カラカラの土地に突然恵みの雨が降るように、あるいは会いたいなぁと思っていた人に偶然出会うように、音楽も突然私たちの前に現れる。本当に心から求めていたら、向こうからやってきてくれるのだ。出会うべくして出会うのである。
この春、私は自分の不甲斐なさに落ち込んだ。私はいつも人の目を気にし、周りと一緒じゃないと不安を感じていた。だからみんなと同じように生きることが一番自分に合っていると思っていた。実際はそうなのかもしれない。でも、自分のなかではちょっとくらい違う道を歩んでみてもいいのではないか、と思う気持ちも常にあった。そして、この春である。いつの間に学生生活最後の年になり、社会に出るのだという意識が友人たちの間で高まり始め、自分も。そしてなんとなく周りの流れに乗り、就活をしていたのだが自分の入りたい会社の試験が落ちた時、本当に、心底空しくなった。なぜ落ちたのか、自分に一番足りないものは何なのか、今まで何をやってきたか、何をやり遂げたのか。試験に落ちたその日から、これまでの自分について真剣に考え始めていた。バイト、友人関係、遊び、勉強もそれなりに。特に、地元を離れ、東京で出会った友達との関係はかけがいのないものになった。はじめはそれで十分ではないかと思っていた。しかし、ここで今までずっと心にしまっていたある思いがどうにもこうにもコントロールできなくなっていた。それは、
「留学すること」
これは長年わたしが夢見ていたことだった。きっとたいしたことではないのだろうけど、自分にとって留学するということは、底なしの海に飛び込むことくらいの勇気が必要だった。だから留学したいという思いが湧き上がると、いつも葛藤がこころのなかで起こっていた。行きたい、でも怖い。今回もまたいつものように諦め、その不甲斐なさに落ち込み、それでよかったのだと後から自分に言い聞かせて終わるのだろうか。でも、もしもここでいつものように諦めてしまったらもう自分はダメになると、本気でその時思った。一歩を踏み出したい。でもその一歩が踏み出せない。「誰かお願い、背中を押して。」と心のなかで強く思っていた。
そんな時である。なぜか無性にフーファイターズのBEST OF YOU(『IN YOUR HONOUR』)が聴きたくなった。前から知っていた曲だが以前はあまり気にかけていなかった。それなのになぜかその時どうしても聴きたくなったのだ。早速私は近所のレンタル屋に向かっていた。(買えよっていう突っ込みはここでは無視)うちへ帰り、借りてきたCDをセットして、いきなり3曲目のBEST OF YOUにトラックをまわし、音量をいつもより上げて聴いてみた。
「I’ve got another confession to make, I’m your fool…」
デイヴグロールの腹のなかの思いを全て吐き出すような力強い声が小さな部屋のなかで響き、そのとき私の体は寒気を感じるくらい全身に鳥肌がたっていた。何度も何度もリピートしてみる。すると私の揺らいでいた心は、彼の力強い声にだけじっと傾けていた。彼だからこそ出せる、ストレートなロックンロールの歌声。歌詞の内容どうのこうのではない。人のこころに突き刺さるようなまっすぐな歌声が、私の中にあるぬりかべのような巨大な何かをぶち壊した。彼のこの歌声が私の背中を押していた。きっとこのとき私はこの歌を耳ではなくこころで聴いていたのかもしれない。まさかこの一曲が、私に一大決心をさせるなんて思ってもみなかった。『IN YOUR HONOUR』の発売当初ではなく半年以上たった、「今さら」な時期にこのアルバムを聴きたいと思ったのには何か訳があったのだ。
それから数ヵ月後。私は今アメリカにいる。そう、とうとう来てしまった。期間は半年。たった半年、されど半年。人生の中のたった6ヶ月なんて高が知れているかもしれないが、今この時間は少なからず私のこれからの未来をつくる重要なものになるのは間違いないと思う。それはいい方向にいくかも知れないし、それとは逆になるかもしれないけれど、そんなことはどうでもいい。今はここに来ることができたことに私はとても嬉しく思っている。あと5ヶ月と数週間のアメリカでの生活、その先の私の未来。全く想像もつかなくて怖いけれど、楽しみでもある。
友達や家族の支え、そしてBEST OF YOUをあの時、あのタイミングで聴いていなかったら、今ここに私はいなかったかもしれない。人生のおもしろさを思い知らされた瞬間だった。