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第11話『ミーコの家族』



その日の放課後……………




(……………ダメだ。
どうしても分からない!)



亨は、廃工場で尹撫蘭と戦った時の出来事を頭の中で1から整理していた。
…………………だが、どうしても途中からの出来事が思い出せないでいた。そう、撫蘭が『ゴライアス』と呼んでいた謎の珠が、自身の身体に入っていった時からである。
気がつくと床に卒倒していたので、どのようにして撫蘭を倒したのか全く知らないのだ。



太郎「あっ、そうだ亨君」



「えっ、あっ?どうした太郎」



急に呼び掛けられ、驚く亨。



太郎「………………よかったら
今から僕の家で遊ばない?
おじいちゃんとおばあちゃんも
きっと歓迎してくれると思う」



「今から?………………ああ
俺は別に構わないけど」



太郎「うん決まり!
それじゃあ早く行こう!!」



「……………………」




















そして同じ頃、別の道から帰っていた
ミーコと健太の2人は…………………



ミーコ「じゃあね健太、また明日。
ここからなら1人でも帰れるよね?」



健太「はい、大丈夫でやんす
………………ミーコさんも気をつけて」



ミーコ「分かってるわよ、じゃあね」



2人は互いに、別々の道に向かった。















……………………そして数分後
ミーコは自宅の前に到着した。
赤色が特徴な大きな邸宅である。

「ただいま…………」



恐る恐る玄関の扉を開けるミーコ。
入口の近くに、母親である
月潟紀子(つきがた  のりこ)
立っていた。
彼女は、ドスの効いた声で喋り始めた。



「美子!貴女、2日間も
いったい何処で遊び回っていたの!!」



ミーコ「っ!………………お母様違うの
私は遊び回っていない!
見知らぬ高校生達に誘拐されて
工場の中に閉じ込められていたの!!」



紀子「嘘を付かないで頂戴。
どうせまた、ドブネズミとかいうガラの悪い男と遊んでいたんでしょ!」



ミーコ「……………っ」



彼と遊んでいたのは本当だった為、ミーコは何も言い返せなかった。



ミーコ「………………確かに、私は武志や健太と遊んでいたわ。でも、その帰りに高校生達に誘拐されてしまったの!………………それにお母様も、どうして助けようとしなかったの?娘が2日間も帰ってこないのよ!!」



紀子「出来の悪い貴女を助ける必要なんて無いに決まっているでしょ?
それにね、私やその周りはそれどころじゃ無かったの!これを見なさい!!」



怒りで我を忘れている紀子は、持っていた新聞をミーコに叩きつけた。
………………その新聞の見出しには
このような文章が書かれていた。



『有名な資産家の
月潟慧典氏(38歳)
渡航先のイギリスで
20代の女性と不倫か?』



ミーコ「嘘っ……………お父様の名前。
そんな……………不倫だなんて!」



膝から崩れ落ちるミーコ。
そんな彼女を、母親の紀子は
まるでゴミを見るような眼差しで
睨み付けていた。




























…………………場所は変わって
ここは太郎の家。

「………………すげぇ。
メチャクチャ美味しいぜ!
ホッペが落ちそうだ!!」



亨が食べていたのは、この時期ピッタリの冷たいざる蕎麦だった。



「ホッホッホ!亨君が喜んでくれて
ワシら夫婦も嬉しいよ」



朗らかに笑うのは、太郎の祖父である
佐藤昭二(さとう  あきじ)



「相変わらず、貴方の腕は落ちてない。
昔懐かしい、若い頃のままですねぇ。
………………フフッ」



昭二に続いて、太郎の祖母である
佐藤珠緒(さとう  たまお)
朗らかに笑う。



「太郎のおじいちゃん、おばあちゃん、本当にありがとうございます
………………俺なんかの為に、こんなに美味しいご馳走を作って下さって。
なんか、申し訳無い気持ち」



昭二「礼なんて必要無いよ亨君!
太郎君の親友である君には
いつでもワシら夫婦が
美味しい料理を作ってあげよう」



珠緒「……………そうだ。もしよかったら、亨君のお父さんとお母さんも、私達夫婦の料理をご馳走になって貰うのはどうですか?」



昭二「うむ!勿論大歓迎じゃよ!!」



「本当?ありがとうございます!とーちゃんとかーちゃん、凄く喜ぶだろうなぁ」



太郎「ハハ……………やったね、亨君」



向かいに座っている太郎が
満面の笑みで亨に話しかける。



「そういえば太郎。
お前のとーちゃんとかーちゃんは
何処にいるんだ?仕事?」



太郎「っ!……………っ」



「えっ?おい、どうしたんだよ太郎」



急に伏し目になる太郎を見て、思わず慌てる亨。するとここで、昭二が割り込む。



昭二「ワシが代わりに話そう。
………………実は太郎君は
幼稚園の頃に両親と弟を交通事故で
亡くしてしまったんじゃよ」



「……………そうだったんですか。
ごめんな太郎、何も知らずに
無神経な事言っちゃって。
俺も、おじいちゃんとおばあちゃん
両方ともいないんだよ」



太郎「……………………」



珠緒「あらあら。
……………亨君が謝ることは無いですよ?」



「はい……………」



まさか太郎の両親が、既に亡くなっているとは思っていなかった亨。自らの発言のせいで、先程までの楽しそうな雰囲気が一気に覚めてしまったことを悔やむ。



……………その時彼の足元に
一匹の柴犬が近づいた。



「わ、可愛いなぁ……………
太郎、お前って犬飼ってるんだな」



太郎「え?うん、そういえばまだ言ってなかった。名前はモモっていうんだ」



「へぇ~可愛いじゃん!」



亨がモモの頭を触ると、嬉しそうにワンワンと吠えた。



太郎「そういえば亨君の名前って
どんな意味が込められているの?」



「俺の名前?ああ、かーちゃん曰く
『前向きに、物事が上手く行くように。困難が立ち塞がっても、必ず乗り越えるという強い信念を持って欲しい』って意味で、この名前を付けたらしいぜ」



太郎「へぇ……………凄い。
僕はもう両親がいないから
『太郎』っていう名前に込められた
意味を知らないんだ」



「……………きっとその名前にも、親の強い気持ちが込められているハズだぜ。
いつの日か、分かるといいな」



太郎「うん…………」



当たり障りの無い話をしながら
2人は食事を続けるのだった。






























再び場所は変わり、月潟家。
………………その中の一室、ミーコの部屋。



「うっ………………ううっ、ヒック」



彼女は枕に顔を擦り付け泣いていた。
大好きだった父親の慧典が、赴任先で現地の女性と不倫を行ったショック。
そして、自分に激しく
八つ当たりする母親の紀子。




いったい何故、我が家は
こんなことになってしまったのか?
………………否、その理由は自分が一番よく分かっている。全ては数年前の、『あの出来事』から始まっていたからだ。




次回に続く




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