【韓国映画】1987、ある闘いの真実 | ROUTE8787 サンサクキロク

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1987.ある闘いの真実 / 韓国

2017年製作 129分 amazon prime

2023年58本目 ☆☆☆☆☆

1987年1月、全斗煥大統領による軍事政権下の韓国。徹底的に北分子を排除したい南営洞警察のパク所長(キム・ユンソク)が指揮する取り調べは、日に日に激化していた。そんな中、ソウル大学の学生が行き過ぎた取り調べ中に死亡する。隠ぺいのために警察は親にも遺体を見せず火葬を申請するが、何かおかしいと感じたチェ検事(ハ・ジョンウ)は検死解剖を命じる。解剖により学生は拷問致死であったことが判明するが、政府は取り調べをした刑事二人を逮捕することで事件を終わらせようと画策する。これに気付いた新聞記者、刑務所看守らは、事実を白日のもとにさらそうと奔走するが、警察による妨害もエスカレートしていく。また、拷問で仲間を失った大学生たち(カン・ドンウォン)も立ち上がろうとしていたー。一人の大学生の死から始まった、韓国全土を巻き込む民主化闘争を描く衝撃の実話。

 

 

もう、本当に毎度毎度、言ってしまうんですけど。

この出来事が、1987年っていう事ですよね。

 私、12歳なんですよね。

もう、しっかりと自我を持って生きている頃に、

隣の国で、こんな悲劇が繰り返されているとは。

本当に、ビックリするしかない。

 私は、日本でも韓国に近い大阪・生野区に住んでいたんですけど、

それでも、このような話を聞いた事はなかったです。

 

この事件の16年後には、韓国は「冬のソナタ」が大流行となるワケで、

私の韓国関連の記憶は、その辺りからになります。

 

こうして、韓国映画を観る度に、

知らなかった驚きと、恐怖を感じるとともに、

民衆たちが立ち上がる姿に、

韓国という国の底力や、人間の強さを感じ、

強い愛国心の基盤になっているのかな・・・と

思ったりします。

 

民主化運動の映画は、これまでに数本観ましたが、

密かに、この最終的な局面の映画は、

どれなんだろう・・・と思っていた所に、

この作品を知りました。

 

民主化運動の勝利こそ、映画になりそうなのにな~・・・と

疑問に思っていたんですよね。

 

けれど、その最終局面の本作品であっても、

その勝利を大きく描くワケでもなく、

冷静な記録にとどめていて、

映画の大部分は、同じように隠蔽と拷問と、

それらに対抗しようとする小さな抵抗を、描いているんですよね。

 

それは、韓国の人々にとって、

その小さな抵抗があまりに身近過ぎるからなのかな・・・と。

自分の姉妹兄妹。親子供、近所の青年・・・

身近で起きる理不尽さや悲しみ、苦しみを、

投影する映画だからこそ、

長い歴史でみた時の、一瞬の勝利を描く

ありきたりの作品から距離を置いているように思うんです。

そうして、そういう映画ではないからこそ、

韓国の人々に支持されているのだと思う。

 

この作品は、実話が元になっているけれど、

キムテリ以外は、実在の人物のようです。

 犠牲になったパク・ジョンチョルさんや、イ・ハニョルさん、

そして、キムテリさん演じるヨニを見ながら、

様々な感情を呼び起こされて。

そして、時代の流れを感じつつ、

全ての始まりがあった起点として、感じる事になるかなって。

 

この作品、非常にキャストが多くて、

混乱してしまいそうになるんですけど。

 これが、この作品の素晴らしい所で、

誰もが主役級の存在感なので、まず、混乱する事はないんですよね。

 キャストが豪華なのもあるんですけど。

「勇気を出す人間が一人でも欠けては、

この話は成立しない」感が、凄いワケですよ。

 

検事、医師、解剖した医師、新聞記者、

刑務所の記者、その刑務所の看守

市民活動家 学生運動家 町の靴屋さん

 

それぞれの、正義を貫く勇気が、

数々の犠牲で湧き出していた怒りを、

悲しみや苦しみだけで完結させず、

大きなうねりに導いたのかと思うと、

本当に、心が震えます。

 

そして、勿論、実話をこのような傑作に仕上げた事も、

本当に凄いと思う。

 

脚本も秀逸で、

人間のネガティブな感情が、充分に詰め込まれていながら、

ごく普通の人間が抱く「正義」や「職業的倫理」を

一つの光として、しっかりと描かれています。

 その光りが、最後のシーンに向けて、

大きく灯っていく過程が、じんわりと、

けれど、確実に胸を熱くさせてくれます。

 

 映像の撮り方も、特に良かったですよね~。

手持ちや、照明をうまく利用して、

単調にならず、リアルさの中に、

極度の緊張感や、恐怖感を閉じ込めていると思いました。

 

特に、看守を尋問するパク・ユンソク様のシーンは、

暗さと、表情のアップで、怖い!!!MAXでした。

 あのシーンで、この公安の人も、

存分に地獄を味わってきたんだろうな・・・と。

歴史の苦しみを連鎖を、垣間見た気がしました。

 

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最後のシーンは、「レ・ミゼラブル」のシーンとも重なって見えます。

民衆の勝利。

「民衆の歌」を流したくなりますね。

 

 

この映画が作られたのは、朴槿恵政権下で、

まるで独裁体制時代に戻ったかのように文化業界を弾圧、

政権に都合のいい事しか言わせない・・という風潮だった。

 そんな時だからこそ、

この映画を作りたいと思った・・と監督が答えているインタビューを観て、

再び、胸が熱くなった。

 朴槿恵政権下で、この映画に出演すると不利益になるかも知れない・・・という

中でも、この作品は作るべきだと後押しした俳優が多くいたという。

 そういう正義や、勇気は、

韓国の先人たちの築いた歴史が、

血となり、現代に受け継がれてきたものなのかも知れない。

 

 とはいえ、この事だけで民主化が進んだとも言えないようで、

オリンピックが控えていた事など、状況的要因もあったようです。

そして、これが終わりでもないワケですよね。

「民主化」を維持していく事も、難しくもあって。

 こういう映画が作られ、多くの人々が観て、

若い人たちもまた、この歴史的な事柄を知る事は、

同じ事を繰り返さないという抑止力になっていくような気がします。

そして、何より。

この映画の真実はもとより、この映画製作に向けられた情熱は、

ずっと受け継がれていくように感じます。