スカパーで不意に出会う名作は、今年に入って2本目だ。
1本目は、「トランスアメリカ」
そして、2本目は、この作品である。

9月初めのレイバーデーの連休が迫る、アメリカ東部の閑静な町。シングルマザーのアデル(ケイト・ウィンスレット)とその息子である13歳のヘンリー(ガトリン・グリフィス)は、逃亡犯のフランク(ジョシュ・ブローリン)と出くわしてしまう。絶対に危害は加えることはないという言葉を信じ、アデルは彼を自宅にかくまうことに。やがて、家や車を修理し、料理を作り、ヘンリーに野球を教えるフランクに安らぎを覚え、魅了させられていくアデル。そして、人生を大きく変えかねないほどの重大な決意をする。

 私にとっては、ほぼ完ぺきな作品。
逃亡犯を匿い、そして恋に落ちる。
 そんな、あり得なさそうな題材を、じっくりと描き、
違和感を生じることなく、ほぼ納得のいく経過を辿っていく。

 母子家庭の2人が、逃亡犯であるフランクに好意を抱くのに、
時間はかからない。
 けれど、それさえも、納得出来る魅力が、フランクから滲みでる。

料理をする姿、キャッチボールをする姿、修理をする姿。
その姿は、アデルとヘンリーのぽっかり空いた穴に、
すっぽりと嵌り込んでいくのだ。
 
 何かに飢え、人生さえも放棄していたアデル。
常に自分の心に入り込む冷たい空気を、フランクという存在が、まるで風除けのように、
して、寄り添う。
 
 そして、妻も子供も失ったフランクもまた、
アデルとヘンリーに、家族愛を再び見出す。

 出会うべくして出会った奇跡。
だからこそ、3人の行く末に、緊張感が保たれ続けるのだ。

 アデルとフランクの関係を、思春期を迎えたヘンリーの目線から描かれていくのも、
素晴らしく、
大人の感情がすべてさらけ出されない。
 フランクが刑務所に入った理由も、彼の言葉としては出て来ない。
ドアの向こうで、母とフランクがどんな会話をしているのか。
 大人の世界と子供の世界の境を描き、
ヘンリーが横目で覗く大人の恋が、
夏のきらめきのような初々しさを演出している。

 そして、ラストの素晴らしさ。
3人で作ったピーチパイが、再登場した時、
その伏線に、胸が高鳴った。
 2人は、再び会えるのだろうか、会えないのだろうか。

この作品は、観客の希望を最後でたたき落として、アッと驚く後味を与えることはしない。
正々堂々と、
観客の希望を、そのまま、見事に描いてくれる。
 逆に、その、まっすぐな最後に、
アッと驚き、これ以上にない後味の良さで、観客の心を鷲掴みにしてくれるのだ。

 キャストも素晴らしい。
特筆すべきは、勿論、ケイト・ウィンスレット。
アデルの不安な表情と、空虚感。
フランクと出会ったことにより、芽生えた、彼女の中にある強い意志を、
演じ切る。


 しかしまぁ、監督&脚本のジェイソン・ライトマンは、
凄い才能の持ち主だなぁと感嘆してしまう。
 「セッション」「juno」などなど。
 間違いのない作品が多い。

 
 アデルは、フランクを待ち続ける。
そして、再会を果たした2人の寄り添う背中を見届けながら、
それでも、2人の人生は幸せである・・という充足感が、いつまでも心に残る。
 待ち続ける事の出来る人に出会った。
寄り添える人と再び歩けるのなら、
こんな遠回りした人生すらも、愛おしい。

 アデルと、ヘンリーとフランクが、
遠回りしながらも、何度となく、眩い輝きとともに思い返したであろう、
3人で過ごした、あの夏の5日間。
 
 観客もまた、同様に、
あの夏を、思い返しては、もう1度この作品を観たくなる。


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