レポート試験 | 65歳の芸大生

65歳の芸大生

定年退職後、新しいことにチャレンジしたいと考えて、今まで縁がなかった芸術について学ぼうと思い、京都芸術大学通信教育部芸術教養学科に入学しました。このブログは学習記録としてレポート等の成果を載せています。複製、転載はご遠慮ください。

1~15章を通じて学んだなかからテーマ(作家、作品、事象など)をふたつ選び、それぞれの特質と相互の比較・関連について、あわせて1200字程度で述べてください。

手塚治虫と水木しげるの作品について、ファンタジー表現に着目し、その特徴と相互の関連性について考察する。 

1.手塚治虫のファンタジー表現

  手塚治虫の作品におけるファンタジー表現の特徴の1つは、彼が作品に科学的要素を積極的に取り入れていることである。  手塚治虫は、未来社会を舞台にした『鉄腕アトム』や、人体の内部構造を描いた『ブッダ』など、科学技術に関する知識を作品に巧みに取り入れた。これらの作品では、SF的な設定を基盤としつつ、人間の内面や倫理的ジレンマなども描写されており、単なる娯楽作品にとどまらず、深い思想性を持っている。このように、手塚は科学的要素とファンタジーを融合させることで、新しいマンガの可能性を切り開いたといえる。

  また、キャラクターデザインにおいても独創性が発揮されている。大きな瞳や丸い頭部など、従来のマンガとは一線を画す特徴的な外見を持っている。これらのデザインは、作品世界への没入感を高め、物語の展開を支える重要な要素となっている。  加えて、ストーリーの展開においても手塚独特のタッチが見られる。彼の作品では、時間軸を自在に操りながら、複雑な因果関係を描いていくことが特徴的である。このようなナラティブ上の実験性は、読者を惹きつける大きな要因となっている。 

2.水木しげるのファンタジー表現 

 水木しげるのファンタジー表現は、日本の伝統的な怪談から大きな影響を受けている。水木作品の大きな特徴は、ユーモアと怪奇の絶妙な融合にある。彼の作品世界には、奇妙で不気味な要素が随所に散りばめられているが、同時に滑稽さや笑いを誘う場面も多数登場する。この対照的な要素の共存により、読者は恐怖と軽快さの両極端な感情を同時に味わうことができる。キャラクターデザインにおいても、彼のキャラクターは、丸い顔立ちや大きな目など、かわいらしさと不気味さが共存した独特の外見を持っている。この特徴的な造形は、水木作品の世界観を強く支えるものとなっている。 

3.両者の比較と関連性 

 手塚治虫と水木しげるは、時代背景の違いから、ファンタジー表現にも相違点が見られる。手塚の作品は高度経済成長期の日本を反映し、科学技術の発展とそれに伴う倫理的ジレンマを描いた。一方、水木の作品は戦後間もない時期に創作され、日本の伝統的な妖怪文化を題材に、ユーモアを交えた表現を展開した。  しかし、両者の作品には共通する点も存在する。ファンタジーを通じて社会現象や人間性を風刺し、批評的な視点を示す点が共通している。手塚は科学の影響を受けた未来社会を舞台に、人間の本質を問うた。水木は妖怪を通して、現代社会の矛盾や人々の愚かさを描いた。このように、両者はファンタジーを媒介として、時代を映し出し、社会に警鐘を鳴らしたのである。

  さらに、両者の作品は相互に影響し合っている。手塚は水木の作品に触発されて、独自のファンタジー表現を確立した。一方、水木は手塚のキャラクター造形や物語構造から多大な影響を受けている。このように、両者の作品は日本のマンガ文化に重要な足跡を残し、相互に刺激し合いながら、その発展に寄与したと言える。