とても遅くなりました。
最近仕事などで色々忙しいので。



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第12話『ミーコの過去』



ミーコは枕に顔を擦り付け、泣いていた。
…………………不意に、昔の思い出が甦る。
思い出したくない、昔の思い出が。







9年前
(1995年)









1990年に、資産家である月潟慧典と月潟紀子の元に生まれたミーコ……………もとい月潟美子は、お金持ちの家に生まれた子供達が通う幼稚園の中でも、親子揃って注目される存在だった。



幼児A「へぇ~、月潟さんの
パパとママって資産家なんだ~」



美子「そうよ。だから私、欲しいものは何でも買って貰えるの。凄いでしょ~」



幼児B「いいな~、羨ましい~」



この頃は全てが楽しかった。家に帰れば、買ってもらった沢山のオモチャで遊べるし、夏休みには海外旅行に連れて行ってくれる。両親も常に笑顔で楽しそうな様子。
……………兎に角、幸せそのものだった。

























2年前
(2002年)








何事も無く、楽しくて平凡な毎日を送っていた美子は、気づけば小学6年生になっていた。
………………ある日のこと、母親の紀子が
真剣な様子で娘に話しかけた。



紀子「美子、貴方も既に分かっているとは思うけど、来年からは中学生になるわ。
将来的に月潟家を継ぐ者として、若い内から沢山の知識を詰め込まないといけない。
だから貴方には、この辺りで一番のエリート校である盟宮中学を受験して貰うわ」



美子「中学……………受験」



途端に、不安な表情を浮かべる美子。



紀子「心配しなくても大丈夫よ!
貴方は頭がいいから、絶対に合格するわ………………自信を持ちなさい?美子」



美子「……………………はい」















こうして美子は母親の紀子に言われた通り、必死で勉強して、エリート校である盟宮中学の受験に臨んだ。





















………………しかし、結果は不合格。
美子は怯えながら
両親にその事を伝えようとした。



美子「ごっ、ごめんなさい……………こんなことになってしまって。本当にごめんなさい」



紀子「っ!」



激怒しながら娘の頬を叩く紀子。



美子「痛っ!」



崩れ落ちる美子。そして…………



紀子「………………この、恥晒し!
美子、貴方には絶望したわ。
月潟家の汚点同然よ!!」



更に追い討ちを掛けるように
父親の慧典が口を開く。



慧典「お前は私達夫婦を失望させた。
その事を決して忘れるな」



美子「……………………」



紀子「あぁ、本当に困ったわ!
………………明日からどんな顔をして
外を出歩けばいいのかしら。
恥ずかしくて堪らないっ!!」



美子「……………………」













…………………そして、結局美子は普通の中学校に通うことになってしまった。



しかも、そこで彼女を待っていたのは
激しい誹謗中傷だった。
入学して早々、数人の同級生が陰口で
「あの子らしいわよ、中学受験に失敗してこの学校に入学してきた女って!」
「金持ちのお嬢様だなんてうぜー、目障りだからさっさと消えてくれねぇかな」
………………そういった言葉が飛び交った。



当然、新しい友達は1人も出来ず、家に帰れば両親から邪険に扱われる。
………………その様な毎日が1ヶ月程続き
気づけば、保健室で一日を
過ごすようになっていた。










そんなある日の事だった。
いつものように保健室のベッドの上で
横になって過ごしていた美子。
…………………すると、扉がガラガラと開き。
体格の良い1人の男が部屋の中に入ってくるのが、カーテン越しに見えた。



「はーっ!数学の授業なんて面倒臭くてやってらんねぇ。昼休みまでサボるか!!」



男は躊躇い無くカーテンを開いた。
………………目の前で、美子が横になっているとも知らずに。



美子「キャッ!」



???「うわぁっ!………………なんだ
俺以外にも、保健室で休んでいるヤツがいたのか。ごめんな?驚かせちゃて」



美子「ううん、別に大丈夫よ。
………………私、気にしてないから」



???「そうか、それならよかった。
………………はぁ、仕方無ぇ。階段昇るの面倒だけど屋上でサボってくるかな。ブツブツ」



そう言って男が部屋から出ようとした時、美子が口を開く。



美子「ちょっと待って。
………………あの、もしよかったらここに残って私の話し相手になってくれないかしら?
実を言うと、私もサボっているの」



???「えっ?まぁ、別にいいけどよ」



美子「本当?……………ありがとう。
隣開いてるから、腰掛けていいわよ」



???「……………あぁ」



何故この時、「話し相手になって欲しい」と言ってしまったのか、正直自分でも全く分からない。ただ、不意に直感が働いたのだ。
『彼なら、良くも悪くも今の状況を打破してくれるかもしれない』と。
















