「横須賀線の電車は東京駅の地下ホームから発着するんだよ」というのは誰でも知っていると思います。

では、

「横須賀線の電車は東京駅の地上ホームから発着していたんだよ」と言って信じる人がいるかどうか・・・。でも、画像は紛れもなく東京駅です。

横須賀線が総武本線との兼ね合いから、昭和55年10月から地下線に移ったわけですが、今年で44年、早いものです。

 

「横須賀線が東京駅の地上ホームから発着していたのは解った。でも、品川からは西大井と新川崎を経由していたんでしょ?」

いいえ違います。

 

横須賀線は品川から先も東海道線と線路を共用していたのです。現在、横須賀線や湘南新宿ラインが走る品川-新川崎-鶴見間は別名「品鶴線」と呼ばれているのはご存じかと思いますが、元を辿れば純然な貨物専用線でした。

まだ「大汐線」が開業していなかった頃、汐留貨物駅を発車した貨物列車は品川から「品鶴線」を通って新鶴見操車場に向かい、鶴見から東海道本線に合流していました。また、東北・上信越・常磐・総武方面からの貨物列車も田端操車場から山手貨物線に入り、大崎で品鶴線に合流していました。これを旅客化したわけですが、それまでは横須賀線はそのまま東海道線を走って、大船で分かれていました。また、55.10改正までは東海道線の列車は川崎駅は通過して、横須賀線の列車だけが停車していました。もしかすると東海道線の列車は保土ヶ谷も戸塚も通過していたかもしれません。

 

東海道線と横須賀線は東京-大船間でずっと線路を共用したから、双方とも列車増発しようにも出来ず、早急の抜本的対策が求められてきました。大船までだったらどっちかが来ればそれに乗れば良いわけですが、大船を過ぎると、東海道線も横須賀線も15分~20分に1本程度ののんびりとした運行頻度になるので、大船以西の利用客からは「本数を増やせ」と詰め寄られたことも二度や三度ではありません。

同時にそれ以外の首都圏通勤路線も殺人的な混雑に頭を抱えており、この状況をどうにかせねばということで、立ち上げられたのが「通勤五方面作戦」というプロジェクトでした。東海道線と横須賀線の分離運転はその一環になります。俗に「SM分離」って呼ばれてましたよね。

 

では、どうやって「SM分離」をコンプリートするか・・・。

東京-大船間の線増も考えられましたが、実際に具現化したのは新線建設を含めて貨物線を分離すること。武蔵野線も大汐線も東京-品川間の地下線もいわゆる「横浜羽沢ルート」も、そして大船-小田原間の複々線化も全て、東海道線と横須賀線の分離運転に端を発するもの。特に大船-小田原間は用地買収が困難を極め、開業に随分と時間がかかったそうです。羽沢地区も “交通無人島” 状態だったエリアだったので、線路が敷かれた際には「列車がやって来る」と小躍りしたらしく、でも実際には貨物駅で旅客列車は来ないことが判って暴動寸前だったとか。

そして、東京-品川間の地下ルートは東京地下駅で総武本線と直結してそのまま相互直通運転をすることを盛り込みました。

 

こうして、武蔵野線と大汐線は昭和48年に、東京-品川間の地下ルートは昭和51年に、貨物線羽沢ルートと大船-小田原間の複々線は昭和54年にそれぞれ開業して「SM分離」のお膳立ては完成、昭和55年10月の改正でようやく東海道線と横須賀線の分離運転及び横須賀線と総武線の直通運転が実現しました。新川崎駅と東戸塚駅はこの時開業しまして、横須賀線が品鶴線を経由するようになったことで、東海道線の川崎と戸塚停車が実現して利便性が向上しました。

 

当時の東京駅は

 

  1、2番線:中央線快速

    3番線:京浜東北線北行

    4番線:山手線内回り

    5番線:山手線外回り

    6番線:京浜東北線南行

  7、8番線:東海道線普通

 9、10番線:横須賀線

12、13番線:東海道線優等列車

15~19番線:東海道新幹線

地下1~4番線:総武線快速・房総特急

 

という割り振りでした。当然のことながら重層高架じゃないので、中央線快速のホームと山手・京浜東北線のホームは並列でした。

ラッシュ時とかには9、10番線にも東海道線の列車が入ることがありましたが、基本的には上記の通りになります。11番線は回送列車用でホームは無く、ブルートレイン牽引機の機回しにも使われていました。

 

あらためて画像を見ると、「09S」という列車番号が読み取れます。

画像自体は昭和53年8月撮影らしいので、当時の時刻表と照らし合わせると、該当するのが409S、809S、1009S、1309S、1609S、1909S、2209Sになります。いくら夏の撮影でも、1909Sと2209Sは当てはまりませんので、409S~1609Sの何れかだろうとは思います。

 

 409S:東 京発  4:52→久里浜着  6:19

 809S:東 京発  8:24→逗 子着  9:30

1009S:東 京発 10:49→久里浜着 12:11

1309S:東 京発 13:45→久里浜着 14:58

1609S:東 京発 16:35→横須賀着 17:54

 

おっと、方向幕に「横須賀」という行く先が掲示されているではありませんか。

他に横須賀行きが無いので、前置きせずとも1609Sであることが判りますよね。

1609Sは東京駅を16時35分に発車しますので、寝台特急「さくら」の5分後に発車することになります。

 

子供心に「何で横須賀線と総武線快速は同じ顔の車両を使っているんだろう?」って疑問に思ったことがあります。

内部事情なぞ知る由も無いので、総武線快速を見ちゃ「これは総武線じゃ無い」とか言ってた記憶はあります。

 

 

【画像提供】

ヤ様

【参考文献・引用】

国鉄監修・交通公社の時刻表 1978年8月号 (日本交通公社 刊)