ラインハルトは図らずもトリューニヒトが揶揄交じりに評したように、「才能はあっても、人間として完成にほど遠い未熟な坊や」である。

 その辺は皇妃となるヒルダも、どっこいどっこいな部分はあるが、それを人格者の父であるマリーンドルフ伯が補填している所がある為、彼ほど目立たなかったし、ラインハルトの子を身ごもってからは、母親としての自覚が出て気持ちが座っている。

 全てはキルヒアイスの死が、ラインハルトを変えてしまった。

 元々彼はキルヒアイスに遠征軍を任せて、自分は内政に没頭するつもりだった。
 ラインハルトは優秀な働き者だが、年齢でいえば20代前半で、軍人として歩んできたので、どうしても思考が軍事に傾く傾向が強い。

 それを自覚していたからこそ、軍事を自分よりも剛柔の均整の取れたキルヒアイスに委ねて、内向きの自身の内政能力を充実させたいと考えていたのだろう。自由惑星同盟も内実は酷かったが、銀河帝国のそれは更に酷かったからだ。

 少なくとも彼が選んだ高級文官は、高級軍人より1周りは年上の人が多く、軍人よりも視野が広い。これはラインハルトが軍人だけでなく、優秀な文官の情報も漏らさず集めていた事を示している。

 銀英伝は戦闘シーンが物語の華なので、地味な内政シーンはナレーションですませてしまう事が多い。

 実際に軍部の関係者は帝国、同盟問わず銀英伝のファンなら、かなりの数を上げる事が出来るだろうが、内政関係者の氏名はトリューニヒト、ショバン・レベロ、リヒテンラーデ侯爵、マリーンドルフ伯爵、工部尚書シルヴァーベルヒ位のものだろう。

 ラインハルトが行ったのは『上からの革命』である。彼に招聘されたオイゲン・リヒターとカール・ブラッケは、下からの革命でない事に不満顔だったが、大きな前進である事は素直に認めている。


 しかし、帝国の国民は自由惑星同盟ほど開明的な政策の施行の仕方に慣れてないので、仮に下からの革命によってゴールデンバウム王朝が倒れても、かなりの期間、混乱が続いただろう。

 そしてローエングラム王朝が「平和というのはな、無能が最大の悪徳とされないような幸福な時代を指して言うのだ」と言う時代に差し掛かった時に、半死半生の自由惑星同盟の完全制覇を目指して、彼自らが皇帝親征を行って、銀河統一を達成するという絵図を書いていたのかもしれない。

 重ねて言うが、キルヒアイスの死が、ラインハルトを変えてしまった。そして救ったはずの姉・アンネローゼからも、一時的にしろ見捨てられた。

 だから彼は『強敵との闘いに逃げるしかなかった』のだ。

 しかしヴェストパーレ男爵夫人が早い時期にラインハルトにヒルダを紹介していたら、彼女はアンネローゼに次ぐラインハルトの癒しとなったかもしれない。
 会話の内容が恋人同士の語らいではなく、散文的な政治や経済の話だったとしても・・・