
ジャズ好きの人の中でも"ドルフィー好き"って人は結構多いんじゃないでしょうか?
かくいう私もジャズにのめり込んだきっかけが『Out To Lunch』だけあって、とにかくドルフィーのリーダー盤を率先して買っていた時期もありました。
ただ、ドルフィーのプロミュージシャンとしての活動期間はわずか4年ほど。
リーダー盤だけを聴こうとしても数に限りがある(たった4年の活動とは思えないほどの枚数だが)。
そこで私を含む多くのジャズ聴きはサイドメンで活躍する"隠れドルフィー"を探し始めるのである。
"隠れドルフィー"初級編として後期コルトレーンの諸作や1960年頃のミンガスバンドが挙げられる。
どちらもアクの強いバンドだけあって、ドルフィーの異彩も上手く溶け込んでいる。
後年になってからドルフィーが認められたのもこういった大御所との共演に依るものだろうか。
しかし、今回は初級編を飛び越えて中級〜上級編の"隠れドルフィー"を紹介したい。
ピアニスト、ジョン・ルイスのリーダー作『The Wonderful World Of Jazz』だ。
ジョン・ルイスはMJQ(Modern Jazz Quartet)のピアニストという肩書きが大きく、自身のリーダー作でもクラシック音楽との融和を試みていた。
そんな彼のイメージとはミスマッチだが一時期、ドルフィーを擁したバンドでレコーディングをしていたのだ。
マルチリード奏者であるドルフィーのことなので「アンサンブルの一部としてジョン・ルイスが採用したのかな?」と思って聴くと、頭をガツンと殴られたようなショックを受ける。
今作ではドルフィーらしさ全開のアヴァンギャルドなプレイを聴くことが出来る。
ドルフィーが参加しているのは「Afternoon In Paris」と「The Stranger」の2曲。
前者はカッチリした格調高いアンサンブルの曲調。
ソロに入った瞬間、一人素っ頓狂なブロウをあげるドルフィーはどう考えても異質。
それまでのジョン・ルイスの端正なソロを破壊するような。
ただ、異質なだけで終わらず、吹き進めるごとにドルフィーの音がこのバンドを支配しているように感じられる説得力がある。
後者はブッカー・リトルやアンドリュー・ヒルが書きそうな沈鬱な重たい曲調。
ベタッと閉塞的なアンサンブルの中で全く遠慮なく切り込んでいくドルフィーのソロはビバップからの脱却を強く感じさせる。
この2曲のドルフィーの活躍を聴くだけでもドルフィー好きとしては大満足な吹きっぷり。
ドルフィー目当てで聴き始めた今作だが、面白い収穫も1つ。
1曲目「Body And Soul」のみで参加しているテナーのポール・ゴンザルヴェス。
デューク・エリントン楽団やカウント・ベイシー楽団等と生涯をビッグバンドジャズに捧げたテナー奏者らしい。
スウィング期のジャズを思わせるジェントルかつエロティックなトーンでマイペースに吹き続ける長尺ソロはかなり聴き応えがある。
エリントン曰く"群衆の中を歩くようなソロ"と表現されたゴンザルヴェスの絶品ソロが味わえる。
また、影の立役者でもあるジム・ホールの存在感も大きい。
コード楽器が複数いるとピアノ奏者にとってはストレスとなる和音の衝突が起こりやすいが、そこはジム・ホール。
実にデリケートにコードの合間をくぐり抜けた最適な音選びを見せる。
トータルでのサウンドコーディネートも"個"のプレイの面白さも映えるものがあるジョン・ルイスの佳作。
1960,7,29 #2,3,5
1960,9,8 #1
1960,9,9 #4,6,7 (Atlantic)
John Lewis (pf)
Herb Pomeroy (tp) #1,4,6
Gunther Schuller (french horn) #4,6
Eric Dolphy (as) #4,6
Paul Gonsalves (ts) #1
Benny Golson (ts) #4,6
James Rivers (bs) #4,6
Jim Hall (gt)
George Duvivier (ba)
Connie Kay (ds)
1.Body And Soul
2.I Should Care
3.Two Degrees East, Three Degrees West
4.Afternoon In Paris
5.I Remember Clifford
6.The Stranger
7.If You Could See Me Now