆々、そう思っていた。豊玉之男《とよたまのお》にとっては、肩透かしを食らった思いであったが、あれ以来、二度目の面会である。今度こそは、何かが起こるやもしれないと、緊張した空気に包まれた。