「ご存知の通り、秋津洲と越国とは、長年の付き合いでございましたが、越国《えつこく》は先年、楚国《そこく》との戦いで滅ぼされました。無彊王《むきょうおう》、凛皇后《りんこうごう》もすでにお亡くなりになり、三人の王子の消息はと申しますと、年長の無騶《むすう》王子は、南海に逃れ、越の再興を目指されていると聞いております。もう一人、末の無辰《むしん》王子は、かしこねの海にある宇久島《うくしま》に匿《かくま》われておられましたが、生月島《いきつきしま》海域で海賊に襲われ、命を落とされました。そして、太子の無旦《むたん》王子は、しばらく豊浦宮《とようらみや》の庇護《ひご》のもとにありましたが、この度、高天原《たかまがはら》が安全であろうとお連れした次第で御座います。」
阿津耳《あつみみ》は、当初、豊玉之男《とよたまのお》の提案通り、出雲《いつも》か高志《こし》と言いかけたのであるが、話が長くなりそうであったので、いきなり、「高天原《たかまがはら》」と言って、金拆神《かねさくかみ》の懐に飛び込んだのである。
「なんと、無旦《むたん》王子を高天原《たかまがはら》で匿《かくま》えと申すのか。」
案の定、金拆神《かねさくかみ》の顔色がさっと変わった。珍しく、額に青筋が脈打つ姿が現れたのである。だが、阿津耳《あつみみ》は、引き下がることは無かった。
「王子に取りまして、今や、安住の地はございません。まだ、年若き少年のようでございますが、移り住む場所は、常に死地であると覚悟されております。われも阿津見の族長なれば、無旦《むたん》王子を迎えることが秋津洲《あきつしま》にとっていかなる影響を与えるか考えて参りました。だが、もはや、考える余地は少のう御座います。秋津洲は、無旦《むたん》王子を匿《かくま》うとしても、華夏雄国《かかゆうこく》の火の粉を被らない道を、探し求めるしかないと考えております。」
阿津耳の言葉は、まるで豊玉之男の魂が取りついた如くに、迫力があった。
「その様に都合の良い方法があるのか。」
「もはや、逃れて助かる道はございませんが、戦わずして、身を隠す方法はございます。」
「ほう、どのような策があるのか。」 秋津廣行
「それは、豊玉之男君《とよたまおのきみ》から申し上げましょう。」
つづく
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