8月も終わり。
東京オリンピック/パラリンピックがあったとはいえ、新コロで今年の夏休みも “まともに” 楽しい思い出を作れなかった方は多々おられると思います。新コロで大騒ぎになる前は、 「おばあちゃんちにいく」 とか、 「海に泳ぎにいく」 とか、様々な計画を練ってたかと思うんですが、特に海水浴は夏ならではの楽しみなレジャーの一つですよね。
関東周辺だと、三浦半島を含む湘南や伊豆、茨城辺りに有名な海水浴場がありますが、どの地域も海水浴客を満載にした臨時列車を設定していました。
そしてもう一つ、忘れちゃならない関東随一の海水浴エリアとして房総半島がありますが、穏やかな内房、荒々しい外房と、一口に房総といっても、海水浴としての “顔” は内房、外房とではまるっきり違いますので、その時の気分によって 「今年はここにしよう」 という選択肢が多いのも房総地区の大きな特徴と言えるでしょう。
国鉄千葉鉄道管理局は、労使関係が最悪な状況でも、毎年夏には特別ダイヤを組んで、その中に海水浴向けの臨時列車を多数設定していました。
海水浴向けの臨時列車は戦前からあったそうですが、その頃から 「うしほ」 「さざなみ」 という愛称も付けられていたようです。種別は快速でしたが、目的地まで3時間以上かかっていたので、房総といえど日帰りは不可能、泊まりがけが基本スタイルだったようです。戦時色が濃くなると、海水浴どころではなくなり、昭和15年には愛称付き列車は廃止され、その2年後には不定期列車は全廃されます。
なお、当然のことながら、これら海水浴臨時列車は蒸機牽引の客車列車であったことを付記しておきます。
終戦から5年が経った昭和25年頃から海水浴臨時列車が復活し、 「汐風」 の愛称を得ます。このコーナーのNo.878で、山陽の 「しおかぜ」 と房総の 「汐風」 はどちらが最初か・・という記述をしましたが、房総の方が早かったですね。この頃、房総の海水浴臨時列車には 「かもめ」 「黒潮」 といった、後々特急としてブレイクする愛称が含まれていました。
「汐風」 は両国-館山間の運転で、当時から千葉までは電化されていたので、EF50やEF58が牽引。千葉から先はC58がメインで目的地へと向かっていました。時折、尾久機関区のC57やC51も応援に入ることもあったようです。
変わったところでは、80系や153系を使った電車の 「汐風」 もありました。電化区間は自力走行し、非電化区間ではDD13重連が引っ張りました。当然、電車はパンタを下げるわけですが、そうするとサービス電源も供給がストップしてしまうので、電源車として旧型国電のクハ16527 (後にクハ16484に変更) が組み込まれました。
房総地区は今からじゃ考えられないほど電化区間が少なく、客車列車が基本ながら早い段階から気動車が使用され始め、戦後になると新潟の越後線とともに、気動車化のモデル線区に選定され、昭和29年には日本初の気動車専門の現業機関である千葉気動車区が開設されます。勿論、夏季輸送にも大車輪の活躍を見せるのですが、押し寄せる乗客を捌くには “手持ちの駒だけ” では手が足りず、各地からの応援車両も駆り出すことになります。前述の電車もそれに含まれますが、酷いと普段は通勤用に使っているキハ35を準急に充てるなどして対応した例もあります。
その中でも一際、別の意味で目立ったのがキハ17を使った 「汐風」 ではないかと思われます。
昭和41年、種別改正に伴って、準急は急行に一本化されるのですが、その例に倣ってキハ17の 「汐風」 も急行に “昇格” します。
準急でも 「何でキハ17?」 と不評ではあったはず。それが急行となれば、暴動になったのではないでしょうか? それを知ってか知らずか、昭和43年には快速に格下げの上、 「さざなみ」 に改称されてしまいます。
画像は見る限り、オールキハ17系による 「汐風」 のようですが、ヘッドマークも付いているし、別の意味でなかなかどうして、サマになっているじゃないかとは思ったりします。この頃はキハ20もいたでしょうし、大体がキハ20との混結だったから、凸凹編成が基本だったことを考えると、統一された編成は綺麗だなとは思います。でもやっぱり、 “急行” という点で捉えると、キハ58やキハ55よりかはランクは数段下で、見劣りは否めません。でも、昭和44年に運転された臨時快速 「さざなみ」 は通常は総武線で使っている101系が充てられたため、中には 「キハ17の方がマシ」 と思った方もいたのでは? と感じます。
今じゃ、マイカーの普及と高速路線バスに席巻されて、またレジャーの多様化によって房総半島の鉄道線はジリ貧状態が続いていますが、こう言う時もあったんだというのは記憶に留めておきたいですね。
【画像提供】
ウ様
【参考文献・引用】
鉄道ピクトリアル No.768、980、989
(いずれも電気車研究会社 刊)
国鉄車輌誕生秘話 (ネコ・パブリッシング社 刊)