「まさにその通りです。秦国《しんこく》と斉国《せいこく》は、すでにその罠に、わざとはまって、ここまでやってきたと、徐賛《じょさん》殿は申されておりました。」
「ほう、秦国《しんこく》と斉国《せいこく》の二大国は、鬼谷《きこく》一族の罠にはまったといわれますのか。徐賛《じょさん》殿と言えば、徐氏の宗主でありましょう。徐氏一族もまた、戦国の雄の中で立ち回っているのですか。」
「そうではないかと思います。徐賛《じょさん》殿は、知佳島《ちかしま》の昆迩《こんじ》殿と懇意にされている。大方のことは、昆迩殿がご存じのことでありましょう。それに、舟山群島《ふなやまぐんとう》の無騶《むすう》王子のことも、徐賛《じょさん》殿がどのように関わっておられるのか気になるところです。阿津耳之命《あつみみのみこと》は、高天原の重鎮であります。何度も、この地を留守にするわけには行かないでしょう。何とか、昆迩《こんじ》殿に連絡を取り、高天原に来てもらう様、手配してみましょう。」
どうやら、二人の落ち着く先は決まった様である。阿津耳《あつみみ》の表情が柔らかくなった。
「そうだな、昆迩殿には是非にもお会いしたい。何しろ、無旦《むたん》王子の件については、徐賛《じょさん》殿から、直々の依頼があったと聞いております。八潮男之神《やしおおのかみ》を説得されたのも、昆迩殿でありました。必ずや、妙案が出てくるでしょう。確かに、悩んでいるばかりでは、前に進むことは出来ますまい。戦うことの前に、敵を作らない努力が必要であります。あるいは敵となりそうな相手の眼を、別の敵に向けさせることも大切であります。確かに、無旦《むたん》王子を引き受けることで、徐氏一族を味方につけることは出来るかもしれない。」
心が定まれば阿津耳《あつみみ》は動きが速かった。ことは、秋津洲《あきつしま》の重大事である。阿津耳《あつみみ》は、まず、豊玉之男《とよたまのお》を伴って、金拆神《かねさくかみ》のもとを訪れ、若木神《わかきかみ》の了承を受けようと思った。