何でも八分なのだという。

 ほどほどが良いのだという。

 

 「過ぎたるは及ばざるが如し」

 なのだという。

 

 ちょっと余力を残す位がちょうど良いのだという。

 

 それが長続きする秘訣なのだという。

 

 生き急いではいけなのだという。

 

「そっか、じゃあオレたちもやめとくか?」

「オレたちは明日死ぬかもしれないから

今日やれることは今日のうちにってのがオキマリだからね」

「な?」

 

静かに微笑んでいる。

 

「でもさ?8部までってのはどうやって分かる?

もしかしてまだ7部までじゃないかとかさ」

「たしかに!それって自分の10を知ってないと分かんないわな」

 

まだ笑ってる。

 

「そりゃあオレだってたまには試してみることもあるぜ。思い切りね。

確かにそうじゃないと自分の限界はわからないからね」

 

「「じゃあ、今夜あたりは??」」

「やっちゃうか?」

「そういうところがいい!」

「そのノリがいい!!」

 

宴は続く

「ああ、いい感じになってきたねえ」

「結構回ってきたな」

「そうか?」

 

ビールで始まり

日本酒と焼酎を

 

「やっぱロックだから」

「水も飲めよ」

「チェイサー的な?」

「そ、差し水的な」

 

主人はもうお茶を飲んでいた。

 

「まだ飲む?」

「もうちょい頂いちゃおうかな」

「オレもラストいっぱい」

「そっちは?」

「オレはもういいわ」

「あ、そう?まだ行けそうじゃん」

「イケるけどな。これくらいにしておく」

「そうなんだあ」

「和のものが多いよね?」

「日本的な?」

 

「そうかもね」

 

「何で?」

「そうねえ、落ち着くからかな」

 

最初は瓶ビールで乾杯し

焼酎に移っていた。

 

芋焼酎。

その器を眺めながら。

 

「いいね、このぐい呑み」

「そう?」

「イイ色してるじゃん」

 

深緑の釉薬がアクセントになっている。

 

「美濃焼ね」

「へー」

「しかし色々物知りだねえ」

 

「たまたまね。この織部焼の緑がいいと思ってさ」

「確かにいいねえ」

「食器とか気にしたことないなあ」

「へえ」

 

 

「オレさ、お前らのライブでさ」

 

「んー?」

「感心してたのはさ」

 

「んー」

 

「ためっていうか’ま’だな」

 

「また’ま’ね」

「そうなんだー」

 

「そ、たまにバッて無音になるとこあるじゃん、大音量から静寂の

その対比ね」

 

「ブレイクね」

「コントラストか」

 

「抜くとことかさ、喋りでもそうじゃん?」

 

「MCね」

「確かに」

 

「微妙なズレとかね。ドラムとかよくあったじゃん?」

 

「まあ、あれは山本さんがモタってたのと」

「しょっちゅうスティック落としてから・・・」

 

「ともかく、それも味になってたぜ」

 

「そっかー」

「やっぱ”ま”だよね」

「「ま?」」

 

「そう間」

「間ってこと?」

 

「そ」

 

夕暮れ時

だんだんと暗くなってきた。

 

「床の間、茶の間、居間とかね」

「空間ってこと?」

 

「そ、その間合いっていうのかなあ。

それが大切だと思うんだなあ」

「なるほど、間合いかあ」

「スペースね、パーソナルスペースとか」

「そう、余りとか、遊びとか、糊代、とかさ、そういった部分」

 

夜の部に移ろうとしている。

席を立ち

宴の準備にかかる。

 

家主が離れて

残された二人は

マジマジとその空間を眺める。

 

都会の居酒屋のザワザワした雑音のない静けさ。

ゆったりと流れる時間が

新鮮であった。