BLUE/ブルー

2021年4月公開  日本

107分 ☆☆☆☆☆

監督脚本: 吉田恵輔 

NETFKIX 2022年映画⑥

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あらすじ   

 

大牧ボクシングジムに所属する瓜田信人(松山ケンイチ)は、人一倍努力するも負け続きのボクサーだった。彼の後輩で日本チャンピオン目前の小川一樹(東出昌大)は、瓜田がひそかに好意を寄せる天野千佳(木村文乃)と交際し、全てを手にしたかに見えたが、脳の病が発覚し引退を迫られる。ある日、女性にモテたいという楢崎剛(柄本時生)がジムに現れる。

 

​感想 

  この作品はボクシングに囚われて、そこから抜け出せない非凡な人間の物語である。

 努力はするが勝てない瓜田、センスがあって強いのにパンチドランカーになってしまう小川。

 モテたいが為にボクシングを始め、ハマっていく樽崎。

      

 瓜田と小川を通して、惨めさと、現実の厳しさを描いていく。

 そこには、従来のボクシング映画の派手さなどは一切なく、劇的な勝利も描かれない。

 これから開花するんじゃないかと期待してしまう樽崎ですら、瓜田のようなボクシング人生を歩んでいくのではないかと思わせるほどだ。

 

ボクシングに一途、努力で生きてきた瓜田は、

試合に負け続けても、小川や樽崎たちへの試合のアドバイスをする事によって、自尊心を保ててきたのかも知れない。 

けれど、小川は瓜田のアドバイス以上の策で、勝利をおさめた。

 それは、ボクシング選手としても、指導者としても、凡庸な域を出ないと理解してしまった瞬間ではないかと思う。

 

小川はセンスに恵まれながら、パンチドランカーとなり引退を余儀なくされる。

 しかし、仕事でも失敗続きで、ボクシングのない小川の世界は沈鬱だ。  

 

 初心者でありセンスを垣間見せる樽崎ですら、

奇跡の勝利!という期待を裏切る判定負けであり、

現実の厳しさを肌で感じる。

 

 何かに没頭する人間は多くいる。

しかし、その中の、多くの人は、

どこかで折り合いをつけ、この世の中をうまく生きていくだろう。

 そういった人たちを平凡と呼ぶならば、

才能がなくてもケガをしても這いつくばりながら

執着する人たちは、明らかに非凡であると思うのだ。

 これは、そんな、非凡な敗者の話である。

 

まず。

とにかく役者陣の念入りな役作りが素晴らしい。

物静かな瓜田(松山ケンイチ)は、セリフも少ないが、その表情で、彼の一途さ・優しさや、

自信のなさ、虚しさ、孤独を滲み出し。

 美しいシャドウボクシングや、ステップで、

ボクシングへの、憧憬と尊敬を醸し出す事に成功している。

 

 樽崎(柄本時生)も見事で、ボクシングにハマっていく様を、リアルに演じ切っている。

 突然、強くなり、カリスマになるような夢物語ではない。

 試合で勝てたワケでもないので、自信漲るワケでもなく、彼は、彼のままであり、

変わったのは、ボクシングが好きになった事くらい。その表現の匙加減が絶妙である。 

 最後、試合の途中で何かを掴んで、彼のオドオドとしたボクシングは、キレのあるものへと変容を遂げた。

その息を飲む瞬間を、彼は味わってしまった。

彼が、ボクシングの虜となってしまった瞬間を、感じ取れるところが、

名演の所以だろう。

 

小川(東出)は、正直、こんなに演技うまかったっけ?と思ってしまった。

 パンチドランカーの症状の演技や、ボクシングを止められる事への恐怖から、

千佳へ当たってしまう焦燥感。

 不幸へと転がる危うさ。

常に勝者でありながら、ボクシングへの畏敬の念は、彼の練習場面から伝わってくる。

 その姿は、ひいては、瓜田への尊敬へと繋がっていくのだ。

 常に勝者でありながら、瓜田にだけは、従順であり続け、

彼を唯一理解していた。

 彼の嫉妬まで、感じ取り、それを許容できるほどに。

 それが、非凡同士の共鳴といえるかも知れない。

 

この3人の、日常と、ボクシングをしている時の、落差の演技にも注目したい。

日常のそれぞれの肩の抜いた自然な演技があってこそ、

ボクシングでの彼らが、光る。

 その光は、彼らの情熱そのものであり、無二のものであると

印象付けることに成功している。

 

本作品を観て、

才能や、非凡とは、

その道で成功したものが手にするものではないと思った。

 成功しなくとも、嫉妬や焦燥感・苦渋の選択を求められながら、

それでも、その道を歩み続けることの出来る人は、

才能のであり、非凡であると。

 

 私は、常日頃から、何かに熱中する事がある人を羨んで生きてきたが、

その前提が成功であったかも知れない。

 けれど、成功ではなくても、そこにしがみ付き、何かを犠牲にしている人たちがいる。

 

折り合いをつけて去る事も出来る。

自尊心を守るために、理由をつけて、辞めることも出来る。

 

それ以前に、失敗を恐れ、踏み出さない私のような凡人からすると、

 

 そういった感情を乗り越えても、

進もうとし続ける人たちは、もう、才能であり非凡であるのだ。 

 

最後のシーン。

瓜田は長靴で、シャドーボクシングをする。

 キレのある足の動きを観ていると、その長靴が、

鮮やかなブルーのボクシングシューズに見えてくる。

瓜田には、ブルーがよく似合う。

敗北の色ではない。

 あらゆる感情を抑え込みながらも、一つの道を進もうとする、

情熱の色だ。

 

おまけ・好きなシーン 

 

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瓜田手を巻き巻きする小川。

この場面が始めと、中盤に出てくる場面。

1回目と2回目と観る側の感情が死が鵜のは当たり前だけど、

始めのシーンから、この2人の特別な感情が見えるのが、凄い。

小川の、瓜田への尊敬の念が、ただ漏れてます。

 

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 瓜田が、千佳の手をぐるぐる巻く。

千佳への切ない気持ちが、だだ漏れてます。 

(千佳、見る目ないよな・・)

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作戦を練るシーン・・・。

複雑な感情を持ちながらも、小川を応援する気持ちに嘘はない。