2人だけの気まずい雰囲気が続いて数分後、美子が口を開いた。



美子「………………ねぇ、貴方って私と同じ1年生よね。名前、教えてくれる?」



???「俺?………………俺の名前は
土船住武志って言うんだ」



美子「ドブネズミ?
………………随分変わった名字ね」



武志「だろ?他の奴らにも
良く言われるんだよな。へへっ」



これが、美子と武志との
初めての出会いだった。



武志「で、お前の名前は?」



美子「月潟………………美子
下の名前は、美しいに子って書くのよ」



武志「へーぇ……………ところでよ
どうしてお前、保健室でサボってるんだよ
授業には出ねぇのか?」



武志がそう言うと
美子の表情が暗くなる。



美子「………………出たくない。
教室には、私の居場所は無いわ
……………家にだって居場所は無い。
みんなみんな、大嫌い!」



武志「わっ!どうしたんだよ
………………俺が話聞いてやるからさ
とりあえず落ち着けよ。なぁ?」



激昂する彼女に思わず焦るも
武志は必死で宥めようとする。



………………美子は武志に、自分の家が大金持ちであることや中学受験に失敗したこと。それによって両親から酷い扱いを受けていること。更に、クラスの連中にイジメられている事を、泣きながら全て打ち明けた。



武志「そういうことだったのか……………その気持ち、凄く分かるぞ。俺も今、親や兄貴から酷い扱いを受けているからなぁ」



美子「えっ、そうなの?」



武志「あぁ、嫌んなっちゃうぜ!
………………よし決めた。おいミーコ、これから何かあった時は躊躇わず俺に言え。
お前のことは俺が守ってやる」



美子「あ………………ありがとう。
って、ちょっと!『ミーコ』って何!?
私の名前は『美子』よ?」



武志「んっ?お前のあだ名だよ」



彼女は驚いた。今まで一度も、あだ名で呼ばれたことなど無かったからだ。



武志「『美子』じゃ堅苦しいじゃん
こっちの方が、可愛いし呼びやすいし。
というわけで!今日からお前のことは
『ミーコ』って呼ぶからな!!」



美子「むっ、分かったわよ…………」



















その日を境に、武志の仲間になったミーコは彼と一緒に行動するようになった。
途端に、数ヵ月前まで自分をイジメていた連中は全員恐怖感を抱くようになり、手出しする者は誰一人いなくなった。



ミーコ(ふん!私が武志と仲良くなった途端、皆掌を返したようにペコペコして。
結局アイツらは、格上の人間には手を出さない卑怯者だったって訳ね)



武志「なぁミーコ、今日も授業サボって何処か遊びに行かねぇか?」



ミーコ「……………えぇ、行きましょ武志。
今日はゲームセンターにする?
私、クレーンゲームがやりたいわ」



武志「ゲーセンかぁ、いいねぇ
それじゃあ早く行こうぜ!」



つい数ヵ月前まで淑やかなお嬢様だったミーコは、すっかりワルになってしまった。
またこの頃には、武志と結託して他の同級生達と共に太郎をイジメるようになっていた。
翌年には、新たに入学してきた1年生の久保健太が仲間に加わり、3人で行動を共にするようになった。



彼女の心は至福で満ちていた。
誰かに必要とされているのは、産まれて初めての事であったからだ。



このまま楽しい日々が
続くだろう………………と思っていたのに
誘拐事件に巻き込まれ、そこで頼りにしていた武志に見捨てられてしまう。
更に父親が不倫した事で、母親からは八つ当たりの如く、より一層冷たく扱われるようになってしまう。
……………いったい何故、こんなことに
なってしまったのだろうか。



やがてミーコは、1つの結論に辿り着く。
誘拐事件に巻き込まれた原因は、犯人である尹撫蘭が畦道亨を誘うために、自分達を拐った事を思い出した。



「………………っ!」



途端に、亨に対して激しい憎悪の気持ちが沸き上がってきた。
アイツさえ転校してこなければ、このまま平穏に楽しく過ごすことができたのに。
親に邪険に扱われても、武志達と一緒なら笑って過ごすことができたのに。








げ槍になったミーコは
自室を飛び出し、玄関に向かおうとした。



すると、彼女を呼ぶ声が響いた。
執事の三田村である。



三田村「美子お嬢様!何処へ行かれるのですか?また紀子様に叱られますぞ!!」



ミーコ「散歩よ。それに、お母様に
叱られようが別にどうだっていいわ
………………私の勝手でしょ!?」



素っ気ない返事をすると、ミーコは駆け足で玄関を飛び出した。



三田村「…………………」





















「…………………クソッ、畦道亨め
絶対に許さない!今度は必ず!!」



次回に続く



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