「金拆神《かねさくのかみ》に、阿津耳《あつみみ》が申し上げます。海の向こうの事ではございますが、大海原《おおわたはら》の豊浦宮《とようらみや》に危機が迫っておりますれば、豊玉之男君《とよたまのおのきみ》共々に、ご報告申し上げます。」
「おお、先日、越の無旦《むたん》王子が高天原《たかまがはら》に参られたが、詳しい事情はまだ聞いてはおらぬ。」
「まさに、そのことでございます。西の海に暗躍する海賊が海賊のままであれば問題はございませんが、その裏で、華夏雄国《かかゆうこく》の戦いが厳しさを増しております。」
「華夏の国のことなれば、前にも幾度が聞いたことがある。厳しさを増しているとはどのようなことか。」
「周王室は、もはや末期的な状況を迎えているとのことであります。王室の尊厳は失せ、天子の権威《けんい》は、まさしく地に落ちております。既に、天子赧王《てんしたんおう》の姿を崇《あが》める者はなく、その詔《みことのり》に従う者もおりません。華夏の国は、群雄割拠《ぐんゆうかっきょ》して、終えることのない戦いが絶えません。戦いに敗れた者たちは、囚われて奴隷になるか、逃れて山賊や海賊に身を落すしか道はございません。」
阿津耳之命《あつみみのみこと》は、人が変わったように、言葉に力が入っていた。その言霊に気持ちを寄せられたのであろう。
「周王室は、そこまで追い込まれているのか。天子赧王《てんしたんおう》の気持ちを察すると、心が痛むばかりである。」
金拆神は、天子赧王《てんしたんおう》の様変わりの姿を慮《おもんばか》ると、つい内なる心情を呟(つぶや)いてしまった。
その声が聞こえないはずはなかったのだが、阿津耳《あつみみ》は、政《まつりごと》の長《おさ》として、非情の務めを果たさねばならなと思った。 つづく
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