【韓国映画】声もなく ネタバレ感想 ユアインはやっぱり凄い | ROUTE8787 サンサクキロク

ROUTE8787 サンサクキロク

好きなものを好きなだけ。
韓ドラ狂騒キロク
映画と音楽とドラマがあればいい

image

 

声もなく / 韓国

2020年製作 99分 Hulu

2023年44本目 ☆☆☆

普段は鶏卵販売をしながらも、犯罪組織から命令され死体処理などの裏稼業で生計を立てる、口のきけない青年テイン(ユ・アイン)と相棒のチャンボク(ユ・ジェミョン)。

image

ある日、犯罪組織のヨンソクからの無茶な命令で、身代金目的で誘拐された 11 歳の少女チョヒ(ムン・スンア)を1日だけ預かることになる。

image

image

ところが、依頼をしたヨンソクが組織に始末されてしまった。

肝心の家族は、身代金の支払いをしぶっており、

(この家は長男が大事で、娘を軽んじている様子)

作戦は宙に浮いた状態だ。

image

 誘拐の専門家は、チャンボクにそのまま、交渉を続ければ良い・・・

という事になり、

ティンとその妹、チョヒとの奇妙な3人での生活が始まる。

image

 チョヒはかなりしっかりした子で、掃除・洗濯を率先してこなし、

時には、ティンと共に死体を埋めるのを手伝った。

ティンは初めて、生活するという事はこういう事なのかを感じ取っていた。

 image

 チョヒに、両親への手紙を書かせたりし、やっと、

身代金の支払いに応じたが、その受け取りの最中、

チャンボクは不慮の事故で死んでしまう。

 帰ってこない場合、チョヒを連れていくように・・・

という指示を受けていたティンは、

チャンボクが帰ってこない為、

彼女をその場所に連れて行った。

 そこは、子供の人身売買を請け負っている場所だった。

一度はそこへ置いて帰ってきたティンだが、見捨てる事は出来ず、

チョヒを奪い返すのだった。

image

 その日、チョヒはティンの元から逃げ出そうとしたが、

迷ってしまう。

必死に探すティンに、助けられた。

image

 その時、少女を見かけた警察が、ティンの元へ訪れる。

パニックになったティン

何とか、チョヒを守ろうとした時、警察官が倒れ、

意識を失ったしまう。

 死んでしまったと思った警察官を、埋めようと提案したのは、

チョヒだった。

 ティンは、チョヒを家に帰そうと、学校へ向かった。

 その頃、死んだはずの警察官が、土の中から起き上がった。

image

学校に着き、先生の元へ走り出そうとするチョヒの手を、

ティンは握って離さない。

その手を払いのけ、チョヒは走り出す。

 驚いた先生に、チョヒは何かを伝えた・・・その瞬間、

「誘拐犯よ、捕まえて」先生が叫ぶ。 

image

ティンは驚き、その場を離れた。

 

遠くから両親の姿が見える。

チョヒは、立ち上がり、姿勢を正して会釈する。

 

ティンは、あぜ道を涙を流しながら走り続けていた。

声の出ないティンの慟哭が、聴こえるかのようだ。

 

  ネタバレ感想

 いや、ユ・アイン様の演技力がとにかく、凄まじい。

体重を増やして、この体形にしているのも、

役者魂見たって感じ。

 台詞がなくとも、完璧な表情で、心が読み取れるのが、

素晴らしい。

 ぶっきらぼうだけど、優しく、

家の片付けをするチョヒに、母親を思い出しているかのような雰囲気も、

凄くいい。

 最後は、ティンの悲痛な叫び声が聞こえてくるようだった。

 

この作品の面白さは、日常に潜む「悪」だと思う。

真面目に死体の解体をしてみたり、

まるで営業のように笑顔で対応するし、人身売買を請け負っている人も、

その辺のおじさんだ。

 

美しい田舎の風景に、まるで溶け込んでいるのが、

非常にシュールで、余計に恐ろしさを感じてしまう。

韓国ノワールで描かれる善と悪の曖昧さとはまた違った方向から、

同じテーマを描いている感じが、非常に面白いんですよね。

 

声のでない青年ティンは、

チョヒとの交流の中で、

今まで生きてきた世界とは違う経験をしたんだと思うんですよね。

 洗濯がたたまれていたり、テーブルでゴハンを食べる、

洗濯をして、太陽の下で干す 

 そういう当たり前の事を経験して、ティンは確かな、

充実感を得たんじゃないのかな・・・って。

 きちんと洗濯されたスーツを眺めて、

普通の人のように、チョヒを救ってあげようという気持ちになり。

 誰もが、認めてくれるかも知れないという期待があったのかも知れない。

チョヒが、自分を助けてくれた人だと。

そう説明してくれるのかと思っていたんじゃないかな。

 

けれど、チョヒはそう言わなかった。

ティンを誘拐犯だと伝え、追われてしまう事になった。

 ティンは、普通の人の象徴であるスーツを脱ぎ捨て、

走り出した。

 結局は、すべてまやかしだったのだと。

夢見た自分を、だれかが嘲笑っているように感じた。

 

ティンの救いのない結末は、無慈悲なことこの上ないが。

 彼自身も、立派な犯罪者である事に、ハッとさせられる。

 今の世の中は、非常に、複雑なのだと思い知らされる。

 

彼が悪ならば、弟ばかりを可愛がり、

娘の身代金を渋る親は?

 最後に、チョヒは背筋を正して会釈する。

父親に言う言葉はきっと、「迷惑かけてごめんなさい」だろうか。

 夜中に走り回ってくれたティンと、

娘が見つかっても、駆け出しても来ない父親。

 自分よりも常に弟が優先されてきた人生。

両親に捨てられないように生きてきたかも知れない。

だからこそ、大人の顔色を窺いながらの立ち振る舞いは、

手慣れたものだ。

 ティンの様子を窺い、ともに生活をするが、

そこに本当の幸福があった事に気付くには至らない。

 両親のもとへ帰り、そこで良い子を演じ、

評価される事しか道はないと思っているのだ。

 チョヒもまた、ティンと同じで、

その世界しかなかった。

 そして、これからもその世界しかないと思っているチョヒ、

そして別の世界を夢見たが、結局、自分にはその世界しかないと

思い知らされたティン。

 2人とも、不幸で、この結末は無慈悲でしかない。

 

走るティンの涙と、慟哭は、

悲しみと怒りと、深い絶望だ。

彼の想いは、きっと誰にも届かない。。

そして、声が出るチョヒの想いも、伝わらない。

 

弱者の声が、かき消されてしまう社会においては、

声が出ても出なくても、意味を持たないという、

痛烈な皮肉が込められているようにも感じた。

 

image

image