所有事業者:はとバス (東京)

仕様・用途:観光貸切仕様

愛称:スーパーデッカー

登録番号:品川22 か 2848

社番:391号車

初年度登録:1983年

シャシー製造:ダイムラー・ベンツ社 (西ドイツ)

搭載機関:ダイムラー・ベンツOM422A型

車体架装:ケスボーラー社 (西ドイツ)

車両型式:S216HDS

車名:ケスボーラー・ゼトラ (※)

撮影日:1989年5月3日 (水曜日)

撮影場所:皇居前広場駐車場

※・・便宜的呼称

 

見られそうで見られないのが貸切事業者の “フラッグシップ” に位置づけられる車。定期観光バスや高速路線バスであれば1日へばりついていればいつかはお目にかかれるチャンスはあります。でも、貸切仕様車は神出鬼没なため、そう、しゅっちゅう見かけるものではありませんし、ましてや “フラッグシップ” や特殊仕様だと、台数も限られますので、運以上の運が必要になります。まぁ、営業所とかに配車の状況を問い合わせたり、場合によっては営業所へ直接出向くのも選択肢なのかもしれませんが、相手は業務中だったりしますので、避けた方が賢明でもあります。

 

さて、画像の車もそんな “運が良ければ” お目にかかれた稀少車になります。

これぞまさしく 「二階だけバス」 と呼ぶに相応しい、ケスボーラー社の 「ゼトラ」 です。

実際には、 「ゼトラ」 というのは、 「エアロバス」 や 「セレガ」 のようなペットネームではなく、骨格で車体を組み上げて、軽量強固な一体構造の車体を指し、ドイツ語の 「SELBSTRAGEND」 を文字から 「ゼトラ」 とネーミング、以降、ケスボーラーのブランド名として同社製造のバスには全て 「ゼトラ」 が付されます。まぁ、 「アウベルダー=ネオプラン」 と同じ考え方だと思われます。ネオプランの場合は構造上のネーミングではないですけどね。

 

このケスボーラーの二階だけバスは、1983年に初上陸したんですが、輸入は伊藤忠商事が手がけ、いすゞ系のユーザーに導入されました。レイアウト上は超高床車、スーパーハイデッカーなんですが、お上はこれを二階建てバスと見なし、スーパーハイデッカーなら装備可能な回転シートやサロンの設置を認めませんでした。その結果、 「居住空間を殺してでも、乗車定員と1階席のアレンジが比較的自由な二階建てバスの方が良い」 と市場は判断し、西ドイツ本国ではネオプランに匹敵するシェアを獲得しながら、日本におけるゼトラの売れ行きはさっぱりでした。

終わってみれば、東京ヤサカ観光バスが2台、茨城の塚原観光バスが1台、そしてはとバスが3台を導入しただけに留まりましたが、ある媒体では 「7台のみの導入」 という文言がありました。じゃあ、残る1台は?

 

他の事業者もそうなんですが、はとバスは全て貸切仕様で、1983年7月に391と392が、1984年3月には393がそれぞれ登録されました。1984年登録なのに社番が300番台というのも 「?」 なんですが、あくまでも 「1983年度」 ということになります。

二階建てバスよりもタッパは若干低いんですが、その分、ヘッドクリアランスに優れていて、乗ってて窮屈にならないと高評価だったそうです。

画像は後年、色彩が変更された仕様で、導入当初は側面窓下、 「HATO BUS」 ロゴが配されている場所も黄色一色でした。中扉もあるようですが、乗降は前扉からになるようです。

 

はとバスは現在、一部にハイデッカーと二階建てがある以外は全てスーパーハイデッカーで、文字通り 「日本一、スーパーハイデッカーを持っている事業者」 だと思います。特に主力のいすゞ車は100%スーパーハイデッカーです。はとバスは定期観光バスの運行がメイン。よって 「眺望の良さ」 が求められます。そのため、必然的にスーパーハイデッカーをチョイスすることになるのですが、その嚆矢がこのケスボーラーだったりします。

この他、ネオプランでも 「スペースライナー」 と呼ばれるアンダーフロアコクピットレイアウト (UFC) のスーパーハイデッカーがありまして、輸入はこっちの方が早かったんですが、何故かケスボーラー・ゼトラを 「日本初のUFC」 と形容する媒体があります。私もネオプランの方が 「日本初」 になると思っていましたが、二軸 (ネオプラン) と三軸 (ケスボーラー) の差かもしれませんが、こちらも法規上は二階建てバスに組み入れられました。それでも座席が前面窓ギリギリまで設置されて、その最前列は今も昔も人気No.1ですよね。そのせいか、日本においてUFC一時期、ブームになり、国産でもいすゞがスーパークルーザーにUFCを加えるなど、その辺りがピークかな。1990年代に入って三菱ふそうと日産ディーゼルもUFCをラインナップに加えますが、まぁ、 「時既に遅し」 感は否めません。いつの間にか、国産メーカーはUFCを相次いで生産を打ち切って、運転席と客席を分離しない、普通のスーパーハイデッカーが主流となりました。

 

ただ、ケスボーラ・ゼトラのような二階建てバスを思わせるUFCレイアウトは、世が世であれば別の意味で受け入れられたかもしれません。

というのは、デッドスペースになっている1階部分。この部分を活用してラゲッジルームにすれば、大きい荷物を抱えるインバウンドのツアーにはうってつけだったかもしれませんしね。その際は二階建てバスになってしまうかもしれませんが、ゼトラを見るとついつい、そんな妄想を抱いてしまいます。

 

【参考文献・引用】

BUSRAMA EXPRESS No.15 「はとバス 70年の車両の変遷」 (ぽると出版社 刊)

観光バスのページ

ウィキペディア (ゼトラ、ネオプラン、同スペースライナー)