「黥王《げいわん》の他にも、兵糧米を買い求めている輩はいるのか。」
「兵糧米の取り扱いは、年々、増加の一途にございまして、船持ちの商人もまた急速に増えております。中でも、徐氏《じょし》の頭である徐賛《じょさん》殿は、群を抜いております。黥王と徐賛と・・・もう一人は・・・、確か、呂姜微《りょかんび》という秦の宰相魏冄《さいしょうぎぜん》の子飼い商人であります。」
「徐賛《じょさん》殿も加わっておられるのか。」
「はい、兵糧米については、魏冄《ぎぜん》一派、鬼谷《きこく》と徐賛《じょさん》一派、それに属さない倭人《わじん》の三つに分けられましょう。」
「場所は、長江口に集まっているのか」
「それもありますが、最も大きな集散地は、渤海の黄河口《こうがくち》であります。斉王田地《せいおうでんち》の管理下にあります。次が長江口《ちょうこうくち》であります。越王無彊《えつおうむきょう》亡き後は、楚王《そおう》の管理に置かれていますが、湊の荷動きは、黥王《げいわん》が取り仕切っております。」
「ならば、魏冄《ぎぜん》や徐賛《じょさん》の入る余地はないであろうに。」
「それであります。長江口の南に舟山群島《ふなやまぐんとう》という、百越の隠れ島が多く御座いますが、近ごろここで、定期的に、妙な市が立っております。戦いの武具をはじめ、兵糧の類から傭兵に至るまで、戦争に必要なありとあらゆるものが揃うのです。新興の闇市にてあります。ここに、呂姜微《りょかんび》が目をつけている様であります。また、徐賛《じょさん》や鬼谷《きこく》一族も、軍需品の手配をここで調達しております。闇市でありますから、市《いち》には、誰でも入ることが出来ますが、命の保証は在りません。その市を取り仕切っているのは、越の第三王子、無騶《むすう》殿であるとの噂《うわさ》であります。」
「ほほう、それはまた、聞き捨てならぬ話である。確かめたのか。」
「いえ、確証は御座いません。ただし、無騶《むすう》殿は、無彊王《むきょうおう》亡きあと、長江口に戻られると、会稽山《かいけいざん》大禹陵《だいうりょう》の巫女衆に押されて墓守頭《はかもりかしら》となられました。さらには、各地に散った百越をまとめて、今では、海賊百越王《かいぞくひゃくえつおう》と言われております。多分、黥王《げいわん》殿の後押しもあったやに聞いております。」
豊玉之男《とよたまのお》は、水鳥の顔から眼を逸らさなかった。 つづく
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