志賀梓の志賀譲に対する思いはインプリンティング(刷り込み)に近いものである。

それにくわえて、恐らく梓の郷里は日本の法律より村の掟を重視する前近代的な考えが幅を利かせているのだろう。梓の家はそんな田舎の旧家(きゅうか)で恐らくは地元の豪農の末裔と思われる。

そんな環境で(妖怪付きで)蝶よ花よと育てられた梓が花の都大東京に出てきたのだ。

しかも、子供の頃のある事件が、梓を譲以外の男を受け付けなくなってしまった。(梓が餓鬼に魅入られたのもこの時)それからは自分に牙を剝いた犬や男共を餓鬼の餌食にして来たのだろう。

母親は恐らく梓を中高一貫の女子校に通わせ、その一方で梓の起こした事件の揉み消しに必死になっていたのかも知れない。しかしそれが限界に達し最終的に凶行に及んだのだろう。

梓は基本的に自分に危害を加えようとする者しか攻撃しない。加えて志賀譲に対する思いが、餓鬼が自分の意思を超えて暴走する事を辛うじて抑えている。

男であれ、女であれ、心を寄せる異性の前では「いい人」でありたいと願う。
そうでなくても異性が一緒なら人は相応に節度ある態度をとる。

だから譲がいない所で梓は里実に自分の感情をぶつけた。しかしそれに慣れてないのか、危うく餓鬼を呼び出しそうになる。

梓は彼女なりに事を穏便に済ませたかったのだろう。しかしそれは言ってしまえば、梓には悪いが相手の気持ちを考えない自分勝手な独り善がりの集大成であり、里実には到底受け入れられない物だった。

それからは自己防衛だけに使っていた餓鬼の力を積極的に使って里実を追い詰めに掛かる。

しかしそれは譲と里実の絆の強さを改めて見せられて、それに自分が入る余地が無い事を再確認する事になった。

そして最終的に里実を殺しにかかるが、それがために譲から最終宣告を受け、自棄になって譲に襲い掛かって返り討ちにあって死亡する。骨も残さず崩れ去ったのは、餓鬼による体の浸食が進んでいたのだろう。

 

典型的な都会っ子の譲と里実、田舎の古い因習に拘る梓とでは最初から考え方が違いすぎたのだ。

たとえ餓鬼が憑かなくても最終的に悲劇的な結末となっただろう。

 

*旧家・・・「きゅうけ」と「きゅうか」がある。

「きゅうけ」は公家の家格の一つで54家あるらしい。

「きゅうか」は地域や地方において、それなりの社会的地位を古くから維持してきた由緒のある家を指し、「少年サンデーグラフィック 笑う標的」では志賀家はこれに当たると書いている。

 

*志賀梓は良くラムと比べられるが、どちらかというと水乃小路飛鳥に近い。しかし飛鳥はギャグマンガのキャラクターなので、怪力の彼女に抱きしめられても骨折で済んだが。