俳優は自分が招かれざる客であることを
わかっていないのか、
もしくは、
そんな客観性を保てないほど酩酊していて、

礼儀正しく先輩の話を傾聴するユノ達にだんだん油断して、
最近楽しんだヨーロッパでのバカンスの自慢話を始めた。

ユイの次の恋人として最近dispatchされた、はたちになったばかりの、女子大生を連れていったこと、
そういう旅行の経験がない彼女を揶揄する口ぶりで、アルコールにすっかり緩くなった舌は滑り続けた。

その女性はSNSで彼とのプライベートを公開、炎上を繰り返していることで噂になっており、チャンミンですらその状況を知っていたが、どうやら、Sは恋人のさらされている攻撃の悪質さをよくわかっているにも関わらず、守ろうという気持ちもなく、自身の武勇伝のようにしか考えてないのだった。

さらに、不思議な精神構造で、彼女を下げることで、ユイを誉めているつもりらしく、ベッドの中の話まで匂わせはじめて、
不愉快な話題に、ユイはもちろん、ユノまで無表情になっていく。

白く固まっていく、もういっそ青いといってもいいような、人形じみた小さな顔。

Sは隣に座ったチャンミンのことは
ほとんど無視で、ユイの方も視線を配っていたのが、
次第に、3対1、4対1、もうほとんどユノしか見ていない。



想定よりも良くない、シリアスな成り行きに、内心チャンミンは焦りを感じていた。

ユノが、目の前の先輩俳優のいい様に深く、怒りを感じているのは、初対面の人間にはわかりづらいかもしれないが、チャンミンはもちろん、よくわかった。


ユノは基本どこまでも礼儀正しく、愛想がいいが、礼儀正しいからこそ、正義感も強く、この業界ではよくあるセクハラや、女性に対する侮辱には嫌悪感を隠せない。

だから、昔からのマネヒョンや、スタッフがびっちり回りを固めていた頃なら、こんな状況になる前にユノは旨いこと言いくるめられて連れ去られ、事なきを得ていたが、兵役を終えてからこっち、若手のケアに必死の事務所のガードは随分と緩まった。

回りのスタッフも半分は、自前になっており、残っている事務所側のスタッフが指導してもいるし、新しいメンバーに意気はあっても、いかんせん素人くさいのは否めない。


それにしたって、
今回は、
今夜は、
もらい事故のようなものだ。

もう少しで、ユイのマネージャーか、
自分達の車が到着する。
そうすれば、飛ぶ鳥跡を濁さずで、この場を去ればいい、
それまでなんとか、爆発を避けられないかと、チャンミンは、新しいメニューが卓に運ばれてきたのをきっかけにして、中腰になり、

お話し中すいません、
これはこの店の名物らしいですよ、
Sさん、ぜひ食べてください、と、
小皿を取って、

ユノヨン、そこのたれをください、と
声をかけると
目が座りかけていたユノが
はっとした顔をして、視線を上げて、

取り繕うように、

ええ、そうです、
旨いんです、
これ、

と、タレの入れ物を手にとって、

S氏の、小皿にタレを差そうとして、


溢し、



あ、




と吐息のような声を洩らした。






その瞬間、
S氏が、

「あって言った、」


嗄れた声音に、チャンミンは、
Sが、自分と同じものを感じ取ったことを想像して、

ユノに視線を滑らすと、

ユノがぼうっとした顔で、
目の前の男の顔を見つめている。

頬を裂けんばかりにSの口が開いて、
つき出された舌先がチロチロと、
何かを舐めるように蠢いているのを注視しているうちに、
フワッと目尻がピンク色に変わって、

チャンミンは
ユノが理解したことをしって、
頭に血が登った。